竜が辿り着いた幻想郷   作:ベヘモス

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第九十九話 深遠の中

 

八雲に頼まれて妖怪退治に出かけた俺と霊夢。

紅魔館の敷地から出て眼に入って来たのは、湖から立ち上る霧の向こう側に微かに見える漆黒の巨大なドームだった。

如何やら地下室で俺が感じた異様な力は、あの漆黒のドームから発せられたモノの様だ。

湖は何時もと変わらないのに、その向こう側に見えるアレの所為で、何かの異変が起こったように錯覚しそうになる。

実際の所は、ただ謎のドームが出現しただけで、異変らしい事は何も起こってないんだがな。

 

「それにしても、あの黒いのは何かしらね」

「恐らく只の闇だと思うぞ」

「なんでそんな事が分かるのよ」

「あんな感じに闇を操る妖怪を知ってるからな」

「……そんな奴いたかしら?」

 

心当たりの無い霊夢は、不思議そうに首を傾げるが、俺はあんな事が出来る妖怪を知っていた。

俺が知っている通りの奴なら、あんなに大きなドームを作ったりはしないんだが……八雲が言っていた様に、封印されていた力を解放した反動なのか?

前々から力を封印されているのは気付いていたけど、解放したらこんな事になるなんて思いもしなかったな。

 

「……まぁ何にしても、俺達のすることは変わらないか」

「そうね。こんな事はさっさと終わらせて、さっさと帰りましょう」

 

お互いの顔を見て頷き合った俺達は、湖の向こう側に見えるドームに向かって飛んでいく。

漆黒のドームに近付くにつれ、あの場所から逃げる様に妖精達がコッチに飛んで来る。

普段なら俺達にちょっかいを出してくる妖精だが、今回ばかりは逃げる事を優先しているのか、誰一人として俺達に弾幕を撃って来ない。

先を急ぐ側としては物凄く助かるが、此処まで必死になって逃げるというのもかなり珍しいな。

あの八雲も物騒な依頼をして来るくらいだし、あの中に居る奴はそれだけ危険って訳か。

そんな事を考えながら飛んでいると、逃げ惑う妖精の中で一人だけ俺達に近付いてくる顔見知りの妖精がいた。

 

「リュウさん!」

「大ちゃんか。そんなに慌てて如何した」

「あの、チルノちゃんの姿を見ませんでしたか?!」

「氷精? いや、俺達は見てないが……行方が分からないのか?」

「はい。今日は妖怪のお友達と遊んでくると言ってそれっきり……」

 

自分も急いで逃げないといけないのに、姿の見えない氷精の事が心配なのか、大ちゃんは酷く心配そうな顔をしている。

 

「……悪いが、俺も霊夢も今日はアイツの姿を見ていないんだ」

「そう…ですか……」

「もしかしたら他の場所に居るかもしれないし、心当たりの在る場所を探してみたら如何だ?」

「分かりました。……あの、もし見かけたら―――」

「大ちゃんが探してるって伝えるよ。その事は安心しれくれ」

「はい、宜しくお願いします! …それでは、私はコレで失礼します」

 

礼儀正しく一礼すると、大ちゃんは矢のように何処かへと急いで飛んでいった。

その後姿を見送った俺達は、気を取り直して前方に見える漆黒のドームへと向かっていった。

 

 

 

 

………

……

 

難なくドームへと辿り着いた俺達は、自分の獲物を手に取り、意を決してドームの中へと飛び込んだ。

入るときに多少の抵抗をされるかと思っていたが、意外にもすんなりと中へ侵入する事が出来た。

だが、ドームの中は思っていた以上に暗く、直ぐ隣りに居る筈の霊夢の姿も見えなくなる。

 

「霊夢、其処に居るのか?」

「えぇ。……でも、この暗さじゃ碌に動くことも出来ないわよ」

「そうみたいだが……灯りは俺の方で何とかするさ」

「頼むわね」

 

俺は愛刀を握っていない左手に火の力を集めて、掌の中に小さな火球を作り出す。

煌々と赤く燃える火球は辺りを照らし出し、隣りにいる霊夢の姿を視認出来る様に為った。

コレで少しはマシに為ったと思ったが、灯りで照らされてたのは俺の直ぐ傍だけで、この闇そのものを晴らす事までは出来なかった。

 

「……流石にこの程度の火球じゃ、この中を照らしきるのは無理か」

「でも、何処に誰が居るのか判らなくなるよりはマシじゃない」

「それもそうだな。……俺の傍から離れるなよ、霊夢」

「えぇ、分かってるわ」

 

一言だけ注意を促した俺は、霊夢を連れて闇の中心部へと向かって進んでいく。

何処に何が居るのか分からず、俺達らしくも無く珍しく慎重になって闇の中を進む。

漆黒の闇の変わらない景色を進んでいると、何処からとも無く誰かの叫び声の様なモノが聞こえてきた。

それほど遠くない場所から聞こえてくるんだが、周りが余りにも暗くて、何処にいるのかイマイチ把握し切れない。

仕方が無く俺は新しく別の火球を作り出し、音の発信源と思われる方向に向かって火球を放った。

ゆっくりとした速度で飛んでいく火球を見守っていると、闇の中から逃げ惑っている三人の子供が火球の灯りに照らし出された。

 

「あ! 変なのとみこがいる!」

「助かった……のかな?」

「何でも良いから助けてくださーい!!」

 

灯りと頼りに俺達の元に走ってきたのは、姿の見えなかった氷精と、鳥の羽の様なモノが生えた妖怪に、頭の触覚の生えた妖怪の三人。

前にもあった事の在る奴ばかりだが、如何して此処に居るんだ? てか、一体何から逃げていたんだよ。

 

「お前等、こんな所で一体何をしてるんだ?」

「リグルがルーミアのあたまを叩いたら、ルーミアがこわれた!!」

「違ッ?! 間違ってないかもしれないけど、その説明は何かが違う!」

「でも、リグルの所為なのは間違いないじゃない」

「ミスティアも酷い!?」

 

三人とも相当混乱……しているのか知らないが、何を伝えたいのかイマイチ良く分からない。

とりあえず、リグルとか言う触覚の生えた子が、ルーミアの頭を叩いたら彼女が壊れたって事か?

……それだけで状況を把握できるほど優れえた頭を持ってないんだけどなぁ~。

 

「アンタ等ねぇ……もっと分かる様に説明しなさいよ。何を言ってるのかさっぱり分からないわ」

「とにかく! ルーミアがこわれて、アタイたちをおそってきたの!!」

 

氷精が大声でそう言ったら、闇の奥深くからねっとりと絡みつく様なおぞましい気配を感じた。

その気配は俺だけではなく、この場に居る全員が感じているらしく、逃げてきた三人は顔色を青くして怯えていた。

気配の主はまだ遠くに居るのか、闇の中から俺達の前に出てこようとはしない。

一応、誰の気配なのか検討は付いているんだが……俺の知っているのとは違いすぎて、今一つ確信が持てない。

只一つ分かっているのは、この三人を守りながら戦うには少々骨が折れそうだって事だ。

 

「……お前等。俺が灯りを作るから、それを頼りに此処から脱出しろ」

「良いの?! それなら早く灯りを頂戴!!」

「……………」

 

俺は無言で火球を作り出し、外と思われる方向に向かってゆっくりと飛ばした。

触覚の生えた子と鳥の妖怪は、釣られた様に灯りの後を追っていくが、氷精だけは此処から動こうとしない。

 

「……如何言う心算だ氷精」

「アタイはここにのこる!」

「他の二人は逃げるみたいだし、アンタが此処に居ても邪魔になるだけよ」

「アタイは友達をみすてたりしない! あの二人とじゃむりだったけど、アンタらといっしょならきっと助けられる!」

 

氷精の決意は固いのか、霊夢の言葉など無視して此処に居続けようとする。

そんな彼女の意思に霊夢は呆れてしまうが、俺は逆に氷精の意志の固さに関心してしまった。

会う度に喧嘩を吹っ掛けられてきたから知らなかったが、意外にもこの子は友達思いの良い子なんだな。

友達を助けようとするのは立派だが、正直な話、この子の実力じゃ死にに行くのと同じだ。

妖精は死んでも復活出来るとは言っても、この局面で足手纏いと一緒に戦う心算は毛頭ない。

 

「チルノ。大ちゃんが心配してお前の事を捜してたぞ」

「……大ちゃんには悪いけど、アタイはここにのこる」

「その心意気は立派だが、あまり心配掛けさせるな。……それにルーミアは俺達が何とかするから、お前は安心しろ」

「でも、アタイはッ!」

「あ~もう、しつこいわね。リュウが〝何とかする〟って言ったら本当に何とかするんだから、アンタはコレ以上リュウに負担を掛けるんじゃないの!」

 

霊夢の癇癪とも思える説得を受けて、頑なに意志を曲げようとしなかった氷精が押し黙った。

一緒に説得してくれるのは嬉しいんだが、その言い分は如何にかならなかったのか?

 

「……本当になんとかできるの?」

「嗚呼、その心算で此処に来た」

「なら約束! ぜったいルーミアを止めて! できなかったら、アンタを氷付けにしてやるから!!」

「分かったから早く行けって」

 

そう言って追い払うと、氷精は既に小さくなっている灯り目掛けて急いで飛んでいった。

足手纏いが完全に居なくなった事で、漸く目の前の事に集中する事が出来そうだ。

おぞましい気配は少しずつ近付いてきていて、何時襲い掛かって来るのか分かったもんじゃない。

俺は火球を更にもう一個作り、手元の明かりを増やして、何時でも戦えるように剣を握り締めた。

 

「悪いな霊夢。勝手にあんな約束をしちまって」

「別に気にしてないわよ。…第一、アンタが最初から殺す心算が無いは分かってたしね」

「なんだ、ばれてたのか。上手く隠してる心算だったんだが」

「あのね、私たち一体何年の付き合いだと思ってるのよ」

「う~っと………約三年と数ヶ月の付き合いの筈だな」

「其処で真面目に計算しないの!」

 

何時襲われるかも分からない状況で、何時もの漫才を繰り広げていると……闇の奥から誰かが歩いて来るのが分かった。

足音を聞いた俺と霊夢は、直ぐに頭を切り替えて、何時でも戦えるように体勢を整える。

そして、闇の奥から姿を現したのは、夜よりも暗い漆黒の衣服に身を包んだ、肩くらいまで伸ばした金髪の女性だった。

 

「……あれ? 確か封印が解けた妖怪ってルーミアの事だよな?」

「あの妖精の話と紫の話を合わせるとそうなるわね。……それが如何かしたの?」

「いや、俺の知っているルーミアは子供くらいの容姿なんだが」

「……如何見ても、私やアリスくらいの背丈はあるわよね」

「一体どうなってるんだ?」

 

目の前に現われたルーミア(仮)に戸惑っていると、彼女は霊夢の方を見ながら猟奇的な笑みを浮かべてきた。

 

「ニンゲン……。ゴハンダ……」

 

ゾッとするような笑みを浮かべたまま呟くと、彼女は周りの闇に溶ける様にして忽然と姿を消してしまった。

気配はまだ感じるから逃げたと言う事はないだろが、周りがこうも暗いと何処に行ったのか分からなくなる。

だけども、あの様子からして霊夢を餌として認識していることが分かった。

この暗がりで何処にいるのか判断できないが、少なくとも霊夢の傍にいれば向こうから襲い掛かってくるだろう。

そう判断して、霊夢の傍に寄り添おうとすると、ルーミア(仮)は俺とは反対側の場所から突然現われ、問答無用で襲い掛かってきた。

俺は霊夢を押し退けて、剣を振り下ろし襲い掛かってきたルーミア(仮)を斬り飛ばした。

剣は間違いなく彼女に当たった筈だが、ルーミア(仮)には大したダメージを受けた様子は無かった。

斬り飛ばされたルーミア(仮)はまた闇の中に潜り、またしても姿を見失ってしまった。

彼女の姿は見えなくなったが、俺の耳に何かが風を切って飛んで来る音が聞こえてくる。

一体何が飛んで来るのかと警戒していると、俺達の周りを取り囲む様に漆黒の弾丸が一斉に飛んできていた。

 

「夢符『封魔陣』!」

 

霊夢がスペカを発動させると、俺達の足元から四角い結界が張られた。

黒い弾丸は霊夢の結界に阻まれ、一つたりとも俺達に直撃することは無かった。

 

「悪い、助かった霊夢」

「それはお互い様よ。……それにしても、闇の中に隠れるのは厄介ね」

「気配を追えれば良いんだが、そこら中から感じ取れるからな」

「私のアミュレットでもホーミング出来るか分からないわ」

「仮に出来たとしても、あの闇の中で壊されるのがオチだ」

「でしょうね。……さって、如何したもんかな」

 

姿の見えない敵に困惑しているが、俺も霊夢も不思議と恐怖心は出てこなかった。

絶体絶命……と言う程でもないにしろ、敵の姿の見えないこの状況に、多少なりの恐怖を感じてもおかしくはないのだが、この程度の状況は霊夢と一緒なら恐れる程の事じゃない。

それにあの妖精とも約束しているし、さっさとルーミア(仮)を正気に戻して、こんな暗いところからオサラバするか。

 

「まぁ、闇の中に逃げられても俺達は何時もの通りに戦うだけだ」

「……まぁね。それじゃ、ソッチは任せるわよ」

「嗚呼。霊夢も俺の後ろは頼んだからな」

「任せなさいって」

 

俺達は互いの背中を合わせて、闇の中に居るルーミアに睨みを利かせる。

何処に潜んでいるのか知らないけど、俺達にはこの程度の小細工は無意味だって事を思い知らせてやるよ!

 

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