竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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先週は祖父の突然な訃報を受け、通夜や葬儀に出ていたため忙しく、小説を書こうにもここ数年ろくに祭りに行っていない所為で、書くのが難航して遅くなりました。申し訳ない。
今回もリュウ視点でお送りしますが、今回は普段よりも若干長いのでその心算で。


第九十六話 夏祭り

 

梅雨も空け、夏の夕陽が地平の彼方に沈み、辺りが暗くなり空に星々が輝き始めた頃、俺は独り里の入り口を目指して歩いていた。

異変でもないのにこの時間帯に外に出るのは自分でも珍しいと思うが、今日は霊夢の奴と里の祭りに行く約束をしている。

霊夢とは里の入り口付近で待ち合わせをしているが、別に離れて暮らしている訳じゃないんだし、待ち合わせとかしなくても良いんじゃないのか?

アイツは気分の問題よとか言ってたけど、内心ではどういう気分なんだよってツッコミを入れたくなった。

この辺りは男女の考え方の違いなのかもしれないが、こんな事を衣玖さん辺りに愚痴ったらきっと呆れられるんだろうな~……。

衣玖さんの呆れ顔が頭に浮びながら歩いていると、前方に見えてきた里の入り口付近に赤い浴衣を着た少女が立っているのが見えた。

浴衣の少女は誰かを待っているらしく、何処か落ち着かない様子でソワソワしている。

 

彼女の浴衣には着物の様な艶やかさはないものの、赤い布地に白い糸で花の刺繍が施されていて華やかさがある。

普段なら使わない薄緑色の帯や髪を編みこんでいたりして、パッと見ると一瞬誰なのか分からなくて少し戸惑ってしまう。

約束もあるし、あの少女が誰なのか分かってはいるんだけど、普段見慣れていない格好だと反応に困るな。

そんな俺の戸惑いを他所に、浴衣の少女の方もコッチに気が付いたのか俺の方へと近付いてきた。

 

「遅いわよ、リュウ。何処で油を売っていたのよ」

「ぁ…いや、これでも約束に間に合うように出た心算なんだが、そんなに待たせちまったか?」

「まぁそれなりにね。……私が早く着きすぎたってのもあるけど」

「そっか」

 

浴衣の少女(れいむ)は待たされた事に愚痴を零すものの、自分が早く着きすぎただけと反省もしている。

一方で俺は、初めて見る霊夢の浴衣姿に如何言えば良いのか分からず、彼女の話も半分程度にしか聞いていなかった。

年明けに見た晴れ着姿はすんなり言えたのに、どうして今になって言葉が出てこないんだろう。浴衣も晴れ着も大差ないと思うんだがな。

戸惑っている俺に霊夢も気が付いたのか、自分が着ている浴衣に眼を落として若干寂しそうな顔をする。

 

「…今日は夏祭りって事で浴衣着てみたけど、やっぱり変だったかな? 私こういうのってあんまり着ないし」

「いや、そんな事ないって! ……ただ―――」

「ただ…なによ」

「―――ただ気の利いた言葉が出てこなくてさ。確かに見慣れない格好だけど、浴衣姿も…その…良く似合ってるぞ」

「あ、ありがとう……」

「「……………」」

 

言った方も言われた方も気恥ずかしくなってしまい、二人して顔を赤くして眼を逸らしてしまう。

前はこんな事は無かった筈なんだが、春頃みた霊夢が出てくる夢の影響で変な風に意識してしまう事がある。

出来るだけ自然に振舞うようにはしてるけど、こう言う時はどうも駄目に為っちまうな。

……なんて言うか、俺らしくないな。こんな風に恥かしがって言いよどんでいる様な奴じゃないだろ。

 

「…と、とりあえず何時までも此処に突っ立ってないで、そろそろ祭りに行くか」

「そ、そうね。此処で話し込むために待ち合わせしたんじゃないんだし」

 

話題を若干強引に変えた俺は、浴衣姿の霊夢と二人並んで里の大通りに向かって歩き出す。

今日が祭りと言う事もあってか、もう夜に為るにも拘らず子供達が外に出歩き、大人達も思い思いに楽しんでいる。

一方俺達はと言うと、さっきの恥かしさを引き摺っているのか、並んで歩いているけどお互いに口を開こうとはせず、二人して黙り込んだままでいた。

なんとかして霊夢と話をしたいんだけど、どう切り出せば良いのかどころか話題すら見付からないでいる。

歩きながら何か話題は無いだろうかと考えていると、突然霊夢の方から俺の手をそっと握ってきた。

 

「…霊夢?」

 

手を握られた事に驚いて彼女の方を見てみると、霊夢は顔を逸らしながらも恥かしそうに顔を赤らめている。

 

「いや、ほら、結構道も混んできたから逸れないようにと思ってね」

「……そうだな。確かに人も多いもんな」

「そ、そうよね」

 

本当のことを言うとそれほど混んではいないんだが、繋いだ手を離したくなくて霊夢の話に合わせた。

今度は俺の方から手を握り返すと、霊夢はますます赤くなるけど嬉しそうにはにかむ。

そのまま俺達は手を繋いだまま歩き続けるが、思うように会話が弾まず二人して黙りこくったまま。

でも、さっきまでみたいに話題探しに躍起になる事も無く、ただ手を繋いでいるだけでも十分だった。

霊夢も顔を赤くしたままだけど、嬉しそうに顔を綻ばせている。

終始無言のままなのは変わりないけど、今はこのままでいい……そんな風に思う事が出来た。

 

二人して無言のまま里の中を歩いていると、混雑がさっきよりも激しくなってきて、道の左右に出店がちらほらと見え始めてきた。

並んでいる店は、食べ歩きが出来るような料理を売っている店から、子供が喜びそうなお面だけを売っている店と様々な種類の店が立ち並んでいる。

予想以上の店の多さに若干圧倒されてしまうが、此処まで来た以上は引き返す心算も無く、霊夢の手を引いて様々な店が立ち並ぶ大通りへと入っていく。

擦れ違う人々にぶつからない様に注意しながら出店を見ていると、霊夢が何か見つけたのか俺の服を引っ張ってきた。

 

「ん? どうした霊夢」

「リュウ、ちょっとあの店によってみましょ」

「あの店?」

 

霊夢が指を指した店には子供達が沢山いて、皆一同に綿状のものを美味しそうにほお張っている。

子供ばっかりで若干入りづらいが、よくよく見てみると霊夢と同い年か少し年上の子も同じ物を買っていた。

お面みたいに子供が好む物かと思ったけど、アレを見る限りだとそう言う物じゃないみたいだな。

 

「あれにちょっと興味があるんだけど、駄目かな?」

「いや、そんな事ねぇよ。俺も興味でたから一緒に行ってみよう」

「ぁ…うん!」

 

霊夢は嬉しそうに返事をすると、俺の手を引っ張って一緒に店の列に並ぶ。

順番が周ってくるまでの間に何を作っているのか覗いてみると、店主が底の深い円形の台の中心で丸い器具を回して糸状の物を割り箸に巻きつけているのが見える。

やっている事としては只それだけなんだが、あの回転させている器具になにか秘密でも有るんだろうか?

そんな事を考えながら順番を待っていると、思いの外早く俺達の番が回ってきた。

どうやら作るのは店主の仕事らしいが、会計なんかは一緒に居る女性の方が担当しているらしい。

店主が絶え間なく作り続けて、それを彼女が売り続けていればそれなりに早く順番が回ってくるか。

 

「いらっしゃいませー!」

「あっと、それを二つ下さい」

「わたあめ二つですね。700円になります」

「はいはい」

 

俺は持って来た財布から代金を支払い、買ったわたあめの一つを霊夢に手渡して店を後にする。

 

「ありがとうございましたー! いらっしゃいませー!」

 

商品を買ってその場を離れる俺達に礼を言い、女性は直ぐに次にやってきた客の相手をする。

ああ言う切り返しの速さは凄いなぁ~と関心しつつ、歩きながら買ったわたあめとやらを食べてみる。

霊夢は既に食べていて、美味しそうな顔をしているからよっぽど美味いんだろうと期待してみたら、口の中で直ぐに溶けてなくなってしまった。

甘くて美味しいとは思うんだけど、直ぐになくなるもんだからイマイチ食べている実感が湧かない。

まぁ見た目通りの綿だし、こんな見た目で噛み応えがあるってのもおかしな話か。

そんな事を考えながら他の出店の様子を窺っていると、視界の隅で霊夢の頬に小さなわたあめの欠片が付いているのを見つけた。

本人はわたあめの味にご満悦らしく、自分の頬に欠片が付いている事に気が付いていない。

どんな風に食べれば付くのかと呆れつつ、こういう子供っぽいところは可愛いと思えてしまう。

 

「霊夢、頬にわたあめが付いてるぞ。取ってやるからちょっと動くな」

「えっ?」

 

俺は霊夢の返事を聞かないで無造作に頬に付いたわたあめの欠片を取ってあげる。

取ったのは良いものの、このまま捨てると言うのも勿体ないし、少々行儀悪い気もするがそのまま頂く事にした。

 

「っ~~~~!」

 

すると霊夢は何故か顔を真っ赤にして、恥かしそうにうつむいてしまった。

 

「ん? どうした霊夢。顔が真っ赤だぞ」

「な、なんでもない…けど、次から自分で取るからそう言う事するの止めて」

「…?? 恥かしがってる理由は分からんが、確かに自分で取った方が煩わしくなくて良いか」

「そう言うわけじゃないんだけど、リュウがそれで納得するならそれでいいわ」

 

イマイチ要領を得ない返事だったが、これ以上聞いても碌な返事が返って来ないだろう。

そう思った俺はこれ以上聞いたりはせず、次の店を探そうと霊夢の手を引いて歩き出そうとしたその時―――

 

「おうおう、見せ付けてくれちゃってまぁ。こっちは必至に為って働いてるってのに」

 

―――直ぐ近くから聞き覚えの有る声で野次が飛んで来た。

無視しても良かったんだがなんとなく声の方を見てみると、魔理沙の奴が店のカウンターから面白く無さそうに俺達のことを見ている。

店のカウンターには玩具のような猟銃が置いてあって、奥にはひな壇があってその上に幾つかの物が置かれていた。

 

「……何してんだお前」

「見てわからねぇか? 出店を出したから店番をしてるんだよ」

「いや、そう言うことじゃなくてだな。なんでお前が出店を開いてんだよ」

「…今月、ちょっとピンチでな。こうして出稼ぎを少々」

「また随分と分かりやすい理由ね。私は遂にアンタの店が潰れたのかと思ったわよ」

「うっせうっせ! それよりもだご両人。こうして出会えたのもなにかの縁だし、折角なんでわたしの店で遊んでいけよ。一回500円だ」

「魔理沙の店ねぇ……」

 

魔理沙は自信あり気な笑顔を向けてくるが、俺はどうもこの店で遊ぶ気になれない。

カウンターに置かれている銃とひな壇から見て、恐らくは射的屋なんだろうけど……置かれている景品に魅力を感じない。

何処にでもありそうな熊のぬいぐるみから、何に使うのか良く分からんモノまで幅広く取り扱っているが、どれもこれも欲しいと思えるような商品じゃないんだよ。

せめてもう少し興味を引かれる商品があればやるんだが、このラインナップじゃ遊ぶ気に為れないな。

魔理沙には悪いと少しだけ思いつつ、他に面白そうな店が無いか探してみると、反対側の並びに金魚すくいなるものを見つけた。

金魚ってのは良く分からないが、もし魚の一種だとしたらぜひとも釣り上げてみたい。

 

「…霊夢、反対側に面白そうな店を見つけたから覗いてみようぜ」

「ん? 良いけど、何のお店?」

「金魚すくいだってよ」

「……如何(いか)にもリュウがすきそうなお店ね」

「悪いな」

「別に良いわよ。それじゃ行ってみましょ」

 

そう言うと霊夢は俺の手を引いて反対側の店へと歩き始める。

俺は彼女に手を引かれるまま、行き交う人々の間を縫いながら目的の店へと向かって歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待てよお前ら! わたしの店でも遊んでいけって!」

「悪いな、魔理沙。俺らもそんなに金が有るわけじゃないんだ」

「てか、一回500円は高すぎ。せめてもう少し安くしなさいよ」

「いや、わたしにも生活ってものがあってだな。これ以上の値下げは無理だ」

「「そんじゃ、後は頑張れ/りなさい」」

「この薄情もんがーッ!」

 

夜の人里に魔理沙の声が空しく響くが、俺達はその声を無視して反対側の金魚すくいの店に顔を出した。

店の前には水の入った大きなタライが置いてあって、その中を赤い小魚が沢山泳いでいる。

それを囲む様に子供達が小さなお椀形のモナカを使って魚を掬い上げようとしている。

モナカは水を吸って脆くなる所為か、誰も思うように小魚を掬い上げる事ができないようだ。

 

「らっしゃい。にいちゃん達もやってみるかい? 一回300円だよ」

「俺は挑戦するけど……霊夢は如何する?」

「私は遠慮しとく。でも、やるからにはちゃんと取りなさいよ」

「プレッシャーかけるなって」

 

霊夢の言葉に苦笑いを零しながら、俺は店主にお金を払って針金の刺さったモナカを受け取る。

 

「掬い上げた金魚は浮んでるお椀に入れてくれ」

「分かった」

 

モナカを手にした俺は、その場にしゃがんで水に浮んでいるお椀を手元に寄せ、泳いでいる金魚の品定めをする。

自由に泳いでいる様にも見えるが、中には殆ど動かずにその場に留まっている奴も居る。

手元でそう言う奴を探して、後は驚かさないように尾の方から素早く一気に掬い上げる!

 

「…よっと!」

 

素早く腕を振ったから水が若干跳ねるが、狙い通り金魚を掬い上げる事ができた。

でも、掬うときの勢いが強すぎた所為か、金魚は俺のモナカには収まらずに勢いよく上に跳ね上げてしまう。

跳ね上がった金魚はそのまま山形に放物線を描き、そのまま近くにいた子供が使っていたお椀に入った。

 

「……あ」

「ぷ、ははははははは。掬い上げるどころか跳ね飛ばしちゃってどうするのよ」

「あ~……勢いを付けすぎたか」

「付け過ぎたどころの話じゃないでしょう。もうちょっと加減を考えなさいって」

「悪かったな、加減知らずで」

 

霊夢に笑われて思わず悪態を付くが、内心は毛ほども気分を害したりはしていなかった。

俺は今度こそ掬い上げるため挑戦しようとするが、さっきの影響でモナカの方が既に使い物にならなくなっていた。

そんなに長い事水に浸してないけど、掬い上げたときの勢いもあって湿った部分が既に取れて、金魚を掬い上げるには困難な状態になっている。

予想以上に脆いモナカに肩を落としながら、店主にボロボロのモナカを返してこの場を後にする事にした。

金魚を釣れなかったのは残念だけど、普段してる釣りだって必ず釣れる訳じゃないし、こう言う事もあるさ。

自分にそう言い聞かせて席を立ち上がると―――

 

「あ、あの……」

 

―――まだ小さい男の子が金魚の入ったお椀を持って話しかけてきた。

最初は何事かと思ったけど、男の子がお椀を俺に差し出すように持っているところをみて、何を言いたいのか理解することが出来た。

俺はもう一度その場にしゃがみ、子供と目線を合わせてから差し出されたお椀を軽く押し返した。

 

「その金魚は君の物だ。桶に戻すのも家にもって帰るのも好きにしたらいい」

「で、でも……」

「俺の事を気にする必要は無いよ。店主もそれで良いだろ」

「ん? 俺は別にかまわねぇぞ。寧ろ持って行ってくれた方が助かるくらいだ」

 

店主がそんな事を言い出すと、周りにいた子供達からブーイングが飛んで来た。

 

「なんだよー。それだったらタダでやらせてくれよー」

「いやいや、おっちゃんにも生活ってものがあってだな。流石にタダじゃやれないな」

「えーケチー」

「ケチじゃねぇって。お前らも大人になれば分かるが、お金を稼ぐってのも大変なんだぞ」

「そんなことしらないもーん」

 

周りにいる子供達が騒ぎ始めて少々面倒な事に為り始めた。

店主は少し困った顔をしながらも、どこか楽しそうに子供等の相手をしている。

変な話を振ってしまった事を悪いと思いながらも、これ以上霊夢を待たせるわけにも行かず、俺はその場から立ち上がった。

 

「あ、ちょっと!」

「さっきも言ったがそいつは君の好きにしたらいい。……如何しても気に為るって言うなら、一つだけ我が侭を言わせて貰って良いか?」

「…? なんですか?」

「俺の代わりにそいつを飼ってやってくれ。俺じゃあんまり面倒を看てやれ無いからな、君が育ててやってくれ」

「ぁ……はい、わかりました!」

「ん。それじゃ宜しく頼むぞ」

 

そう言って俺はその子供の頭を軽く撫でた後、霊夢を連れて直ぐにその場を後にした。

あの出店からは子供達の賑やかな声が聞こえていたが、祭りの賑わいの中に掻き消されて直ぐに聞こえなくなる。

次はどの店を覗こうかと周囲を見渡していると、霊夢が物珍しそうな顔で俺の事を見ているのに気が付いた。

 

「ん? どうかしたのか霊夢」

「べっつに~。ただリュウは子供に優しいなって思って」

「そんな事は無いと思うぞ。結局はあの子に金魚を押し付けたんだからな」

「アンタがそう思っていたとしてもよ。あの子、最後は喜んでたじゃない」

「ふむ…………まぁ、嫌がって無いならそれでいいか」

「いや、まぁ、アンタがそれで良いなら別に良いんだけどね……」

「俺はコレで良いさ。…それじゃ、他の店も見て回るか霊夢」

 

俺がそう言って霊夢に手を差し出すと、彼女は嬉しそうに微笑んで俺の手を握り返してくれた。

 

「えぇ、もちろんよ。寧ろこんなもんじゃ満足しないわよ」

「そこは少し加減してくれると嬉しいんだけどなぁ~」

「それは嫌よ。こんな機会滅多に無いんだから」

「さいですか」

 

若干呆れながら返事をするけど、俺達の間に待ち合わせしてた時の様な変な硬さは無く、お互いに自然体で触れ合うことが出来る様に為った。

あの時のはお互いに照れていただけなんだが、やっぱり今の状態の方が俺達らしくて良いな。

そんな事を思いながら、俺達は手を繋いだまま次の出店に顔を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

祭りの賑やかな灯りにも負けず、空に昇った月が輝きだした頃、俺達は祭りを抜け出し帰路に付いた。

余り遅い時間まで神社を空けている訳にも行かないし、そろそろ帰り時だろうと判断した為だ。

賑やかな大通りを抜けて里を出ると、其処は一寸先も分からない位に真っ暗な世界が広がっている。

俺は小さな火の玉を作りだして、それを空中に浮かべる事でささやかな光源にする。

その灯りを頼りに神社への道を二人で歩いていると、霊夢が何処か残念そうな声で話しかけてきた。

 

「…もう帰らなくちゃいけないのか。家が遠いってのも考え物ね」

「そればっかりは仕方がないさ。神社の場所を移動させるわけにも行かないし」

「それは…分かってるんだけどね。でも、もうちょっとだけ一緒に祭りを楽しみたかったから」

「……そうだな」

 

もうちょっとだけ一緒に楽しみたかった。霊夢のその気持ちは俺も同じだった。

初めて参加した祭りだからってのもあるけど、霊夢と一緒に回れて楽しかったというのが大きい。

最初は一緒に暮らしてるんだしなんて思ってたけど、こうして経験してみるとやっぱり違う物なんだな。

あんな風に店に顔を出すのは楽しかったし、出来る事ならもう少しだけ一緒に見て回りたいと思う。

……でも時間の流れを変える事は出来ないし、俺達は何時までも遊び呆けているわけにも行かない。

そう分かってはいるんだけど、やっぱり〝もう少しだけ〟って思ってしまうよな。

 

「……なぁ霊夢。今日は楽しかったか?」

「…? 突然何を聞いてるのよ。そんなの聞かなくても分かるでしょ」

「確認の意味も込めて霊夢の口から聞きたいんだ」

「…何の確認かしらないけど、今日は…その……楽しかったわよ。浴衣を褒めてくれたのも嬉しかったし」

「そっか。それなら来年も祭りに行くか。一緒にさ」

「……えっ?」

 

霊夢は俺の言葉に驚いたのか、足を止めて呆けた顔で俺の事を見てくる。

歩いていた俺は足を止めた霊夢の方を振り向き、彼女の顔を真っ直ぐ見詰めたまま話を続けた。

 

「俺もさ、今日の祭りは楽しかったんだ。霊夢と一緒に見て回る事が出来て。…だから気は早いんだけど、来年も俺と一緒に祭りに行ってくれないか?」

 

俺は手を霊夢に差し出しながら尋ねてみたけど、彼女からの返事は直ぐには聞かせてもらえなかった。

俺達の間に僅かな時間沈黙が流れたけど、霊夢は眼から涙を零しながら俺の手を取って嬉しそうに微笑んだ。

 

「……うん。来年だけじゃなくて、再来年もその先もずっと、ね」

「嗚呼。約束だ」

「約束したんだからね? ちゃんと守ってよ」

「そんなに忘れっぽく無いから大丈夫だよ」

「一度記憶をなくしてるんだし、そう簡単には信じられないわよ」

「いや、アレは召喚した連中が悪いんであって、俺の所為じゃない」

「それでも記憶をなくしたのは事実じゃない。…だから、この約束だけは絶対に忘れないで」

「…嗚呼、絶対に忘れたりしないよ。もし忘れたりしたら、霊夢が思い出させてくれ」

「うん、分かった」

 

そう約束してお互いの顔を見ながら微笑みあった後、俺達は手を繋いだまま帰路に着いた。

繋いだこの手が離れてしまわない様に確りと握り締めながら……。

 




霊夢の浴衣お及び小道具提供、魔法の森の古道具屋『香霖堂』。
浴衣の着付けお及び髪のセット、竜宮の使い『永江衣玖』の提供でお送りしました。
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