RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~ 作:元町湊
「……お前ら、どうしたんだ」
俺らはもう1度横川機関区に連れてこられ、シミュレーターをやっていた。
その運転を見た成田教官が一言目に発した言葉がさっきのだ。
「軌道自転車でダウンヒルした話は聞いてるけどよ……」
「色々あったんです」
高山と桜井の間でどんな話をしたのかは知らないが、仲直りしたのは事実だ。
「色々ねぇ……」
運転評価の画面にはオールAの評価が並んでいた。
運転中止となったらしい前回の運転よりはかなりマシになったと言えるだろう。
「どうよ!」
桜井が胸を張って自信満々に叫ぶ。
「まあ、運転中止よかぁ良いんじゃあねぇの?」
「何よその評価は」
「このシミュレーター、最高評価はSだぞ」
そう言って俺がさっきまで運転していたEF63のシミュレーター画面を指差す。
今日は機関車の調整で実車の運転はできなかった。
「旧型より簡単でしょ」
「高山、俺と同じのやってみるか?」
「えっ! マジで?」
鉄道高校出身で運転士志望の高山を指名する。
そうして意気揚々と乗り込んで数分後、げっそりとした様子の高山が運転席から出てきた。
「やべぇ……なんだコレ」
俺がさっきまでやっていたのは超上級コース。
電源投入から各種NFB確認、起動試験、そして下り列車運転等々一連の動作を採点基準としたものだ。
さらに、車両のトラブルまで再現されるという優れものだ。
「臼井はこれを完走した上にオールSなのか……」
「いやあ、本職の機関士さんはこれを毎日やってると思うと大変だよな」
現実にはこれに加えて細かいトラブルなども起きることだろう。実際に今日は起動試験で回路内異物による短絡で
トラブルの同定はある意味運試し的な要素があるから、今回は一発で解決できてよかった。
それに加え終了後、後ろで見ていた指導員の方に
「
とスカウトされたのはうれしい話だったが、車掌になりたいのでと言って断った。
「ま、お前らが何をしようが俺は結果が良ければそれでよしって主義だからな」
そう言うと成田教官はバインダーに挟んだ紙に何かを書き始めた。
「ところで桜井。この前言った課題の答え、分かったか?」
「不利な状況で戦うのに必要なものですか?」
「ああ、そうだ」
桜井は姿勢を正して答えた。
「最後まで諦めないこと。仲間と協力すること、です」
「……まあ、2日でここまで来れれりゃあ上出来だろう。
個々の能力じゃあクソみたいな戦力だったとしても、全員揃えば結構なものになる。ちりも積もればってやつだな。
そうなりゃ色んな障害を乗り越えられるようになるだろうし、もっと強くなれるだろう」
「ありがとうございます、成田教官!」
桜井にそう言われると教官は少し照れているようだった。
「まあ、これは五能にも言ったことだ」
「姉……隊長にですか?」
「ん? お前さんあいつの弟なのか? それにしちゃあ名字が……」
「自分の親戚なんです」
「そうなのか……。まあ、昔話だ。
あいつの若いころ、俺は上官をやっていたことがあってな、あいつも1人で突っ走るタイプで研修の時から他人を寄せ付けなかったんだ。
でもそんな奴は早いうちにだめになってしまう、って俺の経験則だがな、俺は五能に何度も話したもんだよ」
へぇ……。姉さんにそんな時期が。
「桜井が今回そう思ったのは誰かに教えられたのか? それとも何か本でも読んだのか?」
「いえ、経験からです」
「それでいい。あいつも俺が説得してもうんともすんとも言いやしなかったんだけどな、そういうことが分かってきたのは飯田とタッグを組んでからだ」
「飯田さんと……?」
「何の縁で組んだかは忘れちまったがな。
人間ってのは違う才能の奴と血反吐吐くような仕事したときに、初めて自分の長所短所が分かるもんなんだ。
お前らもまあ、精一杯やってみろ。そうすりゃ色んなもんが見えてくるもんよ」
そんな成田教官のありがたいお話が終わったころ、高山が意を決した様に、
「成田教官!お願いがあるのですが!」
と言った。何を言うつもりなのだろうか。
「何だぁ? お前ら今日はやけに気合入ってんなぁ?」
「俺、岩泉が受けてる格闘の研修も受けたいんです」
突如としてそんなことを言う高山に、成田教官は不審な目を向ける。
「格闘系の研修をか?」
「それだけじゃないです。桜井の受けてる射撃訓練も、臼井や小海さんの受けてる鉄道知識についても、です」
「……分かってると思うが、各人の内容は相当なものだぞ? それにお前が今受けている教科の事もある。つまるところ、時間が足りない」
教官は止めさせようと説得をする。
それもそのはず。岩泉の格闘にしたって桜井の射撃にしたって、ちゃんとした理論に基づいてやるのだ。ただいたずらに体力をすり減らすだけでなく、座学も行うのだ。
俺と小海さんは言わずもがなだ。運転理論があーだこーだとか、制御器の仕組みが云々かんぬんを叩き込まれた。
とてもじゃないが全部なんて常人にこなせるものではない。
「昼休みでも、早朝でも、俺の講義が終わった後でもいいんです。
もちろん、すべてをできるとは思いませんが、できる限りの努力をしたいんです!」
そう言って成田教官の説得にかかるが、当の教官は腕組みをして唸っている。
教官としてここまでお願いされちゃあやらせたいのだろうけど、他の人の説得や高山自身の負担を考えて悩んでいるのだろう。
悩んだ挙句、教官は1つの結論を口にした。
「まあ、俺が受け持ってる講義分はいいけどよぉ……。他の奴らまで説得できるかどうか……」
そう高山に答えたとき、教官の背後のドアが開いた。
そこから入ってきたのは軽井沢駅でお世話になった南部本部長だ。
すぐに気付いた成田教官が大声で号令をかける。
「南部首都圏公安隊本部長に、敬礼!」
それに合わせて俺達も敬礼する。
「いやいや、そんな硬くならず気楽にしなさい」
「直れ!」
その声で敬礼を下げる。
「突然邪魔してすまないね、成田君」
「いえっ、そのようなことは……」
「ちょっと用事があったものでこっちに寄ってみたら、偶然聞こえてしまってね。
高山君の件だが、私からもお願いできないだろうか。若い子がやりたいって時にはやらせるべきだってのが私の主義でね」
「はいっ、各教官と調整してなるべくいい形にしたいと思います」
「すまないが、よろしく頼むよ」
さすがに本部長からお願いされたらそう言うしかないだろう。
「先日はありがとうございました!」
「なに、公安隊員として当然のことをしたまでだよ」
高山の礼に、にこやかに笑って答える本部長。
「あの時本部長と名乗っていただけたらよかったのに……」
「え、お前ら知らなかったの?」
「じゃあ、臼井は知ってたって言うの?」
「まあ、知ってたよ」
知らない方が失礼だろう。
「まあまあ。警四の話はよく聞いてたんだが、東京の公安室に顔を出す暇がなくてね。あんな形で会えたのが楽しくて言い出だせなかったんだ」
そして全員の顔を見て本部長が言った。
「諸君らの行動は間違っていない。公安隊の中に批判的な意見も無いわけではないが、私、南部は君たちの事を応援している。だから、君たちの信じる道を進みなさい」
そんな言葉に俺たちはただ、
「了解!」
と心を込めて返す。
その返事に満足したのか頷いて、
「では、これで失礼する」
と言って部屋を出て行った。
部屋に残ったのは、やる気十分な警四と各教官の調整に悩む成田教官だった。
◇◆◇◆◇
そして数日後。俺の脇には満身創痍な高山の姿があった。
どうやら成田教官の危惧したように、高山の体力、気力共に限界に近付いているらしい。
「だーから言ったのに」
「臼井……お前……小海さんと受けてたんじゃ……」
「ああ、なんか途中から変わって保安装置関連の事をやらせてもらってるんだ。
いやあ、奥が深いよな」
学校とか独学では限界のある分野だ。実際に詳細な仕様を聞けるのはさすが鉄道会社と言えよう。
実際に初めて知った部分もあるし。
「迂闊に足を踏み入れちゃあいけない領域だったぜ……」
高山はそう後悔しているが今更遅い。
「臼井はなんで平気なんだ……」
「お前みたいに掛け持ちしてないし、この分野が好きだから」
それに、好きこそものの上手なれ、という諺もある。
興味のないことを無理やりやっても無駄、とまでは言わないがやらなくていいというのが俺の持論だ。
「まあ、がんばれ。なんか分からんところあったら教えるぞ」
「ああ、よろしく頼む……」
その晩、高山といくつかの質問を受け答えしてその日も終わった。
そうして数日後、ついに研修が終わり東京に帰る日が来た。
ちょうどいい時間の新幹線がなかったので、帰りは在来線で帰ることになって、今は安中駅にいる。
高山は見事講義を受け切っていた。だが、その代償として半ば廃人と化している.
「高山、お疲れ様。大丈夫か?」
「……」
こんな惨状だ。
暇な時間に高山を見に行ったが、岩泉の格闘ではいい実験台にされ、桜井の射撃では的にこそなってないものの射撃射撃&射撃で疲労困憊のようだった。
それに加えて俺や小海さんの受けている講義、そして高山自身の講義。こんなになるのも無理はないだろう。
「どうして全員の講義受けようとしたんだ?」
「軽井沢でのRJとの一件、岩泉から聞いたぞ。危なかったらしいじゃないか。
それに、臓器を届けるときも桜井や岩泉に頼んで……。俺は何もできなかった。
無理に臼井について行って助けることもできたかもしれない。臓器を届けるときだって……」
「人それぞれ得意不得意がある。高山が全部背負わなくていいんだよ。自分に出来ないことがあれば、出来る奴に任せればいい」
「……その言葉、受ける前に聞きたかったなぁ」
「1人で突っ走った罰とでも思っておけ」
そう言いあって2人で話し合っていると、高山が突然何かを思い出したのか桜井に話しかけた。
話し相手を失った俺は、飲み物を買おうと少し離れた位置にある自販機に向かって歩き始めた。
ライフガードを買い、自販機のそばで飲んでいると通過放送が聞こえ、目の前を貨物が通過していった。
EF62牽引の石油専用貨物だ。おそらく東新潟
全ての車両の番号を見ていると、その中に1両だけ気になる車両があった。
「あれっ、22222……?」
RJから持ち出された情報の中に書かれている番号と一致する車両があったのだ。
「偶然じゃ、ないだろうな」
こんな奇妙な一致があるとは思えない。他に5桁の数字としてぱっと思いつくのは東急の列車番号ぐらいだが、國鉄に関係があるとは思えない。
もしかしたら國鉄とは全く関係のない数字かもしれない。だが、今の俺はこれぐらいしか思いつくものがなかった。
とりあえず飯田さんに報告しようと思い、スマホを取り出す。
「もしもし、飯田さんですか?」
『違うって言ったらどういう反応するか気になるわぁ』
「その時は謝って切るだけですよ。ところで」
『なに~?』
「次回のRJのテロ、もしかしたらタンク車が関わってるかもしれません」
『……それどういうこと?』
「まだ確証は持てませんが……」
と、言いかけたところで高崎行き列車の接近放送が聞こえた。
「飯田さん、ごめんなさい。電車が来ちゃったので帰ってから話します」
『死なないように気を付けてね~?』
「縁起でもないこと言わないでくださいよ、まったく」
そう言って電話を切る。
確かに今の発言は死亡フラグがビンビンに立っている気がしてきた。
「俺……生きて帰れるよな……?」
と、高崎行きの普通列車としてやってきた115系に向かってつぶやくが、返ってきたのはプシューというドアの開く音だけで、知ったこっちゃねぇ、そう言われているような気がした。
元ネタ解説
115系
当時、山間部の路線でも電化が始まり中長距離電車(電車特定区間からその外へと抜ける電車のこと)が運転されるようになった。
その際、平坦で温暖な路線(特に東海道本線)であれば111系という近郊型電車が用いられていたが、山間部の路線は基本的には急勾配だったり寒冷地だったりすることもあり、この111系は出力などの面から不向きであった。
そこでこの111系をベースに、出力増強・耐寒耐雪設備・勾配対策などを施されて開発されたのが115系である。
現在でもしなの鉄道やJR東日本の新潟地区・JR西日本の山陽地区などで見られるが、新潟地区はE129系、山陽地区は227系による置き換えが進んでおり、その数を減らしている。
ちなみに、111系はわずか1年で製造を終了しており、その後は115系と同じ主電動機を搭載した平坦・温暖路線向けの113系の製造に移っている。
この後はオリジナルの話を何話か挟みます。
起伏に乏しいですが、読んでいただけると嬉しいです。