竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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今回は霊夢の視点です。


第八十話 伝統の幻想ブン屋

季節外れの花が咲く異変を解決するため、神社を出たのは良いけれど……未だに手掛かり一つ掴めていない。

幻想郷の各地を飛び回ったけど、何処も似た様な光景が広がっていて、手掛かりになりそうな物は何も無かった。

……先に飛び出していったリュウは、今はどこら辺を飛んでいるのかしら。

さっき永遠亭の輝夜から聞いた話だと、異変について知っていそうな奴を捜しに出たとか言っていたわね。

勢い良く出て行ったけど、何処に行けば良いのか分からず途方にくれてないと良いけれど……。

 

「……って、今はアイツと競争してるのに、なんで心配しないといけないのよ」

 

私は考えを掻き消すように首を振って、また宛も無く幻想郷の空を飛び始めた。

今の幻想郷は、地上には花々が咲き乱れていて、空中には人魂が溢れかえっている。

人魂なんて得に珍しいものじゃないけど、コレだけ沢山浮んでいるのは流石に初めてみる。

普通ならお迎えが来てあの世に送る筈だけど、浮んでいる人魂の数が減った様子はない。

 

全く、死者をあの世に運ぶのは死神の仕事なのに、なんで私が溢れた人魂の事まで調べないといけないのよ。

こう言う事しか仕事も無いんだから、真面目に仕事をして、さっさと数を減らして欲しいわ。

……もしかして、ちゃんと仕事をして無いから人魂が溢れかえっているのかしら?

だとしたら、咲き乱れている花は一体如何言う事に為るのかしらね。

二つの異変が別々のモノとは思えないから、何らかの関係性があると思うのだけど……。

 

「う~ん……」

 

私はその場で静止し、花と人魂の関係性に付いて考え始めた。

自然のものである植物が季節を間違えたとは考え難い、大体の原因は浮んでいる人魂にあると思う。

でも、死者の魂に出来る事なんて、何かに憑く位の事しか出来ない筈だし…………もしかして―――

 

「こんにちわ! 『文々。新聞』です!!」

「キャアッ?!」

 

もう少しで考えが纏まると言った所で、いきなり後ろから誰かに声を掛けられてしまった。

考えに熱中していた私は、背後から掛けられた声に驚いて、情けなく悲鳴を挙げてしまう。

一体誰が声を掛けてきたのか確かめる為、後ろを振り向いてみると其処に居たのは、写真機に手帖を持った、白い服に黒いスカートを穿いた黒髪の天狗だった。

 

「いきなり何の用よ天狗」

 

私はさっきの悲鳴を無かった事にしながら、何時もの調子で天狗に話しかけた。

 

「いや~、珍しい方が居たものですから、つい声を掛けてしまいました。さっきのは可愛い悲鳴でしたね」

「……アレを記事にしたらアンタの命は無いわよ」

「わ、分かりました!!」

 

命知らずの天狗を軽く脅してやると、天狗は慌てた様子で直ぐに承諾してきた。

コイツだけじゃないけど、天狗たちと言うのは強者には礼儀正しいけど、弱者には強気に出ると事があるのよね。

分かり易い連中だけど、色々とめんどくさい連中だから余り関わりたくない。

 

「それで何の用」

「こんな所で巫女が立っていたら、記者として取材するしかないじゃないですか」

「今すぐ巣に帰れ天狗」

「そんな冷たい事を言わずに、少しだけで良いですから、ね?」

「……ホントにめんどくさいわね」

 

諦める気のに天狗にウンザリしながら、私は吐き捨てるように一言呟いた。

 

「時間は取りませんので、お願いします!」

「……………」

 

食い下がってくる天狗を如何しようか考えていたら、ふと何かを忘れているような気がした。

それが何なのか思い出せないけど、この異変を解決するために必要な事なのは覚えている。

季節外れの花と、空中に漂う人魂の異変……これ等を解決する為の考察だけど、何を考えていたんだっけ?

 

「…致し方ありません。こうなったら、実力行使で取材させて貰います!」

「何よ、高が天狗如きが私に勝てると思ってるの」

「ワタシが新聞大会で勝利する為にも、貴女のネタを頂きます!!」

「アンタ等のネタにされるなんてゴメンよ!!」

 

私はそう言いながら、懐から札を何枚か取り出し、ソレを天狗に向かって投げつける。

天狗は何処からか扇を取り出して、扇で風を操り私の札を弾いた後、風を塊に変えて放ってきた。

風の塊の速度は中々速いけど、弾の軌道は直線みたいで回避するのも容易い。

私は天狗の弾を回避した後、袖に隠しておいた針を大量に取り出し、一直線に投げつける。

針もさっきみたいに弾かれるかと思ったけど、天狗は風の様に一瞬で移動して姿を消した。

 

天狗の姿は見えなくなったけど、私は持ち前の勘を頼りに左斜め後ろに振り向き、取り出した針をもう一度投げつける。

私が針を投げると、天狗は丁度のタイミングで姿を現し、針は吸い込まれるように彼女に向かっていく。

避けられる事なく当たるかと思ったけど、天狗は風の塊を私に向かって放ち、迫っていた針を全部弾き飛ばしてた。

風の塊は針を弾いても止まらず、そのまま真っ直ぐ私に向かって迫って来る。

とは言え、曲がる事無く吹き抜けるだけの風に当たってやるほど、私は優しいやつじゃない。

私は迫り来る風を回避した後、今度はアミュレットを大量に取り出し、それ等を天狗に向かって一斉に投げるつけた

アミュレットを投げたのを見て、天狗は直ぐに回避行動を取ろうとする。

だけど、私が投げたアミュレットは相手をホーミングするため、天狗は全てを回避出来ずに何枚か直撃した。

 

「あいたたた……。ホーミングする弾ですか、ちょっと厄介ですね」

「何枚か回避しておいてよく言うわ」

 

アミュレットが当たったところを擦る天狗を見て、私は思わず悪態を付いた。

私はさっき投げたアミュレットを全弾命中させる心算だったのに、天狗は私が投げたうちの半分近くを回避し、当たった弾も大した効き目があるようには見えない。

……リュウと一緒に戦うようになってからは気にしてなかったけど、やっぱりアミュレットや札じゃ火力不足みたいね。

アイツの火力がおかしいと言えばそれまでだけど、単独だと手数で押す戦い方になってしまう。

長所が違うからこそ、二人で戦った時は臨機応変に対応できたけど、今みたいに独りの時はもっと工夫して戦わないと駄目ね。

 

「ホーミング弾は厄介なので、スペルを使わせて貰います。…疾風『風神少女』!」

 

天狗がスペカを宣言すると、彼女は全身に風を纏って突撃して来た。

咄嗟の判断でギリギリ回避する事は出来たけど、飛んでくる速度は〝風神〟の名に恥じないものだった。

今のは回避できたけど、あの速度で飛び回られるとかなり厄介そうね。

 

「まだまだ行きますよ!」

「やっぱり一回じゃないわよ……ねッ!」

 

彼女の声に反応して直ぐに横に動くと、私の直ぐ隣りを一陣の風が駆け抜けた。

風はある程度進んだところで止まり、周囲に浮んでいる人魂を吹き飛ばしながら向かってくる。

私は勘を頼りにギリギリの所を回避しながら、アチコチに札を配置する。

天狗に札を壊されないように、自分の立ち位置に注意しながら、駆け抜けてくる風を紙一重で回避し続ける。

ちょっとでも集中力を途切れれば、風神の体当たりをまともに喰らってしまう様なギリギリの状況。

リュウだったら、あの風を一撃で斬り伏せられるでしょうけど、私はそんな芸当は出来ない。

……だから、私は私のやり方であの風を封じ込めてみせる!

 

「中々当たりませんねぇ……。いい加減当たってくださいよ」

「そんなチンケな風に当たる訳ないでしょ」

「その風を必至に避けてるのは何処の誰ですか?」

「さぁね。私の事を言っているなら、腕の良い医者を紹介するから一度眼を見てもらいなさい」

「この状況でよくそんな事が言えますね」

「今まで経験して来たことに比べれば、こんなの大した事じゃないわ」

「言ってくれますね……」

 

この程度の挑発に乗るとは思ってないけど、天狗はある程度の冷静さを失った様だ。

天狗は先程よりも素早く、ソレでいて鋭く風を纏って突撃し、私を倒そうと迫って来る。

回避するのはより困難に為ったけど、冷静さを失って視界が狭まった天狗に、今自分が置かれている状況なんて分かる筈もない。

私は最後の箇所を札を配置し、逃げ続ける事を止めて一枚のスペカを取り出した。

天狗はチャンスだと言わんばかりに突撃し、私を吹き飛ばそうと迫って来る。

一秒と掛からずに距離を詰められるけど、私は天狗が迫るよりも早くスペカを宣言した。

 

「夢符『二重結界』」

 

スペカを宣言すると、私の周囲に八角形の結界が張られ、天狗はその結界と激突した。

そして、私が設置した札を基点にしてもう一つの結界が張られ、天狗は二つの結界の間に挟まれる。

天狗は直ぐに結界から脱出しようとするけど、風を纏っても私の結界を突破することは出来ず、そのまま二つの間に発生した霊力の光に飲み込まれた。

私は霊力の光が収まったのを見計らって、周囲に張っていた二つの結界を解除する。

今ので天狗も力尽きたと思ったら、彼女は未だに風を纏い、もう一度私に向かって突撃して来た。

『二重結界』をまともに受けたのも関わらず、一体彼女の何処に力が残っているのだろう。

素朴な疑問は湧くけれど、あの結界を受けたい以上は、この一撃が彼女の最後の攻撃になると思う。

さっきの様な速度で飛んでこない上に、相変わらず一直線にしか進まないから、回避するのは容易いけど……私は正面から彼女を迎撃することにした。

 

「……神霊『夢想封印』」

 

私が新たにスペカを宣言すると、周囲に複数の光弾が姿を現した。

現われた光弾は、風を纏う彼女へと向かって行き……見事に全弾命中し、天狗を打ち倒した。

『夢想封印』の前に敗れた天狗は、そのまま力無く下に広がる森へと落ちていく。

私はなんとなく彼女の事が気に掛かり、後を追いかけるように森の中へと入っていった。

 

「一応聞くけど、生きてる?」

「生きてますけど、助けてください……」

 

森に落下した天狗は、如何言う落ち方をしたのか知らないけど、木の枝と枝の間に逆さ吊りの状態で引っ掛かっていた。

様子は見に来たけど助ける気の無い私は、このまま放置しようかと考えていると、近くの茂みから物音が聞こえてくる。

騒ぎに気付いた獣でもやって来たのかと思ったけど、茂みの中に空の様な青い髪を人間が居るのを見つける。

あの髪が眼に入った瞬間、頭の中が真っ白になってしまい、直ぐ傍にいる天狗ごと木の陰に隠れてしまった。

 

「……今、誰かの声が聞こえたけど、気の所為か?」

 

青髪は周辺を見渡して、誰も居ないのを不思議そうに首を傾げる。

アイツは少しの間、辺りに誰か居ないか探していたけど、誰も見付けられずに諦めて、そのまま森の奥へと進んで行った。

周囲の安全を確認した私は、木の陰から出てアイツが向かった方角を見詰める。

 

「この先は……確か『無縁塚』よね。アイツ、何しに行ったのかしら?」

「そりゃ自殺しにでしょ。あそこは冥界や三途の川に繋がりますからね」

「アイツはそんな事しないわよ。へんな事を言うなら……アンタを消すわよ」

「すみません……」

 

天狗の戯言は置いておくとして、ホントに何しに向かったのかしらね。

あそこは無縁仏の為の墓地で、結界の綻びがある結界の交点なってるから、基本的には行き止まりになってる筈。

そんな所に行くだけ無駄な気もするけど、そう言う所でないと会えない誰かに会いに行ったのかしら。

あの場所に居そうな奴と言うと、自殺志願者の人間と死者の魂、それから迎えの死神くらいね。……ん? 死神?

 

「…………あ、そう言う事か。漸く合点がいったわ」

「え? 何の話ですか?」

「となると、今回の異変の犯人は誰になるのかしら? 今回の様なケースだと、犯人と呼べる相手を断定するのも難しいわね」

「ちょっと~聞いてますか~」

「とりあえず、アイツの後をつけてみましょう。アイツが正解に辿り着けてないなら、私が出て行って話せば良いだけだし」

「……あの悲鳴を記事にしちゃいますよ」

「消されたいようね、天狗」

「聞こえてるなら返事をして下さいよ!!」

「煩いから黙って」

「はい……」

 

札を取り出して軽く脅してやると、天狗は借りて来た猫の様に大人しくなった。

私は喧しい天狗を黙らせた後、森の奥へと進んで行ったリュウの後を追い始めた。

 

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