RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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39両目

「岩泉、もういい」

 

 

 速度計が20km/hを指し示したあたりで岩泉の肩を叩いた。

 この程度であれば、安全に下ることが出来るだろう。

 

 しっかし、ここまでやるならパンタつけて回生とか積めなかったのかなぁ……?

 

 とは思ったが、よくよく考えてみればこの車両が日中走る事はそうそうないことだろうし、そうなれば回生失効必至である。

 それを考えれば回生積むよりも発電のほうが妥当か……。

 

 そんな事を考えながら2つあるブレーキ弁の片方を少しだけ回してDブレーキ(発電ブレーキ)を使用する。後方から作動音が聞こえると同時に電制の橙色のランプが光る。

 さすがに横川まで下れるだけの熱容量はあるだろう。……あるよね?

 なんか詳しいスペック聞いてないから不安になってきたなぁ……。

 そんな心配を余所に、旧矢ヶ崎信号場跡を通過し車両は下り勾配に差し掛かる。ここから碓氷峠名物66.7‰下り勾配の始まりだ。

 

 

「手慣れてるな」

 

「操作方法は特殊だが軌道自転車だし、速度さえ気を付ければ何とかなるさ」

 

「もうちょっと速く走れないのか?」

 

「馬鹿を言え。これ以上出したら脱線するわ」

 

 

 走行機器は全て床下で重心が低い、Dブレーキは背面に取り付け、その上車高は高い2軸車だ。バランスが悪いにもほどがある。

 それでなくても碓氷峠の制限速度は旅客列車で35km/h、貨物列車で20km/hだ。なにがあるかわからないこんな状況じゃ速度はあまり出せない。

 

 

「あと臼井。暗いわ」

 

「おっと、そりゃあ失礼した。だが、室内灯は勘弁な」

 

 

 出発前のごたごたで色々つけてないのを桜井に言われて思い出す。

 前照灯や計器灯を点灯させ、ワイパーもハイで動かす。

 

 

「なんで室内灯だめなのよ」

 

「ガラスに反射して外が見えにくくなるから」

 

 

 桜井の疑問に一言で答え、運転に集中する。

 しばらくするとトンネルに突入した。

 ここから先は短いトンネルが連続する区間だ。

 

 

「出口で何があるかわからん。急ブレーキ掛けるかもしれんから備えといて」

 

 

 皆に一応警告しておく。

 

 

「臼井」

 

「何だ、高山。さっきのアレか?」

 

「あ、ああ……」

 

 

 俺があんなことをするのはそんなにも意外だったのだろうか。

 別に話すことは問題ではない。

 

 

「俺には幼馴染がいてな、そいつのことなんだが、昔事故に遭って大量出血で死に掛けたことがあってね。輸血すれば助かるものだったんだからまだよかったんだけど」

 

「? 何か問題があったのか?」

 

「生憎様、そいつは稀血って呼ばれる血液―――出現頻度がかなり低い血液型のこと―――の持ち主でね。東京に少しは在庫があったんだけどそれだけじゃ足りなかった。で、東京のを持ってくるよう頼んだ後で、全国の血液バンクから探してもらったんだ。したら大阪にあったんだよ」

 

「じゃあ」

 

「東京行きの新幹線が動いているかどうかギリギリの時間だったが、何とか間に合わせてくれたよ。

 時間無い上に色んな所への連絡だってあっただろうし、それでも色んな人が協力して確実に届けてくれて、助けてくれた事は今でも忘れられない。

 だから、助けられる方法があるなら助けたい。これもきっと何かの運命なんだろうから」

 

 

 たぶんこの肝臓の移植先は優菜さんなんだろう。

 昔は届けられる側だった。だが今はどうだ。今度は俺が届ける側だ。

 人生何があるか分かったもんじゃない。

 

 

「すごい偶然だ。本当に」

 

 

だから、

 

 

「絶対に届けないとな」

 

 

 そう、誰に言うでもなく誓い、トンネルの出口に差し掛かると同時にブレーキ弁をいったん緩める。

 あんまり電制を使いすぎると抵抗が焼き切れてしまう可能性も考えられる。

 数え間違えてなければ出口の先には旧熊ノ平信号場があるはずだし、そこはなだらかで速度も上がりにくい。

 

 

「このあたりで中間かな」

 

 

 トンネルを抜けて熊ノ平信号場構内へと警笛を鳴らしながら進入する。

 ここは新線切り替え後に保線関係の拠点基地として活用されているため、ある程度の人が活動していることは予想していた。

 しかし、

 

 

「すごい……」

 

「これは予想外だな……」

 

 

 そこには作業用の投光器や発電機、重機等々様々な物が置かれていた。

 さらにそれだけでなく、想像していた何倍もの作業員さんがそこにはいた。

 

 

「がんばれ!」

 

「気ぃ付けて行けよ!」

 

 

 作業していた手を止め、各々手を振ったり敬礼をしたりで応援してくれている。本部長が確認ついでに教えたのだろうか。

 

 

「こりゃあますます失敗するわけにはいかないな」

 

 

 俺はその応援に返礼する意味で警笛を鳴らし、高山達は敬礼をしていた。

 そんな熊ノ平信号場をゆっくりと通過し、車両は再びトンネルの中へと入る。

 

 

「トンネルはあと3つ、距離は6kmくらいだ」

 

 

 再び電制をかけながらトンネル内を走る。

 電灯等が無い空間を前照灯をたよりに、それでも暗いトンネルをあと数km。

 そんな単調なダウンヒルで違和感を感じたのは、新碓氷川橋梁を通過して第2号トンネルに突入したあたりからだった。

 

 

「……ん?」

 

 

 車両の速度が若干速くなってきている。

 

 

「どうした? 臼井」

 

 

 いや、なんでもないと答え、電制を強めに掛ける。

 そうして速度は少し落ちたが、嫌な予感しかしない。

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