絶対☆双王~オレとボクの恋乱、学園サーガ~【更新停止中】   作:黒鋼丸

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 前回までのあらすじ
 学園島に確実に存在する異変。
 これにより姿を現したコガネ・タランチュラに捕えられたアリッサとチマを救出し、不完全なが
らも神気に目覚めつつある李雄。
 同時にこの学園島の異変を理解し、真雄と共により強くなろうと決心を固めるのだった。


~第18話~コギャルコンビのお礼。2人の戦士の秘密

 

 

 

 トリニアス学園は今、昼休憩を迎えていた。

 次の授業への準備をする者、休息を取る者、友との交流を深める者、委員会の仕事を行う者など

様々あれど、昼休憩に最も多いのは昼食を取る者であろう。

 そして、その後者に当たる李雄は、今ある問題に直面していた。

 

「リオっち、はい、あ~ん」

「さぁダーリン、口を開けてごらん」

(どうしてこうなったんだろう………)

 

 席にて昼食を取る筈だった李雄は、右からはアリッサが、左からはユーロがそれぞれのオカズを

李雄に差し出して来る。

 何故この様な事態になっているのか。

 事の始まりは昼休憩の時刻となり、弁当を開けた時だ。

 不意にアリッサが現れ、「昨日助けてくれたお礼してあげる♡」と言い、弁当の箸を奪うとオカ

ズを摘み、「あーん」と差し出して来たのだ。

 そこへ、治安維持部への入部の条件である、李雄の手作り弁当を受け取りにやって来たユーロが

現れ、「俺様のダーリンに何をしている!!」と怒鳴りながら参戦して来た事で、事態は更にややこ

しい現状へと発展したのである。

 

「ほらぁ、リオっち口開けてよぉ~」

「えぇいっ、引っ込んでいろ無粋者め! 俺様とダーリンの愛の一時を邪魔するな!!」

「何よ、あたしが先にリオっちと良い事してたのにぃ~!!」

「あ、あの、2人共、ど、どっちも食べるから喧嘩はやめよう、ね?」

 

 言い合いすら始めるアリッサとユーロに、李雄が止めに入ろうとした時だった。

 

「アナタ達、いい加減にしなさい!!」

「ちょっと変態! 李雄に何してんのよ!!」

 

 不意に2つの声が聞こえ、声のした方へと李雄は視線を向ける。

 そこには、声の主であるユーメリアと優希の姿があった。

 

「ユーメリアさん、優希」

「何だ貴様らは、また俺様とダーリンの愛の一時を邪魔するきか?」

「アンタはまた!!」

「あ、あの、ユーロ。ちょっと静かにしてて、話が進まないから」

「ふむ、ダーリンがそう言うなら」

『聞くのかよ!』

 

 李雄の言葉に素直に従うユーロに、優希とアリッサがツッコミを入れた。

 

「んんっ! 話を進めてもよろしいですか?」

「あ、はい、どうぞ」

 

 そこへ、軽く咳き込むユーメリアの声に、改めて話が進められる。

 

「それで、アリッサさんとユーロさん、アナタ達は何をやっているのですか?」

「何って、昨日モンスターに襲われてた所を助けてくれたリオっちにお礼してるんだよ」

「俺様はただ、ダーリンへの愛を行動で表していただけだ」

「ほ、ほぅ……それは興味深い………」

「へ?」

「ユーメリアさん?」

 

 不意にユーロの言葉に顔を赤くし、感心した様な態度をしたユーメリアに、李雄は首を傾げた。

 優希もそれに気づいたらしく、頭上に?マークを浮かべている。

 

「で、ではなく! ふ、不純異性交遊は校則違反ですわ!!」

「ならば、俺様とダーリンは問題あるまい。同性なのだから」

「尚更問題よ!!」

 

 相変わらず飄々というか、マイペースというか、ともかく自分に正直なユーロに優希は敵意剥き

出しだった。

 

「え、えっと、どうしよう………」

 

 そんな状況になり、李雄はこの状況をどうしたものかと困り果ててしまう。

 

「か、魁、どうしよう………」

 

 1人で悩んでも何も浮かばない李雄は、近くにいて尚且つまともな意見を出してくれそうな魁に

救援を要求する。

 

「どうしようと言ってもな、たまには自分の意見を貫け。男だろ?」

「う……」

 

 その魁の最もな意見に、李雄は何も言えなくなった。

 とは言え、李雄自身如何すれば良いのか思いつかない。

 ユーロもアリッサも、そして優希も自分の事を思って行動してくれてる事を理解しているだけに

無下に出来ず如何すれば良いのか悩んでしまう。

 かと言ってまた誰かに相談しようにも、勇は論外、真雄()は早々に食事を終え図書室に行ってしま

っている。

 

「だから不純異性交友は!」

「李雄は男なんだから諦めなさい!!」

「俺様の愛が!!」

「ユメりんかた~い」

(うぅ……どうしよう………)

「はぁ………」

 

 優希達の未だに言い争う声に、李雄が大きくため息を付いた時だった。

 

「な~に辛気臭いため息付いてんのよ」

「え?」

 

 不意にした声に、李雄は声のした方へ視線を向ける。

 そこには、やや呆れ気味の表情をしたチマの姿があった。

 

「チマさん? えっと、何か?」

「用があるから来たのよ。ほら!」

「え? え??」

 

 首を傾げる李雄に対し、チマは押し付ける様に紙の様な物を手渡した。

 李雄は訳が分からず、取りあえず渡された紙に視線を向ける。

 

「これは……」

 

 そこにはこの様に書かれていた。

 【三界の歌姫・VIP席♪】

 

「VIP席?」

 

 内容的に何かのチケットの様だが、李雄は益々分からず視線をチマに向ける。

 

「あの、チマさん。これは一体………」

「良いから、放課後になったらそれ持って屋上に来るの。良い?」

「え、あの……」

「来るの!!」

「は、はい………」

 

 意味が分からなかったが、チマの迫力に李雄はただ頷くのだった。

 その際、何故かチマの顔がやや赤かった気がしたのだが、李雄がそれを聞く前にチマはさっさと

その場を去ってしまった。

 結局その後、昼食を取れたのは休憩時間ギリギリとなったのだが、それは全くの蛇足である。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ん?」

 

 放課後となり、チマの約束通り屋上へと向いドアの前までやって来た李雄は、ふと足を止めた。

 

「何だろ、何か聞こえる………」

 

 屋上へと出るドアの向こう側から、何か聞こえるのだ。

 人らしき声、それもかなり多くの。

 

「? 何だろ」

 

 そんな疑問を抱きながら、李雄はドアノブに手を掛け戸を開けた。

 

「え!?」

 

 そして驚いてしまった。

 何故なら屋上には、多くの生徒達が引き締めていたからだ。

 

「これって、一体?」

「あれ、リオっちじゃん」

 

 その状態に驚いていると、不意に聞き覚えのある声がし、李雄は声のした方へと視線を向ける。

 そこには、声の主であるクラスメイトのアリッサの姿があった。

 

「アリッサさん。あの、この人だかりは一体………」

「あれ? リオっち知らないで来たの?」

「えっと、僕はチマさんに、放課後になったらこれを持って屋上に来る様にって、言われたんです

けど………」

 

 そう言い李雄はチマから貰ったチケットを取り出し、アリッサに見せる。

 するとアリッサはやや驚いた表情となったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 

「成程ね、チマ(あの子)らしいお礼って訳だ」

「え?」

「あの子は、リオっちに昨日のお礼としてここに招待したんだよ」

「招待、ですか?」

「まぁ、それはいずれ分かるって。取りあえず案内するよ」

「え? あっ!」

 

 首を傾げる李雄に対し、アリッサは李雄の腕に絡んでくると、ぐいぐいと人ごみの中へ引っ張っ

て行く。

 そして引っ張るが故に、李雄の腕にアリッサの女の証たるマシュマロもぐいぐい当たる。

 

(うぅっ………)

 

 結果、李雄は人ごみの熱気よりもアリッサの体温を直に感じてしまい、鏡無しでも分かる位に

顔が赤面してしまった。

 

「ほらぁ、リオっち速くぅ」

「あ、アリッサさん、そんなに引っ張らないで……」

「え~、どうして~?」

 

 そう言い体を密着し、上目使いでこちらを見て来るアリッサの視線に、李雄は益々アリッサの

体温を感じ、赤面してしまう。

 

「リオっちは、私と一緒に歩くの、イヤ?」

「い、いえ、そんな事は………」

「じゃあ良いよね!」

 

 そう言いアリッサは再び李雄をぐいぐい引っ張り、人ごみの中へと突入して行く。

 その行動に、李雄は抵抗の無意味を感じるのだった。

 

「さて、付いたよ」

「え?」

 

 アリッサの言葉に、李雄は俯いていた視線を前に向ける。

 見れば、引っ張られている内に人ごみの先頭までやって来たらしく、目の前には屋上の一部が

ぽっかりと空いていた。

 あるのは屋上の段差と、その近くに用意されている妙に豪華な椅子だった。

 

「あの、ひょっとしてこのチケットのVIP席って………」

「うん、ここだよ」

 

 そう言いアリッサは、椅子の近くにいる大柄な生徒に近付く。

 

「ねぇ、VIP席に座りたいんだけど」

「チケットはあるのか?」

「うん。ほらリオっち、チケット出して」

「え? あ、はい」

 

 アリッサに言われ、李雄はチケットを再び取出し、大柄な生徒に見せる。

 するとその生徒はチケットを受け取り、李雄とチケットを交互に睨み付ける様に見ながら、

やがて口を開く。

 

「よし、良いだろう」

「リオっち、良いって」

「え? あの……」

「良いから座りなって!」

「うわっ!」

 

 アリッサに引っ張られ、李雄は半ば強引に椅子に座る事となった。

 それと同時に、周りからざわめきが起こった。

 

「おい見ろよ」

「あ、アイツ何VIP席に座ってんだ!」

「最近VIP席チケットなんて販売すらされてなかったのに………」

「ねぇねぇ、あのVIP席に座ってるのって、コグレ君じゃない? 弟の方の」

「あ、ホントだ。ベルトラス様とマリア様の子の」

「うわぁ~、マジ超かわいぃ~」

「はぁ、はぁ、だ、抱きたい……」

「え、えっと……」

 

 席に座ったとたん、周りから様々な視線と声を感じ李雄は落ち着けなくなり、視線をアリッサに

向ける。

 

「あのアリッサさん、これから何が始まるんですか?」

「ん~? それはねぇ~……」

 

 李雄の質問に、アリッサが意味あり気な表情をした時だった。

 

〈みんなぁ! 集まってるぅ!!〉

「え!?」

「おや、説明する手間が省けたね」

 

 不意に、またしても背後からした聞き覚えのある声、しかもマイクでも使ってるのか妙に響く声

に李雄が振り返ると、そこにはマイクを持ったチマがいた。

 しかもチマが現れた途端に人混みはまるでモーゼの様に開き、チマの歩く道を作った。

 その道をチマは堂々と歩き、やがて李雄の近くまで来た。

 

「……ちゃんと来てんじゃん」

「え?」

 

 その時、一瞬だがチマがこちらを見て何か言った様に見えたのだが、ほんの一瞬の事だった為、

良く聞き取れなかった。

 その事に李雄が首を傾げる中、チマは更に前進し、屋上の段差の上に乗った。

 そして李雄達の方へと向き直ると、再びマイクを手に口を開いた。

 

〈みんなー! 久々のチマちゃんリサイタル、待ってたかぁっ!!〉

『いえーいっ!!』

「え? え??」

 

 そのチマの言葉と周りの熱狂に、李雄は益々事態が掴めなくなったが、そんな事を知る由も無い

チマは更に言葉を続ける。

 

〈久々だから思いっきり歌うぞーっ!!〉

『いえーいっ!!』

〈曲はぁ~、「Miss. Brand-new day」!!〉

『いえーいっ!!』

〈みんなぁーっ! あたしの歌を聞けぇぇっ!!〉

 

 そしてその言葉と同時に、いつの間に用意されたのか、段差の近くに用意されたスピーカーから

静かに音楽が流れ始める。

 そしてそれと同時に、チマはマイクを手に口を開いた。

 

〈♪~♬~♫~♩〉

 

 音楽に合わせ歌を歌い始めるチマ。

 その歌声は、バンシー(妖精)の名に恥じない美しい歌声だった。

 更にその音楽に合わせて、様々な踊りと歌声を披露する様は、文字通り歌の妖精だ。

 

「………すごい……」

 

 気づけば李雄は、そのチマの姿と歌に完全に魅了され、そんな事を呟いていた。

 自分もそこそこ歌はうまく、芸術を愛でる魁は更にうまいが、チマはそれ以上だ。

 自分達とは次元が違う、まさに現役のアイドルと言っても良い。

 

「いいぞーチマちゃーん!」

「可愛いーっ!!」

『チマちゃん! チマちゃん!!』

 

 そして周りの熱狂ぶりも、まさにアイドルのファンその物だ。

 

「チマー、いいぞいいぞーっ!」

 

 更には李雄の隣に座るアリッサも声を上げている。

 すると、李雄の視線に気づいたアリッサが李雄の方へと視線を向けて来る。

 

「ほらぁ、リオっちも声上げて」

「え? えっと……」

「チマがせっかくお礼にVIP席に招待してくれたんだからさ♪」

「え?」

 

 そのアリッサの言葉に、李雄はここに来てようやく理解した。

 チマが渡したVIP席のチケット。

 あれはアリッサが李雄にお礼をした様に、チマなりのお礼だったのだ。

 

「チマさん………」

〈♬~♩~♪~♫~♪〉

 

 その事を理解した李雄は、改めてチマの姿と歌に目を向け、耳を傾ける。

 

「………」

「あっ」

 

 その時だった。

 李雄はふとチマと目が合った様に見えた。

 歌を歌い、歌詞がしばらく流れない間のほんの一瞬だったが、確かに合った。

 その眼はまるで「ちゃんと見ろ」とでも言わんばかりに鋭く見えた。

 

「チマさん……」

 

 もしもこれが、アリッサの言う通りお礼だとするならば、やる事は1つだ。

 李雄は、すぅと息を吸い口を開いた。

 

「チマさーん、頑張れー!!」

 

 李雄なりの言葉で、チマへのエールを送る。

 

「………っ!!」

「え?」

 

 その時、チマの表情が一瞬赤くなった様に見えたのだが、目が合った時以上に一瞬だったうえに

先程と違って歌ってる最中だったので分からなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ふぅ……」

「お疲れ、チマ」

 

 永遠に続くかに思われる程、熱狂的だったチマちゃんリサイタルも終わりを告げた。

 今この屋上には、チマとアリッサ、そして李雄の姿しかない。

 

「相変わらずの人気ぶりだね。ね、リオっち」

「はい。初めて見ましたけど、すごかったです。チマさん、チケットまで用意してくれて、ありが

とうございました」

「ふふん、当然よ」

 

 アリッサと李雄の言葉に、チマは有頂天だ。

 その際、李雄にはチマの鼻が高々と伸びたように見えた。

 これぞまさに、天狗になるである。

 

「別にお礼言う必要ないんじゃないのリオっち」

「え? どうしてですか?」

 

 そこへそんな事を言い放ったアリッサに、李雄は首を傾げる。

 

「だって、このVIP席のチケットはチマがリオっちへのお礼に渡した物だよ? それにお礼言うの

は少し変じゃない?」

「え、えっと……そうなんでしょうか?」

 

 そのアリッサの言葉に、李雄は反応に困った。

 李雄としてはどんな理由であれ、渡したり招待してくれた以上は、お礼を言うのが普通なのだが

アリッサの言い分も分からなくはない。

 

「まぁ、この前は助かったしね……」

 

 そんな風に悩んでいると、チマがどこか照れくさげに言って来た。

 

「でも勘違いしないでよ! 今回は特別なの!! 次からまたVIP席に座れると思ったら大間違いな

んだからね!!」

「え? は、はぁ………」

(何でこんなに不機嫌なんだろ?)

 

 どこか視線をそらしていると思ったら、いきなり指をビシッと立てて強気に言い放つチマの姿に

李雄は何故こうも不機嫌そうなのか、理解できないでいた。

 

「チマってば、意外とツンデレだねぇ~」

「つ、ツンデレ?」

「ほあ? つんでれって何?」

「まぁ、それはまた今度教えるとして」

 

 アリッサの言葉に、李雄とチマが首を傾げていると、アリッサは李雄に接近して行き、いきなり

寄り添って来た。

 

「ふぇ!? あ、アリッサ、さん?」

「チマのお礼は済んだし、今度はあたしのお礼受け取ってよ」

「え? アリッサさんのお礼だったらお弁当の時に……」

「あれはユーロ(変態)やユメりんに邪魔されたからノーカウントなの!」

 

 そう言いアリッサは両手を李雄の首に廻し、李雄に抱き着いて来た。

 

「え、えぇぇっ!? あ、アリッサ、さんっ!?」

 

 そのアリッサの行動に李雄が更に赤面し動揺する中、アリッサはゆっくりと背伸びし、李雄の顔

に接近して来た。

 

「あ、アリッサさん、何を!?」

「ん~? だから、お・れ・い♪」

 

 李雄の言葉にアリッサがそう答えた瞬間。

 チュッ。

 

「え?」

 

 李雄の頬にアリッサの唇が触れ、軽い音が響いた。

 そして李雄は理解した。

 アリッサにキスされたと。

 

「な、ななななななななななななななななななななななななっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 その事を理解した瞬間、李雄の顔はあっという間に赤面し熱を帯び、頭からしゅ~と蒸気が立ち

上る。

 

「アハハハ、リオっち顔真っ赤か」

「リオリオどんだけ純情なわけ」

 

 アリッサとチマがそんな事を言っているが、李雄としてはそれ所では無い。

 頬に触れた生暖かい感覚、ただされだけで並より純情な李雄は噴火寸前だ。

 

「えへへ、リオっちがそこまで照れてくれるんなら、やったかいがあったね♪」

「〰〰〰〰〰〰〰っ!?!?!?」

 

 更に追い討ちをかける様に、アリッサが色気たっぷりでそんな事を言うものだから堪らない。

 李雄は顔を両手で隠し、逃げる様に走り去る。

 

『乙女か己は』

 

 そんな2人のツッコミが耳元に聞こえた様な気がしたが、李雄は振り返らず走り去るのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「うぅ〰〰〰〰〰」

 

 その後、何処をどう走ったのか、李雄は校内の中庭に来ていた。

 先程よりは冷静になれたものの、アリッサの唇の感触が今尚頬に感じ、その度に顔が赤面してし

まう。

 

「はぁ……」

 

 そんな自分にため息が出てしまう。

 紳士的な魁や異世界に残して来た友人程とはいかないが、李雄とてこの純情すぎる体質を何とか

したいとは幾度も思った。

 だが、人間性格そう簡単には変わってくれない。

 色々と努力はしてみたのだが、女子が横にいるというだけで体が火照ってしまう。

 精々長い付き合いである優希が平気な位だ。

 

「こればっかりは治らないのかなぁ…………」

 

 そう思うと益々自分が惨めになる。

 

『はぁ……』

 

 そう思うと再びため息が漏れた。

 

「…………………………………………ん?」

 

 そしてこの時、李雄は今のため息に違和感を感じた。

 今のため息、自分の意外に誰かのため息がしなかったか?

 李雄の聞き間違いでなければ、今明らかに自分を含めた2人分のため息が聞こえた様な気がした

のだ。

 

(でも、何処から?)

 

 何処からしたため息なのか確認すべく、李雄は辺りを見渡す。

 

「はぁ………」

「あっ」

 

 すると、その相手は意外にも早く見つかった。

 深くため息を付いているクラスメイトであるエヴァンだった。

 

(……そう言えば、エヴァンさんとまともに話した事無い様な………)

 

 エヴァンの姿を見て、李雄はふとそんな事を思った。

 アリッサやチマの様なムードメーカーや、フィルやセシリーの様に優しい人達、人間界の事を

良く聞いて来るノーム3姉妹等とはよく話をするのだが、エヴァンとはあまり話をした事が無い。

 同じ王候補生の都合で、センシアやエスト、そのお供であるサーシャとすら話す事もある(最も

サーシャの場合は、かなり嫌そうに及び毒舌だが)にも拘らず、エヴァンと話した記憶等、李雄に

は全く無い。

 しかも記憶を辿れば辿る程、そもそもエヴァンが他の人と一緒にいる所すら見た事が無い。

 普段から1人、そんな感じだ。

 

「ふぅ………」

(何だか寂しそうだな………よし!)

 

 そんな事を考えていた李雄だったが、エヴァンの寂しそうな表情を再び見て考えるのをやめた。

 兄より学んだ、考えるよりまず行動。

 人が困ってる様に見えたらまず声を掛けるべしである。

 そう思い李雄はエヴァンへと接近して行く。

 

「あの、エヴァンさん」

「っ!」

 

 声を掛けると、その李雄の声に反応したエヴァンがこちらを睨んで来た。

 正直、結構な迫力がある。

 

「どうかしたんですか? 何か元気が無い様でしたけど」

 

 が、李雄は特に気にしなかった。

 李雄の近くには、喧嘩好きの真雄や、キレると怖い魁や勇、それに人間界の友人達の相手をして

来た為か、この手の睨みには耐性が付いているのだ。

 

「……別に……」

「いえ、別にって割には顔が暗いですよ?」

「……………………」

 

 李雄の言葉に、エヴァンは視線を下に向け沈黙してしまった。

 余程話したくない事なのだろうか?

 そんな疑問が、李雄の脳裏を横切る。

 

「えっと……エヴァンさんが話したくないなら、無理には聞きませんけど、もし何か悩みがあるな

ら僕でよければ話を聞きますから。僕達、クラスメイトですし」

「…………」

 

 その李雄の言葉に、下を向いていたエヴァンは視線を李雄に向けて来る。

 獣王候補生、エヴァン。

 次期王候補生の名前はこの学園で知らぬ者などおらず、その噂などは学園中で聞ける。

 その噂の中で李雄が聞いた噂は、喧嘩上等のスケバンや、獣王の名の如く凶暴なモンスターをも

僕にする暴君、などの噂だった。

 

(でも……そんな風には見えないけどな……)

 

 だが、李雄の目の前にいるのは、何処か頼りなく、支えないと今にも倒れてしまいそうな小さな

子供の様だ。

 

「……………………な、なぁ、コグレ」

「あ、はい何でしょう?」

 

 そんな事を考えていると、先程まで沈黙を守っていたエヴァンが口を開いた。

 何か言いたい事があるらしいのは明らかで、李雄は黙ってエヴァンの次の言葉を待つ。

 

「……あ、あのさ……」

「はい」

「コグレはさ………」

 

 そしてエヴァンがゆっくりと話し始めた時だった。

 

「エヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!」

『え!?』

 

 突然、学園中に響くのではないかと言う位の大声が響く。

 しかもそれはエヴァンの名を呼び、同時に地鳴の様な音と振動まで響いて来る。

 

「な、何!?」

「この声って!」

 

 その大声と振動に李雄が驚く中、エヴァンは何か知っている様子だ。

 

「エヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!」

「あっ!」

「あれは!!」

 

 そして、その元凶は姿を現した。

 地震にも匹敵する駆け足と砂埃、そして巨体と学ランと共に。

 

「番長!?」

 

 そう、それは以前グランドでエヴァンと闘い敗れたストーンゴーレムの番長だった。

 

「見つけたぞエヴァン! 勝負だ!!」

「………悪いけど、今取り込み中だから」

「そんなもん後だ! 今すぐ俺と勝負しろ!!」

 

 勝負を求める番長に対し、エヴァンは何処か困った表情で拒否しているが、番長は全く耳を貸さ

ない。

 

「さぁエヴァン、今すぐ俺と勝負だ!!」

「それは無理です」

 

 そんな番長とエヴァンの状況を見かね、李雄は2人の間に入る。

 

「何だお前は?」

「彼女は僕と取り込み中です、お引き取りください」

「そんなもん後だ!! 俺と勝負だ!!」

「その勝負とはそんなに大事ですか?」

「大事だ!」

「人の用事や都合も聞く必要が無い程に?」

「え?」

 

 その李雄のやや強気な言葉に、巨体と大声を誇る番長は初めて行き詰まった。

 

「番長さんにとって勝負が大事な物かも知れませんが、エヴァンさん本人の意見も聞かずに自分の

都合だけで強引に誘うのは良くないと思います。ヒトとして最低です」

「うっ」

「番長さんはその最低の仲間入りを果たしたいんですか?」

「うぅっ」

「答えてください」

「ぐううぅぅぅっ」

 

 その李雄の立て続けな言葉に、番長は完全に言葉を詰まらせ、その場に膝をガクンと落した。

 

「お、俺が、間違ってたぜ………」

 

 どうやら番長は、李雄の説得に観念したらしい。

 

(良かった、意外と話が分かるヒトで。番長って言う位だから、仁義はあるんだな)

 

 そんな番長の姿に、李雄が心中でホッとした時だった。

 

「あぁっ!」

「え?」

「ん?」

 

 不意にエヴァンが何かに驚いた様な声を上げ、その声に李雄も番長もキョトンとしてしまった。

 そしてそれが、番長にとって最大の隙となった。

 

「どけっ!」

「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!?!?」

 

 突然、エヴァンは番長を拳による力付くで押し退ける。

 結果、番長は空高く舞い上がり、何処かへと飛ばされていった。

 

「え? ええええええええええええええええええええぇぇぇぇっ!?」

 

 その突然の出来事に、李雄は唖然とし、何も出来ないでいた。

 

「あぁ……」

「………………………は!」

 

 が、不意にエヴァンの発した悲しそうな声により我に返り、一体何事なのか問い質すべく、

エヴァンに接近する。

 

「エヴァンさん、急にどうしたんです?」

「花が……」

「花?」

 

 エヴァンの言葉に李雄は首を傾げ、エヴァンの視線の先に目を向ける。

 そこには、潰された一輪の花があった。

 位置的に考えて、先程番長が膝を付いた辺りだ。

 

「綺麗な花だったのに………可愛そう………」

「エヴァンさん…………」

 

 そのエヴァンの悲しそうな表情に、李雄は1つの確信を得た。

 エヴァンは、皆が噂する様なスケバン等ではない。

 寧ろ人一倍優しく、誰よりも女の子らしい一面を持つヒトなのだ。

 

「エヴァンさん、ちょっと失礼」

「え?」

 

 驚くエヴァンを尻目に、李雄はその辺にあった細い枝を拾い、裁縫に使う糸を取り出す。

 そして踏まれた花の茎を立たせ、その茎に合わせて枝を地に刺し、枝に茎を糸で巻きつけた。

 花への基本的な治療法である。

 

「これで良し」

「………これで、治るの?」

「大丈夫ですよ。ヒトの骨折が自然治癒で治る様に、植物の茎にも似た様な作用があるんです。

こうして枝のギブスで固定していればちゃんと立ちます」

「そっか、良かった………」

 

 その李雄の説明に、エヴァンはホッとし優しげな瞳で花を見る。

 

「っ!!」

 

 その横顔を隣で見ていた李雄は、先程までの暗い顔とは対照的な、優しい微笑みに一瞬心を奪わ

れた。

 それ程までに、エヴァンの笑顔は魅力的だったのだ。

 

(エヴァンさんって、こんなに綺麗だったんだ)

「ん? コグレ、どうかした?」

「え!?」

 

 そんな事を考えていると、エヴァンに話しかけられ李雄はやや動揺するも、何とか落ち着きを

取り戻す。

 

「あ、はい、何でしょう?」

「いや、コグレがジッと私の事見てたから……私の顔、何か付いてる?」

「いえ、その………」

 

 このエヴァンの質問に、李雄は正直に答えるべきか悩んだ。

 人間界にいた頃「女性を褒めるのは良い事だが、アナタに見惚れていました、なんてのはやめて

おけ。人によってはセクハラやナンパと思われるぞ」と魁に言われた事があるからだ。

 

「は、花、好きなんですね、エヴァンさんって」

 

 結局悩んだ末、そんな事を言ってみた。

 別に嘘では無い。

 番長を払い除けてまで心配するくらい、花が好きな事に興味はあった。

 

「……………………」

「って、あれ?」

 

 だがそれに対し、エヴァンは何処か落ち込んでいる表情だ。

 

「あ、あの、エヴァンさん?」

「………分かってるんだ」

「え?」

「私に花なんて似合わないの、分かってるんだ」

「え? えぇ??」

 

 突然そんな事を言い始めたエヴァンに、李雄は思考が追い付けず混乱した。

 

「あ、あの、どうしてそんな事言うんですか?」

「コグレだって知ってるだろ? 私が何て言われ、どう思われてるか……」

 

 そのエヴァンの言葉に、李雄は思考を巡らせた。

 エヴァンの学園における評価は、戦闘最強、スケバン、三度の飯より喧嘩好き等々、どれも自分

の兄、真雄にこそ相応しい様な内容ばかりだった。

 

(まぁ、兄さんにスケバンとか言ったら殺されそうだけど……)

「えぇ、まぁ、大体は」

「そんな私に、花なんて似合わないだろ?」

「あっ」

 

 そのエヴァンの言葉に、李雄は全てを理解した。

 エヴァンは花が好きだったり、その辺の女子よりも女子らしい所があるのだが、本人はそれが

自分には合わないと思っているらしい。

 

「私なんかが花を愛でたって、似合わないよね………」

「そんな事無いですよ」

「え?」

 

 そんなネガティブな思考をするエヴァンに対し、李雄はハッキリと否定する。

 

「例えば僕の兄さん何ですけど、兄さんの事どう思ってますか?」

「どうって……喧嘩好き?」

「はい。三度の飯と同じくらい喧嘩が好きです。でもそんな兄さんにはある趣味があるんです。

何だと思いますか?」

「…………分からない」

 

 李雄の言葉に、問いは勿論の事、言葉の真意も分からないと言った感じで、エヴァンは首を横に

振った。

 

「それは、読書と茶道です」

「え?」

 

 その李雄の答えに、エヴァンはかなり驚いている。

 無理もないだろう。

 古暮 真雄と言えば、メシと喧嘩をこよなく愛する問題児と言う事は、ここ数日で既に周知の

事実となった。

 そのイメージ故に机に向かうより体を動かす派と思われがちだが、実は体を動かす位に読書や

和を愛でる事が大好きなのだ。

 

「兄さんはああ見えて、知識欲が深い上に和風好き何です。ほら、前にダンジョン帰りの職員室で

サーシャさんが忍者と知ってかなり問い詰めてたでしょ?」

「………あぁ、確かに」

「ね? ハッキリ言って似合わないでしょ? 今までもよく言われてきたんですけど、兄さんはそ

の度にこう言い返すんです」

 

 そう言いいったん言葉を区切り、李雄は再び口を開けた。

 

「【俺の趣味にケチ付けんじゃねぇ。俺が何しようが勝手だろうが】って」

 

 そう言い李雄は、近くの草に生えている白い花を抜いて持って来ると、それをエヴァンの髪に

飾る様に差し込んだ。

 

「え? え!?」

 

 その突然の李雄の行動にエヴァンはかなり驚いているが、李雄はそのまま言い続ける。

 

「だからエヴァンさんも、自分に似合わないなんて言わないでください。それにエヴァンさんは

ほら、この通り花の似合う可愛い女の子じゃないですか」

「なっ!?!?」

 

 その李雄の言葉に、エヴァンはトマトの様に赤面した。

 

「? エヴァンさん? 顔赤いですけど、大丈夫ですか?」

「わ、わわわわわわたわたわたわたわたわたわたっ!?」

綿(わた)?」

 

 いきなり赤面し、しかも意味の分からない事言い出したエヴァンに、李雄は首を傾げる。

 

「あ、あの、本当に大丈夫ですか?」

「だ、だだだだだだいじょうるぶ!」

「いや、本当に大丈夫ですか? 何だか呂律も変ですけど………ジーナ先生呼びましょうか?」

「わわわわ、私その、よ、用事があるから!!」

「あっ、エヴァンさん!」

 

 エヴァンを心配する李雄だったが、エヴァンは逃げる様に猛スピードで走り去ってしまった。

 

「エヴァンさん………」

 

 顔を赤くし、呂律も奇妙になったエヴァンの事を心配したものの、当の本人が去ってしまい、

李雄は何となく、エヴァンが心配した花に視線を向けた。

 ピンク色の可愛らしい花だ。

 

「………花が好きな人に、悪い人なんていないよね……」

 

 そう呟きながら李雄は、花びらをそっと撫でる。

 エヴァンの事は心配だったが、本人が去ってしまった以上、明日確認するしかない。

 そして何より、今回の事で彼女の知られざる一面が見れた。

 これを機に友人関係を築けたらと思う。

 

「あっ」

 

 その時だった。

 李雄は花を見ていて、ある事を思い出した。

 

「番長さん、どうなったんだろ?」

 

 李雄は今頃になって、花を踏んだ張本人が空の彼方へ飛んで行った事を思い出すのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ふぅ………」

 

 学園校舎近くの飼育小屋。

 そこにはいくつもの動物及びモンスターが飼われている。

 そこに、生物係であるエヴァンの姿はあった。

 エヴァンの用事とは、ここの生き物達への餌やりだ。

 今餌を上げているのは、ケルベロスのケロちゃんだ。

 ケルベロス。

 人間界ではギリシャ神話に出て来る、冥界の番犬として知られている事を、エヴァンは知る由も

無い。

 いや、そんな事を気にしている暇すらなかった。

 

「……可愛い……私が……可愛い………」

 

 可愛い。

 それは幼い頃より獣王となるべく修行を続け、女の子らしい事など碌にしてこなかったエヴァン

にとって、衝撃的すぎる言葉だった。

 これまで誰もが自分の事を、喧嘩好き、学園最強、竜王の孫と称え、そして恐れた。

 故にエヴァンに、友達と言える者などいなかった。

 ただ獣人故の特性か、動物や一部のモンスターには好かれ、その子達だけが唯一友と呼べる存在

だった。

 更に修行ばかりの生活を送って来た故に、対人関係と言うものを築くのが苦手となり、クラスで

も自然と1人でいる事が多かった。

 クラスメイト達は皆声を掛けてくれるが、友達と言えるほど深い仲ではない。

 これまでも、そしてこれからも、ずっとそう思っていた。

 そんな中現れた、自分を理解してくれる優しい存在が。

 

「……コグレ……リオ……」

 

 その名を口にしてみる。

 それと同時に脳裏に浮かぶのは、自分に優しい言葉を掛けてくれた、可愛らしい微笑み。

 古暮 李雄。

 かつて魔王と聖王を務めし、ベルトラスとマリアの息子の1人。

 女子よりも可愛らしく、女子よりも女の子らしい、自分とは真逆な存在にエヴァンは嫉妬すら

感じた。

 だが、そんな自分の本質を理解し、優しく微笑んでくれた。

 

「……優しい……男子……」

 

 その事に、エヴァンはふと服の裏に隠し持っていた物を取り出す。

 三界にて男女問わず大人気少女漫画【マジカレ】だ。

 学園を舞台とした恋愛物であり、学園入学時にエヴァンは偶然手に入れ、これに共感した事で

女の子らしさを求めるキッカケとなった物だ。

 優しくて強い男子、そんな男子と恋仲になった楽しい学園生活。

 そんな事を日々妄想していた。

 そして出会ってしまった、自分を理解してくれた優しい男子。

 

「………コグレ、リオ……か……」

「グルゥ?」

 

 エヴァンがボーッとしている事に疑問を持ったのか、ケルちゃんが首を傾げてエヴァンを見つめ

て来る。

 

「ケルちゃん……私、どうしたら良いと思う?」

「グルゥ……」

 

 モンスターが答えれる筈もないのだが、エヴァンはそんな事を聞いてみる。

 当然ケルちゃんは唸るだけで何も喋らず、ただただ心配げな瞳でこちらを見て来る。

 

「………明日、話してみようかな………」

「グル?」

 

 そのエヴァンの小さな呟きは、不意に吹いた風によりかき消され、当の本人とケルちゃんにしか

聞こえなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「こ、これって……………」

 

 李雄は、家の前で唖然としていた。

 エヴァンに吹っ飛ばされた番長の事を思い出し、飛ばされた方向へと歩いて来たら、いつの間に

やら三界における我が家であるバラックの前までやって来た。

 そしてその前に、地面に頭から突き刺さり、足をジタバタさせる番長の姿があった。

 

「ンゴーッ! ンゴォーッ!!」

「……取りあえず引っこ抜いてあげよ」

 

 その様と、地面に突き刺さったが故に何言ってるのか分からない番長の声に不憫を感じ、李雄は

全身に神経を集中させる。

 未だ真雄の様に感覚的に力を発動出来ないが、精神統一により全神経を集中させる事で発現する

様にはなった。

 即座に、新規の証である蒼い長髪が発現、そして神気による肉体強化。

 

「よし」

 

 己の肉体に力強さを感じ取った李雄は、番長の体に手を回し、思いっきり引っ張る。

 

「せーのぉ………せっ!!」

 

 結果、番長を地面から救出する事に成功した。

 

「ぶはぁっ!」

「大丈夫ですか?」

 

 救出して番長にそう尋ねる李雄。

 だがそれに対して番長は、何も答えず無言のままだった。

 

「? 番長さん?」

「………けた………」

(けた)?」

 

 その僅かに聞こえた番長の声に、李雄が首を傾げた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また負けたあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

 番長の絶叫が森中に響き渡った。

 

「何故じゃぁっ! 何で毎度毎度勝てんのじゃあぁっ!!」

「あ、あの、番長、さん?」

「ちきしょおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 今頃になってエヴァンにぶっ飛ばされた事にショックを受けたのか、番長は李雄の声が全く聞こ

えず、悔しげな絶叫を上げる。

 いや絶叫だけでなく、その場に悔しそうに拳を振るい、その度に地鳴が鳴り響く。

 

「うわっ、ととと……番長さん落ち着いて……」

 

 あまりの音と振動に、李雄は何とか宥め様とするも、番長は全く聞こえていない。

 と、その時だった。

 悔しさに暴れる番長の制服から、何か紙の様な物がこぼれ落ちた。

 

「ん?」

 

 それに気づいた李雄は、その存在が気になり拾い上げる。

 

「え?」

 

 そこには、大よそ番長の様な大男が持つには相応しくない内容が書かれていた。

 女子が好む様なカラフルな絵柄に、いくつものスイーツが描かれていた。

 

「これって……スイーツ系のチラシ?」

「っ!?」

 

 李雄がそう呟いた瞬間、チラシはあっという間に番長が分捕る様に回収された。

 どうやらここに来ようやく、李雄の存在にも気付いた様だ。

 

「………お前」

「はい?」

「見たのか」

 

 不意に番長が放った言葉に、李雄は首を傾げる。

 その瞬間、番長は李雄の肩をガシッと掴んだ。

 

「うわぁいい!?」

「俺が大の甘党で、ここえらの甘味全メニューの情報を集めている証拠を見たのかと聞いているん

だあぁぁっ!!」

「うにゃああ、世界が揺れるうううぅぅっ!?」

 

 番長は上下に肩を揺らし、李雄はがくがくと振り回される。

 腕を解こうにも、体格差に加え目は回り平衡感覚が狂った状態故に振り解けない。

 

「ば、番長さん落ち着いて! 別に甘い物好き位変じゃないから!!」

「ヌゥッ!?」

 

 何とか番長を宥め様と李雄が放った言葉に、番長は動きを止める。

 この隙に李雄は番長の腕から逃れ、その場に着地する。

 そして番長へと視線を向けてみると、番長は(何となくだが)不思議そうな表情をしていた。

 

「お前、何故それを知っている?」

「え、いや、自分で甘党って言ってたけど……」

「ム……そうだったか」

 

 その李雄の言葉に、その場で考え込む番長。

 

(………もしかしてこのヒト……勇並に頭悪い?)

「おい、ここで見た事は誰にも話すなよ! (おとこ)の約束だからな!!」

「え?」

 

 そんな事を考えていると、番長はそんな事を言って来た。

 そう、漢の約束と。

 

「お、漢の、約束……」

「ム? どうかしたのか?」

「お、漢の約束!!」

「お、おい?」

 

 李雄の態度に番長は顔をしかめているが、李雄は気にもしない。

 漢の約束。

 それは今まで初対面で女扱いされて来た李雄にとって、まさに最高の言葉だった。

 

「ぼ、僕、始めて初対面で男扱いされた!!」

「はぁ? ……そういや声も体格も女っぽいが……服が男もんだろ?」

「今まで男装の麗人って間違われて来たんです……だから嬉しいんです!!」

「な、涙が出る程か……」

「はいっ!!」

 

 そう、李雄は嬉しかったのだ。

 初対面で自分の事を女と見間違えられなかった事に。

 

「あ、そうだお礼と言うか頼みと言うか、とりあえず番長さん、ちょっと来てください」

「ヌ?」

 

 李雄の言葉に番長は首を傾げているが、そんな事李雄は気にも止めず番長を家の中へと押して行

く。

 その際、不思議と神気が発動出来たのだから、まさに不思議である。

 

「お、おい、何だよ!?」

「甘党の番長さんが喜ぶ事です」

「おい、甘党って言うなよ!! ヌわああああああぁぁぁっ!!」

 

 番長の絶叫が響く中、李雄は番長を押し込んで行くのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「美味いっ!!」

「ホント? 良かったぁ~」

 

 バラック内の食堂にて、番長の言葉に李雄は胸を撫で下ろしていた。

 自分の事を男を見抜いた番長に、お礼として新しく作ったお菓子の試食を勧めたのだ。

 作ったのは、天界マスカットのゼリーを主体としたパフェ。

 以前市街地で半額だったので買ったマスカットで、何かデザートが作れやしないかと思考し

作った物だ。

 

「あぁ、美味い。こんな美味いスイーツ、今まで食った事ねぇ!!」

「気に入って貰えて嬉しいよ」

「あっ、だ、だが、この事も内緒だぞ!!」

「勿論、漢の約束だよね♪」

 

 そう言いニッコリとほほ笑む李雄。

 その微笑みには、作ったスイーツを気に入ってくれた事への嬉しさを含め、始めて初見で男とし

て見てくれた事に対する嬉しさもあった。

 

「良かったら、これからも時々試食してくれる?」

「おぉ、無論だぜ!」

 

 そう言い番長は嬉しげに頷いた。

 

「漢同士の約束を交わし、俺らは今分かち合った! 今日から親友だぜ!! よろしくなリオ!!」

「え? あ、うん、こちらこそ、よろしく番長」

(結構単純なヒトだな……でも、悪いヒトじゃないね)

 

 番長の突然の物言いに、李雄はやや戸惑うも直ぐに頷き、握手を交わす。

 ここに、李雄(料理好き)番長(甘党)の友情が生まれた、とその時だった。

 不意に、ピリリリリリ……ピリリリリリ……と携帯音が鳴り響く。

 

「あれ、僕のだ」

 

 その携帯音は、李雄の物だった。

 TVにゲームセンター、自動販売機にコンビニと、人間界と左程変わらない科学的な物が数多くあ

三界(この世界)

 携帯電話も普通に存在し、しかもどういう訳か、人間界で使っていた携帯もそのまま使えている

のだ。

 実に奇妙で不思議な話だが、そこは魔法やモンスターなどが日常の異世界だから、と言う事にし

ておこうと思う。

 

「誰からだろ」

 

 そう思いながら李雄は、携帯の画面を確認する。

 そこには、兄と示されていた。

 

「兄さんからだ」

 

 それを確認し、李雄は携帯をプッシュし電話に出る。

 

「もしもし兄さん、どうしたの?」

〈愚弟、何も言わずに保健室に来い〉

「は?」

 

 その突然の真雄の物言いに、李雄はポカンとしてしまう。

 

「え、あの、何で?」

〈うるせぇ、良いからさっさと来い〉

 

 それだけ言い、真雄に一方的に形態を切られ、唖然とする李雄なのであった。

 

 

 

              『~第18話~コギャルコンビのお礼。2人の戦士の秘密 《終》』

 

 




 どうも、黒鋼丸です。
 今回の話も、前回に引き続き李雄視点で行かせていただきました。
 この話により、李雄は完全にアリッサとチマにフラグを立てました。
 更に新たなるフラグ、人気投票でもぶっちぎりの人気を誇る不器用な獣王候補、エヴァンとの
フラグも立ちました。
 ファンの皆様のご期待に応えれる様、頑張って書こうと思います。
 また、その影響で番長との友人関係も立ちました。
 番長が主人公の事を名前で呼ぶのはユーメリアに関わった場合ですが、こちらではエヴァンとの
関わりにより友人となります。
 そして真雄からの突然の呼び出し。
 それは一体なんなのか、どうぞ次回をお楽しみにしてください。

 それと最後に1つ。
 今回の話でチマが歌った曲【Miss. Brand-new day】は、【絶対★魔王】の主題歌です。
 ハッキリ言って、絶対★魔王は糞とか言われてますが、Miss. Brand-new dayは神曲です。
 最もこのサイトでは、【著作権が切れていない歌詞の転載】は禁止されている為、歌詞を直接
書く事が出来ないのが残念でしたが。
 知ってる方も知らない方も、是非聞いてみてください。
 ではでは~♪
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