装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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プロローグ

 私、天月茜は転生者である。

 私を転生させた神様は人類に呪いをかけた悪の親玉である。

 私は人間の自由のためにノイズと戦うのだ!

 

 

 

 

 

なんてことは当然なく、私は至って普通の黒髪ロング系JC(女子中学生)である。

 あっ、でも転生って部分は本当です。

 でも、かつての名前は知らない。性別や元の顔さえも覚えていない。どれくらい生きていつ死んだのか、まったくわからない。

 確かに言えることは、生まれ変わるときに神様となんて対面しなかったということと、この世界はかつて自分が居た世界とは異なるということだ。

 

 以前の世界には『ノイズ』なんてバケモノは居なかった。

 

 だけど、いつ自分に不幸が降りかかるかと戦々恐々する、ことは何故か無かった。

 自分でも不思議なのだが、いまいち現実味を感じないというか、やたら長い夢を見ているような、そんな感覚だ。むしろ、私はまだ夢の中に居るんじゃないか、とさえ思う。

 

 その考えに至った理由はいくつかあるが、一番の理由はBU☆JU☆TSUだろう。

 いや、だっておかしくない? ノイズが怖いんで、護身のために去年から体を鍛え始めたんだけど、たった1年で格ゲーばりの三角飛びができるようになったんだよ? 才能とかそういうレベル超えてるよね?

 

 あれ? もしかして、この世界ってDBなの? もしかしてそのうち舞空術を使えるようになるんじゃくぁwせdrftgyふじこlp――

 

 

 

 ……ふう、取り乱した。

 まあ、そんなわけで、もう『なるようになれ』の考えのもと、幼馴染のビッキーや友達のミクと共に、なんとなーく日常を過ごしていた。

 

「茜ー! 学校行こー!」

 

 日課のランニングを終え、身支度を整えていると、外から私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 噂をすればなんとやら。鞄を持って玄関を開けると、そこには件の幼馴染、立花 響(ビッキー)小日向 未来(ミク)が立っていた。

 

 私が2人と友達になってから、こうして3人一緒に学校へ登校するのが日課になっている。

 いやぁ、いいもんですな、こういうthe青春って感じのやつ。前世じゃ、そんな甘酸っぱい経験なんて一切なかったからなー。

 

 私は玄関の鍵を閉めると2人に軽く会釈し、3人並んで学校への道を歩き出した。

 

「今日もランニングしてたの? 相変わらず、精が出るなぁ」

「でも、どうして運動部に入らなかったの? 茜なら全国大会だって夢じゃないのに」

 

 ミクの疑問ももっともだ。

 確かに、この類まれなる身体能力を生かせば、スポーツで俺Tueee!するのも容易いように思うかもしれない。

 

 だけど、考えてほしい。私が仮に天賦の才を持っていたとして、この世に同レベルの資質を持つ人間が私一人なはずはない。つまり、近年のスポーツ漫画でよく見る、明らかに人間離れした、あるいは特殊能力染みた力を持つ相手が出てきてもおかしくないのだ。

 私は嫌だよ! スポーツしてただけで五感を奪われたり、観客席まで吹き飛ばされたりするのは! ただでさえ殺伐とした世界なのに!

 

 そんなわけで、私は帰宅部として、平和な日々を享受しているのだ。

 

「私程度では、足元にも及ばない」

 

 だけど、さっきの回想部分を言おうとした結果、私の口から出たのはこの一言だけ。しかも無表情。

 

 話は戻るが、現実味がないといった理由の二つ目がこれだ。どんなに明るいキャラでしゃべろうとしても、なぜか強制的に無口系キャラっぽく変換されてしまうのだ。しかも、表情筋はピクリとも動かない。

 これのせいで、友人と呼べるのは今までの人生でビッキーとミクの二人だけ。

 べ、別にいいもんね! 友達は数じゃないし!

 

「茜が足元にも及ばないって、一体どんな猛者が居るんだろう……」

「あはは……。あっ、そうだ!」

 

 苦笑いを浮かべていたミクが、何かを思い出したかのように鞄をあさり始める。そして、中から3枚のチケットを取り出した。

 

「ねえ、未来(みく)。それ、何のチケット?」

「ツヴァイウィングのライブチケットだよ。3人分取れたんだけど、良かったら二人も一緒にどう?」

 

 ほう! ナウなヤングにバカウケと話題のボーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブチケットとな?

 芸能方面に明るくない私でも知ってるぐらいの有名どころだ。よくチケットが取れたな。

 

「へぇ~、確か『天羽 奏』と『風鳴 翼』の二人組ユニットだよね? でも私、良く知らないんだけど、行ってもいいのかな?」

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。茜はどう?」

 

 う~ん。何かこのライブに引っかかりを感じる気がするけど、思い出せないってことは大したことじゃないんだろう。

 

「……行く」

「茜、意外と乗り気だ。それなら、私も行こうかな」

「オッケー。それじゃあ、1か月後の土曜日は予定を空けておいてね」

 

 いや~。人生初めてのライブ、楽しみだなぁ~。

 

 

 

 

 

 そして時は進みライブ当日。

 私とビッキーは先に合流し、待機列に並びながらミクを待っていた。

 

「――うん、うん。わかった……。茜ぇ、未来はライブに来れなくなっちゃったって」

 

 マジで!? ど、どうしよう……ミクにコールとかサイリウム振るタイミングとか教わろうと思ってたのに――って、そんなことはどうでもいいか。

 ミク、残念だったなぁ。あんなに楽しみにしてたのに。

 

「そうか、残念だ」

「相変わらずクールだね、茜は。はぁ~…わたし全然知らないのに、どうしよう……」

「…………今度また、未来と一緒に3人で来よう」

「……そうだね。そのためにも、今日はしっかりツヴァイウィングを予習しなくちゃ!」

 

 ほっ。とりあえず、元気になってくれてよかった。私、半強制的に口下手になるから、誰かを慰めるのとか苦手なんだよね。

 といっても、私もビッキーと同様ツヴァイウィングのことはあまり知らないが、ライブ自体に参加するのは初めてだから、ミクには悪いけど結構楽しみだ。

 そんな中、開場時間となり、ホールの扉が開かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その2時間後、私は左腕を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場はまさに、阿鼻叫喚と呼ぶに相応しかった。

 

 ライブ中に起こった突然の爆発。

 そして、それに引き寄せられるかのように飛来するノイズ。

 他の観客はこの突発的な事態に混乱しながら、我先にと出口へ雪崩れ込む。

 

 でも、そんな中で私は、足を止め、未だステージの方へ目を向けていた。

 

Croitzal ronzell gungnir zizzl(人と死しても、戦士と生きる)

 

 ツヴァイウィングの一人、奏さんが(うた)を歌いながら、槍を携えてノイズたちを薙ぎ倒している。それは神話に語られる戦乙女のようで、私は、そんな非現実的で幻想的な光景に目を奪われていた。

 

「響」

 

 目の前の光景に放心していた私は、突然茜に手を握られたことで我に返った。

 

「えっ――あ、茜?」

「こっちだ。逃げるぞ」

 

 茜に手を引かれるまま、もう誰もいない1階の観客席を壁沿いに走る。余りにも多くのことが一度に畳みかけたせいで、私は未だに混乱しているというのに、こんな時でも茜は落ち着いていた。

 握っている手からは温かさと力強さを感じる。茜と一緒なら大丈夫、そう思えるほどに。

 

 きっと、そんな楽観的なことを考えていたから、(ばち)が当たったんだろう。

 

「――ッ!? 伏せろッ!」

 

 突然、茜が私の手を引き、そのまま一緒に地面へ滑り込む。

 それに一瞬遅れ、ノイズの飛ばした槍のようなものが、さっきまで私たちが居た場所を通過し、客席の壁を貫いた。

 

「……危なかった。大丈夫か?」

 

 そう言って、先に立ち上がった茜が、私に手を差し伸べる。

 

「あ、ありがと――」

 

 私は彼女の左手を掴んで立ち上がろうとして――――そのまま茜の後方へ投げ出された。

 

「――え?」

 

 あまりにも脈絡のない行動に一瞬思考が停止する。だが、直後にその行動の意味を理解させられた。

 彼女の頭上に、今まさに降り注ごうとしている、巨大な瓦礫を目にしたことで。

 

「あ、あか――」

 

 私の言葉が言い終わるよりも早く、瓦礫が目の前を覆いつくし、舞い上がった砂埃が視界を奪った。

 

 地面に転がった私は、すぐさま上体を起こす。

 すると、砂埃はすぐに晴れ、さっきまで茜が居た場所が露になった。

 

「…………茜?」

 

 そこにあったのは、無機質に積み上げられたコンクリートの塊。

 ただ、その下には見覚えのあるものがあった。

 

「……あ……あぁ」

 

 さっきまで私の手を引いていた左腕。それだけが、瓦礫の隙間から見えていた。

 

「……あぁあ……ああぁ」

 

 その腕の根元から、赤い水たまりが徐々に広がっていく。それが血だということを理解するのは、そう難しいことではなく――

 

「……ああぁ、あぁ、あああぁ」

 

 私の親友が、さっきまで動いていたものが、目の前で、私の、私を、私のせいで、茜が――――

 

「あああぁああぁああああぁあああああぁああああああぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから後のことは、あまり覚えていない。

 破片が私の胸を貫き、奏さんに抱きかかえられ……気が付いたら病院のベッドの上だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




※この小説はコメディ作品です。

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