絶対☆双王~オレとボクの恋乱、学園サーガ~【更新停止中】 作:黒鋼丸
魔力と神気をコントロールする為に三界の学園、トリニアス学園に転入した古暮達。
モンスターに襲われ絶体絶命に陥るも、真雄は魔力に、李雄は神気に覚醒し、何とかモンスター
を退けるのだった。
「…………う………う~ん………」
ボヤ~っとする。
目を開けた李雄が最初に感じたのはそれだった。
視界はぼやけ、頭がボ~ッとする。
だが、徐々にではあるが視界が回復し、目に入って来たのは天上だった。
「………ここは……?」
「おや、御目覚めかい?」
不意にそんな声が聞え、声のした方へ視線を向けると声の主であるジーナの姿があった。
「ここは……保健室?」
「そうだよ、何があったのか憶えてないのかい?」
「え?」
そのジーナの言葉に、李雄はまだ少しボーッとする脳を動かし必死に何があったのか思い出そう
と試みた。
そして、はっ!と全てを思い出した。
優希の魔法の本により現れたモンスターに殺されかけ、必死で抵抗した際に髪が伸び、神気とい
うものが発動し、モンスターを撃退したが、その後気絶してしまったのだ。
「そうだ、優希は!?」
「あの子なら今、職員室でザビエラに説教 受けてるよ」
優希の事を思い出し取り乱す李雄だったが、ジーナの言葉にやや安心する。
「さてと、一様ボウヤにも何があったのか聞かないとね。今、言えるかい?」
「は、はい」
そのジーナの言葉に頷き、李雄は出来事の経緯を説明した。
「………成程ね。にしても、魔法の知識も経験もない、どんな本かも知らないでそんな事しようと
は、優希も優希だがそれを渡したノム達もノム達だねぇ」
「あ、あの先生、優希は俺達の為に………」
「優希がアンタら兄弟の事を大切にしてるのは知ってるさ。でもね、それで死にでもしたら元も子
もないだろ?」
そのジーナの言葉に、李雄は何も言えなくなってしまった。
仕方ない事だ、ジーナの言い分は事実なのだから。
その時だった。
不意に保健室の扉がガラガラッと開き、そこから見知った2つの影があった。
「あら、コグレくん、目が覚めたのね」
「李雄!!?」
それは、教頭のザビエラと幼馴染である優希の姿だった。
「李雄!!」
「優希……うわっ!!?」
その時、優希は李雄の姿が目に入った瞬間、涙目で駆け寄って来たかと思うと李雄に思いっきり
抱きついて来たのだ。
「え、ちょ、優希!?」
「良かった……李雄が、李雄が倒れて……目を覚まさないんじゃないかと思った……」
その優希の唐突の行動に、李雄は驚きを隠せないでいたが、それ以上に李雄はこの時ある問題に
直面していた。
(ゆ、優希の、む、胸が……)
思いっきり抱きつかれている。
それ即ち、女性の特徴とも言える胸が当たるという事。
幼稚園の頃に共にお風呂に入って以来見る事の無かった、幼馴染の胸の感触と女子特有の良い匂
いに純情な李雄は赤面状態だ。
(うぅ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰っ!!?)
「ちょっとコグレくん? サクラさん? 何をしてるのかしら?」
その時、優希の行為に呆れとイラ立ちを感じたぜビエラの言葉に優希は、はっ!と我に返ったの
か、李雄から離れた。
「おいおいザビエラ、美しい2人の愛を引裂いちまうのかい?」
「時と場所を考えなさいと言いたいのよ私は」
ジーナがからかう様に言い放つが、李雄にとっては有難かった。
あのまま抱きつかれていたら、どうなっていたか分からない。
「さてコグレくん、詳しい事はサクラさんから聞いたわ」
「………っ!」
そのザビエラの言葉に、李雄は視線を優希に向ける。
そこには、やや顔を赤くしつつも、どこか表情の暗い優希の姿がある。
「先生、優希は、俺や兄さんの事を思って……」
「サクラさんが
タが神気に覚醒しなかったら死んでいたのかもしれないのよ?」
何とか優希を許して貰いたかったが、世の中そんなに甘くは無かった。
ザビエラの口からは、ジーナの時と同様に現実的な事が発せられ、反論の余地すらない。
「所で、体に何か変化はない?」
「え?」
そこへ不意にザビエラからそんな事を言われ、李雄は体に視線を向けるが、特に何か変わった事
は無い。
そう、外見上は。
「………そういえば、何だか体に熱い、力強い何かを感じます……」
「ちょっと、それって一体……!?」
「大丈夫よサクラさん」
李雄の言葉に心配そうな表情をする優希だったが、ザビエラは大丈夫と言いながら李雄の体に触
れた。
「コグレくん、落ち着いて自分の体に集中してみて」
「え? あ、はい」
そしてザビエラの言われた事にやや動揺しながらも、李雄は言われた通り自分の体に全神経を集
中させた。
「――――――――っ!!」
そして、
体中に力が
「李雄!?」
「?」
その時、不意に優希が驚いた様な声を上げ、その声に李雄は集中を解いた。
そして見た、ガラス窓に映った自分を。
「これは……!」
その時と同じだった。
白銀のショートヘアが蒼いロングヘアーになっていたのだ。
「それがアナタの
そのザビエラの言葉に、李雄は自覚を感じた。
やはり自分は人間ではないのだと。
「アナタにはベルとマリアから受け継いだ強大な力があるの。アナタはこれからその力をコントロ
ールして行かなければならないわ」
そのザビエラの言葉はとても重く、李雄は自分の体に眠る強大な力が自分の考えている物以上で
ある事を実感した。
「僕の……ちから……」
「ほぉ、オメェも目覚めたって訳か李雄」
その時、不意に保健室の戸が開き、そこから見覚えのある1人の男子生徒がそう言いながらズカ
ズカと入って来た。
「兄さん!」
それは、李雄の兄、真雄だった。
だが、その真雄の姿に李雄は勿論、そこにいる全員が驚いた。
何故なら真雄は、制服の所々が破れ、やや怪我をしていたのだ。
「ちょ、ちょっと真雄! アンタそれどうしたの!?」
「コグレくん、アナタ何を……」
「おいおい、弟の方もそうだが、アンタら兄弟は如何してそう怪我するんだい」
「へへ、ちょっと覚醒した際に色々とケンカしてな」
そう言い笑い飛ばす真雄。
「ディーネ先生! すぐに真雄様の治療を!」
そこへ、真雄を追う様に入って来たリュアナが叫ぶが真雄は全く気にしていない様だ。
「俺はいいからコイツら頼むわ」
「コイツら?」
その真雄の言葉にディーネが首を傾げる中、保健室に続々と怪我をした生徒達が入って来た。
よく見るとそれは、真雄と共に喫茶店で暴食を行っていた不良達だった。
「ちょいとモンスターの軍団に襲われて迎撃してな。悪ぃんだが、コイツらを治療してやってくれ
や」
「良いけどさ、こりゃまた骨が折れそうだわ」
そう言い真雄の言葉にため息をつくジーナ。
「どうやら、真雄くんも覚醒した様ね」
「知ってたのかザビ公」
「ザビ公って……まぁ、ね。懐かしい力の波動を感じたもの。ベルとマリアによく似た……ね」
「あぁっ!?」
どこか懐かしそうな表情をするザビエラに対し、真雄は不機嫌な表情となった。
「訂正しろ。あのクソ夫婦と似てるだと? 侮辱もいい所だぜ」
「兄さん、やめなよ」
その真雄の暴言に、李雄はベットに座った状態でたしなめる。
「ちっ」
「おやおや、ベルもマリアも我が子にずいぶんと嫌われてるねぇ」
「まぁ、親への暴言はいただけないけど、あの2人の子じゃ色々と苦労してそうだものね」
舌打ちする真雄に、ジーナとザビエラは何かを感じ取ったのかため息をつき、やや憐れみの表情
で真雄と李雄を見比べた。
「えっと……御2人は父さんと母さんとは知り合いなんですか? ずいぶん、父さん達の事を知っ
てる様でしたけど………」
「ん? あぁ、言ってなかったかい?」
「私達はベルやマリアとは同期なのよ」
その李雄の質問に2人はそう答えた。
同期、つまりは2人は学生時代を共にした仲らしい。
「だからベルとマリアの事はよぉ~く知ってるわ。あの2人の性格も含めてね。色々と大変だった
でしょ?」
「分かってんなら言うな」
「兄さん………」
そのザビエラの言葉に胸糞悪そうな表情の真雄に、李雄はどこか悲しそうな表情になった。
確かに、あのぶっ飛んだ夫婦のお陰で色々と恥ずかしい思いなどもして来たが、それでもやっぱ
り自分達の親なのだ。
しかもなれない人間界に駆け落ちしてまで産んでくれた、代え様のない両親なのだ。
そんな
「ほれ、これで良いだろ」
そんな中、ジーナは不良達の治療をすべて終えた様だ。
「しっかし、一体何に襲われたらこうなるんだい?」
「実は、クロエナの群れに襲われたんです」
そんなジーナの質問に答えたのはリュアナだった。
「クロエナ、だって?」
「………!!」
そのリュアナの言葉に、ジーナは勿論ザビエラも難しそうな表情になった。
「クロエナって?」
「ぶっちゃけ黒いハイエナだ。ほれ、俺らが初めて
アレだよ」
その真雄の言葉に李雄は「あぁ」と血の様に赤い3つ目を持った黒い犬達の事を思い出した。
「……アンタ達、クロエナの群れとは言うけど、どの位いたんだい?」
「あん?」
そこへ不意にジーナが真剣な眼差しで真雄に尋ねて来た。
いや、ジーナだけではなくザビエラもかなり真剣な表情だ。
「どの位って、結構いたな。30匹ぐらい」
「30匹、ねぇ………」
その真雄の言葉に、ジーナとザビエラは再び難しそうな表情をする。
「あの、どうかしたんですか?」
李雄は気になり、2人に尋ねてみた。
「……クロエナはね、群れで行動はするけどその群れの数はそう多くはないのさ」
その李雄の質問に答えたのはジーナだった。
「クロエナは本来、5~6頭程で群れを作るわ。そして他のクロエナと縄張り争いをするものなの」
「だからね、もし10頭以上の数のクロエナがいたとしても、それは幾つかの群れが戦ってる事が多
くて、違う群れ同士で共に襲って来る事なんて普通は無いのさ」
「なに?」
そのジーナとザビエラの言葉に、真雄は首を傾げた。
「だがあのクロエナ達は、明らかに完璧な連携をとってたぜ。とてもじゃねぇが、違う群れ同士が
たまたま襲って来たって感じじゃなかったな」
「やはりね」
その真雄の言葉に、ザビエラは深いため息をついた。
「先生?」
「……アナタ達はまだここに来て間もないから知らないのだろうけど、最近モンスター達に異常が
発生しているのよ」
「異常?」
そのザビエラの言葉に心配そうな表情の優希。
「あぁ。群れる筈のないモンスターが群れを作ったり、人里に来る事が殆どないドラゴンやワイバ
ーンが現れたりね」
「今朝のワイバーンも、その異常の1つだったんですね」
ジーナの説明に、李雄の脳裏には今朝の出来事が浮かび上がった。
思えばあのワイバーン襲来もその異常の1つだったようだ。
「ふ~ん、異常状態……ねぇ〰〰〰……」
だがそんな中、真雄は何処か楽しそうな表情だ。
「ま、真雄様?」
「ちょっと真雄?」
「ま、まさか………」
その真雄の表情にリュアナは首を傾げ、優希と李雄は何かやな予感を感じ取った。
真雄が楽しそうな表情をする時は、何らかの大暴れする良い方法を思いついた時なのだ。
「なぁ先生よ、この学園って
「公安委員だって?」
(あぁ、やっぱりそれ聞くんだ………)
その真雄の言葉にジーナは首を傾げ、同時に李雄は予想通りの言葉にやな予感を更に感じた。
公安委員とは普通 警察の民主的運営と政治的中立性を確保するため、警察を管理する機関、
行政委員会の一種だ。
それが学校にあると考えるのは普通妙な話だが、真雄の場合は話が別なのだ。
「それは、どういうものなの?」
「俺のいた学校じゃ不良が多くてな、俺が武道の心得のある面子揃えて見廻りしたり、その不良達
を止めたりしてたもんよ」
(いや、アレは止めてたというよりも………)
その真雄の言葉に、李雄は人間界で通っていた学校での事を思い出す。
ここに来る前の学校で不良達を束ねて、不良を狩る不良共と恐れられた日々を。
実際アレは、ケンカを止めるというよりも、目には目をの如く不良達のケンカに参戦し勝利を
収めてるといった感じだった。
「おいおい、まさかその公安委員とやらを作ってモンスターの襲撃に対抗しようなんて考えてん
じゃないだろうね?」
「ん? 良く判ってんじゃん」
(あっ、やっぱり)
そのジーナの言葉に当然の如く言い放つ真雄の言葉に、李雄は嫌な予想が的中した事に頭を抱え
た。
「実際、候補生の戦闘力は高くとも今回のセンシアみたく都合よく来てくれるとは限らねぇし、
いくら強くても数には限度があるぜ?」
「ふ~ん。まぁ案としては悪くないけどねぇ……」
「うーん……」
その真雄の言葉にジーナとザビエラは互いに顔を見合わせ考え込んだ。
実際、人間界での学校の時もそうだった。
不良相手に生徒を向かわせる事を教師達が拒んだからだ。
しかも
「ん……まぁ良いわ。その一件はディーネ先生に相談してみるわ。それと
るから、今日の所はもう帰りなさい」
「あ、はい。お手数掛けました」
そう言いザビエラの言葉に深く頭を下げる李雄なのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「つー訳で、俺と李雄は覚醒した訳よ」
学園よりの帰宅途中、真雄は校門前で合流したを魁と勇に、この度起きた自分の武勇伝聞かせて
いた。
「へぇ、そんな事があったのか」
「そんじゃ、また角が生えたダか?」
「あぁ」
「見せるダ見せるダァ!」
「めんどくせぇ」
そう言い真雄は勇の申し出を断った。
「それより早く帰ってメシにしようぜ。久々に良いケンカして腹減った」
「はいはい、帰ったらすぐに作るよ」
その真雄の言葉に即座に反応したのは李雄だ。
「ダメよ。アンタは今日は休みなさい」
だがそこへ優希が待ったをかけた。
「え? どうして?」
「真雄様も李雄様も今日は慣れない魔力と神気をお使いになりました。ですから、今日は休んでく
ださい」
「俺はかまわねぇよ。オメェら2人のメシも美味いし」
リュアナの言葉に、特に興味なの無い真雄はそっけなく答える。
事実、李雄のメシは美味いがこの2人のメシも美味い。
美味いメシなら別に何でも構わない。
「ケッ、オメェの頭ん中はメシとケンカしかねぇのかよ」
そんな状況を見ていたアンゴルモアがからかう様に言って来た。
「メシは人類の財産だぜ? つーかテメェいつからいた?」
「先からいたぜ。気づかなかったのかよニブチンが。ケケケケケ」
「ほぉ、どうやら今日のデザートは糞不味いカボチャプリンになりそうだな」
そう言い真雄は怒りと共に木刀を構える。
ワイアームとの闘いで折れてしまった木刀だが、あの後鉄板と釘で応急処置をし何とか直ってい
る。
「兄さん、よしなよ」
「アンちゃん。真雄様は今日頑張りになったのよ。そんな事 言っちゃダメ」
「ケッ、あの位出来なきゃ魔王候補なんぞ出来やしねぇだろ」
「はっ! だったら今ここでその力見せてやろうか?」
李雄とリュアナが止めに入るが、こっちは全く引く気はない。
一触即発。
そう思われた時だった。
「ウガ、鶏肉!」
「なに、何処だ!?」
不意に勇がそんな事を言い、食い物に目の無い真雄はその言葉に即座に反応、辺りを見渡すがそ
んな物どこにも見当たらない。
「どこにもねぇじゃねぇか」
「ウガ、あそこ」
首を傾げる中、勇の指さす方に視線を向ける真雄。
そこには鶏肉、ではなく1羽のひよこがいた。
いや、本当にひよこなのだろうか。
確かにパッと見的にはひよこ、何らかの鳥のヒナだろうが、おかしなことにそのひよこは左目に
眼帯をつけ腰に2本の小さな刀を差し、挙句の果てに黒いチョンマゲまで生やしている。
まるで侍でも気取ってるかの様に。
「あのな勇、アレはひよこ(?)だ。鶏肉じゃない」
「ウガ、これから鶏肉になるダ」
そんな魁と勇の漫才が聞えるが、この時真雄はそのひよこの格好がどうにも気になっていた。
「侍……か?」
「ぴっ、ぴぃぃー!!」
その真雄の呟きに反応したのか、ひよこはその姿からは想像できない早さで素早く真雄達の足元
までやって来た。
「ぴぴぴぴっ! ぴぃぴぃぴっ!!」
「何だ?」
するとひよこは何がしたいのか、不意に真雄のズボンをクチバシで掴み、まるでこっちに来いと
でもいう様に引っ張ろうとしている。
「向こうに何かあんのか?」
ひよこの行動が気になった真雄は、物は試しとひよこに身を任せ、ひよこの導く方へと行って見
る。
「あっ、真雄様」
「ちょっと何処 行くのよ!」
その真雄の行動に他の面子も後を追う。
しばらく行くと、近くの森の入口付近までやって来た。
「何だ何だ? 【雀のお宿】ならぬ【ひよこのお宿】にでも案内してくれんのか?」
「ぴぴっ、ぴぴーっ!!」
するとひよこは真雄のズボンからクチバシを放し、近くの茂みの前まで走って行き、そこで羽を
使って手招きをしている。
「そこに何があんだ?」
「食い物ダか?」
「もしかして、死んだ親か兄弟?」
真雄に続き勇、李雄がそんな予想を述べる中、茂みに向かって見えた物、それは――――――
「う……うぅ……」
見た事のない、1人の女だった。
「こ、これは!!」
その姿に、真雄は驚きを隠せなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「大丈夫ですか?」
倒れている女の姿に即座に反応を示す魁。
男は紳士であれ、と教え込まれた魁。
女が倒れたとあっちゃほっとけない。
「このひよこは、この人の事を教えようとしてたんだな」
「ぴぴっ、ぴーっ!」
その魁の言葉に反応するかの様にひよこがその場で跳ねる。
「大丈夫ですか? ケガでもしましたか?」
「だ、大事ない……ちょ、ちょっと休んでいるだけでござる」
「ご、ござる、だと!?」
「兄さん、どうかした?」
不意に放った真雄の言葉に首を傾げる李雄だったが、真雄は目の前の女に釘付けだ。
その事に気づいた魁は倒れている女に視線を向ける。
年は恐らく魁達と同じ位。
灰色のポニーテールに頭には犬らしき耳を生やし太い眉毛。
服装は上着に制服を着ている所を見るとこの学園の生徒なのだろうが、スカートではなく赤い袴
を着こみ更に制服の上から白い陣羽織を着込み、肩と手には和風の甲冑と籠手、腰には大小2本の
刀、更には鉢巻きとその様はまさに。
「侍……!」
「あ、あぁ~」
「そう言う事か」
「アンタねぇ」
その真雄の何気ない言葉に、魁達は何かを悟った。
「おい、このボンクラどうしちまったんだ? まさか“カグヤ”に見惚れちまってんのか?」
「えぇ!? そそ、そうなんですか!?」
ただアンゴルモアとリュアナは何が起こってるのか理解できてない様だ。
「真雄は意外と歴史好きでしてね、特に侍と忍者に目がないんですよ」
「へぇ、そいつは意外な趣味だな」
その魁の説明にアンゴルモアは意外そうな表情だ。
無理もない。
普段の真雄はケンカと食い物にしか興味のない暴れん坊のガキ大将の様な男だ。
そんな男が実は歴史が好きという渋い趣味を持っているなどと誰が思うだろうか。
「所で、先カグヤと聞えたけど……」
「あ、はい。この方は“カグヤ・サカムビット”さん。今は休学していますが私達のクラスメイト
です」
「へぇ、何か不思議な縁ね」
そのリュアナの言葉に魁は勿論、優希も驚いた。
「んでどうした
「ち、ちが、その様な事は………」
その真雄の言葉に侍女ことカグヤが否定しようとした時だった。
カグヤの腹からグギュルルルウウウゥゥゥゥ〰〰〰〰〰と盛大な腹の音が鳴り響いた。
「………成程、行き倒れでしたか……」
「ぶ、武士は、喰わねど……高楊枝………」
その魁の言葉を否定しようとしたカグヤだったが、その言葉を遮るように再び腹が盛大に鳴り響
く。
「よし分かった。クラスメイトなら助けてやらねぇとな」
そんな魁達の会話を聞いていた真雄は、ひょいとカグヤを抱えると、バラックへの帰宅路を歩み
出した。
「なっ! 何を……!?」
「何が武士は食わねど高楊枝だ。腹が減っては戦はできぬ、メシ食わせてやるから
て聞かせろ」
「やれやれ、クラスメイトっていうより、お前それが狙いだろ」
そんな真雄の行動と言動に軽いツッコミをかます魁なのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ、食った食ったぁ」
学園校舎より離れた所にあるバラック。
ぼろアパートの様なその建物の一室に、大量の食卓を食い荒らす真雄の姿があった。
「はむはむ、むぐ、まだ少し食い足りないですが、美味しゅうございました」
「ウガ、オラまだ食うダ。優希、リュアナ、李雄でも良いや、お代わり」
「ダメよ、もうないんだから」
「お前は少し遠慮しろよ」
「ゴメンね勇」
「すみません」
そんな真雄の周りには、同じく食事をする顔馴染みの面子に加え2人、いや1人と1羽が加わって
いた。
カグヤとひよこだ。
あの後、カグヤをバラックに運び食事を与えると、最初は「知れぬ人の施しを受ける訳には」と
戸惑っていたが、空腹には勝てず結局カグヤとそれについて来たひよこも加え、いつも以上に騒が
しい食卓を行った。
何せこのカグヤとひよこ、真雄や勇にも匹敵する大食らいで、夕飯の大半のこの4人(3人と1羽)
によって平らげられた。
「んで、カグヤっつたか? オメェさん何だって行き倒れしてたんだ?」
そして食事が終わった時、真雄は先程まで気になっていた事を聞く事にした。
「あの……少々道に迷うてしまいまして」
「はぁ?」
そのカグヤの言葉に真雄は勿論、ここにいる大半の者が首を傾げた。
「ウガ、そっかー迷子か」
ただ1人、やっぱり勇だけは特に気にして無かったが。
「いやあのな
「ウガ? 何が??」
「勇、バカと呼ばれた事は否定しないんだな」
そんな魁のツッコミをスルーし、真雄は説明しだす。
「あのな、ここは学園島、宙に浮く島だぞ。どんなに歩いたって街やら学校やらが見える筈だ。
そんな所でどうやったら迷子になれるんだよ」
『おぉ、言われてみれば』
『ってアンタら両方反応すんのかい!』
その真雄の説明に、勇だけでなくカグヤも反応しその態度にツッコミを入れる優希と魁。
「旅の途中、路銀が心もとなくなり、一度学園に戻ろうとしたのでござるが、これが何故か中々
たどり着けず……」
「んで、ついに金も食い物も尽きて倒れたってか」
その真雄の言葉に、カグヤは力なく頷いた。
「ケッ、どんな方向音痴だよ。犬の癖によ」
「い、犬ではござらん! 拙者は誇り高き人狼族、狼でござる!!」
「なに? 人狼族だと」
そこへアンゴルモアがカグヤをからかった時だった、カグヤの口から洩れた人狼族の名に真雄は
反応する。
「真雄様、人狼族をご存じなんですか?」
「知ってるつーか、軽く聞いただけだ。何でも、戦闘力だけなら竜人族にも匹敵するらしいじゃ
ねぇか。それだけでも興味がある………ん?」
そう言いリュアナの言葉に返した真雄は、ふとある事を思い出す。
「そうか、
「おぉ、エヴァン殿をご存じでござったか」
「と言うか、リュアナがクラスメイトって言ってなかったけ?」
その真雄とカグヤの会話に優希はそんな事を行ってくる。
確かにそんな事を言っていた。
「そうなのか?」
「はい、カグヤさんは同じクラスでエヴァンさんとも何度か戦われているんですよ」
「ほぉ、それでどっちが勝ったんだ?」
その内容に真雄は興味津々だ。
獣人族最強の竜人族と人狼族の対決、これは知りたい。
「はい、今の所 学校のチャイムにより時間切れの引き分け状態でござる」
「ほぉ、それでもすんげー闘いだったんだろうなぁ」
「はい、えっと………」
「ん? あぁ、まだ名乗って無かったな。俺は“古暮 真雄”。最近人間界からきた身だ。
まっ、よろしくな」
そう言い手を差し出す真雄。
「あ、これはご丁寧に。拙者、“カグヤ・サカムビット”と申します。そしてこちらは旅の供、
ひよこ殿」
「ぴっ!」
そのカグヤの自己紹介と共に、ひよこは羽を広げて挨拶した。
「ひよこって、またまんまだな」
「そう言わないの。あ、僕“古暮 李雄”っていいます。こちらの真雄の弟です」
「“佐倉 優希”。よろしく」
「“篠原 魁”です。よろしくカグヤさん」
「オラ勇ダ。“篠原 勇”ダ」
そこへ他の面子も軽く自己紹介を行った。
「所でよカグラ、どうなのよ
「おぉ、アナタは侍に興味がお在りで!?」
「おう、あるよある。人間界の侍はもう滅んじまったが、その生き様たるや……」
その言葉を皮切りに真雄の、真雄とカグヤの侍トークは始まった。
「人間界の侍はそもそもの始まりはな……」
「ほほぉ、成程。こちらの世界では人狼族とイザナミ、イザナギに鬼人族が……」
「幕末という時代に侍は滅んだが、その生き様は今尚語り継がれ……」
「鬼人族は滅び申しましたが、かの者達の残せし妖刀・
そんな2人の侍トークは長々と続くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「で、俺達は何時まであの2人の侍トークが終わるのを待てば良いんだ?」
そんな真雄とカグヤの状況を見ていた魁の口から零れた言葉はそれだった。
「あんなに楽しそうに話をする真雄様、始めてみました」
「ウガ、そりゃそうダ。昨日会ってまだ2日しか経ってないダ」
「アンタって、たまにまともな事言うわよね」
「まぁ、兄さんも珍しく自分の趣味を話せる相手ができて嬉しいんだよ」
魁に続き他の皆がそれぞれの感想を述べる中、
魁は「ふぅ」と軽くため息をついた。
「ま、マニアのうんちくや話は長いからな。待つしかないな」
「おいおい、待つってどの位 待つんだよ?」
その魁の言葉に、アンゴルモアがそんな事を聞いて来る。
「さぁな。あと1時間ぐらいじゃないか?」
「1時間って……」
「それだけ時間があるなら、食器洗いしてよっか」
「そうね」
「あっ、私もお手伝いします」
その魁の言葉にアンゴルモアが呆れる中、李雄の言葉によりリュアナと優希は李雄と共に食器洗
浄に取りかかった。
「おいオメェら」
その時だった。
話が終わったのか、真雄とカグヤがこちらにやって来た。
「ほぉ、もう終わったのか? 珍しいなこれ程 短いとは」
「ま、たまにゃあな。それよりカグヤ、お前これからどうすんだ?」
「はい、また旅に出ます。ですがお屋形様」
『お屋形様?』
その不意に放ったカグヤの言葉に、魁は勿論 他の面子も首を傾げた。
お屋形様というのは、日本で偉い人、殿様などに使われる呼び方である。
有名な所では甲斐(現在の山梨県)にその人ありと言われた戦国武将、“
「おい真雄、何でテメェがお屋形様なんて言われてるんだ?」
「侍トークしてる時に互いに共感し合ってな、同時に命の恩人だとか言うんでそう呼ばせてくれっ
てさ」
「んで承諾したのか」
「何か信玄公になった気分だから許可した」
そう言いアンゴルモアと魁の言葉に答える真雄に魁はやや呆れ果てた。
まさかメイドに続いて従者まで手に入れるとは。
「お前、時々すげぇよな」
「あん? 何が」
「いや、良い」
そう言い魁は深いため息をつくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「んで、また旅に出るのかカグヤ」
魁がため息をつく中、真雄はカグヤにそう尋ねた。
「はい。ですがその前に、お屋形様や皆さまに何か恩返しがしとうござる」
「恩返しねぇ」
そのカグヤの申し出に真雄はやや考え込んだ。
カグヤはどうも江戸か室町時代の侍の如く、律儀で融通の利かないタイプらしい。
「お屋形様には行き倒れの身を拾っていただいた上、温かな食事まで馳走になりました」
「別にメシ作ったのは俺じゃねぇけどな」
「これ程のご恩に報いねば士道の名折れにございます。さぁ、どの様な事でもお申し付け下さいま
せ」
そう言い真剣な眼差しを向けて来るカグヤに、真雄はどうしたものかと考え込む。
(
「あっ、そうだ」
その時、真雄の脳裏にピカッと閃きが降り注いだ。
「カグヤ、お前 剣はできるか?」
「無論でござります」
「よし、なら俺と一手 指南を頼む」
そう言い木刀を構える真雄。
そう、真雄の思いついた恩返しの方法は三界の侍の強さを知りたいが故の方法だった。
「お前らしい方法だな」
「アンタねぇ……」
「兄さん、お願いだから怪我はしないでね」
「ウガ、どっちも頑張れー!」
「真雄様、頑張ってください」
「ケッ、やっぱケンカバカだろテメェ」
周りから様々な声が聞こえるが、真雄は速攻でスルーし木刀を手にする。
「さぁ、やろうぜ」
「………あの」
だがやる気満々の真雄に対し、カグヤは何処か申し訳なさそうな表情だ。
「お屋形様、申し訳ありませぬ。実はこの刀抜く事ができませぬ」
「は?」
そのカグヤからの言葉に、真雄は首を傾げた。
刀があるのに抜けないとは何じゃらほい。
偽物なのだろうか?
「何だ、金に困って刀身売ちまって竹光にしちまう様なたまじゃねぇだろ」
「はい。このカグヤは抜刀を禁じられているのでござります」
「ぴっ、ぴっ」
そのカグヤの言葉に同意する様にひよこが頷く中、真雄の疑問は膨れ上がった。
抜刀を禁じられている?
なんでまた。
「何でだ?」
「まずはこちらをご覧くださいませ」
真雄の言葉に対し、カグヤは腰に差した刀を指さす。
カグヤの腰の刀は白い柄の打刀と黒い柄の脇差があり、その内の打刀の鍔と鞘の合わせ目に、
文字の様な物が書かれた1枚の紙の様な物が張られている。
「これは、
それは、よく陰陽師やら和風の漫画などでよく見られる、お札だった。
まるで札は刀の抜刀を封じる様に張られているのだ。
「カグヤの剣はこの札によって封じられているのでござります」
「これって……やっぱり、封印?」
その優希の言葉に頷くカグヤ。
「この札は何があっても剥がしてはならぬと師匠に固く言い付けられておりまする」
「もし剥がすとどうなるんだ?」
そのカグヤの言葉に、真雄はそんな質問をせずには居られなかった。
誰もがダメと言われたら気になるのが人のサガだ。
「分かりませぬ。師匠はただ大いなる災いが起こるとだけ……」
「大いなる」
「災い?」
そのカグヤの言葉に、真雄を始めとした他の面子も首を傾げ、カグヤから少し離れて小声で話し
合う。
「おい、どう思う?」
「やっぱり、危ないのかな?」
「なんせここはファンタジー世界だしな。リュアナ、アンゴルモア、こっちの世界にゃ魔剣とか妖
刀とか、そういった物ってのはあるのか?」
「あ、はい。魔剣や妖刀は勿論、聖剣、神槍と呼ばれる物まであります」
「妖刀だと、
「なに、そうなのか?」
「どっちにしろ、あの札は剥がさない方が良いのは確実だな」
その魁の言葉に、真雄を始めとした全員が頷いた時だった。
「ウラッ!」
「え?」
『は?』
不意に妙な声が聞え真雄達が振り向いてみると、そこには札を剥がした勇の姿があった。
『何やってんのお前―――――――――――っ!!!??』
その勇の行動に、全員の絶叫に近いツッコミはかぶった。
「ウガ、剥がすなっつわれたら剥がしたくなるのが人のヨガ」
「それを言うなら人のサガだ!」
「そうとも言う。それにどんな災いがあるかなんてやって見ねぇと判んねぇダ。男なら当たって砕
いてやるダ!」
「それ、男だったら当たって砕けろって言いてぇのか?」
勇の言葉に魁に続き真雄がツッコミを入れた時だった。
「ピーッ!!!」
突然ひよこが甲高い声を上げ、目を吊り上げながら翼を羽ばたかせる。
その様から見るに怒ってる様だ。
「な、何だ、何 怒って……………っ!!?」
その時、真雄はある事に気づいた。
周りの空気、室内の空気の温度が下がってる気がしたのだ。
いや、それ以上に、真雄は奇妙な視線、いや殺気を感じ取った。
(これは……殺気!? 一体 誰から)
そう思い殺気のする方へと視線を向けた瞬間―――――――――
そこには、白銀に輝く刃が目の前まで迫っていた。
「っ!!!!??」
その事に真雄は、咄嗟に素早く後退する。
その瞬間、シュンッと言う音と共に刃が目の前を横一閃に通過、そのまま壁に辺り壁に大きな切
傷をつけた。
「ま、真雄様!」
「来んな! 当たってねぇ!!」
心配するリュアナの声に対しそう答えた真雄は殺気のする方へと視線を向ける。
そこには、刀を抜刀したカグヤの姿が。
「おいカグヤ!?」
「……………ぐるるるぅっ………」
その真雄の呼び掛けに対しカグヤは猛獣の様な唸り声を上げ、視線をギッと真雄に向けて来る。
見ると、カグヤの目は先程までの翠緑ではなく、血の様に禍々しい紅に変わっている。
いや、それ以上にカグヤから発せられる殺気が凄まじい。
「な、なに?」
「こ、これが、札を外した、災い、か?」
「ぴーちょ、ぴー!」
その魁の言葉に反応する様に跳び舞うひよこ。
どうやらこれが災いらしい。
何より、武芸の心得など無い優希や、真雄や勇達程の心得のない魁ですら感じる程の凄まじい殺
気は災い以外の何物でもない。
「ウガ、どうしよう」
「お前のせいだろう!」
「うん、どうしよう」
「俺が聞きたいわっ!!」
「おい、少し黙れ」
勇と魁の漫才が耳に響き、真雄はそれだけ呟くそうに言い放つ。
「ま、真雄、様?」
心配そうに見つめて来るリュアナの視線も感じるも、真雄は何よりカグラより感じる殺気を全身
で感じ取っていた。
(すげぇ殺気だ。こんな殺気
………まぁ、何だっていい)
そこまで考え、真雄は木刀を構え意識を集中させた。
それと同時に、体中から感じる、自分の体内をめぐる熱い力を。
全身を取り巻き、溢れ出る力を。
「真雄様!?」
「兄さん!?」
「これって……」
「な、何だ!?」
「ウガ!?」
「コイツ、まさか!?」
後ろの方から様々な声が聞える。
どうやら彼らも気づいた様だ。
真雄の全身よりあふれ出るオーラに。
頭より生えし角に。
そう、真雄は覚醒していた。
(確か先公共が言ってたな。魔力も神気も名称は違えど根本は同じ、使用者の生命力を己の精神力
でコントロールする物。生命力なら気迫、精神力なら気合いみたいなもんだぜ)
そう、真雄はこの度 発覚したばかりの魔力を長年の武道で得た気合の入れ方や経験で発動でき
たのである。
「……へへ、良いねぇこの感じ。これが魔力、俺の力!!」
「ぐるるるぅぅっ……」
その魔力に、カグヤも警戒している様だ。
(へへ、殺気は感じる、死ぬかもしれねぇ、正直 怖ぇ……だが! それ以上に楽しみだ!!)
そう思い、真雄は木刀を握る手に力を込める。
「いくぜ、カグヤあぁっ!!!!」
「ぐるるぅぅあぁっ!!!」
その真雄の掛け声と共に真雄は木刀を手に突っ込み、カグヤもまた刀を構えて突きを繰り出す。
真雄の木刀が、カグヤの真剣が触れようとした、その時だった。
「んっ!!?」
不意に真雄とカグヤの前を何かが通り過ぎた様に見えた。
そして次の瞬間。
「がっ……」
「へ?」
不意にカグヤは足がもつれたのか、その場に倒れ込んでしまった。
「ウラ?」
「へ?」
「え、え~と……」
「今、何が……」
「……さぁ?」
「つか、今なんかいなかったか?」
「……確かに、何か通り過ぎた気がするぜ」
そう言い真雄は辺りを見渡すが、特に何もない。
「ぴぃ……」
しいて言うなら、倒れたカグヤの背後からひよこがひょっこりと現れたぐらいだ。
「おう、テメェも無事だったか」
「おい、今がチャンスじゃないか」
その時、魁のそんな言葉が耳に入ってくる。
「そ、そうね。お、お札は?」
「お札ならここダ」
その優希の言葉に反応したのは勇だった。
どうやらずっと握りしめてたらしい。
「兄さん、早くこのお札で封印を………」
「え〰〰〰〰〰〰〰」
その李雄の言葉に、真雄は不服いっぱいだ。
「あ、あの、真雄様?」
「おいテメェ、何 考えてんだよ」
「だってまだ決着付けてねぇだろ」
『はぁっ!?』
その言葉に魁と優希、それにアンゴルモアの声が被った。
無理もないだろう。
狂戦士と化したカグヤと決着を付けてない?
そんな事 正気の沙汰ではない。
だが、それは他人の常識、古来の剣客や戦士の様な精神を持ち、真剣勝負やケンカを好む真雄の
常識ではない。
「つー訳でだ、カグヤを起こすぞ」
『やめろこのバカッ!!!!』
その真雄の言葉に、すかさず魁、優希、アンゴルモアのツッコミが炸裂。
特にアンゴルモアに至っては、マントの中からパンチを繰り出すが、真雄はそれを紙一重でかわ
す。
「お前 何考えてんだ!!」
「アンタ本物のバカ!?」
「死ぬならテメェだけ死ね!!」
「問題ねぇ。俺が勝つ」
『だからその自信はどっから来るんだよ!!!』
そんな3人(?)のツッコミが炸裂した時だった。
「ぐ…ぐるぅ……」
『!!!!!』
カグヤの寝言の様な物が聞え、皆に戦慄が走る。
「おっ、起きるか? よし起きろ、そして俺と闘え」
「よせバカ、しーっ、しーっ!」
「よし、何としても起こして……」
「あ、あの、真雄様」
その時だった。
不意に腕を誰かに掴まれた真雄は後ろを振り向く。
そこには、声の主にして真雄の腕を掴むリュアナの姿があった。
「ま、真雄様とカグヤさんが戦っては、家が壊れてしまいます」
「外でやりゃあ良いだろ」
「え、えぇと、えぇと………ど、どうか我慢して下さい。代わりに明日は、真雄様の大好物を何で
も用意いたしますから」
そのリュアナの提案に、真雄は「ふむ」と少し考え込んでしまう。
メシを取るか闘いを取るか、少し迷ってしまう。
「う~ん、迷うな……」
「で、では、3日 続けてはどうですか?」
「ほぉ、それは魅力的…………よし、乗った」
悩んだ末にメシを選び、真雄は木刀を収め懐からチューブの様な物を取り出した。
「真雄様、それは?」
「プラモ作りに使う、瞬間強力接着剤だ。これで札をくっ付けちまおう」
『そんなんがあるなら
その真雄の出したアイテムに、またしても3人のツッコミが被るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「馳走になりました」
星々の輝く夜空の下、バラックの出入り口にてカグヤは真雄達に向き直って深々と頭を下げた。
「おう、また来いよ。そして今度こそ俺と決着を……」
「はい?」
「い、いえ、何でもないです! お粗末さまでした!」
挑発する様に言い放つ真雄の言葉を、李雄は必至で止めようとする。
無理もない。
実はあの後、お札を張りカグヤが正気を取り戻したのは良かったのだが、そんなカグヤの口から
発せられた言葉は「はて? 拙者は一体、何を?」だった。
どうもアニメや漫画でよくある設定、狂戦士化した時の記憶はないという物らしい。
「え、えっと、カグヤさんはどちらに帰られるんですか? やっぱり寮へ?」
「あー、いえ。以前に使っていた小屋があるのでそこへ戻ろうかと思っておりまする」
「そ、そうですか……」
乾いた笑いをしする李雄。
内心、学園島で迷子になる方向音痴がちゃんと帰れるのか不安だが、あえて口にしないのは彼女
の自尊心を傷つけない為である。
「ではお屋形様、それに皆様もお休みなさいませ。それと戸締りをしっかりと、狼藉者が居るかも
しれませぬゆえ」
『あ、あはははは………』
そのカグヤの言葉に、李雄を含め殆どの面子が渇いた笑いをした。
どうも自分がうたた寝してる間に、狼藉者(実際は狂戦士と化したカグヤ)が現れ暴れたと思って
るらしい。
「それでは、これにて失礼いたしまする。お屋形様、このご恩は必ずお返しします故」
「よし、そう思うなら今すぐ札を……」
「兄さん、3日間 大好物……」
「期待して待つぞ」
危うく札の事をばらしそうになった真雄を何とか止める李雄。
「ひよこ殿、参りますぞ」
「ぴっ」
カグヤはそれに気づく事なく、ひよこと共にその場を後にするのだった。
「おいカグヤ。そっちは崖だぞ」
訂正、全く逆の方向へ行こうとしていた。
「おろ? カグヤとした事が……では、改めてごめん!」
そう言い今度こそカグヤは森の中へと消えて行った。
「……カグヤさん、ちゃんと小屋まで付けるのかな?」
そんな不安を、李雄達に残しながら。
こうして、転校日早々様々な事に巻き込まれた転校生達の長い登校初日は終わりを告げるのだっ
た。
『~第11話~転校日早々!?その8 《終》』
どうも、黒鋼丸です。
さて、今回の話ですが、古暮兄弟の魔力と神気の自覚に加え原作ヒロインの1人、侍、犬耳、
うっかり、大食い、方向音痴、狂戦士と多くの要素を持つキャラ、カグヤとそのお供のひよこが登
場。
今回の話により真雄はお屋形様となり、フラグが設立。
尚、原作ではカグヤは「お館様」でしたが、自分は「お屋形様」の方がしっくり来るんでこちら
にいたします。
では、次回もお楽しみに~♪