竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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この回から少しの間、ずっと霊夢視点で話が進みます。


第八十五話 龍神の秘策

リュウの居ない午後の神社。私は何もする気が起きず、ちゃぶ台の前に座って顔を伏せている。

元気になってもらおうと色々と手を考えたけど、どんな言葉も今のアイツには意味がなかった。

出来る事は全てやり尽くし、もう私に出来る事は何も残されていない。

後はリュウの心が癒されるのを待つしかないけど、ただ待ってるだけじゃ何も変わらない。

……それにアイツの心が癒えたとしても、今まで見たいに一緒に笑って暮らせるのか分からない。

過去に戻れなくても、またやり直す事が出来るのなら、諦めないで何か手を考えないと……そう思ってはいるのだけど、コレと言った手が思いつかない。

 

「……はぁ~」

 

私は自分の無力さを感じて、思わず溜息を吐いてしまう。

憑き物落しから妖怪退治まで色々と出来る私だけど、アイツの心だけは如何する事も出来ない。

誰かの心なんて気にした事も無かったのに、リュウの心だけは如何しても気に為ってしまう。

だからこそ、傷付いているアイツを元気付けたいんだけど、実際の所は何も出来ず一人になって落ち込む毎日。

前は何でも出来るって思ってたけど、結局は私もただの人間ってわけか……。

 

「あ~ぁ、ホントに嫌になってくるわ……」

「何が嫌に為るって?」

「…? ……あ、魔理沙。来てたの」

「ついさっきな」

 

私は顔を上げずに横を向くと、縁側の所に腰掛けている魔理沙の姿を見つけた。

グミが大量発生させた罰として、レミリアの所で当分の間は扱き使われてる筈だけど、今頃になって解放されたみたいね。

……まぁ、ぶっちゃけて言うと、私は魔理沙がどうなろうと興味ないんだけど。

 

「なんか今、お前にぞんざいに扱われた気がするんだが?」

「えぇ。したわよ」

「久々に会ったのに相変わらずだな」

「別に良いでしょ。魔理沙だし」

「それで納得出来るか!」

 

何時もの様に適当にあしらった私は、ちゃぶ台の方に顔を向けてうつ伏せになる。

魔理沙の奴は、何時もの様に勝手に上がりこんで私の対面の席に座ったみたい。

追い返す気力も無い私は、お茶を出したりもせず、ただ落ち込んでいた。

 

「……リュウもそうだが、お前もどうしたんだ? なんからしくないぞ」

「アンタ、リュウに会ったの」

「紅魔館から神社に向かう途中の湖で見かけたんだ。見知らぬ妖怪と一緒だったぞ」

「…アイツ、元気にしてた?」

「遠目だったから良く分からないが、多分アレは寝てるだけだと思う」

「つまり変わらないって訳ね……」

 

暗い声でそう呟いた後、肺の中の空気を全部吐き出す位の深い溜息を吐いた。

見知らぬ妖怪ってのは気に為ったけど、アイツが元気になってないのなら、傍に誰が居ようと関係ない。

隣りにいるだけで元気になるとは思ってないけど、ただ声を掛けるだけじゃ意味が無い。

どんな言葉もリュウの心に届いてないなら、馬の耳に念仏も良い所じゃない。

 

「はぁ~……」

「如何したんだよお前等? ホントにらしくないぞ」

「ほっといてよ。…………そう言えば魔理沙って、一応魔法使いなのよね?」

「一応じゃなくて、わたしは魔法使いだ」

 

私は顔を上げて魔理沙に尋ねると、呆れた様な顔をしながら肯定してきた。

肯定してくれたのは良いけど、コイツの普段の行動を考えると盗賊辺りが妥当よね。

 

「んで、わたしの職がどうかしたか?」

「トラウマを消せる様な薬って作れない?」

「……なんだ、そのみょうちくりんな薬は」

「良いから答えなさい」

「う~む……」

 

魔理沙は胸の辺りで腕を組んで薬が作れるか如何か考え始めた。

こう言うなら永琳に頼んだほうが良いんだろうけど、前に頼んだら記憶が全部消えるとか言われたから却下しておいた。

消したのはトラウマだけだって言うのに、それ以外の記憶も消すような薬なんて使える訳ないじゃない。

……全く、全部の記憶を消す薬はあるのに、一部だけを消す薬は作れないのってなんでかしらね。

不老不死の薬が作れるのなら、そう言った便利な薬があっても良いと思うんだけど。

 

「……それで如何なのよ魔理沙。作れそう?」

「いや、無理だろ。て言うか、トラウマを消すなら催眠に掛けた方が早いぞ」

「そんなのが掛かる相手じゃないから聞いてるのよ」

「まぁ、相手がリュウじゃな」

「……誰もアイツに使うなんて言ってないわよ」

「お前が気に掛ける相手がリュウ以外に誰が居るんだよ」

 

魔理沙は全てお見通しみたいな顔で言ってきたけど、本当にその通りだから何も言い返せない。

こう言うのは付き合いが長いからこそよね。衣玖じゃあ絶対に今のやり取りだけだと伝わないだろうし。

 

「しっかし、あのリュウにトラウマねぇ……。一体何があったんだ?」

「この間閻魔と喧嘩したのよ。その時に色々とね」

「閻魔と喧嘩って……何処に向かってるんだよアイツ」

「今回のは向こうが悪い」

「いや、どっちが悪いとかそう言う問題じゃなくてな」

 

呆れ顔の魔理沙はそう呟くけど、私にとっては重要な部分だから譲るわけには行かない。

大体、本人が居ないからって言うに事欠いて堕落って何よ、堕落って。

そりゃ巫女の仕事は殆どしてないけど、異変解決や妖怪退治はちゃんとしてるし、結界だって維持出来てるんだから問題ないじゃない。

それに、私に直接言わないでリュウに言ってくるやり方も気に入らないわ。

私の生活態度に文句があるなら、アイツに言わないで私に直接言ってきなさいよね。

 

「……なんか、思い出したら腹が立ってきたわ」

「だからってわたしに当たるなよ」

「そんな事しないわよ」

「いや、今のお前ならやりかねないからな。先に予防線を張っておこうかと」

「……アンタが普段から私の事を如何見てるのか分かったわ」

「そう見られても仕方が無い生活をしているお前が悪い」

「アハハハハハハハ…………はぁ~」

「急にテンションを下げるなよ」

「うっさい」

 

私は吐き捨てるように言ってまたうつ伏せになる。

魔理沙とこんなやり取りしていても、リュウが元気に為ってくれる訳でもないし、色々な事が如何でも良くなって来る。

ついさっき湧き上がってきた閻魔への怒りも、今じゃすっかり収まってしまっている。

閻魔への恨み言を言っている暇があるなら、アイツが元気になりそうな方法を考えた方がマシね……とは言っても、私に出来る事は本当にやり尽くしたから困っているのよね……。

 

「まぁアイツを元気付けるなら、やっぱり宴会を開くのが一番だろ」

「……前に里の飲み屋に連れて行こうとしたら、興味ないって断られたわよ」

「いやいや、宴会と飲み屋は違うだろ」

「アイツに取っては同じよ。ご飯食べてお酒飲んで騒ぐ、ただそれだけ」

「なら、リュウの好物と沢山作ってやるのは如何だ?」

「今のアイツには効果ないから却下。……と言うか、もう試した」

「……中々に手強いな」

「アンタ程度に思いつく事を私が試してないと本気で思ってるの?」

「ならば、妾の考えた秘策を試してみるか!!」

 

突如として聞こえてきた聞きお覚えのある第三者の声。

私は顔を上げて声の方を見てみると、其処には何故か白い枕を持っているたっちゃんがいた。

何時の間に来たのか気に為るけど、何時も急にやって来て急に帰るから深く考えても仕方が無い。

それよりも問題なのは……何で枕を持って来ているのかと言う事ね。

何時もは手ぶらで遊びに来るのに、今日に限っては何か持ってくるなんて如何言う風の吹き回しかしら。

 

「よう、たっちゃん。久し振りだぜ」

「うむ、久方振りじゃな霧雨。相変わらず本を盗んでおるのか?」

「だからわたしは、盗賊じゃなくて魔法使いだっての」

「はっはっはっ。莫迦を申す出ない。本を盗むときのお主のやり方は強盗や盗賊に近いものが有るでは無いか」

「なにをーッ!」

 

ウチにやって来るなり龍神がトンでもない事を言って来たけど、魔理沙も本気で怒っている風には見えなかった。

変なところで気が合うのか、この二人なりの挨拶の仕方なんでしょうけど……今は物凄く如何でいい。

 

「……アンタ等の挨拶なんか如何でも良いから、今日は何しに来たのよ」

「いやな、衣玖の奴からお主達の間に亀裂が入ったと聞いて、その関係を修復する為の秘策を持って来たのじゃよ」

「秘策って……その枕の事?」

「うむ!」

「「……………」」

 

たっちゃんは自信満々に枕を見せてくるけど、私と魔理沙は如何反応すれば良いのか分からず、言葉を失ってしまった。

適当に聞き流せばよかったのかもしれないけど、彼女が自信満々に言う秘策にも興味がある。

……だからと言って、枕を見せびらかされてどんな反応をすれば良かったのかしら。

 

「なんじゃお主ら。妾の言う事を信じておらぬのか」

「だってよ……ただの枕だろそれ? 霊夢にそれを使って一緒に寝ろとでも?」

「なッ!? いきなり何を言ってるのよ魔理沙?!」

「まぁ、そんなところじゃ」

「ちょっとたっちゃん?!」

 

あまりにも予想外な方法だったため、久し振りに大きな声を出して驚いてしまった。

だけど二人は、私の事など気にも留めずに話を続ける。

 

「でも何で一緒に寝るのと、アイツを元気付けるのが如何結びつくんだ?」

「実はこの枕を使って眠ると、近くに居る者の夢に行けてな。其処からアヤツの心を見つけて元気付けると言う寸法じゃ」

「それなら、紫の奴に頼んで境界を抜けた方が早くないか?」

「八雲に聞いてはみたが、今の竜の心を直接弄るは危険らしくてな。仕方が無く間接的な方法を取る事にした」

「この方法も十分に危険だと思うけどな」

「まぁの。何せデリケートな心に触れるのじゃし。下手な事をすればアヤツの心を余計に傷付けるだけではなく、夢に潜る霊夢の心も崩壊しかねん」

「げ、そんなに危険な方法なのかよ」

「あの竜の心なんじゃから当然じゃろ」

「てか、私を抜きにして勝手に話を進めないでよ」

 

二人は私がリュウの夢に潜る事を前提に話を進めてるけど、私はそれを了承した覚えは無い。

そりゃあ、アイツが元気になってくれるなら夢の一つや二つ潜ってやるけど、流石に一緒に寝るのは勘弁してほしい。

コッチは手を繋ぐだけでも精一杯なのに、一緒の布団で眠るとか……私が落ち着ける気がしないわ。

 

「なんじゃ霊夢。お主は竜との絆を取り戻したくないのか?」

「そりゃ取り戻したいけど……一緒に寝るなんて恥かしくて出来ないわよ」

「あ~そういや、リュウと手を繋ごうとして顔を真っ赤にしてたもんな」

「ちょっと魔理沙。なんでアンタがその事を知ってるのよ!」

「なんでも何も、偶々その現場を目撃したからに決まってるだろ。わたしだって買い物しに里には行くぞ」

「……霊夢よ、その程度の事でも恥かしがっておるのか? 全く、ただ寝るだけなのだから恥かしがる事もあるまい」

「うっさいわね。でも、恥かしいんだから仕方が無いでしょ!」

「やれやれ。ならばコレも一緒に使うがよい」

 

そう言ってたっちゃんは私に何らかの液体が入った小瓶を投げ渡してきた。

私は受け取った瓶を繁々と見てみるけど、一体何が入っているのか良く分からない。

まぁ、見ただけで何の液体か分かるほど知識ないんだし、当然と言えば当然か。

 

「何よこの薬」

「八意印の睡眠薬じゃ。即効性で後遺症も無く、無味無臭の飲みやすい薬とか」

「……準備が良いわね」

「お主が恥かしがるのは読めてたからな。この位は準備せねば」

「むぅ……」

 

恥かしがるって読めれてると思わなかったけど、此処まで用意周到に準備されてると腹立つわね。

別に分かり易い性格をしてる心算はないんだけどなぁ~……。

 

「今の竜は半ば心を閉ざしておるから、お主の恥かしさなど考慮しておる余裕はない」

「だからってこんな方法を取らなくても……」

「お主が如何しても嫌だというのなら、妾がアヤツの心に潜るが良いのか?」

「それは駄目!」

「だったら大人しくアヤツと同衾せい」

「……たっちゃん、それも間違ってないけどそれだと意味が変わってくるぜ」

「そうか?」

 

たっちゃんの微妙なボケをスルーしつつ、私は開き直って今夜教えてもらった方法を試す事にした。

一刻も早く元気に為って欲しいと言うのも在るし、他の子がリュウの心に触れるのも気に入らない。

彼女の掌の上で踊らされてる気もするけど、今はアイツを元気付ける方が先だし、変に勘繰るのは止めておこう。

 

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