強いて言うなら……霊夢がデレ期に入ったって事くらいかな。
第九十話 心の変化
霊夢Side
悩んでいたリュウの心が晴れて、何時もの日常が戻ったけど……私は非情に機嫌が悪かった。
別にリュウが何かしでかしたと言う訳じゃなくて、この夢に潜れる枕を創った奴に腹を立てている。
アイツの心に触れられたのは感謝してるけど、如何しても文句を言っておきたい事が出来た。
遊びに来た衣玖に来て早々彼女を呼びに行かせ、私は居間で二人が来るのをただ待っていた。
リュウが道具拾いに行っている内に彼女に話を付けておきたいから、衣玖には出来るだけ早く連れてきて欲しい。
そう思いながら二人が来るのを今か今かと待ちわびていると―――
「霊夢さん、龍神様をお連れしましたよ」
「妾を呼びつけるとは、一体何の用じゃ霊夢」
―――衣玖に連れられて漸く
裏庭に現われた二人を確認した私は、傍においておいた枕を鷲掴みにする。
そのまま持ち上げた私は、たっちゃんに向かって枕を全力で投げ付けた。
「ぬがッ!?」
「りゅ、龍神様?!」
顔面で枕を受け止めたたっちゃんは、ぶつかった勢いで後ろに仰け反って尻餅をつく。
私の突然の行動に反応が若干遅れたのか、衣玖は投げた枕を止める事が出来なかった。
衣玖は慌ててたっちゃんを起こそうとするけど、彼女は衣玖を制止し自らの力で起き上がった。
「……ったく、いきなり何をするんじゃ霊夢。不躾にも程があるぞ」
「そりゃ、アンタに色々と言いたい事があるからね」
「……もしかして、怒っておるのか?」
「〝もしかして〟じゃなくて、本当に怒ってるのよ」
そう言ってたっちゃんに笑いかけると、二人して引き攣った顔になり少しだけ後ろに下がった。
私としては普通に笑った心算なんだけど、如何やら二人には恐怖にしか見えなかったようね。
何気に失礼な話だけど、今回の件には特別関係のない事だから気にしないでおこう。
「ほら、何時までも外に居ないで上がりなさいよ」
私がそう言って促すと、二人は重い足取りで家の中にあがりこんだ。
ちゃぶ台にお茶がない事を見つけたのか、衣玖はそのまま台所へと行ってお茶を用意し始める。
台所から物音が聞こえてくるけど、今回の件に衣玖は関係ないから好きにさせておく。
対面の席に座ったたっちゃんを見据えて、私は口を開いて話を始めた。
「……今回、アンタを呼んだ理由はただ一つ。その枕についてよ」
「な、なんじゃ? まさか、この枕でもアヤツの心に触れられなかったとでも?」
たっちゃんは怯えた様子で尋ねてくるけど、私は無言で首を横に振って否定した。
「ちゃんとアイツの心に触れれたし、迷いも晴らす事が出来た……けど」
「けど……なんじゃ?」
「……如何してあの出来事が全部〝夢〟になっちゃうのよ!!」
我慢の限界を超えた私は、両手を使って力いっぱいちゃぶ台を叩く。
バンっと言う音が居間に響きわたり、衣玖がビックリした顔で台所から顔を覗かせてきた。
一方、怒られているたっちゃんは呆れた様な顔になり、深い溜息を一つ吐き捨てた。
「はぁ~……。何事かと思えば、そんな事か」
「そんな事ってなによ! 私にとっては重要な事なの!!」
「……あのな、霊夢。妾は〝夢に行ける〟と言ったんじゃ、潜られた方が夢と思うのは当然の事じゃろ」
「それで納得出来ないから、こうしてアンタ文句を言ってるの!!」
「そう言われてものぉ……」
たっちゃんは困ったように頬を掻くけど、そんな事で私の怒りは収まりはしない。
コッチはやっとの思いで告白出来たって言うのに、あの枕の所為で全部が夢の出来事になった。
確かにこの枕のお陰で心に触れる事が出来たけど、告白が全部ただの夢でしたなんて言われたら堪ったもんじゃないわ。
リュウに直接言える事でも無いから、怒りの矛先を創り主のたっちゃんに向けるしかないでしょ。
湧き上がって来る怒りをぶつけようとしたら、お茶を淹れてくれた衣玖が台所から戻って来た。
衣玖は何も言わずに、私とたっちゃんの前にお茶を差し出し、私たちの間の場所に座り込んだ。
「霊夢さん、此処はお茶を飲んで落ち着きましょう」
「そんなんで落ち着けないから怒ってるのよ」
口では文句を言いつつも、私は衣玖が淹れてくれたお茶を一口飲む。
お茶は熱すぎず、温すぎる事もない丁度良い温度に保たれいて、非情に飲みやすい。
茶葉は安いものを買っているのに、此処まで飲み易く美味しいなんて……流石衣玖ね。
心の中でそんな事を思いつつ、決して表情には出さないで湯のみを台に置いた。
私が湯のみを置くと、衣玖はタイミングを見計らったように話しかけてきた。
「ところで霊夢さん、お一つお尋ねしたい事があるのですが」
「……なによ」
「如何して〝夢〟である事に怒っているのですか? もしかして、その夢の中で何か良い事でもありましたか?」
「うっ…そ、それは……」
物凄く言いづらい事を聞かれて、私は思わず口淀んで黙り込んでしまった。
あまり知られたくない事だし、このまま黙っていようかと思ったけど、二人の眼が〝さっさと話せ〟と言っている様な気がする。
そんな視線も無視できれば良いんだけど、話さなかったら強引に聞き出してくるんでしょうね。
嫌な笑みを浮かべて、指を細かく動かしているたっちゃんを見た私は、観念したように溜息を吐いて、開きたくも無い口を開いた。
「……夢の中で、私アイツに告白されたのよ」
「と言うと、アヤツの本心にか?」
「そうよ」
「それはおめでとう御座います。これで晴れて両思い……相思相愛のご関係になれたのですね」
「えぇ、朝起きたら全部が夢でしたってオチが無ければね」
「……………」
私の乾いた笑みを見た所為か、余りにも酷いオチを聞いたからか、衣玖は言葉を失い絶句する。
たっちゃんは知らん顔してそっぽ向いてるけど、その頬には汗の様なものが浮んでいた。
あのオチを聞いて、彼女は如何して自分が怒られている漸く理由が分かったらしい。
創った本人もこんな事になると思ってなかったみたいだけど、あんなオチに遭った方からしたらそんな理由で許せる筈もない。
漸く告白してもらって結ばれると思ったら、アレが只の夢でしたなんて……笑い話でも酷過ぎよ。
「アレを現実と認識してくれたらどんなに良かった事か……」
「そ、それなら今度は霊夢さんから告白したら如何ですか? リュウさんの気持ちが分かってるなら簡単に出来ますよ」
「……衣玖、私がそんな事言えると思う?」
「……ごめんなさい」
私が告白してる姿がイメージ出来なかったのか、何故か衣玖に謝られてしまった。
自分でもその光景を想い描けないけど、他の人から見ても想い描けないのは空しいわね……。
「もうこうなったら、アイツが告白してくれるのを待つか、酔った勢いで自分から言うかしかないのよねぇ……」
「ですが、あのリュウさんの事ですから、酔った勢いで言っても適当に流すだけな気もします」
「じゃあ私に如何しろってのよ! リュウが告白してくれるように仕向けろとでも?!」
私は良い方法が思い付かない現状に、衣玖に八つ当たり気味に怒鳴ってしまう。
衣玖に怒っても仕方が無いんだけど、このやり場の無い怒りを誰かにぶつけてないとやってられないのよ。
怒っている私と、困り顔の衣玖とは別に、何かを思い付いたのかたっちゃんが不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「ふっふっふっ……ならば、妾がお主に策を授けよう」
「……えっ? たっちゃんの策?」
「なんで嫌そうな顔をするんじゃ!!」
「自分の胸に聞きなさいよ」
私は適当に聞き流そうとしたら、たっちゃんの奴が勝手に話し始めてしまった。
たっちゃんの策を無視していたけど、何故か衣玖の方が乗り気になってしまい、気が付いたらその策を試してみる事になった。
なんで衣玖が乗り気なのか知らないけど、たっちゃんが考えた策で上手くいくのかな?
霊夢Side out
リュウSide
道具を拾いに神社周辺に出かけていた俺は、お昼を回ったくらいに探索を切り上げて戻って来た。
霊夢に色々と迷惑を掛けたみたいだし、沢山集めて美味い物でも食べさせてやろうと思ったんだが……収穫はゼロ。
俺が塞ぎこんでいる間に、他の物好きが神社周りに落ちている道具を拾ったのか、小物一つ落ちていなかった。
こんな日もあるさと自分に言い聞かせるが、流石に収穫ゼロってのは凹みそうになるな。
若干気を落としつつ、俺は玄関の戸を開けて家の中に入った。
「ただいま~」
「お、お帰りリュウ」
何時もの様に霊夢が出迎えてくれたけど、なんだか様子が少し変な気がする。
よく彼女の姿を見てみると、スカートの丈が何時もより短かいし、上着も小さいのかへそが見えている上に何時もの白い袖がない。
全体的に見た上で、一言で言い表すのなら……季節はずれの薄着だ。
五月に入って暖かくなって来たとは言え、その格好で過ごすにはまだ寒すぎる。
何を考えているのか良く分からないが、薄着のまま一日を過ごして風邪でも引かれたら困る。
そう思った俺は、自分の着ていた上着を脱いで霊夢に掛けてやった。
「……なにしてんの?」
「いや、その格好だと風邪を引くかもしれないから、少しでも暖かくしてやろうかと」
「本当にそれだけ? 他に思う事は無いの?」
「……何か思わないといけないのか?」
「無いなら無いで良いわ。……そうよね、アンタはそう言う奴だもんね」
「……?」
少し釈然としないけど、本人がこう言っているのでコレ以上は聞かない事にする。
俺は霊夢の横を通りすぎ、縁側に腰掛けてこの後の予定でも考える事にした。
今から釣に行く……と言う気分でもないし、剣の鍛練も早朝に軽くこなしてたな。
本格的なのをやっても良いが、その前に剣の手入れをする方が先か?
俺はそう思って、手の中に愛刀を呼び出して刀身の具合をチェックしてみる。
刀身には相変わらず刃毀れ一つ無いが、流石に僅かな汚れなんかは付着していた。
小まめに手入れをしてる心算なんだが……土埃とかは気が付かない内に付いてるから困る。
でも、この程度の汚れなら今じゃなくて、寝る前にやってしまっても問題ないかな。
そう考えた俺は、刀を鞘に納めて直ぐ傍に立て掛けておく事にした。
この後なにをするか考えていると、俺の上着を着た霊夢がやって来て隣に座り込んだ。
「ん? なんか用か霊夢?」
「…用が無くちゃいけないの」
「別にそんな事は無いけど……」
普段とは様子の違う霊夢に、心無しか戸惑っているのか会話が続かない。
何時もなら他愛のない話しで盛り上がるんだが、何故か今回は話題すら思い付かないでいる。
霊夢が薄着した位で戸惑うとは思えないし、やっぱり原因は今朝見た夢なんだろうか?
あの夢のお陰で心が軽くなったけど、最後の方で告白までしてたからなぁ……。
例え夢の中の話だとしても、あんなモノを見てしまったら意識せざる負えないよな。
「……………」
今朝見た夢の事を考えていたら、霊夢が無言のまま距離を詰めてきて、俺の手をそっと握ってきた。
余りにも突然の事に驚いた俺は、一体何事かと霊夢の方を見てみると……当人も恥かしそうに顔を赤くしていた。
その様子にこっちまで恥かしくなってくるが、別に離れて欲しいと思っている訳でもない。
只どんな反応をすれば良いのか分からなくて、変な空気の今の状況に完全に戸惑ってしまっている。
何か話さなければと思うのだけど、手の甲から伝わってくる霊夢の体温に意識が行って、考えが全然纏まらない。
でも、この空気に耐え切れなくなった俺は、特に話題も無いまま口を開いた。
「「…あ、あのさ!」」
霊夢の顔を見て話しかけると、向こうも同じ様に俺の顔を見て声を掛けてきた。
同時に声を掛けた所為なのか、お互いに言葉が詰まり変な空気に為った。
「……なんだよ」
「そっちこそなによ」
「いや、特に話題は無いんだけどな」
「それを言うなら私だってそうよ」
「「……………」」
口を開いたのは良いけれど、霊夢と同時に喋ってしまい、結局会話が続かなかった。
別にこんな事がしたい訳じゃないんだけど、この珍妙な空気の所為で上手く会話する事が出来ない。
霊夢も何か話題を探してるみたいだが、顔を赤くして恥かしがるばかりで、話題に為る様なものは何も出て来ない。
こうなった霊夢に話題を期待する事も出来ないし、此処は俺が切り出すしかないんだけど……何かあったかな?
気恥ずかしさからそっぽを向いて、何か無いかと考えていると……この間見つけた花畑が頭に浮んできた。
他に使えそうな話題も思いつかないし、とりあえずこの話を振ってみるか。
「あのさ霊夢……この間、綺麗な花畑を見つけたんだが、今度の夏にでも一緒に行かないか?」
「……えっ?」
突然話題を振られて驚いているのか、霊夢は俺の顔を見たまま呆けてしまった。
……もしかしたら、霊夢は花畑に興味が無いのかもしれないないな。
好きでもない事に付き合わせる訳にいかないし、ちゃんと返事を聞いておかないとな。
そう思った俺は呆けたままの霊夢に声を掛ける。
「あ~っと、別に興味が無いなら言って欲しいんだが―――」
「そんな事無い! 絶対一緒に行く!!」
「お、おう……」
切り出してみたのは良いものの、霊夢の意外な食いつきに驚いて、変な返事をしてしまった。
当の本人は特に気にしている様子も無く、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「随分と嬉しそうだが、そんなに花畑に行きたかったのか?」
「違うわよ。アンタが逢引きに誘ってくれたのが嬉しいの」
「……そんな大層なもんじゃないぞ?」
「そう思ってるのはアンタだけよ。……あ、でも、あの異変で花が枯れてたら如何しよう」
「枯れてたら中止の方向で」
「何言ってるのよ。そうなったら別の場所に連れて行ってよね」
「えぇ~……」
「何よその返事は!!」
あまり乗り気しない俺が嫌そうな顔をすると、霊夢は怒った顔になり抗議してくる。
ひょんな事から霊夢と逢引きする事に為ったけど、気が付くと俺達の間には何時もの空気が戻っていた。
花畑から始まった話題は二転三転し、今では本当に他愛の無い話で盛り上がっている。
二人して他愛の無い事で笑い合っているけれど、繋いだ手だけは決して離す事は無かった。
リュウSide out
オマケ
博麗神社の裏庭にあるリンゴの木。
その木の上でリュウと霊夢の様子を見ている二人の女性がいた。
「なんじゃ。ちゃんと夢の成果が現われておるではないか」
「……と言いますと?」
「今までの竜なら、霊夢が手を握っても反応せんかったのに、今回は気にしてたじゃろ? アレは霊夢が夢に潜った影響で、アヤツの心が多少なりに変化した証拠じゃ」
「……つまり、良い夢を見たら気分が明るくなり、悪い夢を見たら気が滅入るのと同じと言う事ですか?」
「簡単に言えばそうじゃな。……全くあの心配性め、これなら妾が策を授ける必要なかったではないか」
「そうですね、龍神様の露出作戦は完全に外してましたし」
「……それを言うな衣玖」
終わり
「それにしても、あのお二人を見ていますとわたくしも想い人が欲しくなります」
「なんじゃ居らんのか?」
「……居ましたらこの様な事言いませんよ」
「まぁ……頑張れ」
本当に終わり