竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第七十九話 四季のフラワーマスター

花の妖怪に会いに『太陽の丘』と呼ばれる向日葵畑にやって来た。

本来なら夏に咲くはずの向日葵だが、今の異変の影響で一斉に開花していて、中々の見頃となっている。

一面に黄色い大きな花が咲き誇っていると、量の多さに圧倒される反面、何処か心惹かれるものがあるな。

まだ四月になったばかりで少しだけ肌寒くはあるけれど、もう少し暖かくなったら霊夢と一緒に見に来るのも良いかもしれない。

……あ、でも、この異変を解決したら、今咲いてる花達も一斉に枯れてしまうよな。

だったら気温なんて気にしないで、向日葵が咲いているうちに見に来たほうが良さそうだ。

 

俺は一面の向日葵畑を前に、此処に来た目的も忘れて考えに耽っていた。

どうやって霊夢を誘うか考えていると、背後から今までに感じた事のない様な殺気を感じた。

俺は咄嗟に剣を抜き、背後に向かって振り向き様に斬り掛かるが……後ろには誰の姿も無かった。

気のせい……の一言で済ませるにしては、感じた殺気は余りにも濃密で、寒気がするほどにおぞましい感じだった。

今のに近いものは前の世界でも感じたけど、それ以上の殺気なんてあの世界でも感じたことはない。

姿の見えない敵に如何する事も出来ず、ただただ警戒だけを続けていると―――

 

「そんなに殺気立って、如何かしたかしら」

「ッ?!」

 

―――誰も居ないと思っていた向日葵畑の方から声を掛けられた。

突然聞こえた声に驚いた俺は、直ぐに反転して後ろに跳び、声の主から距離を取った。

俺に声を掛けてきたのは、チェックの衣服に大きな薄ピンクの日傘を持った、緑の髪の女性だった。

それだけだと、少し変わった服を着た人間の女性にしか見えないが、彼女から感じられる気配は紛れも無く妖気で、そこ等に居るような三流の妖怪とは明らかに格が違う。

……もしかすると、あの八雲と同じ位の大妖怪なんじゃないのか?

 

「声を掛けただけで距離を取るなんて、随分と礼儀知らずね」

「……いきなり声を掛けられたら誰だって驚くぞ」

「アナタの場合は、驚いたと言うよりも身を守る為にも見るわ」

「否定はしないが……そんな妖気を感じたら距離を取るだろ」

「取らない奴も中に居るわ。例えば……力の差を理解出来ない身の程知らずとかね」

 

彼女はそう言いながら傘を地面に向けると、周囲の地面から木の根っこが地中から顔を出し、いきなり俺に襲い掛かってきた。

俺は根っこを避けるために上空へ飛び、視界の中に根っこと彼女を入れながらスペカを宣言する。

 

「乱舞『せんぎり』!」

 

スペカを宣言しながら剣を振り下ろすと、一瞬にして無数の斬撃が現われ、地中から伸びてきた根っこを微塵に斬り刻んだ。

現われた斬撃の一部は緑の髪の女性に降り注ぐが、彼女は傘を振るっただけで俺の斬撃を打ち砕いてきた。

今までに防がれたり、避けられたりは何度かあったが傘で打ち砕かれるのは初めてだな……。

 

「なに、この程度の力しかないの? 興醒めも良い所ね」

「行き成り攻撃してきて、随分な言い様だな」

「久し振りに面白そうな獲物が現われたのよ。少しくらい遊んでも良いじゃない」

「……何処の暴君だよ、アンタは」

 

この物言いから、一瞬レミリアの顔が脳裏を過ぎったけど……正直アイツの方がマシに思える。

レミリアはタダの我が侭だからまだ可愛げがあるが、彼女の場合はただの苛めっ子にしか思えない。

普通は初対面の相手に〝獲物〟なんて言わないし、いきなり攻撃を仕掛けても来ないっての。

まぁ、幻想郷の住人相手にそんな事を言っても仕方が無いが、目の前に居る彼女は今まで会った中で一番性質が悪そうだ。

 

「それでアナタは此処に何しに来たのかしら。花を摘みにきたのなら只じゃおかないわ」

「折角綺麗に咲いているのに無下に摘む様な趣味は無いって。俺は人探しに来ただけだ」

「こんな所で人探しねぇ……。一体誰を探してるのかしら」

「顔も名前も知らない花の妖怪だよ。……まぁ、人の話を聞いてくれるのかも知らないけど」

「確かに彼女は話しを聞かないでしょうね」

 

目の前の女性は、心当たりがあるのか可笑しそうにクスクスと笑う。

なんとなく予想出来ていたけど、本当にその通りだと嫌になってくるな。

 

「良いものも見れたし、このまま大人しく帰っても良いんだけど……見逃してくれないよな」

「えぇ、それは無理な相談よね」

「んじゃ如何すっかな? こんな綺麗な場所で暴れたくないんだけど」

「なら、お互いに使用スペルは一枚のみにしましょう。それなら早く済みわ」

 

彼女も此処を滅茶苦茶にしたくないのか、それとも他に考えがあるのか分からないけど、コレは俺にしてもありがたい申し出だ。

八雲に近い妖怪と本気で戦う事に為ったら、コッチとしては『カイザー』を使うしかないからな。

 

「……ものの序でに、俺がアンタに勝ったら話を聞くように説得してもらいたいんだが」

「アナタが勝てたら……ね」

 

女性が了承してくれたのを見て、俺は戦い易いように空に上がり、彼女も同じ様について来た。

空中に上った俺は、手に持っている剣を握り締め、彼女は自らの妖力を膨れ上がらせる。

今まで力を抑えていたみたいだが、アレでもまだ力を加減している様な気がしてならない。

一体何処まで力を持っているのか知らないけど、厄介な奴に目を付けられたもんだ。

……それは今に始まった事じゃなくて、昔からそんな感じで旅をしていたな。

 

「それじゃ、始めましょうか」

「何時でもどうぞ」

 

俺がそう返すと、彼女は妖力で作った弾を無数に放って来た。

弾が迫って来る中で俺は、直撃しそうな弾だけを斬り捨て、当たらない弾は無視して一気に間合いを詰める。

コッチが間合いを詰めても、彼女は特に動じる事無く俺に向かって無数の弾を放ってくる。

迫り来る弾を次々と斬り捨て、間合いを十分に詰めたところで剣を振るい接近戦に持ち込む。

 

袈裟懸けから剣を振り下ろしたが、彼女が持っている日傘に受け止められ、弾き飛ばされてしまう。

ただ受け止めるだけだったら、あのくらいの傘を斬り捨てる自信はあったんだが……。

そう考えるが直ぐに気を取り直し、もう一度彼女に向かって行こうとすると、俺の眼の前に突如として大きな花が咲いた。

空中にどうやって咲いたのかと言う疑問は浮ぶが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

俺は直ぐに花の横を通り抜けるが、花の向こう側には彼女の姿は無かった。

何処に行ったのか探そうとした時、背後から誰かが攻撃してくる気配を感じ、俺は後ろを振り返りながら咄嗟に剣で防御する。

何時の間にか後ろにいた彼女の攻撃に吹き飛ばされるが、俺は飛ばされながらも剣に力を込めて斬撃を飛ばした。

 

直撃こそはしなかったものの、彼女に多少なりの手傷を負わせる事は出来た。

その代わり、俺は彼女との間合いを大きく引き離されてしまった。

勝負を仕掛けるには、もう一度接近するしかないんだが……簡単にさせてくれるような相手じゃないだろう。

どうやって間合いを詰めるか思案していると、彼女は服のポケットから何かを取り出し、ソレをいきなり空中にばら撒いた。

空中にばら撒かれたソレは、一瞬にして花へと成長し、ゆったりと回転しながら俺の方に向かってくる。

向かって来る花の数は十を超え、花の一つ一つのサイズも大きく、その所為で彼女の姿を視認する事が出来ない。

ご丁寧に妖力も隠して、俺に自分の居所を悟られないようにしている。

 

彼女が何処にいるのか見当も付かないが、此処でジッとしていても仕方が無い。

俺は飛んでくる花を避けながら前に出ると、彼女はソレを待っていたかのように幾つもの弾を飛ばしてきた。

飛んでくる弾は、最初の方よりも数が多い上に、的確に俺の事を狙って放っている。

俺は迫る弾の処理に追われ、その場から身動きが取れなくなってしまう。

次々に飛んでくる弾を斬り捨てていくが、ただ防いでいるだけじゃ勝つ事なんて出来やしない。

俺は僅かな隙を突いて弾幕から抜け出し、直ぐ傍にあった花の陰に隠れ、剣にありったけの力を込める。

ある程度溜まったら、ポケットからスペカを取り出し、ケリを付けるため影の中から飛び出す。

 

「『マスタースパーク』」

「なッ?!」

 

陰から飛び出した俺の眼に入ってきたのは、魔理沙のマスパを彷彿とさせる極太の光線だった。

今から回避行動をとろうにも、的確なタイミングで放たれた上に、迫って来る速度が速くて逃げ切れそうにない。

竜変身(トランス)で耐えると方法もあるけど、今から別のカードを取り出している余裕もなさそうだ。

俺に残された手段は、取り出したこのスペカで眼の前の光線を叩き斬る……それしか道は無い!

 

「…竜剣『ドラゴンブレード』!!」

 

カードを宣言した俺は、愛刀に込めた力で巨大な光の刃を形成し、斬り上げる様に剣を振るった。

光の刃と光線は空の上で激突するが、俺が宣言するのが遅かったから所為で、光線の勢いに押されてしまう。

この光線に神性でもあれば、俺の特性で一気に斬り裂けるんだが……只の光にそんなもの有る訳無い。

 

ジリジリと光線の勢いに押されるものの、剣に力を込めてなんとか踏み止まっている。

今の所は俺の刃が壊れる気配は無いが、彼女の光線が納まる気配もない。

少しは刃が光線に喰い込んでいる見たいだが、一気に斬り裂くにはまだ力が足りない様だ。

この光線に一体どれだけの力を込めたのか知らないが、少なくとも魔理沙のマスパの魔力よりは多いんだろうな。

 

刃が進まない代わりに、彼女の光線も防げているが……何時までもこうしている訳にも行かない。

俺は一度深呼吸をして息を整えた後、剣を握る手に力を込めて、光線に喰い込んでいた刃をムリヤリ押し通した。

 

「でぇりゃあぁぁぁぁぁッ!!」

 

裂帛した声と共に剣を振り上げると、光の刃はドンドン進んでいき……彼女の光線を斬り裂いた。

二つに裂かれた光線は、俺の横を通り過ぎながら徐々に霧散して消えていった。

極太の光線が消え去った先には、傘を俺の方に向けた彼女が佇んでいる。

俺は剣を握り締め、一気に間合いを詰めて光の刃を振り下ろしたが……当たる寸前の所で刃を止めた。

 

「……わたしを切り捨てないの?」

「ルールはスペル一枚のみだろ。さっきのがマスパなら、アレを斬り裂いた時点で俺の勝ちじゃないのか?」

「確かにアレを斬られた時点でわたしの負けね」

「…素直に負けを認めてくれるとはな」

「あら? 認めずに駄々を捏ねる方がお好み?」

「……ソレは勘弁してくれ」

 

吐き捨てるように呟いた後、光の刃を消し去り、彼女に背を向けて剣を一振りした後、鞘に納めた。

鞘に納めた剣を肩に担いで、もう一度彼女の方に向き直った。

 

「さて、幾つか聞きたいんだが……良いよな、花の妖怪」

「『風見幽香』。それがわたしの名前よ」

「俺は『リュウ』だ。好きに呼んでくれ」

「なら非常識とでも呼ぼうかしら」

「……普通にリュウで」

「面白くないわね」

 

そう言う問題かってツッコミそうになったけど、今はそんなやり取りをしている時じゃないな。

第一、俺はツッコミよりもボケの方が多いからな。……馬鹿な事考えて無いでさっさと話を進めよう。

 

「それじゃ単刀直入に聞くけど、今回の異変の犯人はお前か?」

「違うわ。そんなの態々聞かなくても分かるでしょ」

 

余計な一言に思わずイラっとするが、此処で口論しても意味が無い。

俺は苛立ちを心の奥底に押し殺し、さっきとは別の質問を彼女に投げかけた。

 

「なら、犯人について心当たりはないか」

「無いわね。……大体、この異変に犯人なんていないのだし」

「犯人が居ない?」

 

彼女の言葉の意味が理解出来ず、俺は思わず聞き返してしまう。

今まで犯人が何処かに居ると思って行動していたから、いきなり〝居ない〟と言われてもな。

大体、何らかの異変には必ず犯人が居るモノなんじゃないのか?

 

「正確に言うと語弊があるでしょうけどね。……まぁ、真実を知りたいなら『魔法の森』を抜けた先にある『無縁塚』に行くと良いわ。恐らく其処にサボリ魔が居るでしょうから」

「サボリ魔って如何言う事だよ」

「言ったでしょ、知りたいのなら『無縁塚』に行けって。…それじゃ、わたしはこの辺で失礼するわ」

「あ、ちょっと?!」

 

俺が呼び止める間もなく、幽香は何処かへと飛び去ってしまった。

一応前には進めているんだが、何故だか周りに振り回されているだけな気もするな。

それに彼女が言った『無縁塚』って、名前からしてあまり良い予感はしないんだが……。

イマイチ釈然としないまま、俺は彼女の言葉を信じて『無縁塚』とやらに行く事を決めた。

 

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