絶対☆双王~オレとボクの恋乱、学園サーガ~【更新停止中】 作:黒鋼丸
治安維持部を設立した真雄。
部員を手に入れ顧問にヴァンがなりと順調なスタートを切り出していたが、その裏で今まで休学
していた武道部主将、イズミ・ガドクリアスが学園に舞い戻っていた。
「うぃーす」
治安維持部結成の翌朝、真雄はいつもの面子と共にいつも通りに教室に入った。
いつもと変わらない教室の景色。
違うのなんぞ、せいぜい今の時間帯に教室にいる輩位だろう。
「ん?」
そう思っていた真雄の考えは、ものの見事に砕かれた。
確かに教室にはいつも通り挨拶してくるアリッサとチマ、真雄達を気にも留めずに本に視線を向
けるノーム3姉妹。
別にこれだけならいつもと変わらない。
だが違った。
「おはようございます。そして始めまして」
もう1人、見覚えの無い生徒が1人いたのだ。
その生徒は一言で言うなら和服美人だ。
来ている上着はこの学園の物だが、下はスカートではなく白い袴を着こみ、翠色のロングヘアに
白いリボンと翡翠の髪飾り。
そして静かにそして礼儀正しく挨拶する様は、まさに和服美人、いや大和撫子だ。
「え、えっと………」
「誰?」
「誰ダ??」
「失礼ですが、アナタは?」
一緒に来ていた李雄、優希、勇、魁もやや戸惑っている。
「イズミさん」
「オメェ、帰って来てたのか」
それとは対照的に久しい人を見る目をしているのがリュアナとアンゴルモアだ。
(ん? イズミ?)
そしてリュアナの放ったイズミという名前に聞き覚えを感じた真雄は、記憶の糸を辿った。
そういやエストレイアといや、奴と並んで聖王を競えるイザナミのイズミとかな。
部を創り上げたのは、今は休学中だが私達と同じクラスの者だ、名はイズミ、“イズミ・ガドク
リアス”。
この部に入る者は皆、センシア様とイズミ様に敬意を持つ事が最低条件なのだ!
そして思い出した。
武道部主将、イズミ・ガドクリアスの名を。
「ひょっとしてアンタが武道部の主将のイズミか?」
そう結論した真雄はその真偽を確かめるべく、イズミに問い質す。
するとイズミはニッコリと微笑み返してきた。
「申し遅れました。武道部主将“イズミ・ガドクリアス”と申します。実家の都合で休学していた
のですが、この度学園に再び通う事になったので、編入生である皆様に挨拶に参りました。どうぞ
よろしくお願いします」
そう言いイズミはペコリとお辞儀する。
その姿勢と佇まい、まさに大和撫子という表現がピッタリだ。
「う、美しい………」
「綺麗………」
「……………」
その佇まいに魁と優希は口から本音が漏れ、李雄に至っては顔を赤く染め視線を下に逸らしてし
まった。
無理も無い。
普段花より団子な真雄ですら、少々見惚れてしまっているのだから。
「オメェかたっ苦しいダな」
約1名、
「勇お前は!!」
「だってオラ達もう友達ダ。だからかたっ苦しいのはヤダ」
「あっ、そうですか。よく他の皆様にも言われるのですが、育ちが育ちですので。申し訳ありませ
ん、気分を害されたでしょうか」
そんな魁と勇のやり取りに対しイズミはやや申し訳なさ気に見詰めて来る。
どうやらワザととか意識してやってるのではなく、こういう性格、あるいはこうなる様教育され
たらしい。
そう思う位にイズミの仕草1つ1つに奥ゆかしさが感じられる。
「今時珍しい大和撫子だな」
真雄は素直にそう思った。
和風を好む真雄にとっては、ワビサビを理解する者や日本男児に大和撫子、昔気質なヤクザは大
好物なのだ。
「あの不躾ですが、よろしければ皆様の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そんな事を考えているとイズミがそう言って来た。
真雄達としては断る理由など無く、寧ろ新たなクラスメイトとして名乗るべきと皆の思いは一致
していた。
「人間界より来ました、“篠原 魁”です。よろしくお願いします」
「“篠原 勇”ダ! よろしくなイズミ」
「私は優希。“佐倉 優希”、よろしくねイズミさん」
「“古暮 李雄”です。よろしくお願いします」
「李雄の兄やってる“古暮 真雄”だ。よろしくなイズミ」
そう言い全員で自己紹介をする真雄達。
「コグレ、様?」
それに対しイズミは、ジッと真雄と李雄を見詰めて来た。
「?」
「あ、あの?」
その視線に真雄は無論、李雄も気付いた様だ。
「ではアナタ様方が、ベルトラス様とマリア様のご子息なのですね」
「え、あ、はい」
「……チッ」
そのイズミの言葉に、真雄は先程まで大和撫子と言う和風と出会えた喜びは何処へやら、両親の
名前に一気に不機嫌になった。
どうやら彼女も
にとっては迷惑この上ない話だ。
「では、コグレ マオ様。アナタ様が学園島治安維持部を立ち上げた方なのですね」
「だったらどうした」
その更なるイズミの言葉に真雄は心中で、来たか、と思った。
彼女が武道部主将のイズミなら、武道部の任された公安執行委員と学園島治安維持部の件、そし
て真雄が武道部と起こした問題の事も当然知っていると思っていた。
(さ~て、どう来るかね………)
イズミの更なる言葉に心中で構える真雄。
学園島治安維持部の件で文句を言われるのか、はたまた武道部との騒動の件で怒鳴られるのか、
どちらにしても真雄からすれば正当な理由があり、治安維持部に至っては既に立ち上げられてるの
だからどうとでも言い訳できる。
そう考えていた。
「コグレ マオ様」
「あん?」
「この度は申し訳ありませんでした」
「………………………は?」
そのイズミから放たれた言葉に真雄は唖然とした。
文句どころかイズミは謝罪してきた。
しかも深々と頭まで下げて。
「あー、おい、何で謝ってんの?」
「先日、我が部の副部長であるソフィアがご迷惑を掛けたと聞きましたので、部長として謝罪を」
そう言い再び深く頭を下げるイズミ。
どうやら武道部との一件の事らしいが、まさか謝罪して来るとは真雄は想像もしていなかった。
(どうやら
「まっ、別に気にしちゃいねーよ」
「いえ、それではこちらの気がすみません。もしよろしければ昼休憩に茶道部にいらして下さい。
出来る限りの事をいたします」
「茶道部?」
「
「へぇー、茶道部ね………」
その言葉に真雄は興味が湧いた。
和を愛でる者として、真雄には茶道の心得もあり、何よりこの大和撫子がどの様な茶道を見せて
くれるのか興味があった。
「いかがでしょうか? コグレ マオ様は和物に興味があると聞きましたので」
「真雄で良いぜ、
そう言い李雄を親指で示しながら答える真雄。
真雄としても最近和菓子が恋しくなって来たのでグットタイミングだったのだ。
「はい、では昼休憩に。お待ちしていますマオ様」
そう言いイズミが微笑み、それと同時にチャイムが鳴り響くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ここか」
そして時は過ぎて、あっという間に昼休憩。
弁当を済ませた真雄は、茶道部と書かれた部屋の前に来ていた。
試しに戸を開けてみると、そこは靴を脱いで上がる玄関の様になっており、、まさに和式だ。
靴を脱いだ先にある木製の床のすぐ先には襖がある。
「おーい、イズミいるかー? 俺だ、真雄だ」
真雄は上履きを脱いで部室の木製の床に上がり、そう言いながら軽く襖ノックする。
「はい、どうぞ」
するとドアの向こう側からイズミの声がした。
どうやらここで間違いないらしい。
「じゃまするぜ」
そう言い真雄は戸を開けた。
そこはまさに和室の一言に尽きた。
畳が敷かれ窓には障子、その近くには生け花が飾られている。
「お待ちしていました、マオ様」
そして何より目を引いたのは、イズミの格好だった。
制服ではなく、桜を象った桃色の和服に着替えて真雄を待っていたのだ。
(や、大和撫子……!!)
その姿はまさに和の神秘。
和を愛でる以上、和服美人に魅力を感じる真雄はその完璧なまでの大和撫子ぶりに完全に目を奪
われた。
「へぇ和服か。良いね本格的で」
「ありがとうございます。さっ、こちらへどうぞ」
素直に和服姿を褒める真雄に対し、イズミは用意した座布団へと
その誘いに真雄は素直に座布団へと座る。
「では」
それを確認したイズミは用意した茶道具で茶を立て始めた。
和服を着こなすだけに作法は完璧で、あっという間に茶を立て真雄に差し出して来た。
「どうぞ」
「いただくぜ」
そう言い茶を受け取った真雄は、礼儀あるイズミに対し礼儀で返し出す。
茶道の心得のある真雄は作法通りに茶を飲み、その味を堪能した。
(ほろ苦い大人の味……完璧だ)
「和菓子もよろしければ」
「いただく」
茶を堪能しつつ出された和菓子にも手を出す。
和菓子は羊羹だ。
(苦い茶と合うほんのり甘い良い羊羹だ)
「うん、うまかったぜ」
「御口に合って良かったです」
そう言い頭を下げるイズミ。
その様もまた礼儀正しく、一切の無駄が無い。
「失礼ながら、マオ様には茶道の心得が?」
「あるな。和物は基本手を出してる。茶道に剣道に柔道、合気道に空手と武芸が基本だが」
「私も薙刀と弓道を少々」
「へぇ薙刀か。槍と双璧をなす東方の
そう言い出したのを皮切りに、2人は和物トークに花を咲かせ出した。
イズミが景色や華道を語れば、真雄は建築物や武器武道を語り、その話は尽きる事が無かった。
互いに和を愛で和を学んだ者同士、特に武芸に関しての話は互いに相当気が合った様で、互いの
特技が薙刀と剣術なのも知れた。
(こりゃカグヤより話が合いそうだな)
「あのマオ様、話が変わりますがよろしいですか?」
そんな事を思っていると不意にイズミが真剣な眼差しでこちらを見て来た。
これは何かある。
その真剣な表情から真雄は先程まで感じていた和の華やかさは消し、真剣な表情でイズミに視線
を向ける。
「良いぜ、何だ?」
「学園島治安維持部の事なのです」
「その事か」
そのイズミの言葉に真雄は心中で「ここでその話をするかい」と呟かずにはいられなかった。
教室では武道部とのいざこざの件で謝罪はしたが、学園島治安維持部の件に関しては全く何も言
わなかったから、いつか別の時に言うのか、特に気にもしてないのかと思ってたが、答えは前者で
このタイミングで言う理由を真雄はようやく知った。
(成程、
へ誘ったって訳か)
「んで、俺の治安維持部が何だ?」
大方、武道部が任された公安執行委員と仕事がかぶる件についてだろうと予想はするが、あえて
真雄は挑発する様に言い放つ。
「実を言いますと、武道部には治安維持部は唯の不良のたまり場だと唱える者が多数います」
「ま、だろうな」
そのイズミの言葉を真雄はあえて否定しなかった。
事実部員の中にいる者の大半は真雄の配下となった不良達だ。
そう思われるのも無理は無い。
「また、公安執行を任された武道部に何の断りも無く、目的を同じとした部を作った事に対しても
いくつか反論があります」
「あーだこーだ言われんのがめんどくさかったんでな。だがあいにく治安維持部は既に先公共にも
許可は貰ってるぜ?」
「ザビエラ先生やヴァン先生、それにディーネ先生などはそうですが先生方の中にも、不良達に治
安維持を任せるべきではないという声があります」
「そりゃうぜぇな」
そのイズミの言葉に、真雄は少々面倒事になった事を察する。
治安維持部とは言うが出来たばかりで何の実績も無い上に部員の大半は不良達だ。
これでは教師の中にも反対派は生まれてしまう。
「要するに何が言いてぇんだイズミ」
真雄はイズミ本人の意見を聞く為にもそう聞いてみた。
「俺はまどろっこしいのは苦手なんだ、言いてぇ事はハッキリ言いな」
「そうでしたか、申し訳ありません。ではハッキリ申し上げます」
その真雄の言葉にイズミは意を決した様に口を開きだした。
「コグレ マオ様――――――――――――――――――
我が武道部と一騎打ち五本勝負をしてください」
「………………………あん?」
そのあまりにも唐突で単刀直入な言葉に真雄は首を傾げた。
「どういう事だ?」
「マオ様は武道館を巡っての剣道部と柔道部の争いをご存知ですか?」
「まぁ、ある程度はな」
かつて剣道部主将と柔道部主将が武道館の場所を巡って口論し、その結果部員全員を巻き込んだ
一大騒動に発展した事はリュアナからある程度聞いている。
「先生方は今回の一件で武道部と治安維持部が衝突し、剣道部柔道部の二の舞になる事を恐れている様
なのです」
「成程な。
わな」
そして真雄はここに来て理解した。
つまり一大騒動になる前に正式な勝負をして決めようというのだ。
「勝負内容は?」
「武道部と治安維持部、それぞれから5人を選抜し一騎打ちを行います。既に先生方には昨日の内
に許可を取り、来週の日曜日にグランドを使って行いたいと思います」
「ルールは?」
「特にありません。実戦を重視した一騎打ちです」
「ほぉ」
その言葉に真雄は改めて、イズミが他の武道部の連中とは違う事を悟った。
実戦を重視している点がそうだ。
実戦に卑怯も何も無い。
ただ戦って勝つ事のみが全てだと言う事を判っている。
「んじゃぁ勝利条件は?」
「気絶、あるいは降参したら負け。勝負が終わったら互いに別の人と交代し勝負を繰り返して行き
先に3本取った方が勝ちです。
めます。いかがでしょうか」
そのイズミの説明に真雄はやや考える。
確かに悪い条件ではない。
実戦経験では恐らく治安維持部が勝っている。
そういう点ではこちらが有利だ。
(だが面白くねぇ。先公共や
のしかめっ面が見てぇ♪)
「不服だな」
「え?」
その真雄の放った言葉にイズミは驚いている。
当然だろう。
明らかに
「確か3勝すりゃ良いんだったな」
「それが不服なのですか?」
「あぁ、不服だ―――――――――――――――――
「えっ!?」
その真雄の言葉にイズミの表情は明らかに驚いている。
そりゃそうだ。
5勝、つまり全勝を条件にしろと言ったのだから驚きもする。
「
の意味ねぇだろうが」
そんな尤もらしい事を言うが、実際は全勝して見せた方がインパクトがある兼反対派達の悔しが
る面が見れるという理由なのだが。
「……………………ぷっ、うふふ、ふふふふふふ………」
「あん?」
すると先程まで驚いた表情をしていたイズミがいきなり声を殺しながら笑い出した。
「何だ?」
「あっ、も、申し訳ございません。マオ様は破天荒な方とは聞いていましたが、ここまでとは思っ
てもみませんでしたので…………」
そう言いながらイズミは頭を深く下げた後、軽く場を整えてから口を開きだした。
「マオ様は武人なのですね」
「サンキュー、最高の褒め言葉だ」
「では、私も一介の武人として答えなければなりませんね」
そう言い終わった時、イズミは既に笑っておらずその表情は真剣そのものだった。
「マオ様、アナタの覚悟は良く判りました。その条件で進めます」
「おうよ。来週が楽しみだぜ」
そう言い合いながら2人は互いに見詰め合った。
和を愛でる者同士としてではなく、1人の武人同士として。
◇◆◇◆◇◆◇
『えええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!????』
放課後の体育館裏、林の中の空間。
つまり治安維持部入部希望者が集められた場所にて、李雄を含めた治安維持部の面子は真雄のあ
る説明に絶叫していた。
「んなに驚くこたぁねぇだろ。勝ちゃ良いんだ勝ちゃ」
「いや兄さん、それでも全勝が条件って………」
真雄が部員達に言い放った言葉、それは武道部との一騎打ち5本勝負の事だった。
治安維持部の事を認めて貰う為に武道部と一騎打ちを行わなければならなくなっただけでも大変
なのだが、真雄の提案で全勝しなければならなくなってしまった事に更に驚いた。
「アニキ、大丈夫なんすか?」
「武道部にはイズミさんの他にも強者がいます」
「アニキは良くとも俺らが勝てるんすか?」
「無理がありやすよ!!」
他の部員達も当然の如く驚いている。
無理もないだろう。
部員の中には元武道部の者もおり、それ故に武道部の強さを知っている者も多い。
「兄さん、やっぱり今からでも平和的な交渉を………」
「騒ぐんじゃねぇっ!!!!!!!!」
李雄が雄便に物事を収め様と言おうとした時、真雄から学園中に響くのではないかという位の大
声による一括が放たれた。
その声に李雄は勿論、先程までざわめいていた部員達全員が、しーん、と静まり返った。
「
れた不良か!! それでも元武道部か!!? テメェら全員、覚悟決めて
ぇのか!!? モンスターと
その真雄の言葉に、李雄達は返す言葉も無かった。
そりゃそうだ。
治安維持部はモンスターから学園を守る部だ。
それが武道部というヒトの作った部活にビビッていたのでは話にならない。
「いいかテメェら、俺も考え無しに全勝を条件にした訳じゃねぇ。悔しい話だが教師共の中には
武道部との一騎打ちでインパクトを与えるしかねぇ。ただ勝つだけじゃダメだ、強烈なインパクト
を与え、俺らの力を思い知らせてやんのよ!!」
「!!」
その言葉に李雄は真雄の考えを理解した。
つまり真雄は武道部に全勝と言うインパクトを与える事で、学園中にその存在をアピールする気
なのだ。
武道部よりも
「いいかテメェら! この一騎打ち、俺らは勝たなきゃならねぇ!! 勝て! そして思い知らせて
やれ!! 俺らの、テメェらの底力を!! 治安維持部こそがこの学園島を守るって事をっ!!!
テメェらの誇り、俺に見せて見やがれえぇっ!!!!」
その真雄の言葉に、李雄は勿論、もはや誰も反論する者はいなかった。
「アニキ……」
「そうだ……俺らはアニキに付いて行くって誓った……」
「俺らはアニキの覇気にだって耐えれたじゃねぇか!」
「そうだ! この学園島守んのは俺らだ!!」
「やろうぜアニキ!!」
「勝ってやりやしょうぜアニキ!!!」
「アニキ! アニキ! アニキ!」
『アニキ! アニキ!! アニキ!!! アニキィッ!!!!』
気が付けば部員達による真雄へのアニキコールが始まっていた。
「………敵わないな……」
そんな様子を見て、李雄はそう呟かずにはいられなかった。
昔からそうだ。
ガキ大将の時は近所の悪ガキ達を、中学時代は不良及び暴走族を、そして高校ではその不良達を
纏め上げ公安執行部へと変貌させた
行動力と気合で常に不良達の先頭に立って生きて来た真雄の後ろには、常に真雄を慕う者達の姿
があった。
そんな真雄を弟として見続けてきた李雄には判る。
「話は済んだか? コグレ兄」
その時だった。
ふいに背後から声がし李雄が後ろを振り返ると、そこには治安維持部の顧問となったアイアンゴ
ーレム、ヴァンの姿があった。
「ヴァン先生」
「おう、来てたのかよ」
「まぁな。
そう言いながらヴァンは細く微笑みながら部員達の前までやって来た。
見れば見る程、大きい巨体だ。
2mは優にありそうだ。
「俺が顧問になった以上、テメェらをちゃんと治安維持を行える存在にしてやる。覚悟は出来てる
な?」
そう言い李雄達を睨んで来るヴァン。
静かだがドスの効いた声はかなり怖く、李雄はついビクッとなってしまった。
だが他の部員達は真雄の気当りを受けた経験か堂々としている。
(……僕も、負けてられない!)
そう思いながら拳を握る李雄。
マネージャーとは言え、神気と使いこなせれる様になる為にも
らない。
今、学園島治安維持部の武道部との対決へ向けた特訓が始まる。
◇◆◇◆◇◆◇
「さて早速だがコグレ、お前らに魔力と神気の基礎を叩き込んでやる」
「へっ、上等だ」
「よろしくお願いします」
林の中で真雄はニヤリと微笑みながらヴァンを見据える。
その横では李雄が礼儀正しく頭を下げていた。
今ここには真雄達3人しかいない。
他の部員達はヴァンに「オメェらは体力の基礎作りだ! 学園島10周して来い!」と言われ今頃
学園島中を走っている事だろう。
「んで、その基礎の前に聞くが、お前ら魔力と神気が何なのか、そしてどう違うのかは判るか?」
「はい、授業で大体は」
「こちとら無駄に本は読んでねぇよ」
ヴァンの質問にそう返す李雄と真雄。
ただ真雄の場合は授業内容以上に図書室で読んだ本の事も頭に叩き込んでいる。
魔力と神気。
これらはそれぞれ魔界の魔族と天界の天族が扱う力の事であり、その力はどちらも“
氣とは中国の風水や日本の陰陽道などに伝わる、森羅万象全ての万物に宿る生命エネルギーの事
であり、草木や空気中、人間を始めとした動物にもそれは存在し、陰陽道では空気中など自然界に
存在する氣を“
(まぁ、陰と陽の氣の事は魁からの受け折だけどな。ぶっちゃけ魔力も神気も氣のエネルギーには
違い無いんだよなぁ)
魔力も神気も同じ氣なのだ。
にもかかわらず何故名称が違うのか。
そこには魔族と天族の種族の違いによる、氣の源が違うからだ。
魔族は生まれながらに自然界に存在するエネルギー、いわゆる陽の氣を体内に取り込む事が出来
その力を制御しようとする意思及び修行と経験によって蓄積された精神力によってコントロールし
それに呪文などの術式を加える事で魔法を発動させるのだ。
これに対し天族は生まれながらに肉体の細胞1つ1つから溢れ出る自分自身の生命力、すなわち陰
の氣を感じ取る事に長けており、これを魔族と同じく精神力でコントロールする事が出来るのだ。
つまり魔力は陽の氣、神気は陰の氣なのだ。
尚、この事が判りこの手の事に興味のある魁に言ってみた所「魔族が陽で天族が陰とはこれいか
に」とツッコんだ事は全くの蛇足である。
「要するに魔力も神気も生命力と精神力を有するが、その出所が違うって事だろ?」
「ほぉ、詳しいなコグレ兄」
その真雄の説明にヴァンは軽く感心した。
真雄としては、膨大なる本を読んで得た知識をそのまま喋っただけなので、そこまで褒められる
事ではないのだが。
「コグレ兄の言う通り、魔力は大気中に満ちる自然界の生命エネルギーを従えた物、神気は肉体に
宿る自分自身の生命エネルギーを燃焼させる物だ。同じ生命力でも自然界に満ちる物と個人に宿る
物とじゃ規模が違う。だから魔族の方が魔法に長けている訳だ」
「そりゃ自然界にあるエネルギーの方が多いし手に入る量の桁も違うわな」
ヴァンの説明に納得を感じる真雄。
例えば同じ攻撃系の魔法でも、大自然から吸収したエネルギーで放った物と、個人が自分の生命
力を削って練ったエネルギーで放った物とでは威力も当然違う。
「ただ逆に神気の方は自身の生命力を使っている分、魔力に比べると精神力がそこまでいらない事
と肉体強化を行える利点がある。同じ生命力だから魔力でも肉体強化は可能だが、自分自身の生命
力を利用している神気の方がやり易い。その分体力の消耗も激しいがな」
「体力の消耗、ですか……」
「成程な。自分自身の生命力、いわば体力削って発動させるんならそうなるわな」
つまり魔力と神気はRPG風に言えば魔力はMPを、神気はHPを消費して発動するという事になる。
そう考えれば魔力が精神力、神気が体力を消費すると言うのも頷ける。
「すると、俺は今まで魔力っつー本来肉体強化に向かないもん使って戦ってた訳か」
「まぁそうなるが、言ったろ魔力でも肉体強化は可能って」
「でも今後の事を考えたら魔法とか習った方が良いのかもね」
「だな」
その李雄の言い分に真雄も頷く。
魔力は魔法に長けていると言うのなら攻撃魔法などを習い戦力を強化したいものだ。
(何よりセンシアみてぇなド派手な魔法も放ってみてぇしな)
「確かに時間を掛けりゃそれも可能だろう」
そんな事を考えていると、ヴァンが妙に真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「だが、いくらなんでも武道部との戦いには間に合わんと思うぞ」
「だよなー」
そのヴァンの言葉に、頭では理解しているもののやはり何処か残念気に真雄は頷く。
当然だ、戦闘でも使える魔法をそう簡単に使えれる様になる筈が無い。
「何より付焼刃で、聖王競えるって言われたイズミに勝てるとも思えんしな」
「そういう事だ。勝ち目があるならやっぱ魔力と神気をうまく使った肉体強化だろうな」
そう言いながらヴァンはいきなり袖を捲くり、右腕を真雄達に見せてきた。
鋼で出来、真雄の胴回りよりも太いその腕はかなりの迫力だ。
「いいか、良く見てろよ」
『?』
何をするのだろうか?
真雄と李雄の脳裏にそんな疑問が浮かんだ瞬間、ヴァンの右腕に異変が起きた。
突然赤いオーラの様な物が現れ、ヴァンの右腕を包み込んだ。
いや、まるでヴァンの腕そのものからオーラが滲み出ている様に見える。
「先生、これは………」
「これが魔力だ」
「ほぉ、俺の時と同じ奴だな」
初めて魔力を見る初々しい態度の李雄とは逆に真雄は一度、泉に写った自分の魔力を見ている為
左程驚きはしなかった。
「まず己の魔力と神気をそれぞれ感じ取れ。これが基本だ」
そう言いヴァンは今度はその場に座り込み、自らの両手を組ませ始めた。
その様はまるで……
「
「ふむ、人間界ではそう言うらしいな」
そう、その様はまさに坐禅その物だった。
坐禅とは仏教において行われる、静座して精神を集中させる方法だ。
「魔力も神気も結局は精神力によりコントロールする。だからまずは精神を集中させ、己の魔力と
神気を感じ取れ」
「成程な」
「判りました」
ヴァンの説明に納得を覚え、古暮兄弟はその場に座り目を閉じる。
「心を落ち着かせろ、そして意識を体内に集中させるんだ」
(要は坐禅と同じ感覚でやりゃ良いのか?)
そう思いながら真雄は暗闇の中で己の意識を集中させる。
和を愛で、武道を愛し続けた真雄。
古来の武士達は毘沙門天や摩利支天などの武神を信奉し、仏像や絵巻の前で坐禅を組んで意識を
集中させたり必勝祈願をしたと言われている。
自らを毘沙門天の化身と称した上杉 謙信などがその典型だ。
故に真雄もそれに見習い時折坐禅を組んでいた経験があるのだ。
何よりこの世で最も身近な氣とは気迫、気合だ。
真雄は既にケンカや武道の感覚で魔力による気辺りを自力で習得済みだ。
(感じる、感じるぜぇ、俺の魔力を!)
やがてそれはすぐに感じ取れた。
辺りから吹く風、周りの木々、足腰に伝わる大地。
自然界に存在する全ての物達が自分に何かを送り込んでくる感覚。
そしてそれが自分の体内にある何かに満たされて行く感覚。
そう、これこそが陽の氣、これこそが魔力。
「おっ」
そして同時に頭にも変化を感じ取った。
頭にバキバキという音と共に何かが生えて来るような感覚。
「ほぉ、どうやらコグレ兄の方は筋が良いらしいな」
「んっ」
そのヴァンの声に、真雄は目を開けた。
同時に自分の手を、体を見た。
体中から目に見える程に赤いオーラが、魔力が溢れ出て来ている。
そして頭に手をやってみた。
先程までは無かった筈の突起物の様な物がある、いや生えている。
「それが覚醒したお前の姿か」
「らしいな」
そう言い真雄はその場から立ち上がり、改めて自身の体を見る。
全身から感じ溢れ出る魔力。
特に頭、角の部分からはそれを特に感じ取れる。
「ん?」
その時、真雄の目に止まったのは坐禅を組んだまま何の反応も無い李雄の姿だった。
そう、何の反応も無い。
オーラもなければ髪に変化も無い、全くの無反応だ。
「どうやらコグレ弟の方は、まだコツが掴めてねぇみたいだな」
「ちっ、何やってんだよ……」
その様に真雄は呆れ果てた。
武道の要領でやれば意外とあっさり出来たと言うのに、
「ったく、普段から鍛えとかねぇからだ」
そう言い大きくため息を付きつつ、心配げに李雄を見詰める真雄であった。
◇◆◇◆◇◆◇
(……ダメだ、感覚が掴めない……)
真雄の声が耳に響く中、李雄は心中で汗をかいていた。
あの時の感覚が未だに掴めない。
優希がモンスターに襲われた時、そして保健室で目覚めた時に微かに感じていた感覚を。
その騒動以降、使う事も無かった為かイマイチ神気を感じ取る事が出来ないでいた。
(そういえば、どうしてあの時は感じれたんだろう……)
不意に李雄はそんな疑問を感じた。
だが何故、あの時偶然覚醒に成功したのだろうか。
(あの時、僕何したんだっけ………)
李雄は即座に、あの時の事を思い出そうとする。
しかし思い当たる物は無い。
あの時はキメラに吹っ飛ばされ、その場に横たわり優希が襲われるのを、ただただ見ているだけ
だった。
(……襲われる?)
その時、李雄はふと思った。
もしあの時、自分の神気が発動していなければどうなっていただろう?
普通に考えて、凶暴な未知のモンスター相手に人間の優希や神気の発動できない李雄が勝てる筈
が無い。
誰かの助けが来なければ確実にお陀仏だ。
(お陀仏……死ぬ? 僕も……優希も………?)
「っ!!!!??」
そんな事を想像した時、李雄の脳裏にあるものが浮かんだ。
数年前、自分が犯した罪の結末を。
(………いやだ……
力が欲しい。
そう思い今まで縁の無かった武術を死ぬ気で習った。
その結果、真雄や勇には及ばないまでも体を鍛え上げた。
だが、それだけではダメだ。
モンスターという人間界では有り得なかった存在を相手とする時、今までの武道の経験など全く
役に立たない。
(ダメなんだ……今のままじゃ優希を……皆を守れない! 頼む僕の神気、反応してくれ!! 僕は
僕は………皆を守りたいんだっ!!!!!)
そう強く思った時だった。
「っ!!?」
不意に体中が熱く、もっと正確に言うならば全身の細胞1つ1つが反応し合い、その動きが体中を
熱くさせている、そんな感じがした。
(これは……そうだ、これはあの時と同じ!)
今ならやれる。
そう感じた李雄は更に精神を集中させた。
(感じる! これが、これが僕の
そして李雄は自身の体の変化も感じ取った。
頭、特に髪1本1本が伸びて来ている様な、そんなくすぐったい感覚を。
「どうやらコグレ弟も感じ取れたみたいだな」
「……あっ」
そのヴァンの声に李雄は閉じていた目を開けた。
同時に自分の手を、体を見た。
体中から目に見える程に青白いオーラが、神気が溢れ出て来ている。
そして髪に手をやってみた。
先程までは肩に多少かかる程度の長さだった銀髪が、今では腰近くまである蒼いロングヘアーと
なっていた。
「よし、とりあえず2人共それぞれの魔力と神気を感じ取るっつー第一段階はクリアーしたな」
神気を発動した李雄を見てヴァンはそう言い放つ。
そう、魔力と神気を感じ取るなど初歩中の初歩でしかないのだ。
「初歩に時間掛けてんなよ愚弟」
「あははは、ゴメン………」
そんな真雄の叱咤に李雄は苦笑し、そこまで落ち込んではいない。
何故なら、
「おい、兄弟漫才は終わったか? 終わったなら次行くぞ」
「誰が兄弟漫才だ!」
「あ、あはははは、周りから見たらそう見えるのかな………」
そんなヴァンの言葉に再び苦笑する李雄。
そんな古暮兄弟のツッコミを無視しヴァンは話続ける。
「次の訓練に移る前にお前らに聞いて置きたい事がある」
「あん?」
「はい?」
「お前ら2人とも武道をやってるそうだが、どの位やってる?」
「あー、色々あるぞ。剣道、空手、柔道に合気道。どれも10年くらいはやってるが1番は剣道……
あっ、それよりもケンカ暦の方が長いか」
そのヴァンの唐突の質問に対し真雄はアッサリ答えた。
当然だ。
真雄を語るならば武道及びケンカの話は避けて通れない程の暦と実力を誇っているのだ。
「んでコグレ弟、お前は?」
「僕は、サバットを、3年程」
「サバットってのは知らんが、3年か。兄に少し劣るが、まぁそれでもかなり出来てる方か……」
そう言いながらヴァンは何やら考え込みだした。
一体どうしたのだろうか?
そんな疑問が脳裏に浮かぶ中、ヴァンは意を決した様に古暮兄弟に向き直った。
「よし、なら次の訓練として―――――――――――――
お前ら、ちょっと組み手してみろ」
「……………………え?」
そのヴァンの言葉に李雄は一瞬、死神の足音を聞いた気がした。
『~第15話~ 武道部主将、イズミ登場!《終》』
どうも、黒鋼丸です。
ついに今まで名前のみが判明していたイズミが登場!
同時に学園島治安維持部VS武道部に向けての特訓も開始されました。
果たして治安維持部は武道部に5勝できるのか!?
勝利の要はヴァンの特訓か、はたまた古暮兄弟の潜在能力か!?
次回も、お楽しみに~♪