絶対☆双王~オレとボクの恋乱、学園サーガ~【更新停止中】 作:黒鋼丸
やや非常識ながらも平穏な生活をしていた真雄と李雄の古暮兄弟は、幼馴染と悪友2人との学校
からの帰宅途中で不思議な渦に巻き込まれ、見たことも無い異世界に2人はいた。
そしてそこで、自分達を魔王様、聖王様と呼ぶ1人の少女、リュアナと出会い、さらには案内さ
れた神立トリニアス学園で悪友たちと自分の両親とも再会し、さらには自分達が元魔王と元聖王を
やっていた事を暴露、その息子たる真雄達は、トリニアス学園へ通う事となったのだった。
「………これは………」
学園よりやや離れた空地にポツンと立つ、オンボロのアパートの様な建築物に、魁が放った言葉
はそれだった。
あの後、学園長室でベルトラスとマリアは転移魔法なるもので人間界へと帰り、残された古暮達
にディーネはある問題を告げたのだ。
それは、寮の問題だった。
全寮制のこの学園では全生徒は寮暮らしなのだが、男子寮に空きがないのである。
そこで、学園領地より少し離れた空き地にあるバラックを使うしかないと言われたので、ここま
でやって来たのだが……
「ボロっちーダ」
そう、勇の言う通り学園寮に比べるとかなりボロイ。
古びたアパートの様……と言うかまんまアパートのバラックはハッキリ言って、この学園島にお
いてもかなり浮いている。
「ちょっと、アンタ達ホントにここで暮らす気なの?」
「あ、あの、私の部屋でよければお使いください」
優希とリュアナも心配そうに言ってくるがそんな中にあって真雄と勇は特に気にしてなさそうに
バラックの中へと入って行く。
バラックは本当にアパートであり、2階建てのシンプルなものだった。
1階と2階にはそれぞれ部屋が4つずつあり、1階の奥には食堂と小さな風呂場が設置されている。
「どうやらコンロの火は付くし、水道の水も出るみたいだな」
「ウガ、ここ、ちゃんと暮らせれる」
「アンタらマジで暮らす気かよ………」
真雄と勇の言葉にあきれ果てる優希。
「うるせぇな。家なんてな、雨や風をしのげてテレビと風呂さえありゃ良いんだよ」
「ウガ、オラ風呂はどうでもいいダ。めんどくさいし」
「どうでも良くねぇだろ!」
「……不潔」
真雄の言葉は勿論だが、勇の風呂いらない発言に魁はツッコミをかまし、優希に至っては軽蔑の
視線を向けた。
「……そう言えばお前、昨日 風呂に入ったか?」
「…………は、入ったダ」
魁のふとした言葉に、勇はあからさまに視線をそらし体から汗を流していた。
「………お前な………」
「不潔な奴だな」
勇の嘘を見抜いた……と言うより、あからさまな勇の嘘にあきれ果てる魁に同意する様に言い放
つアンゴルモア。
「お、来てたのかカボチャ。やっとオラに食われる決心がついたんダな!」
「んな訳あるかボケ!!」
勇の言葉に、アンゴルモアはマントの下からバネ付きの赤いグローブパンチを放つが、勇は持ち
前の身体能力でそれを避けた。
「ウホ! おもしれぇなオメェの体!」
「ったく、こいつエストレイヤ並に厄介な奴だな……」
「あのな勇、明日からクラスメイトになる奴を食うんじゃない」
そんな勇とアンゴルモアの状況を見かねたのか、魁が勇を止めに入った。
学園長室で古暮達が入るクラスには、リュアナはもちろんだがアンゴルモアまでいる事には、
さすがに驚いたが、そこは異世界である。
カボチャ、もといホムンクルスも学園に通うのは別に普通らしい。
「えー、こいつうまそうなのに………」
「勇、今日のご飯、すっごく美味しいの作るからさ」
「んじゃ食わないダ」
「んなことで納得すんのかよ!!」
李雄のさり気ない言葉に納得した勇にあきれ果てるアンゴルモア。
「アンゴルモア、だったか? すまんな。バカに付ける薬は異世界だろうと何処にも無いんだ」
「………それには激しく同意だな」
魁の言葉に同意するアンゴルモア。
「あの、とりあえず、僕らも中見てみようよ。ね?」
気まずい雰囲気の中で、李雄の言葉に優希達も中に入って行くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
バラックの中は、前述にも述べた様に1階と2階にそれぞれ部屋が4つずつあり、1階の奥には食堂
と小さな風呂場が設置されている。
その食堂に、古暮達は集まっていた。
「まぁ、部屋は多いし、食事はここで出来るわね」
「食事は僕と優希とリュアナさんでやろっか」
そう言い頷き合う李雄と優希。
事実2人は、人間世界にいた頃から互いに古暮家の食卓を作っていた。
今度からはそこにリュアナも一緒にする様にしようと考えたのだ。
「え!? そ、そんな……聖王様にそのような事をさせるなんて………」
だがこれに対し、リュアナは驚いた様に声を上げる。
どうやら、仕えるべき相手である李雄に、料理などをさせるのが考えられない事らしい。
「気にしないのリュアナ。李雄と私が料理作るなんて
「一緒においしい料理 作ろうよ。ね?」
「あっ」
その優希と李雄、特に李雄の優しいほほ笑みにリュアナは顔を赤めて静かに頷いた。
「………おい」
「ん?」
そんな様子を見ていたアンゴルモアが、不意に魁に声を掛ける。
「あの男女はわざとあんな笑顔すんのか?」
「男女って………いや、残念だが李雄のあの笑顔は天然だ」
アンゴルモアの男女発言に苦笑しながらも魁はそう言い放った。
事実、李雄は自分が女っぽい事は気にしてはいるのだが、自分の笑顔がどれだけ美しいのかに
関しては、あまり自覚がなかったりする。
「……アイツ、将来とんでもない女泣かしになりそうだな」
「既になってると思うぞ。それも天然のな」
そう言い魁は苦笑した。
「おい、そんじゃさっそく何かメシ作ってくれや」
そんな中で、今日色々あって腹が減ったのか真雄が食事を要求してきた。
「あ、はい。すぐに何か作りますね、魔王様」
そう言いほほ笑むリュアナに対し、真雄はどこか微妙な顔をしていた。
「……あのよリュアナ」
「はい?」
「その魔王様ってのなんとかならねぇのか?」
「え!?」
その真雄の言葉にリュアナは驚き声を上げ、同時に悲しそうな表情をした。
「あ、あの、私、何か魔王様のご機嫌を損ねる事でも……」
「だーも、ちげーよ」
リュアナの言葉に呆れつつも、真雄はめんどくさそうに言い放つ。
「オメェがどういう理由で俺らが魔王やら聖王やらになるのを信じてるかは知らねぇが、生憎俺ら
は魔王でも聖王になってる訳でもねぇ」
「で、でも、私は、御2人ならきっとなるって信じていますから!」
真雄の言葉に対して、リュアナは尚も2人の事を信じてると言い譲らない。
「別に信じる信じないはオメェの自由だ。ただな、魔王になってもいねぇのに魔王様って呼ばれん
のはどうもな。何より堅っ苦しい!」
そう言い魔王と呼ばれるのを断固拒否する真雄。
「だからだ、俺の事は普通に名前で呼べ」
「え?」
その真雄の言葉に目を丸くするリュアナ。
「だからだ、名前で呼べってんだよ。何か問題でもあるのか?」
「あ……」
その真雄の言葉に、どこか安心した表情をしたリュアナ。
「はい。では改めてよろしくお願いします………
「真雄様……まぁ、魔王様よりゃマシか」
リュアナの真雄様という言葉に、やや首を傾げながらも何とか納得した真雄であった。
「やれやれ、真雄ももう少し分かりやすく行ってあげれば良いものを……」
そんな様子を見ていた魁が、不意にそんな事を口に出した。
女に優しい魁としては、真雄の女に対する口の悪さを何とかした方が良いと思ったのだろう。
「まぁまぁ、あれは兄さん也のコミュニケーションの取り方って事で……」
「かなり横暴だけどね」
「ウガ、真雄、根は優しいダ」
そんな魁の言葉に対し、李雄、優希、勇の3人はそれぞれの意見を述べるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「――――ふぅ、うまかったぜ」
「ご馳走様ダ!」
日も完全に沈んだ、午後8時。
食堂のテーブルを前にして、真雄と勇は椅子に座って満足そうにほほ笑んでいた。
そう、この2人は。
「……何と言うか」
「この2人が揃うと食費が半端ないな」
満足そうにほほ笑む2人の横で、李雄と魁は苦笑いをしていた。
その原因は、テーブルの上に積み重ねられた大量の皿にあった。
この皿は全て、真雄と勇の平らげた食事の後であり、その量が2人の食欲を物語っていた。
「この2人よくもまぁここまで食えるわね」
「真雄様、豪快な食べっぷりです」
料理を作った優希が呆れる中、同じく料理を作ったリュアナは満足げな表情で真雄を見ていた。
「まぁ、ここまで食いっぷりが良いと作った側としては嬉しい事ではあるね」
「はい♪」
「ま、そこだけは同意できるわね」
その李雄の言葉にリュアナはほほ笑みながら、優希は苦笑いしながら同意する。
「それじゃ、最後にしめのデザートと行きますか」
そう言い李雄は、冷蔵庫から幾つもの銀の器を取り出す。
それは、夕食を作る以前から作っておいた、フルーツゼリーだった。
「はい。近くの木からとれたリンゴを使ったフルーツゼリーだよ」
「おぉー!」
「わーい! いっただきまーす!!」
その李雄の出したデザートに真っ先に反応したのは食い意地の張った真雄と勇だった。
2人は明らかに大きめの2つの器を選ぶと、即座にスプーンを手にゼリーを食べ出す。
「うんめぇ~!!!」
「ウガー♪」
李雄のゼリーに、2人は実に満足そうな表情だ。
「あはは、皆もどうぞ」
そう言い李雄は他の皆にもゼリーを配る。
「お、サンキュー」
「ありがと、李雄」
「あ、ありがとうございます」
「何だ、オレの分もあるのか」
李雄からゼリーを受け取った面々は、真雄や勇と同様にスプーンを手にゼリーを頬張り出す。
「ん、相変わらずうまいな」
「ホント。おかしやデザートじゃどうしても李雄に勝てないのよねぇ~」
「わぁ、ホントにおいしいです」
「こりゃうめぇな」
皆のおいしい、うまいという言葉に李雄は嬉しそうにほほ笑んだ。
「気に入って貰えて嬉しいよ」
「あら? 李雄様の分は?」
とその時リュアナは、李雄の分のゼリーが見当たらない事に気付く。
「あぁ、僕は良いんだ。もう食べたから」
「あ、そうなんで……」
「嘘」
その李雄とリュアナの言葉を遮る様に言い放つ優希。
「あ、あの……」
「どうせ真雄と勇の分に多く使って、自分の分作らなかったんでしょ?」
「そ、そんな事は……」
「李雄、嘘を付くなら目を逸らすな。すぐバレるぞ」
その優希と魁の言葉に、李雄は言い返す事ができず俯いてしまった。
「李雄様……」
「ケッ。テメェどんだけ自己犠牲好きなんだよ」
「アンタはもう少し自分を大切にしなさい」
「はい……」
リュアナの悲しそうな眼差しと、アンゴルモアと優希の言葉に李雄は全く言い返せず、弱々しく
頷くのだった。
「で、ちなみに李雄のゼリーが足りなくなる原因たる2人の意見は?」
「あぁ、うまかったぞ我が弟よ」
「ウガ、いつもありがとなー♪」
魁の言葉に対し、李雄への感謝はあれどそれが当たり前の様に微笑む真雄と勇の笑顔に、魁は軽
くため息をつくのだった。
「まぁ良い。勇、そろそろ風呂入るぞ」
「ヤダ」
魁の言葉に勇は即答した。
拒否と言う名の。
「おいコラ。何がヤダだ何が」
「オラ風呂嫌いダ」
「不潔な事 言うんじゃない!! ともかく入れ!!」
そう言い勇の腕を掴もうとする魁だが……
「さらばダ!」
それよりも早く勇は窓をぶち破って外へと逃げ出してしまった。
「あ、こら!」
「おいおい、窓割るんじゃねぇよ」
「あぁ、後で直さないと……」
「あ、あの、真雄様、李雄様?」
「オメェら何でんなに普通にしてんだよ」
勇を追い外に出ていった魁を尻目に、あまり驚きもせず普通な態度の真雄と李雄に、リュアナは
どう対応すればいいか分からず、アンゴルモアは呆れた顔で首を傾げる。
「だってこんな事、日常茶飯事だもん」
そんな2人の疑問に答えたのは優希だった。
「日常茶飯事……ですか?」
「そうよ。魁は勇の、私は真雄と李雄の世話するのはもう当たり前見たいな事なの。この程度で驚
いたりしてたら、こいつ等と保護者なんてできないわ」
「おい待てコラ優希」
不意に優希の説明に何か不満を感じたのか、真雄が声を上げる。
「テメェはいつから俺らの保護者になったんだコラ」
「ふん。『母さんの作るメシがマズイ。何とかしてくれ~』って私に泣きついて来たのは、何処の
誰だっけ?」
「あん? そりゃ10年以上前の話だろうが! それを言ったら李雄をイジメっ子共から守る筈が、
逆にお前まで頭のデブに泣かされて、『助けてー!』ってピーピー泣いてたのは何処のどいつだっ
けなぁっ!?」
「な、泣いて何かいなかったわよ!」
「俺だって泣きついた覚えはねぇ! 俺の記憶力なめんなっ!!」
「いいや! アンタは泣きついた!」
「泣いてたのはテメェだろうが!」
「アンタよ!」
「テメェだ!」
「アンタよアンタよアンタ!!」
「テメェだテメェだテメェっつたらテメェだ!!!」
「あ、あの、2人共………」
段々と子供の口ゲンカの様になって行く真雄と優希の2人に李雄はやや苦笑いしながら、止めよ
うとする。
「黙れ愚弟!」
「李雄は黙ってて」
「あう………」
が、2人の覇気に負け、引っ込んでしまった。
「アンタは何で昔からそう頑固なのよ!」
「テメェは毎度毎度うるせぇんだよ!!」
そして再び喧嘩を始める2人の姿に、李雄は「はぁ」とため息をついた。
「あ、あの、李雄様。真雄様と優希さん、止めなくて………」
「すまん、いつもの事とは言え僕じゃ止めれないみたい」
「これ、いつもの事なのかよ」
李雄の言葉に再び呆れるアンゴルモア。
その後、真雄と優希の口ゲンカは30分近く続いたそうな。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ、いい湯だぜ」
「ホントだね……」
オンボロのアパートの程々の大きさの風呂場。
そこに、優希との口ゲンカを終えた真雄と食器洗いを終えた李雄が入っていた。
あの後、真雄と優希の子供の様な口ゲンカはヒートアップしていたが、そこへ勇を探しに行った
魁が戻って来た事で終了した。
結局、勇は見つからなかったが魁曰く、「アイツは死んでも死なない男だから朝には戻って来る
だろう」との事だった。
「ま、勇の奴は野宿とか好きそうだし大丈夫だろ」
「でも風呂にはちゃんと入った方が良いよね……」
その李雄の言葉に「だな」と真雄が苦笑した時だった。
「真雄様、李雄様、お湯加減いかがですか?」
不意に風呂場の脱衣所の方から声がし、ドアの方を向く古暮兄弟。
そこにはガラスで不可視に浮かぶ影が1つ。
2人は声からしてリュアナだろうと判断した。
「リュアナか? あぁ、いい湯だぜ」
「あ、はい、丁度いいです」
リュアナの問いに互いに答える古暮兄弟。
だが次の瞬間、2人はその言葉に続く追加の言葉の存在を知る事となる。
「そ、それでは、わ、私も失礼させていただきますね……」
「は?」
「え?」
一瞬、2人はリュアナの言葉の意味が理解できなかった。
だがすぐにその意味を知る事となった。
リュアナがタオル1枚の姿で風呂場に入って来た事で。
「んなっ!!?」
「ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!??????」
このリュアナの行動に、古暮兄弟は唖然となった。
リュアナは自分達の為に必死だとは思っていたが、まさかここまで大胆な事までするとは、思い
もしなかったのだ。
「おい待て何考えてんだ!!?」
「リュリュリュリュリュリュ、リュアナさん!!!??」
「ま、真雄様、李雄様。せ、背中をお流しします………」
動揺する2人に対し、リュアナは顔を赤くしながら、おずおずと近づいて行く。
「リュ、リュアナさん、ダメですよそんな! ぼぼぼ、僕達まだ高校生ですし……」
「私、御2人のお役に立ちたいんです」
何とか引かそうとする李雄だが、リュアナは引く気はないらしい。
「オメェな、恥ずかしくねぇのか?」
「は、恥ずかしいですけど、その、真雄様と李雄様の為なら………」
「あのな、俺ら云々じゃなくて、お前自身はそれで良いのかって聞いてんだよ!」
リュアナの言葉に真雄は呆れ半分で言い放つ。
「おい、どうしたんだ!?」
「ちょっと、あんた達うるさいわよ!」
そこへ騒ぎを聞きつけた魁と優希が駆け込んで来た。
「なっ!?」
「あ、アンタ達、何やってんのよ!!」
「ち、違、こ、これには訳が……」
「俺らじゃねぇよ、リュアナに言えや」
状況に唖然となる魁と怒鳴り出す優希に対し李雄はあわわと慌て、真雄は呆れ顔で言い放つ。
「おいリュアナ、何やってんだよ」
そこへさらに騒ぎを聞きつけたアンゴルモアもやって来た。
「わ、私、真雄様と李雄様の御役に立ちたいんです!」
「いやだからな……」
「リュアナさ~ん………」
リュアナのただただ純粋な言葉に、真雄は呆れ果て、李雄は困ったような表情となるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ」
アパートの一室。
設置されたベットの上で白銀に輝く髪をドライヤーで乾かす李雄の姿があった。
あの後、結局リュアナがおれなかった為、監視役として優希とアンゴルモアが共に、風呂に入る
事となった。
李雄としてはこれ以上女性が来るのは困る為優希を止めようとしたのだが、「アンタ達がリュア
ナに変な事しないか見張らなきゃダメでしょ! 私はアンタ達の幼馴染 兼 保護者なんだから!」
と言われ、結局李雄は反論できず、終始目のやり場に困り果てる事となった。
「それにしても……異世界……か……」
李雄は窓の外に視線を向ける。
星空も森林も、見た目は自分達のいた世界と何も変わらない。
学園も自分たちの通っていた物と変わらない。
だが、李雄の脳裏には、今日起こった事がハッキリと浮かんでいた。
3つ目の犬、カボチャ頭のホムンクルス、学園内で見た亜人の先生と生徒達。
そして、両親の正体と変色し伸びた自分の髪。
今までちょっと変だけど平凡な家庭だと思っていた李雄の常識は
「……父さんと母さんが、元魔王と聖王で……僕と兄さんはその子供……か」
何より驚いたのは、両親がこっちの世界出身で、かつては三王と称される三界を統べる3人の王
の一角、魔王と聖王だったという事。
そして、その息子である自分も人間ではなかったという事だった。
「僕、この世界でやってけるのかな………」
「ちょっと李雄」
李雄が呟いて瞬間、部屋のドアがノックも無しに開かれ優希がずかずかと入って来た。
「ゆ、優希、ノックぐらいしてよ………」
「何 他人行儀な事 言ってんのよ。私はアンタ達の姉なんだから気にしないの」
「いや、姉でも家族でもノックぐらいはしようよ………」
優希の言葉に苦笑いしながら答える李雄。
「それで、どうしたの?」
その李雄の言葉に、優希は先程までの呆れた様な表情から一転、真剣な表情となり口を開く。
「………アンタ、本気でこっちの学園に通う気?」
「ふぇ?」
優希の予想外の言葉に首を傾げる李雄。
「魁も言ったけど、髪なんてイメチェンした事にすれば問題ないでしょ?」
「いや、でもそう何度もイメチェンしてたら流石に怪しまれると思うけど……それに、兄さんの角
ばかりはどうしようもないよ」
「そりゃ、そうだけど………」
未だに古暮兄弟がこちらの世界に住まう事に意義のある優希だが、李雄の言い分は筋が通ってい
る為、優希も言い返せない。
「ありがと、心配してくれて」
「っ!!」
その李雄の言葉に、いや、その李雄の笑顔に優希は顔を赤く染め上げてしまった。
女である優希ですら可愛いと思う李雄。
そんな李雄と幼馴染として付き合いの長い優希だが、彼が見せるその笑顔には優希ですら顔を赤
く染めてしまう。
「と、当然よ! 私はアンタ達のお姉ちゃんなんだから!」
「うん、ありがとう。大丈夫、王になるとかはともかく髪の事はなんとかしなくちゃね」
そう言い女のように優しいほほ笑みを浮かべる李雄に、優希は顔を赤くして「か、勝手にしなさ
い!」と部屋を出て行ってしまった。
その優希の行動に、首をかしげる李雄であった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ったくあのバカ!」
李雄の部屋を去った優希は、アパートに用意された自分の部屋へとやって来ていた。
ディーネが言うには女子寮の部屋の準備に時間が掛かるので今日の所は優希はこのアパートの
一室を借りる事となったのだ。
「………あの、バカ兄弟……」
優希の脳裏に、ダンジョン授業にはしゃぐ真雄と、先程の笑顔を振りまく李雄の顔が浮かんでい
た。
真雄は喧嘩バカで私生活はほぼダメ人間。
李雄は家事は得意が荒事が苦手な弱虫。
そんな2人のご両親は、新婚夫婦さながらのラブラブいちゃいちゃぶりが目立つ、ちょっと変わ
った夫婦。
それがつい最近まで持っていた優希の古暮家の人間への印象、常識だった。
だが、
イチャラブだけが並み以上の夫婦だと思っていた彦左衛門とまりあが、実はかつてこの世界で
三王と呼ばれた3人の王の一角、魔王と聖王だったという事。
そのご子息たる真雄と李雄には不思議な力があり、真雄には角が、李雄は髪が変色し伸びる様に
なった。
これにより2人はこちらの世界の学園に通う事となった。
にもかかわらず、2人はそれをあっさりと受け入れこの学園に通おうとしている。
「……そんなのダメ」
優希はそう呟いた。
2人の、王を目指す候補生の行うダンジョン授業なるものは優希もゲームなどで見た事のある
モンスター等との戦いの様なものだろう。
いくら2人に武術の心得があるといっても、ケンカ大好き真雄はともかく争い事を嫌う李雄には
とても無理だ。
「……あの2人は、私が守らなきゃ……」
そう呟きながら優希は窓から外に視線を向ける。
星空が綺麗だ。
人間界と変わらない。
その星に優希は誓いを立てる。
「2人は私が守ります。約束ですもんね、先生」
そう呟き、優希は2人の姉として保護者としての決心をあらわにするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
こちら、優希と同じくこのアパートの一室を借りたリュアナ。
本来ならリュアナは寮にある自分の部屋に帰るべきなのだが、朝食の準備をしたいリュアナは今
日の所はここに泊る事にしたのだ。
「♪~♬」
「ご機嫌だな、おい」
ベットに座りながらドライヤーで髪を乾かしながら鼻歌を鳴らすリュアナに、そう言い放つアン
ゴルモア。
「あ、うるさかった?」
「そうじゃねぇけどよ、そんなに嬉しいのかよ。お前の魔王様と聖王様と会えた事が」
そのアンゴルモアの言葉にリュアナは頬を朱色に染め上げた。
「ケッ、思い出を美化しすぎてると痛い目に遭うぜ?」
「いくらアンちゃんでも、真雄様と李雄様の悪口だけは許さないんだから」
アンゴルモアの言葉にキッと睨みつけるリュアナ。
だがはっきり言って全然迫力がない。
「ひぃ、
そう言いヘラヘラと笑うアンゴルモア。
リュアナの迫力のない睨みつけでは効果がない……と言うより、元々の性格ゆえだろう、反省す
る気自体が0の様だ。
「もう」
「ま、せいぜい不毛な期待をしてな。オレはもう眠いから寝るぜ」
そう言いアンゴルモアはベットの中へと潜り込んで眠りだした。
「…………」
その様子を見た後、リュアナは視線を窓の外へと向けた。
夜空には星々とともに美しい満月が浮かんでいた。
リュアナにとって古暮兄弟はまさにこの月、そして昼間を照らす太陽のような存在だ。
だからリュアナは月に向かって口を開いた。
「私、信じていますからね。真雄様、李雄様」
そう呟き、リュアナは2人への信頼をあらわにするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「~♪、ふぅ」
アパートの一室。
設置されたベットの上でウォークマンとヘッドホンで音楽を聴く魁の姿があった。
「ふぅ、やれやれだ………」
ヘッドホンを外した魁は、今日1日の出来事を振り返りだした。
三界という名の異世界。
その異世界で、古暮家の秘密を知る事となったこの度、付き合いの長い魁にとって驚きの連続だ
った。
元魔王と元聖王の夫婦であった彦左衛門ことベルトラスとマリア。
そのご子息たる古暮兄弟の角と髪。
そして2人はこの学園に通い、自分たちの
最も、真雄の場合はダンジョン授業という特別授業に興味があるだけだった様だが。
「異世界か……まるでマンガの世界だな」
そう呟き苦笑する魁。
マンガやアニメの様な世界観。
これまでの生活ではありえない展開だった。
まるで自分たちが物語のキャラクターになったかの様に。
「あ、そう言えば
不意に魁の脳裏に、風呂が嫌で飛び出た
「ま、あのバカなら大丈夫だろう」
が、即 大丈夫だろうと判断し脳内より消した。
「………母さん達に、ちゃんと言ってくれてるのだろうか」
そして今度は人間界に残してきた自分の両親、そしてその両親にはこちらから言っておくと言っ
ていた古暮夫婦の事が頭に浮かんだ。
まさか人間界にやって来た古暮夫婦を助ける一件に、自分の両親が関わっている事には更に驚い
た。
「ま、あの2人なら納得もいくか」
不意に魁の脳裏に自分の両親の顔が浮かぶ。
何分、古暮夫婦にしろ自分達の篠原夫婦にしろ新婚夫婦並みにラブラブである、バカップルなら
ぬバカ夫婦なのだ。
似た者同士、互いに助け合ったのだろう。
「さてさて、俺達はどうなるのやら」
そう呟きながら、魁はこれから起こるであろう波乱ながらも面白そうな新たなる学園生活に楽し
そうにほほ笑むのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ウガー、まん丸お月さまだ」
その頃、風呂が嫌で脱走した勇は、アパートからほど近い高い木の上に寝っ転がっていた。
「オラ達のいた所とこっち、場所が違っても月は変わんねぇんだなぁ」
そう呟きながら、勇は今日の出来事を思い出していた。
次元の渦に巻き込まれて、古暮のおっちゃんとおばちゃんがこの世界の魔王さんと聖王さんで、
真雄に角が生えて李雄の髪が伸びて青くなって、そんでもって2人はあの学校に通う事になった。
このゲームみたいな世界に。
「へへ、ダンジョン授業かぁ~。楽しみだなぁ~!」
そう呟きながら、勇は明日に備えて木々の枝と葉をベットにして大きないびきと共に、深い眠り
につくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「んぐ…んぐ……んぐ………ぷはぁっ! 風呂上がりはやっぱこれに限るぜ!」
そしてアパートの一室の中で一番 広い部屋では、真雄が先程の風呂でのリュアナとの一件など
全く気にしてないが如く牛乳をパックからそのまま飲んでいた。
「……にしても、あのクソ夫婦が元王様ねぇ~………」
そう呟きながら、真雄はこの度の出来事を振り返りだした。
下校の途中で見つけた次元の歪に呑まれ、気が付いた所で待っていたのはゲームで出て来る様な
世界。
赤い3つの目を持つ黒い犬、いわゆるモンスターから始まり、この世界を統治する三界それぞれ
の王である三王、その三王に古暮兄弟がなると信じて疑わないダークエルフのメイド、リュアナ。
そのリュアナの知り合いで、カボチャ頭のホムンクルス、アンゴルモア。
そして何より驚いたのは、自分にとって恥でしかなかったあのクソったれな両親、彦左衛門とま
りあが、かつてこの世界の統率者、三王の一角である魔王と聖王であり、その息子である自分達に
はその2人の血、人間にはない能力が受け継がれている。
真雄は自分の両親が王であったこと以上に、その息子である自分達が人間ではなかった事に、
確かに驚きはあった。
だがそれ以上に、その力を使い、新たなる学園生活を送る事に真雄はこれまでに無いくらいに
わくわくしていた。
「……王の座なんざぁ、どうでもいい」
真雄は窓の外に視線を向ける。
夜空には幾つもの星々と綺麗な満月が浮かんでいた。
「良い月、そしていい星々だ。まるで俺の新しい学園生活を歓迎してるみたいだぜ」
そう言いながらニヤリとほほ笑む真雄。
「ダンジョン授業、モンスター、魔法に異世界……へへ、楽しみすぎるぜ!」
そう言い真雄は、明日から始める新たな学園生活に胸を躍らせながら窓のカーテンを閉め、
ベットの中へと眠りに付くのだった。
『~第3話~古暮達の住まいにて 《終》』
どうも、黒鋼丸です。
『絶対☆双王~オレとボクの恋乱、学園サーガ~』第3話、いかがだったでしょうか?
原作では主人公の住まいは一世帯分の広さしかないバラックでしたが、他の男子キャラ達も住ま
わす為にアパート風にしてみました。
外見的モチーフとしては、『クレヨンしんちゃん』のまたずれ荘と『遊戯王GX』のレッド寮を足
して2で割った感じです。
さてさて、ついに明日学園に通う事となった古暮達はそれぞれの思いを胸に明日に備えます。
この世界でも変わらず頑張ろうとする李雄。
古暮兄弟の姉兼保護者として2人を守ろうと意気込む優希。
古暮兄弟を純粋に信じ続けるリュアナと、そのリュアナを見守る(?)アンゴルモア。
不思議な世界での生活に戸惑いながらも楽しむ魁。
マイペースに物事を楽観的に考える勇。
そして、王の座以上にダンジョン授業を楽しむ真雄。
様々な思いが交差する中、次章ついに新たなる学園生活が始まる!
今後の古暮達の活躍に乞うご期待ください!