竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第九十三話 人形の小手調べ

月が天高く昇り、人や動物達が眠りについた夜遅く。

此処『アリス・マーガトロイド』宅では、今も明かりが付いており、異様な雰囲気を醸し出している。

家に隣接している塔の二階では、布に描かれた魔法陣を床に置き、その中心部に一体の人形を置いて儀式を行っていた。

アリスは、左手にページを開いた魔導書を持ち、右手を人形に翳して呪文を唱えている。

 

彼女の綺麗な声音が呪文を紡ぐにつれ、描かれた魔法陣はアリスの魔力を吸収して輝き始め、儀式に必要な魔力が蓄えられていく。

その一方で、魔法陣の中心に置かれている人形は、儀式が進むに連れて苦しそうに眉を顰める。

アリスは人形の事を心配そうに見詰めるが、一度始めた儀式を途中で中断する訳にも行かず、淡々と呪文を唱え続けた。

魔力を十分に蓄えた魔法陣は輝きを更に強め、それと同時に人形は更に辛く苦しそうに為る。

外見に全く変化は見られないが、人形は自分の胸の辺りを押さえて、襲ってくる苦しさから必至に耐えようとする。

 

儀式が最高潮にまで達したのか、アリスの詠唱にも熱がこもり、それに反応して魔法陣も輝きを強めていく。

部屋の中が溢れんばかりの光に包まれ、アリスが呪文の詠唱を唱え終えた瞬間、光が弾け、込められていた魔力が全て人形の中に集束された。

魔力の集束が終わると、アリスは直ぐに倒れている人形へと駆け寄り、何処か壊れていないか入念に調べ始める。

外見に損傷は見られないが、胸部には布に描かれていたのと同じ魔法陣が焼き付けられていた。

アリスはそれを痛々しそうに見るが、不思議な事に魔法陣は人形の身体に馴染むように消えていった。

魔法陣が完全に消え去ると、倒れていた人形が眼を開き、アリスの事を見詰め返す。

それを見たアリスは思わず涙ぐみ、大事そうに人形の事を抱き締めた。

 

「良く頑張ったわね上海。……それと、無理させてごめんね」

 

儀式が成功したにも拘らず、アリスは嬉しさと申し訳なさから、涙ながらに言葉を洩らした。

人形には、如何してアリスが泣いているのか理解できなかったが、彼女が泣いているのを見て、小さな手でアリスの涙をそっと拭ってあげた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウSide

 

気持ちの良い青空の下、俺は何時もの様に境内の掃除をしていた。

こうして境内を掃除するようになって、かれこれ三年近くが経とうとしている。

最初の頃は何処を掃除すれば良いのか分からず、色々と苦労をしていた俺だが、今では鼻歌交じりに楽々と掃除をこなしている。

最近では衣玖さんが代わりにしてくれる事が多いが、彼女も他の仕事があるし、毎日ウチに来れるわけじゃないし、彼女がウチに来れない日は大体俺が掃除をしている。

霊夢も偶に掃除するんだが、そんな事は滅多に無いから殆ど俺の仕事になってるな。

 

「……ま、こんな所か」

 

綺麗に片付いた境内を見て、自分の出来に満足して納得したように呟いた。

境内の掃除も終わり、この後は縁側で昼寝でもしようかと考えていると、いきなり服の袖を誰かに引っ張られる。

油断していた心算はないんだが、こうして引っ張られるまで、誰かが来ている事に気が付けなかった。

よほど存在感の無い奴なのか、気配を消しているのか分からないが、服を引っ張らないで声を掛ければ良いと思うんだがな。

心の中でそんな事を思いながら、引っ張ってくる奴の方に顔を向けると其処には、腰に二本の剣を差して手に封筒を持った、アリスの所の上海人形の姿があった。

 

「久し振りだな上海。今日は独りの様だが……何か用か?」

「マスターカラ、貴方ニ手紙ヲ預カッテキタ」

「俺に手紙?」

 

アリスからの手紙と聞いて不思議に思った俺は、上海に聞き返してみると、彼女は手に持っていた封筒を俺に差し出してきた。

上海から封筒を受け取った俺は、封を切って中に入っている紙の内容を確認する。

中に入っていた紙にはたった一行だけこう書かれていた。

 

【上海の強化が完了したから、貴方の手で確かめて欲しい】

「……物凄くシンプルな手紙だな」

 

アリスらしい手紙ではあるが、彼女が俺に何を頼んでいるのか大よそ理解する事が出来た。

この間言っていた欠陥が直せたから、どの位動けるのか確かめて欲しいんだろ。

腰に剣を二本も差して、此処まで来れただけで十分だと思うが、今の状態で戦えるのかも確認したいんだろうな。

……正直な話、物凄くめんどくさいんだが、数少ない友人の頼みを無碍にする訳にも行かないか。

そうは思うものの、やっぱりめんどくさく感じてしまい、思わず溜息を吐いてしまった。

 

「…? 如何カシタノ?」

「いや、なんでもない。それよりも上海は、此処に来たら何をするか聞いてるのか?」

「マスターカラハ、貴方ガ剣ヲ握ッタラ戦エト。正シ、危ナクナッタラ直グニ逃ゲル様ニッテ」

「そっか。(……危ない目に遭わせたくないなら、最初から戦わせるなよ)」

 

心の中でアリスにツッコミを入れつつ、邪魔に為る箒を適当に放り投げ、空いた手の中に愛刀を呼び寄せる。

手紙をポケットに押し込めて、何時もの様に鞘を抜くが……刃を自分の方に向けて、峰を上海の方に向けた。

妖夢なら絶対に怒り出しそうだが、こうでもしないと上海を斬り捨てかねないんだよな。

もっとも上海は、特に感心が無いのか怒り出すことは無く、腰の剣を二本とも抜いて臨戦態勢に入る。

あまり乗り気はしないものの、俺も剣を構えて何時でも戦えるようにした直後、上海が弾丸の様な速さでコッチに突っ込んできた。

 

真っ直ぐ突っ込んでくるだけだから、躱す事は出来たものの、上海は直ぐに方向を変えて向かって来る。

二つの剣を交差させて向かって来るが、俺はその間に挟み込むように剣を入れて弾き飛ばした。

人形の体格と言う事もあって、あっさりと弾き飛ばされた上海だが、直ぐに体勢を整えて攻め込んでくる。

 

左右の剣を巧みに使い斬り込んで来るが、刀身の短さと彼女自身の腕の長さの関係で、中々攻撃を当てられないでいる。

上海の様に体格で剣を使う場合は、相手の懐に潜り込んで一気に攻めるしかないんだが、簡単に潜られるほど俺も甘くは無い。

彼女が潜り込もうとする度に、俺は剣を振るい、弾き飛ばして大きく間合いを離す。

俺が剣を振るった隙に潜り込もうとするが、動きが直線的すぎるから簡単に避ける事が出来る。

 

上海は何度弾かれ、距離を離されてもめげる事無く立ち向かってくる。

そんな彼女の様子を見ていると、店の前で立ち往生していた子とは別人にも見えてくるが、別の事で少々不安にも為ってくる。

 

「上海、少し飛ばし過ぎだぞ。もう少し抑えろ」

「コノ位ナラ平気」

「そうは言ってもな……」

 

上海が勢い良く立ち向かって来るのは良いが、若干力加減を考えていない様な気もする。

調べるために全力を出すのは良いけど、この調子で戦われたら身体の方を壊しそうで恐い。

……だからと言って、中途半端なところで止めて言う事聞くとは思えないだよな。

なんとかキリの良い所で止めさせようと考えるが、疲れを知らない人形相手にキリの良い所ってのも中々無い。

 

そんな事を考えながら剣を合わせていると、急に上海が後ろに後退して間合いを大きく離した。

戦いを止める気に為ったのかと思ったが、上海は二つの剣を交差させて、その中心部に魔力を収束し始めた。

ある程度魔力を集束させると、上海は両手を大きく広げると同時に、俺に向かって紅色の砲撃を放ってきた。

 

迫り来る砲撃に対して俺は、刃を返した剣で真正面から受け止める事にした。

この一撃を乗り切れば、戦闘を中断しても彼女も納得してくれるだろうと考えたからだ。

紅色の砲撃の勢いに押されながらも、上海の攻撃に耐えていると……彼女の様子がおかしいことに気が付いた。

表情は一切変わらないものの、全身が小刻みに震えていて、今にも身体が崩壊しそうな感じがする。

今回の強化で魔力の供給は解決したが、一度に送られてくる魔力の量が増えすぎたのか?

それとも、只単に自分の限界がどの程度か見極められず、自分の身体に無茶をさせた結果か……。

どっちにしても、このまま砲撃を撃たせ続ける訳には行かないな。

 

「おい、上海! 今すぐ砲撃を止めろ! それ以上はお前の身体が持たないぞ!」

「ダイ…ジョウブ……」

「そう見えないから言ってるんだ!」

 

俺が注意しても、上海は砲撃を止めようとはせず、寧ろ出力を上げようとしてくる。

コレ以上出力を上げれば、確実に上海の身体が崩壊すると踏んだ俺は、愛刀に力を注ぎ込んで光の刃を形成する。

光の刃で斬れ味を増した愛刀で、邪魔な紅色の砲撃を切り裂き、上空を飛んで上海の元へと一気に近付く。

上海は、飛んだ俺に向かって砲撃を放とうとするが、やはり身体にガタが来ているのか、上手く狙いを定められないでいる。

それでも魔力を集束しているのを見て、俺は仕方が無いと割り切り、彼女の両腕を斬り落とした!

 

「ナ、ナニヲ……」

「文句なら後で聞く!」

 

両腕を斬り落とす事は難なく出来たが、中途半端に集った魔力が残っていた。

俺は上海を抱き抱えて直ぐにその場から離脱しようとした。

すると、行き場の無くなった魔力が急に弾け、巻き起こった衝撃で俺達は近くの森へと吹き飛ばされる。

ただの衝撃波だったから、俺も上海も大事には至らなかったものの、巻き起こった衝撃波で境内は酷い事に……。

霊夢に見付かったら確実に怒られると思うと、物凄くやるせない気持ちになってくる。

今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られるけど、此処で逃げたら余計に怒られるんだろうな……。

 

「あ~ぁ、ツイてねぇなぁ~……」

 

吐き捨てるように一言呟き、俺は深い溜息を吐いた。

此処で途方にくれても仕方がないんだが、この状況じゃあそれも無理ないよな。

 

「ちょっと今の爆音は何……って、ホントに何よコレ!?」

「……さって、どうやって説明しよう」

 

何か良い言い訳はないかと考えるが、そんなものが簡単に思いつく訳も無く。

結局は、何時もの様に何とかなるかと考え、こっ酷く怒られる事を承知の上で霊夢の元へと向かった。

 

 

 

 

 

………

……

 

霊夢の説教に一時間、境内の修復に一時間も費やした俺は、壊れて眠ったままの上海を持ってアリスの家にやって来た。

上海は独りでも帰れると言ったが、ちゃんと事情を説明しないと話が拗れかねない。

なので俺は、帰ろうとする上海をなんとか止めて、彼女と二人でアリス宅にきた訳だ。

 

「お~い、アリス~。居るか~」

 

俺はノックをせず、玄関の前からアリスに向かって声を掛けると、直ぐに玄関のドアが開き、家の中からアリスが顔を出して来た。

 

「いらっしゃい、リュ…ウ……」

 

アリスは俺に挨拶をしながらも、視線は腕の中にいる壊れた上海に向けられていた。

俺は直ぐに弁解をしようとしたが、何処からとも無く現われた無数の人形に周りを取り囲まれてしまう。

それと同時に、眼から光が消えて無表情になったアリスが、俺から壊れた上海を取り上げた。

 

「ねぇ、リュウ。如何して上海が壊れているのか説明してくれるわよネ?」

「説明する! 説明するからその眼を止めろ! マジで恐いから!!」

「早ク話シテ」

 

本能的に話さないと危ないと察した俺は、神社での戦いを事細かに説明した。

話していくに連れて、アリスの眼に光が戻り、周りを取り囲んでいた人形たちも姿を消していく。

全部を話し終えた頃には、人形の姿は何処にも見当たらなくなり、何時ものアリスに戻っていた。

 

「……そんな事が遭ったの。ごめんなさいね、リュウ。この子を助けて貰ったのに脅したりして」

「いや…別に気にしてないよ、うん」

「それにしても、如何してこんなに為るまで戦ったのかしら?」

「単純に自分の身体の変調に気が付けなかったんだろ。人形の身体に痛覚なんて無いから、その辺りは如何しようもない」

「だとしたら、私の方で魔力を調整するか、一定以上の魔力を引き出せないように細工するしかないわね」

「俺としては細工する方をオススメするよ。今回みたいに離れて戦う事もあるかもしれないし、万が一に備えるのは大事だからな」

「……そうね、私もその方向で検討してみるわ」

 

結構渋るのかと思ったが、意外にもアリスは俺の提案を聞き入れてくれた。

人形に手を加えたくないって言っていたが、両腕を斬り落としているから直さないといけないからな。

恐らくは上海を直すのと同時進行で、何らかの細工やら術式やらを考える心算なんだろう。

何をするのか気に為るが、此処からはアリスがやるべき事だし、俺が下手に口出すことじゃないな。

 

「……んじゃ、俺は帰って寝る。今日は色々と遭ったから疲れた」

「貴方でも疲れることってあるのね」

「霊夢に説教を喰らって、アリスに脅されたから精神的にくたくたなんだよ」

「壊れたこの子を見たんだから仕方が無いわよ」

「あーそうですねー」

 

俺は呆れた口調でそう言って後、そのままアリス宅から離れる事にした。

アリスは直ぐに家の中に戻った様だが、コレ以上気にしていても仕方が無い。

そう思った俺は、空に飛び上がって森を抜け出し、そのまま神社に向かって飛び去るのだった。

 

リュウSide out

 




オマケ

リュウが帰った後、私は作業室に篭って上海の修復に取り掛かっていた。
彼は〝両腕を斬っただけ〟と言っていたけど、上海の身体は私の予想以上にボロボロになっていた。
限界以上の魔力を出した影響か、それともあの儀式で無茶をした所為で、身体の強度が落ちていたのかもしれない。
……原因が何であれ、コレは気が付いてあげられなかった私のミスだ。
リュウと戦わせる前にチェックしていれば、ちゃんと気が付いてあげれたかも知れないのに……。
こんな事にも気付けないなんて、私もまだまだ修行が足りないわね。
そう思うと自虐的な笑みが浮ぶけど、それを直ぐに引っ込めて修復作業に戻る。
幸いにも、最も重要な胸部には大した傷は無く、他の部分はパーツを交換するだけで済みそう。
この辺りは、早い段階で気が付いてくれたリュウに感謝しないと。
そう考えながら、私は近くに置いてある予備パーツに手を伸ばし、交換出来る様に微調整を重ねていった。
細かい作業を続けていると、何時の間にか眼を覚ましていた上海が、私の事を見上げていた。

「……マスター」
「上海?」
「無茶ヲシテゴメンナサイ……」
「……………」

弱々しい声で謝ってくると、上海は再び深い眠りに付いてしまった。
私は上海が喋った事に驚いて、思わず作業の手を止めてしまうけど、直ぐに我に帰り、思わず微笑んでしまう。

「今回は貴女を責める心算はないわ。けど、次も同じ事をしたらタダじゃおかないわよ」

私は上海に向かってそう言うけど、眠っているから当然の様に返事はなかった。
返事がない事を気にすることも無く、私は一度背筋を伸ばした後、止まっていた作業を再開した

                            終わり
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