竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第八十一話 三途の水先案内人

 

幽香に言われた通り、『無縁塚』なる場所目指して森の中を進んでいた。

茸の胞子が舞う中を突き進んで行くと、何時の間にか森を抜け、赤い花が咲く林道に出ていた。

道の脇に赤い花が沢山咲き誇り、枝も葉も節もない独特の形状から異様な雰囲気を醸し出している。

里では見る事の無いから、此処にしか咲かない固有種なのかも知れないが、この見た目は余り好みじゃないな。

 

「……まぁ俺の好みは兎も角、随分と変わった花だな。なんて名前の花だ?」

「ソイツは『彼岸花』さ。間違ってもそれを口に入れようなんて思うなよ、有毒なんで死んじまいかねないからね」

「へぇ~……。ところで、アンタは誰だ」

 

俺は振り返りながら、後ろから話しかけてきた奴の顔を見る。

背後から話しかけてきたのは、青と白を基調にした服を着て、大きな鎌を持つ赤い髪の女性だった。

パッと見た感じは人と大差ないけど、中身は全くの別物のようだ。

……だからと言って妖怪と言うのも何かが違うし、今まで会って来た奴等とも大分毛色が違うみたいだ。

 

「自分は名乗らない上に、敵意剥き出しとは……如何言う了見だい?」

「…悪いな、敵意については完全に無意識だ。あと、俺の名前は『リュウ』だ」

「あたいは『小野塚小町』。死神で船頭をやってるよ」

「船頭って……この辺りに川でもあるのか?」

「正確に言うと此処じゃないんだが、彼岸と現世の境にある大きな川さ」

「そんな川があるなんて初めて聞いたな」

「一応は歩いて川岸に来れるけど、あそこは死者が来るべき場所。あんたみたいな変わり者が来るべき所じゃないよ」

「その口ぶりだと、俺が何なのか知ってるみたいだな」

「噂程度にならね。自分の役割を全うしない竜神だろ?」

「……………」

 

彼女が何の気なしに言って来た言葉を聞いて、俺は自然と刀の鍔を押し上げて、何時でも抜けるようにしていた。

俺のそんな様子を見て、彼女は慌てた様子で距離を取り、持っていた鎌を地面に突き刺した。

 

「ちょっと待て! あたいは人伝でそう聞いただけだって!」

「なら、そう言ってたのは何処の誰だ」

「それも知らないって! 大体、なんでそんなに怒ってるのさ!?」

「……俺にも色々とあるんだが、まぁ、役割を全うしないのは事実か」

 

俺は吐き捨てるように呟き、押し上げていた指を退かし、刀を鞘に納めた。

刀を納めたことに安堵した彼女は、ホッとしたように息を吐き出した。

向こうはそれで安心出来ただろうけど、俺の心はちっとも晴れやしない。

噂の出所は何処か知らないが、この世界には随分と無責任な噂を流す奴が居るんだな。

 

「あ~驚いた。…全く、なんだってそんなに怒るんだい?」

「言っただろ、色々とあるって。それに俺の力を考えると役割を全うしない方が良いと思うぞ」

「全うしない方が良いってなんでさ?」

「俺の……『アンフィニ』の力は〝神殺し〟らしいが、何の神を滅ぼせば良いのか分からないんでな。そこらに居る奴を手当たり次第に殺す事になるが……それでも良いのか?」

「……確かに今まで通り暮らしてくれる方が嬉しいね」

「だろう?」

 

思いっきり引きながら言って来た言葉に、俺は間を置かずに肯定した。

幾ら〝神〟と言っても、自らの存在を殺しかねない奴に、役割を全うして欲しいと思う訳が無い。

それにこう言った手合いは、手が届かない様な場所に隔離するか、滅ぼすかのどちらかだしな。

俺はどちらもゴメンなんで、今まで通りの生活を続けていくさ。

 

「ところで、あんたはこんな所に何しに来たんだい?」

「今起こっている異変の真実が聞けるって花の妖怪に聞いてな。それを確かめに来たんだ」

「あ~コレの事か」

 

小町はそこら辺に浮んでいる人魂を見ながら一言呟いた。

その様子は、何処と無く何かをめんどくさがっている様にも見える。

 

「…何か知ってるのか?」

「そりゃあ、あたいも死神の端くれだからね。なんでこうなったのか位は知ってるよ」

「なら教えてくれ。霊夢の奴とドッチが先に異変を解決するかで競争してるんだ」

「……随分と平和的な理由だねぇ」

「そうなる前に、アイツとは言い争いになったんだけどな」

「霊夢って……当代の博麗の巫女の事だろ? 神様と喧嘩する巫女なんて初めて聞いたよ」

「アイツは俺を神様扱いしないからな」

 

俺はそう呟きながら、自然と顔が綻んでいる事を自覚していた。

思い返してみると、霊夢のあの態度のお陰で、俺は俺のままで暮らせて居られる気がする。

色々と世話に為っているってのに、アイツの心配を無碍にするなんて如何かしてるよな。

 

「まぁ、あんたがそれで良いなら、あたいは何も言わないさ」

「そうしてくれ」

「あいよ。……それで、今回の異変に付いての話だったね」

「人魂が大量発生したり、季節外れの花が咲いたりで、犯人は何がしたいんだ?」

「何がしたいんじゃなくて、自分が死んだ事を認めたくないだけだよ」

「如何言う事だ?」

 

小町は何でも無い様な口調で言うが、俺にはイマイチ理解出来なかった。

幽香の所でも〝犯人は居ない〟みたいな事を言われたが、それとこれとが如何繋がるんだ?

 

「今回の異変は、外の世界で発生した幽霊の増加と、幻想郷を覆う『博麗大結界』の緩みが原因さ」

「幽霊の増加と結界の緩み?」

「あぁ。60年に一度の間隔で大量発生して、結界も同じ様な間隔で緩んじまうのさ。二つの事が重なったのと、幻想郷に張られている結界の影響で幽霊が大量に来ちまったんだよ」

「…人魂が大量にいる理由はわかったが、なんで花が咲くんだ?」

「アレは死に切れない人間や、死んだと自覚のない幽霊が花に憑依した結果さ。花が咲いている事で自分はまだ生きていると思い込んでいるんだろうね」

「そう言う事か。……確かに犯人の居ない異変だな」

「そうさね。…まぁ、放っておいても担当の奴が順当に幽霊を彼岸に運んでくから、心配しなくても大丈夫だよ」

 

大らかに笑いながらそう言うが、俺は今の言葉に少なからず違和感を覚えた。

担当の死神が幽霊を運ぶって言うなら、同じ死神の彼女はこんな所で一体何をしているんだ?

この林道の花に憑依した幽霊を運んでるなら分かるけど、彼女は自分で〝船頭〟と名乗ってたな。

船頭が幽霊を迎えに来るのも変だし、川の無いこんな場所に居るのもおかしいよな。

 

「……小野塚、一つ聞きたいんだけど」

「ん? 今度はなんだい?」

「船頭がこんな所で何してるんだ? 幽霊を運ばなくて良いのか?」

「うっ……そ、それは……」

 

俺が気になった事を聞くと、小町は言葉を濁し、視線を泳がせ始めた。

その様子から何かを隠しているの間違いないだろうが、此処までバレバレだと清々しさの様なものすら覚えるな。

 

「……まさかとは思うが、仕事をサボってる訳じゃないよな」

「ち、違うって! ただ、やって来る幽霊の数が多くて休憩してるだけさ」

「仕事放棄か……。ソッチの方が性質悪いぞ」

「だから違うって言ってるだろ! 大体、一日に百人以上の幽霊を運べる訳無いじゃないか!!」

「そんなに居るのか?」

「……百人は言い過ぎかも知れないけど、それでも『三途の川』の距離は渉る幽霊によって違うんだから、大量に送られても仕事が追い付かないんだよ!!」

「あ~そう言う事」

 

幽香の奴が〝此処にサボリ魔が居る〟って言ってたが、アイツは小町の事を言っていたのか。

でも、今の幻想郷にいる幽霊の数を考えると、どんなに頑張って仕事していても追い付かないよな。

 

「あたいだって真面目に仕事をしないとって思うけど、偶には休憩しないと倒れちまうよ」

「…まぁ、俺はお前の上司じゃないから、コレ以上はとやかく言わないさ」

「ホントかい!? いや~、リュウって結構良い奴なんだな」

「如何言う判断基準だよ!」

 

思わず小町にツッコミを入れていると、コッチに向かって来る誰かの足音が聞こえてきた。

この林道の先に『無縁塚』があるから、其処から誰かが来ても可笑しくは無いんだが……如何にも落ち着かない。

俺の様子が変わった事に気が付いた小野塚だが、足音の正体に気が付くと眼を大きく見開いて明らかに狼狽しだした。

見た目だけを言うなら上質な衣服に身を包んだ女性だが、幻想郷で今まで見てきた連中とは何かが違う異質な存在。

今までこんな気分になった事は無かったのに、一体何者なんだこの女……。

 

「……漸く見つけましたよ、小町!!」

「え、映姫様?! 如何して此処に!?」

「貴女を探しに来たに決まってるでしょう!!」

 

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