RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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 気付けば前回の投稿から1ヶ月近く経っていました。申し訳ないです。
 最近いろんな事が始まったので、時間の流れが早く感じます。

 まあ、それは置いといて。
 お待たせ致しました。


31両目

 次の日からは個人々々での授業が始まった。

 俺は小海さんと同じ授業だった。

 内容は運転などに関する講義らしいが……。

 2人で授業の始まりを待っていると、男の教官が入ってきた。

 

 

「今日から君らを担当する鹿島康司だ。よろしく」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「うむ。では今日からやる内容だが……」

 

 

 と言って教官は俺と小海さんにプリントを渡した。

 

 

「専用の教科書は無いからプリントを使う。余白にはメモをとってもいいぞ」

 

 

 と言うと、持ってきていた教官用らしきプリントを取り出して講習を始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 講習は午前午後を通じてそれほど難しいものでは無かった。

 いや、思ってたほど難しいものでは無かった、と言ったほうが正しいかもしれない。

 列車制御や運転に関する講習と言っても、ほとんど学校や趣味で覚えた部分がほとんどで、新たに覚えたのは……特に無いや。

 俺としてはハード面じゃなくてソフト面の講習を受けてみたかったんだが……。

 そんな講義を受け続けて3日、警四全員で課題を行う土曜がやってきた。

 課題は午後、こことは別の場所でやるらしく、朝のトレーニングを行って午前中は自由時間となった。まあ、半ドンの逆パターンなんだろうな。

 

 昼食を終えて午後、俺達はマイクロバスに乗せられて横川機関区までやって来た。

 ここは碓氷峠を通過する列車を補助する機関車であるEF63(ロクサン)の所属機関区で、あちらこちらにEF63が見えた。

 その光景に高山は感嘆の声を上げていたが、そんなのお構い無しにバスは正門から入り、建物の前の駐車場に停まった。余談だが、ここからは機関車は見えない。

 バスから降り成田教官に付いて行くと、建物内のある部屋に入れられた。

 教官は全員が入ったのを確認すると、中央に机を集めてその上にこの辺りの地図を広げた。

 

 

横川、軽井沢(横軽)間は國鉄最大の難所でな。加えて台風で土砂崩れが多発したりして、多くの國鉄職員が犠牲になった場所でもある。

 明治以来、ここを攻略しようと様々な工事をやってきた。

 最初に鉄道が出来たときにはアプト式つって、レールの間に敷かれたラックレールってやつと機関車の歯車を噛み合わせてのぼってたんだ。

 鉄道唱歌の北陸編の19番の歌詞に、

『これより音にききいたる 碓氷峠のアブト式 歯車つけておりのぼる 仕掛は外にたぐいなし』

って歌われてるくらいには特徴がある仕組みだ。まあ、今は旧線にしか残ってないがな。

 この頃は1列車運転するのに乗務員が6人必要でな、みんなチームで動いてたんだ。

 だからよ、リーダーになると、チーム全員を家に呼んで、一緒に飯食ったりしてうまく気持ちをあわせようとしたもんだ……」

 

 

 つまり高山の家に全員でお邪魔しろと。そう言う話ですね。分かります。

 

 成田教官は懐かしそうに昔を話すと、新線のほうを指差してまた話し始めた。

 

 

「それからだ。列車の走行技術も時代と共に進化してな、こっちに新線を造ったんだ。

 それでも最大66.7‰の勾配は残っちまったんだがな。んでもって、最近になって北陸新幹線が山をぶち抜いて造られたんだ」

 

 

 と、ここで鉄道知識に乏しい岩泉がいった。

 

 

「なんだ?66.7‰って」

 

「1km進むと66.7mあがる勾配のことよ」

 

 

 と、小海さんがすかさず解説。

 ちなみに、角度に直すと3°~4°くらい。

 

 

「なんだ。その程度か」

 

 

 と、分かってない様子の岩泉。

 

 碓氷峠の勾配がどれだけ凄いのかというと、坂を下るときに25km/h以上出すと止まれなくなる。

 実際に、25km/h以上出して減速しきれず、カーブに突入して脱線転覆という事故が過去にあった。

 

 

「岩泉。そんなもんじゃねえよ。機関車でこの勾配はすげえものだと思っといたほうが良いぞ。強力なブレーキかけなきゃガンガン速度が上がっちまうからな」

 

「了解であります!教官!」

 

 

 岩泉に軽く補足を入れると、成田教官は地図から目を離して説明を続ける。

 

 

「この新線を通る列車は、おめえらの知っての通り、EF63を麓側につけて通る。下りは押し上げて、上りは抑え役だ。

 こっからは運転士の研修でやることだが……、せっかく榛名研修所まで来た土産だ。機関車の運転を体験させてやろう」

 

「ほんとですか!?」

 

 

 高山が目を輝かせている。そらそうか。ここに来て初めて運転士らしい研修内容だからな。

 

 

「ま、それぞれの機関車には熟練の機関士が付くし、おめえらが北海道で壊したDF51よりかは操作は簡単だろ。

 じゃ、配置決めだな。今回は横川方に3台、最後尾の軽井沢方に1台の計4台の機関車だ。

 下りじゃつまんないだろうし、今回は上り列車の乗務だ」

 

 

 計4台という事は、EF63ではなくED42だろう。

 高山は嬉しさの余りその事実に気付いていないらしいが。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

EF63:國鉄が開発した碓氷峠専用の補助機関車。2両1組で運用される。

 碓氷峠を通過する列車は、全てEF63の補助を受ける為、EF63には様々な装備がある。(双頭連結器、各種ジャンパ連結器、協調運転装置etc……)

 

ED42:國鉄が開発した(以下略。

 4両1組で運用され、横川側に3両、軽井沢側に1両の組み合わせで運用される。

 國鉄には他に例を見ないアプト式機関車で、新線が開通する1963年まで使われていた。

 現在は横川機関区の隣にある碓氷鉄道文化村で静態保存されている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 4台だと1人余るだろう。その枠には俺がすっぽりと収まろう。

 

 

「教官」

 

「ん?なんだ?」

 

「私は辞退します」

 

「まあ、1人余るしな。じゃあ、そこで待ってろ」

 

「はい」

 

 

 言われた通り待つ。

 高山達の順番が決まった。

 本務機が高山、第1補機が小海さん、第2補機が岩泉、第3捕機が桜井となった。

 4人は教官に連れられてシミュレーターの方へ歩いていった。

 

 

「あ、そうだ。信濃。そいつはあっちに連れてっとけ」

 

「了解しました。……こっちだ」

 

 

 成田教官に指示された信濃さんは、こっちに来いと手招きした。

 

 

「どこに行くんですか?」

 

 

 と俺が聞くと、

 

 

「峠のシェルパの運転させてやるよ」

 

 

 やっぱりこっちが正解だったか。

 




 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします。

 それではまた次回。


 以下に元ネタの解説をしますが、長いので読み飛ばしても結構です。気になった方だけどうぞ。


※元ネタ解説

EF63:横軽専用に開発された機関車。峠のシェルパとも呼ばれる。
   このうち、18,19,24,25号機はぶどう色2号に塗装変更された。
   実は本務機関車ではなく補助機関車なので本線走行には向いてない。(ちなみに、本務機関車はEF62なのだが、これについては次回で解説)
   66.7‰という険しい坂道を通るために他の機関車にはあまり見られないような装備を備えている。

・電磁吸着ブレーキ:急勾配上で確実に停める為のブレーキ。
 強力な電磁石を利用してレールに密着し、その際の摩擦力によって確実に停めるもの。
 機関車を含む、発電ブレーキを装備できない車両に装備される。

過速度検知装置(OSR):碓氷峠ではある速度を越えると停まらなくなってしまうので、それを防止する装置。
 高/低の2種類の設定があり、高というのは旅客列車用の設定で35km/hで警報、38km/hで非常ブレーキがかかる設定、低は貨物用の設定で22km/hで警報、25km/hを越えると非常ブレーキがかかる設定になっている。
 急制動の際、連結器破損や車輪滑走を防ぐ為に速度が10km/hになるとブレーキ力を緩める速度検知装置を備えている。
 ED78、EF71にも同様の装置がある。

・カム式転動防止ブレーキ装置:空気ブレーキ作動後の空気漏れによるブレーキ緩解を防ぐ為に、ブレーキが作動した状態で機械的にロックする装置。
 ED78、EF71にも同様の装置がある。

・電機子短絡スイッチ:主電動機の回路を短絡破壊して強力なブレーキ力を得るもの。
 使用した場合は電動機は使い物にならなくなるため、異常時に残された最後のブレーキという位置づけにある。
 EF63以外では、ED78、EF71にも同様の装備があり、私鉄では大井川鉄道のED90に、また神戸電鉄にはVVVF車を除く全営業車に非常電制という名称で装備されている。

・双頭連結器:密着・自動連結器のどちらにも対応した連結器のこと。
 同様の装備がある機関車として、EF63以外では長岡車セ所属のEF64(1030、1031、1032号機)、並びにEF81(134、140、141、151号機)、青森車セ所属のEF81(136、139号機)、宇都宮運転所所属のDE10-1099号機、DE11(1031、1035号機)がある。

 ちなみに、EF63もEF62もほぼ同時に製造された機関車であるため、見た目はほとんど同じになっている。
 見分け方としては、運転席側にしかアンテナを装備してないのはEF62、軽井沢方の運転席と横川方の助手席の前に装備してあるのがEF63だ。
 あと、個人的な見分け方として、EF63の前面の窓のほうがEF62より小さい気がする。

ED42:これも横軽専用に開発された機関車。
 国鉄最後のアプト式機関車でもある。

 (←横川方)本務機+第1補機+第2補機+牽引する車両+第3補機(軽井沢方→)

 の構成で運用されていた。
 設計最高速度は粘着運転時で25km/h、ラック運転時で18km/hであった。
 台車は3つあり、中間台車は歯軌条力行用動力台車で、歯軌条用の電動機を装備していて、両端の台車は粘着運転用動力台車で、動輪の間にある電動機から連結棒を通じて動力が伝達される仕組みになっている。


補足:ちなみに、シェルパというのはヒマラヤ山脈のネパール側に住んでいる民族の名前である。彼らはヒマラヤの登山隊の荷物持ちやルート工作などを担っていて、そこからシェルパは(山の)案内人という意味になり、峠の案内人という意味でEF63の渾名にもなった。

補足2:ED78、EF71について、どちらも板谷峠という峠の通過対策のために開発された機関車である。板谷峠は碓氷峠、瀬野八と並ぶ峠で、平均勾配が33‰という場所である。(ちなみに、碓氷峠は66.7‰、瀬野八は22.6パーミル)
 EF63とは違い、本務機関車として運用できる。
 先にED78が開発されたが、牽引力確保やED78で発覚した様々な問題(連続で回生ブレーキを使用した際の熱容量不足など)の解決のためにそれをF級化したEF71が後年に開発されたという経緯がある。

・おまけ:最後までお付き合いいただきありがとうございます。
 先日、こんなものに遭遇したので貼り付けておきます(笑)。
 
【挿絵表示】

 第1章でちらっと出てきた國鉄331系ですw。
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