竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第七十七話 竹林の花

永琳に話を聞くために竹林にまでやってきたが、此処も他の場所と同じ様に時期外れの花が咲き誇っていた。

前に霊夢から聞いた話だと、竹の花が咲くのは60年に一度だけらしい。

前回咲いたのが何時かは知らないけど、滅多に咲かない花が一面に咲き誇っているのは流石に妙だな。

 

「……まぁ、滅多にお目に掛かれない花が見れるのは良いのかもな」

 

誰かに言うように呟くが、何時もの様に返って来る筈の返事は無かった。

後ろを振り返り、誰も居ないのを見て、今は独りなんだと言う事を漸く思い出した。

こっちに来てから霊夢と一緒に居る事が多かった所為か、異変解決の時は誰かが傍に居るような気がして為らない。

 

「…………」

 

俺は寂しさを紛らわす様に首を横に振るい、永琳が居る筈の『永遠亭』へと向かう事にした。

竹林の中を飛んでいると、風が吹き抜けるたびに竹がざわめくのを感じるが、それ以外のざわめきの様なものを感じる。

良く耳を澄ませて聞いてみると、聞こえてくるのはざわめきと言うよりも、誰かが言い合うような感じの声だ。

別に珍しいと言う訳でもないが、此処は人だけではなく妖精も迷わせる『迷いの竹林』。

そんな場所で騒ぐ妖精なんて居るとは思えないし、迷うと分かっていて入る人間も少ない筈だ。

こんな所で誰が騒いでいるのか分からず、頭を抱えて悩んでいると……声の主達が段々と近付いてきていた。

 

「待ちなさいって!」

「やっだね~」

「……なんだ?」

 

状況も分からず辺りを警戒していると、俺の目の前にウサ耳一号が飛び出してきた。

その後ろには輝夜の家にいたウサギの大群と、彼女達を追いかけている二号の姿も見える。

二人はともかく、ウサギ達が竹林の中を跳ね回っているなんて珍しい事もあるもんだな。

そう思いつつ、俺は目の前に飛び出してきたウサ耳一号の耳を、思わず鷲掴みにして捕まえてしまった。

 

「何をするんだよ~! 離せ~!!」

「いや、いきなり目の前に飛び出してきたから、つい反射的に……」

「そんな反射なんて捨てろよ~!!」

「漸く追いついたわよ、てゐ……って、貴方は」

「よう、久し振り」

 

追い付いて来た二号に、一号を掴んでいるのとは反対の手を挙げて、軽い挨拶を交わす。

二号は俺が此処に居るのが不思議なのか、キョトンとした顔をするが直ぐに持ち直し、俺に釣られて挨拶を返してきた。

 

「えっと久し振り。今日は一人みたいだけど、如何かしたの?」

「……まぁ、色々とあってな。今は単独行動中だ」

「そんな事は如何でも良いから、早くわたしの耳を離せよ~」

「あ、絶対にソイツの耳を離さないでね。離した瞬間に逃げるに決まってるんだから」

「それは構わないけど……何をしたんだコイツ?」

「何もしてないって。ただ外に遊びに行こうとしただけさ」

 

ウサ耳一号はそう言うものの、彼女の言葉は今一つ信用出来ないところがある。

輝夜から聞いた話だと、一号は悪戯をしたり、誰かを騙したりしてるらしく、無闇に信用するのは危険との事だ。

『永遠亭』では、よくウサ耳二号が標的にされているらしく、自分達には特に被害も無いから気にしてないとか言ってたな。

……幾ら自分に被害が無いからと言って、二号が標的にされてるのを黙認するのは如何かと思うぞ。

 

「外に遊びに行くのは勝手だけど、内緒で行くのは止めなさいよね。あと! 大騒ぎしてるウサギ達を静めるのも手伝いなさい!!」

「えぇ~。そのくらい鈴仙がやってよ~。わたしは遊びたいんだよ~」

「地上の兎たちは、私の言う事聞かないんだからしょうがないでしょ!」

「……それって単純に嘗められてるだけなんじゃないのか?」

「お、兄さん、良い事いうねぇ~。そのついでに、わたしの耳を話してくれると助かるんだけどなぁ~」

「ちょっと二人の師匠に用があるから、このまま連れてこうかと思ってたんだが?」

「コレは酷い」

 

耳を掴まれたままのウサ耳一号は、芝居がかった様に肩を落として呆れたような口調でそう言い捨てた。

俺は彼女の言葉を聞き流して、二号の案内の元、他のウサギ達を連れて『永遠亭』へと向かうのだった。

 

 

 

 

………

……

 

二号の案内で辿り着いた俺は、一号を二号に引き渡した後、自室に篭っていると言う永琳の元に向かった。

……とは言え、この屋敷の何処が永琳の自室なのか分かる訳もないので、二号に頼んで手の空いていた野馳(のばせ)り族……じゃなくて、妖怪ウサギに案内をしてもらう事に為った。

その子の案内で永琳の自室を目指しているのだが、どうにも空気が悪いような気がする。

別に換気が出来ていないとかじゃなくて、タダ単に案内をしてもらっている彼女に避けられている様な感じだ。

彼女とは初対面の筈だから、俺が何かをしたって訳でもない筈なんだが……気が付かない内に何かしたのだろうか?

……もしかして、初めて此処を訪れたときに言った、ウサギ肉如何こうってのを聞かれたのか?

妖怪とは言え一応ウサギなんだし、そんな事を平気な顔で言う奴とは、あまり関わりたくないのかもな。

そんな風に考えながら広い屋敷の中を歩いていると、前の方から暇そうにしている輝夜が歩いて来た。

 

「あら、いらっしゃい。今日は一人だけど如何かした?」

「お邪魔してるぞ、輝夜。…あと、その台詞はウサ耳二号にも言われた」

「だって貴方が一人なんて珍しいんだもの。仕方が無いでしょ?」

「……別に常に一緒ってわけでもないんだがな」

「わたしからしたら、二人一緒に居るところしか知らないのだけどね」

「……………」

 

前からの知り合いは、俺が一人でいる事もあるって知ってるだろうが、付き合いの浅い奴からしたら常に一緒ってイメージがあるんだな。

それだけ、霊夢と一緒に飛び回っているって証拠なんだろうけど、あまりしつこく言われたくはない気がする。

 

「それで今日は何の用?」

「今起こっている異変に付いて永琳に聞きたい事があってな」

「永琳は犯人じゃないわよ」

「それは分かってるけど、今は独りで異変を追ってるから、色々と情報が欲しくて」

「そう言う事。…なら、わたしが部屋まで案内してあげる」

「……良いのか?」

「丁度暇だったしね。あ、貴女はお茶を部屋まで持って来て頂戴。三人分よ」

「分かりました」

 

輝夜の頼みを了承した妖怪ウサギは、彼女に向かって一礼した後、直ぐに反転し来た道を戻って行った。

本当はお茶を飲んでいる暇はないんだが、折角出してくれると言っているのだし、一杯くらいは飲んでいくか。

そう考えた俺は、先に進んでいく輝夜を見失わないように後を付いて行く。

 

「……ところで、リュウが不機嫌に見えるのってわたしの気のせい?」

「別に怒っちゃいないが、そう見えるのか?」

「えぇ。物凄く面白く無さそうな顔をしてる様に見えるわ」

「自覚はないんだが……さっきの子が恐がっていたのはその所為か」

「多分そうじゃないかしら。……で、何が遭ったのよ?」

「……まぁ色々とな」

「それじゃ解らないじゃない。ほら、恥かしがらずに話しちゃいなさいって」

「別に恥かしがってる訳でもないぞ」

「だったら、カッコつけないで話しなさい」

「……如何あっても聞きだしたいのかよ」

「えぇ」

 

悪びれる気も無く言い切る輝夜を見て、俺は思わず深い溜息を吐いた。

別に恥かしがってる訳でもないが、カッコつけてる訳でもないんだが、他人に話す様な事でも無いから言いたくない。……まぁ輝夜にそう言う事を言っても無意味なんだろうけどな。

俺は諦めたように溜息をもう一度吐いて、色々と言われる事を覚悟の上で、神社を出る前の事を話す事にした。

 

「……単刀直入に言うと、霊夢と喧嘩した」

「それはリュウが悪いわね」

「原因も聞かないで勝手に決めるな」

「なら、原因はなんなのよ」

「……俺の虫の居所が悪かったから…かな」

「やっぱり貴方が悪いんじゃない」

「むぅ……」

 

輝夜に指摘されるまでもなく、俺が悪いってのは解っていたんだが……あの時は本当に虫の居所が悪かったんだ。

今になって考えてみると、本当に如何でも良い事で悩んで、霊夢に八つ当たりしてるだけだよな。

アイツは悩んでいる俺を心配してくれたのに、一方的に当たるなんて本当に何をしてるんだか……。

 

「……帰ったら謝らないとな」

「ただ謝るんじゃなくて、ちゃんと誠意を見せなさいよ」

「誠意って……例えばどんなのだよ」

「ソレは自分で考えなさい。……ほら、永琳の部屋に着いたわよ」

 

輝夜と話しながら歩いていたら、何時の間にか目的の永琳の部屋まで辿り着いていた。

俺は部屋を仕切っている障子をノックしようとしたが、ソレよりも先に輝夜が障子を開けて我が物顔で中に入っていく。

勝手に入る輝夜に呆れてしまうが、此処は彼女の屋敷なんだし、この位は普通なんだろう。

……でも、親しき仲にも礼儀ありって言葉がある様な気もするんだが、ソレは良いのか?

 

「永琳、珍しいお客を連れてきたわよ」

「……姫様、部屋に入るときは一声掛けて下さい」

「良いじゃない、わたしと貴女の仲なんだし。それよりもお客さんよ」

「はぁ……。それで貴方は何の用かしら?」

「あっと、今回の異変に付いてちょっと聞きたくてな」

「そう。……まぁ、立ち話もなんだから中に入って頂戴」

「お邪魔します」

 

部屋の前に立っていた俺は、彼女に促されるまま部屋の中へと入った。

永琳の部屋は綺麗に整頓されていて、眼を惹く物と言えば、幾つモノ書物が収められた棚くらいなものだ。

薬剤師として薬の研究をしてると思ったから、部屋の中は資料や研究材料で溢れてるのかと思ったが、そんな事も無いんだな。

そう思いながらも、コレ以上部屋を見渡すのは悪いと思い、とりあえず適当な場所に座る事にした。

俺が床に座ると、丁度正面に永琳が座り、その隣りに何故か輝夜も座り込んだ。

 

「悪いわね、座布団一つ出せなくて。この部屋に他人が来るのはあまり無い事だから」

「いや、気にしてないよ。そもそも、いきなり押し掛けてきたのは俺の方だしな」

「はいはい。そう言う社交辞令は良いから、さっさと本題に入りなさいよ」

「姫様……」

「たはは……。それじゃ早速聞くけど、永琳は今回の異変の犯人について何か知ってるか」

「いいえ、何も知らないわ」

 

俺はストレートに質問をしてみたが、彼女は首を横に振って知らないと告げてきた。

永琳が嘘を付いているとは思えないし、こんな異変を起こすメリットなんかを考えると、彼女の言葉を信じても大丈夫だろう。

当てが外れたという意味では流石に落胆するが、いきなり犯人に辿り着けるとも思って無かった。

 

「そっか。……なら、上白沢さんは何か知ってるかな?」

「聞きに行くだけ無駄よ。恐らくは彼女も何も知らないでしょうから」

「となると……そこら辺で騒いでいる妖精にでも聞いてみるか」

「何か知ってるとも思えないけど、この異変は放っておいても大丈夫だと思うわ」

「その根拠は?」

「この異変は今回が初めてと言う訳でもないの。過去にも何度か発生していて、何時の間にか解決してたわ」

「……それは本当か?」

「えぇ。私たちはこの竹林に300年ほど住んでるけど、前にも今回みたいな異変が発生してるのよ」

「あれ? そうだったけ?」

「そうですよ。……まぁ、あまり印象の無い異変ですから、姫様の記憶に残らないのも無理はないでしょうけど」

「……………」

 

輝夜たちが昔から此処に住んでいる事にも驚いたが、過去にも今と同じ異変が起こっていたとは思わなかったな。

俺達と出会うまでは、里との交流も乏しかったらしいから、誰が解決したのかは知らないだろう。

でも、当時の巫女がこの異変を解決したのなら、霊夢にもこの事が伝えられている筈だけど……アイツは知らないのか?

……単純に先代の話を聞いていなかったって可能性の方が高い気がするな。

 

「まぁ、堅苦しい話は此処までにして、次はリュウと霊夢の喧嘩について話しましょうか」

「……貴方達、喧嘩してたの。道理で独りで尋ねてきたのね」

「コッチに色々とあっただよ。てか、俺達の喧嘩の話は如何でも良いだろ」

「良くないわよ。貴方達が仲悪いと面白くな……じゃなくて、ちょっとしたお節介よ」

「……今、老婆心って言葉が脳裏を過ぎったぞ」

「グチグチ言ってないで、さっさと話しなさいよ」

「姫様。長い話に為るのでしたら、お茶とお菓子を用意しますが?」

「既に頼んでるから気にしなくて良いわ。……ほら、リュウも黙ってないでさっさと喋る」

「……はぁ」

 

お節介と本人は言っているが、如何見てもただ暇潰しがしたいだけにしか見えない。

永琳も輝夜を止める気が無いらしく、俺に向けてくる視線は話すように催促している風に感じる。

一応先を急いでいるんだが、そんな事を言って帰してくれる様な二人でもないし、此処は諦めてちゃんと話すしかないんだろうな。

まぁ、魔理沙とは違ってちゃんと相談には乗ってくれるだろうし、無駄な時間に為るって事もないだろうが……なんだかなぁ~。

 

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