怒れる火竜は、大気を焦がすような熱波を纏いながら私達へと迫って来る。
迎撃として札を何枚か投げつけるけど、火竜に触れる前に熱波の熱で燃やされてしまう。
一応、どんな環境でも使える様に作って貰ってるけど、アイツは札の耐性を遥かに超える熱を持っているみたい。
《■■■■■■■■■■ーッ!!》
大きく口を開いて吼える火竜は、熱波を纏いながらコッチへと突っ込んでくる。
氷竜は向こうの動きに合わせて高度を上げ、突撃を回避しながら氷の塊を幾つも作って放った。
私の身長と同じ位の大きさの氷だけど、火竜の纏う熱波の熱にやられて、直撃する前に全て融かされてしまう。
恐らく、この二頭の戦いに決着が着かない理由はコレなんでしょうね。
お互いの属性が反対な所為で、有効打が一つも入らずに時間だけが過ぎてしまっている。
逆を言えば、ドッチかの攻撃がまともに入ればケリが着くんでしょうけど……そう簡単に決められるほど甘くないわよね。
「ちょっとリュウ、あの火竜について教えて」
《そんな事を聞いて如何する》
「聞かなきゃ分からない事もあるわ。だから話して」
《……火属性だと言う事以外は、
「属性しかって……能力に差はないの?」
《攻撃力は
「それなら、アンタの攻撃が一撃でも入れば良いわけね」
《それが出来れば苦労は無い》
リュウは冷めた口調で言いながら旋回して、今度は自分から火竜へと向かって行く。
凍てつく様な冷気を身に纏い、大気中の水分を凍らせながら速度を上げて突撃する。
氷竜の接近に気が付いた火竜は、さっきと同じ様に熱波を纏い、真正面から向かって来た。
相反する属性を纏った二頭が激突すると、お互いの属性を相殺しあい、まともなダメージが入らず横を通り過ぎるだけに終わった。
《分かったか。俺がどんなに攻撃しようと、アイツに相殺されてしまうんだ》
「それは分かったけど……一つだけ言わせて」
《なんだ》
「攻撃するなら一言いってよ! 今の物凄く寒かったわよ!!」
《そんな事知るか》
私の抗議の声も、氷の様に冷たい今のリュウに一蹴されてしまう。
普段なら〝次は気をつける〟とか言ってくるのに、今のコイツにはそう言った優しさが欠如してる。
それぞれの感情が形になった存在だから、優しさが欠如していてもおかしくはないけど、少しくらいは気に掛けてくれても良いじゃない。
此処に来て最初に会った『パンク』が、リュウの〝優しさ〟とかなんだろうけど……少しくらい他の竜にあっても良いのに。
《何を考えてるのか知らないが、今は戦闘に集中しろ》
「アンタに言われなくたって分かってるわよ!」
リュウの冷やかな言葉を聞き流しつつ、私は次の攻撃の準備を始める。
攻撃の通らない札での攻撃を止め、霊力を使ったスペカでの攻撃に切り替える事にした。
結界系のスペカだと、飛び回っている相手に当てるのが難しいし、夢想系のスペカだと霊力の消費を考えて使わないと後が持たない。
命中と消費のバランスで選んだ結果、私は夢想系のスペカを宣言する事にした。
「霊符『夢想妙珠』」
カードを宣言すると、私の周囲に小さな光弾が複数出現し、それ等は一斉に火竜へと向かっていった。
霊力で出来ている光弾は、熱波の熱で燃やされる事無く真っ直ぐに進んで行く。
火竜は自身の熱波で燃えない事を知ると、口から真っ赤な火炎を吐き出して、私の光弾を燃やそうとしてきた。
だけど、吐き出した火炎でも私の光弾は燃やし尽くすことは出来ず、火竜は避ける間もなく光弾に命中した。
光弾が命中した事で、確かにダメージを与える事は出来たけど……効いている様子は無い。
一撃の火力が低すぎるのか分からないけど、もっと強いスペカでないと消耗戦に為りかねない。
この先に何があるのか分からないし、此処で必要以上に消費するのは避けたいわね。
「リュウ。暫くの間アイツから逃げ回ってくれない?」
《何故そんな事をする必要がある》
「ちょっと作戦を立てたいのよ。分かったら言う通りにする」
《やれやれ……》
溜息を吐きながらもリュウは、私の言う通りに火竜から距離を取ってくれた。
当然の様に火竜も後を追いかけてくるけど、二頭の速度は全くの一緒だからそう簡単に追いつかれることは無い。
私も火竜に『夢想妙珠』を使って迎撃するけど、やっぱり火力が低いのか全弾命中しても堪えていない。
もう一度同じスペカで放ってみたけど、攻撃が効いていないどころか、光弾の一つはアイツの牙に噛み砕かれてしまった。
命中と消費を優先して選んだ所為か、コレ以上このスペカで攻撃し続けても力を消費するだけね。
他のスペカで攻撃するにしても、まずはアイツの行動パターンを調べてみないと。
そう考えた私は、スペカを撃つのを止めて火竜の動きを観察する事にした。
アイツの主な攻撃パターンは、熱波を纏っての体当たりと、口から火炎を吐き出すこと。
後はさっき
そうやってアイツの動きを分析していると、突然火竜が動きを止めて力を蓄え始めた。
《……不味い『ギガ=フレイム』が来る》
「何よそれ」
《アイツの必殺技みたいなものだ》
それだけ言うとリュウは、一気に速度を上げて逃げる様に回避行動を取る。
火竜が吐くブレスの射線から逃げる様に移動すると、力を蓄え終わった火竜が口から炎を吐き出した。
其処だけを見ると、さっきの火炎と大差ないように感じるけど、大気に伝わる熱はさっきのとは段違い。
さっきのはまだ我慢出来るような熱さだけど、今度のは大気の熱で肺が焼けるんじゃないかって心配に為るくらい。
あんなのをまともに受けていたら、灰も残さずに燃やし尽くされるでしょうね。
行動パターンとしては、力を蓄える事くらいしか最初に吐いた火炎と大差なさそうね。
そう判断していると、劫火を吐き出し終わった火竜が、動きを止まっている事に気が付いた。
余り長い時間と言う訳じゃないけど、間違いなく火竜はその動きを止めていた。
私のスペカにも、発射後に若干の硬直がある奴もあるから、恐らくはそれと同じなんでしょう。
発射後の隙を狙うのは良くある手段だけど、あの火竜にも同じ方法が通用しそうね。
私は硬直が解け、再び私達を追い掛けてくる火竜を見ながら、アイツを攻略する糸口を見つけた。
「ちょっとリュウ。アイツにさっきの火炎をもう一度使わせる事って出来ない?」
《出来なくはないが……如何する心算だ》
「発射前後の隙を狙って、大技を叩き込もうかと」
《焼き殺されるだけだと思うがな》
「それに付いては大丈夫よ。アンタの事信じてるから」
《……調子の良い奴だ》
口ではそう言いながらも、リュウは反転して火竜を挑発するように飛び始めた。
火竜の近くを飛び周りながら、大きな氷の塊を幾つも放ち、反撃を喰らう前に離れて行く。
向こうも炎を発生させたり、熱波を纏って体当たりしてくるけど、私達に当てられないでいる。
リュウの攻撃も熱に溶かされているから、実際の所は命中してはいないんだけど、挑発するのが目的だから無理に当てる必要は無い。
何度も周囲を飛び回り、嫌がらせとばかりに氷の塊を放っていると、遂に火竜が動きを止めて力を蓄え始めた。
「リュウ! 真っ直ぐ突っ込んで!」
《…如何なっても知らんぞ》
リュウは全身に冷たい冷気を纏って、動きの止まっている火竜へと向かって行く。
少しずつ火竜との距離が縮まっていき、それに合わせて私は霊力を高めて大技の準備をする。
私達の距離が後十数mと言った所で、力を蓄え終わった火竜が口から劫火を吐き出してきた。
それを見たリュウは、直ぐに急降下し始めるけど、私は彼の背中を蹴って劫火を飛び越える様に上へと跳んだ。
《霊夢!?》
直ぐ真下からリュウの声が聞こえてくるけど、私は気にせずに火竜へと向かって行く。
人の跳躍だけじゃ、竜が吐き出す劫火を飛び越える事は出来なかったけど、私の能力を使って炎から浮かび上がる事で、火竜の炎に対して無敵状態になる。
これで焼き殺される事はなくなったけど、流石に劫火の熱までは対処し忘れていた。
肺が焼けそうに為る前に、息を止める事でなんとか堪えつつ、熱の方も浮び上がっておく。
こうして火竜の劫火を乗り切った私は、竜の背中へと飛び移り、高めていた霊力を手の中で球体状に練り上げる。
「痛いかもしれないけど、我慢しなさいよ! ……神技『陰陽鬼神玉』!!」
練り上げた霊力を火竜の背に放つと、球体上の霊力は大きく膨れ上がり光弾となった。
放った光弾は火竜を飲み込み、そのまま下へ下へと少しずつ向かって行く。
飲み込まれたままの火竜は、光弾の勢いに押されて逃げ出すことも出来ず、一緒に下へと落ちて行く。
光弾は少しずつ下へと向かっていくが、途中で光弾を形成していた霊力が尽きてしまう。
解放された火竜は両翼を大きく羽ばたかせて、もう一度空へと飛翔しようとする。
私はもう一度火竜に張り付いて、もう一回スペカを使おうとしたけど、それよりも先に火竜に氷の塊が命中した。
迎撃する間もなく命中した氷の塊は、一度粉々に砕け散ってしまったけど、直ぐに氷結し直して巨大な氷の柱を創り上げた。
私の直ぐ足元に出来た氷の柱の中では、逃げる事の出来なかった火竜が中に閉じ込められていた。
「だ、大丈夫なのかしら……」
《心配はない。どうせ暫くしたら出てくる》
私の直ぐ傍にやって来たリュウがそう言うと、若干ではあるけれど氷が溶け始めた。
恐らくは、中に閉じ込められた火竜の熱で溶けてるんでしょうね。
まだ動けるなんて思わなかったけど、高さ数十mはある氷の柱を溶かし切るのは簡単じゃない。
このペースで溶けていくのなら、あと数時間はこの中から抜け出せないでしょうね。
《出てくるのはまだ先だが、一息いれるには十分か》
「何言ってるのよ、私達にそんな余裕はないでしょ。早いとこ深層領域に通じる道を探さないと」
《悪いがそれはお前一人でやってくれ》
「なによそれ! ちょっとくらい手伝っても良いじゃない!!」
《俺はコイツを抑え込まなければならないからな。お前に付きやってやる暇は無い》
「冷たいわねぇ……少しは手伝おうって思わないの?」
《思わないし、こう言うのも
「それはそうだけど……仕方が無いっか」
私はこのリュウに手伝ってもらうのを諦めて、さっさと他の場所に向かうことにした。
どの位の広さが有って、何処に何があるのか知らないけど、此処で時間を無駄にする訳にも行かない。
何処にあるのか分からないけど、何時もの様に勘に頼って飛んでいけば見るかるでしょ。
そう考えた私は、まずはこの柱から北に向かって飛んで行く事に決めた。
「さって、行くとしますか」
《…霊夢》
「ん? なに?」
私がこれから飛んでいこうとすると、いきなりリュウが私を呼び止めてきた。
声色や表情から深刻な話じゃなさそうだけど、呼び止めるなんて一体如何したのかしら?
《深層への路を探すなら『カイザー』の像を探せ。何かあるとしたら恐らく其処だ》
「……………」
《む? 如何かしたか?》
「うんん。やっぱり、リュウは優しいって思って」
《……莫迦な事言ってないで早く行け》
「分かったわよ。…それじゃ、またね」
別れの挨拶を済ませた私は、彼の言葉を信じて『カイザー』の像を探しにいった。
何時リュウが目を覚ますか分からないから、早く探し出さないといけないんだけど……私の顔は嬉しさから綻んでしまっていた。
これからが大変だから、気を引き締めていかない……て思うんだけど、顔が綻ぶのを止めれそうになかった。
………
……
…
彼が言っていた言葉を信じて飛び回っているけど、まだ『カイザー』の像を見つけられないでいた。
不毛な大地が広がっている世界とは言え、この世界も中々に広いから像を一つ探すのも苦労する。
あの竜は今でも印象に残っているから、何処かで見落としてたりしてない思うけど……。
「……ん? あれってもしかして……」
アチコチ見渡しながら飛んでいると、左の方の荒野に何かが在るのに気が付いた。
今までは何も無かったのに、あの一角だけは他の場所とは違う様な感じがする。
其処に何が在るのか気になり、進行方向を変えて行ってみると……一体の竜の石像が立っていた。
別れ際にリュウが言っていた通り、其処には『カイザー』の石像が置かれている。
周りにはそれ以外の物は存在せず、ただ荒野のど真ん中に一つだけぽつんと存在していた。
「コレが例の像か……。確かに、こんな所に一つだけ在ったら誰だって怪しむわね」
私は納得したように呟いた後、石像に近付いて何か無いか調べてみる事にした。
見た感じはただの石の様に感じるけど、実際に触れてみると別の素材で出来ている様な気がする。
石材に詳しいわけじゃないけど、少なくとも石や鉄なんかじゃないわね。
……まぁ、此処はリュウの心の世界なんだし、目の前の像が何で出来ているのかなんて大した問題じゃないか。
「それにしても、路らしいものなんて何処にもないわね。……もしかして外れかしら?」
そんな風にぼやきながら調べていると、竜の台座に触れた途端、手がその箇所を突き抜けてしまった。
「な、なによコレ?!」
余りにも突然の出来事に驚いて、慌てて引っこ抜こうとしたけど……全然ビクともしない。
引いて駄目なら押してみろと言う事で、今度は逆に押し込んでみるとコッチは面白いように進む。
どうやら押すことは出来るみたいだけど、引くことは絶対に出来ないみたい。
このまま待っていても助けが来るわけないし、此処は像の中に入ってみるしか無さそうね。
何度か深呼吸を繰り返して心を落ち着けた私は、覚悟を決めて一気に像の中へ飛び込んだ。
像に飛び込んだ瞬間、視界が暗転して上下の感覚があやふやになる。
上へ向かって昇っているのかも、下へ向かって下っているのかも分からないけど、何処かへ向かっているのは分かる。
その状態でどの位経ったのか分からないけど、気が付くと私は何も無い空間に放り出されていた。