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「響ったら、どこ行っちゃったのかしら……」
秋桜祭も始まって少し経ち、私は間もなく出番のある友人たちのステージへ向かうため響を探していた。
最近、いや、学院の校舎が謎の倒壊をしてからずっと響に元気がない。後からその件は、以前頻発していたノイズ発生事件に関連するものだと教えてもらったけど、詳細なところまでは聞けていない。守秘義務があるというのと、何より響が露骨に話題を避けるのだ。
(不安なことは相談してくれてもいいのに。でもきっと、しつこく聞きださない方がいいんだよね?)
確かに話してくれないのは少し寂しい。それでも深入りせずに見守ろうとしているのは、今の響から前を向こうという意思を感じたからだ。2年前の様に自嘲や懺悔をしているのではなく、少しでも乗り越えようとしている。だったら、私は過干渉をするべきじゃない。藻掻きながらも前へ進む響をそっと支えてあげることこそ必要なのだと思う。
(やっぱり、少し寂しいな……)
それでも、かつてのように一人で塞ぎ込んでいる姿は、もう見たくない。何か、私でも力になれることがあればいいのだけれど。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと、懐かしい気配とすれ違った。
「――え?」
その場に立ち止まり、振り返る。
完全に無意識だった。ただ何となく、そう、本当に理由もなく只々目線を後ろへ向けた。
視線の先に歩いていたのは、人だかりに埋もれる様に歩いていた、キャスケットを深々と被る一人の少女。帽子の隙間から見えた美しい白髪と、眼鏡の奥で輝き燃えるような真紅の瞳。そんな特徴的な見た目が気にならなくなるぐらい、彼女という存在そのものに意識を引っ張られていた。
「――――く。ねえ、未来ってば!」
「ッ! ひ、響?」
数分、あるいは数瞬か。
声をかけられてハッと振り返ると、そこには件の探し人である響が立っていた。
「どうしたの? そんな道の真ん中で立ってるなんて」
「えっと、その……」
何と答えたらいいものか言いあぐねながらも、再び先程の少女が歩いていた方向へ顔を向ける。しかし、そこは既に人混みで溢れており、まるで最初から存在していなかったかのように彼女の姿が見えなくなっていた。
「誰か知り合いでも見かけた?」
「……ううん、何でもない。それよりも、早く体育館に行こう。板場さん達のステージが始まっちゃうよ」
「えっ、もうそんな時間? 急がなくっちゃ!」
響は私の手を取って目的の場所へ歩みを進める。
さっきの妙な感覚は何だったのか。でもこれは、きっと数日もすれば忘れる、そんな些細な出来事だろうと思っていた。
その再会は思ったよりも早く、そして唐突に起こることになった。
◇
本日快晴。絶好のお祭り日和。
というわけで、私ことソフィアはリディアン音楽院が催している学園祭『秋桜祭』に来ていた。
え? 潜入は切歌ちゃんと調ちゃんに任せたんじゃないのか、だって?
語らねばなるまい……お前たちにも教えよう。私が学園に足を運んだ理由を。
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これは、軍用ヘリを隠してから意気揚々と偵察へ出かける二人を見送った後、ドクターから手のひら大の機械を手渡された。
「これは?」
「『簡易装者発見器』といったところでしょうか。その機器から特殊な電波を発信し、それに共振した人間から発生する微弱なフォニックゲインを計測する――要はソナーに似た原理で適合者候補を見つけてくれます。まあ、あくまで当たりをつける程度の精度でしかありませんが、候補者は大分絞り切れるでしょう」
なるほど、分からん。つまるところ、これを使って神獣鏡の装者を見つけるってことね。
でも待てよ? なんでこれを私に渡すんだ? 切歌ちゃんと調ちゃんはとっくに出発しちゃったけど。渡し忘れか?
「ウェル博士、どうして今になってそんなものを――まさか貴方、ソフィアを学園に行かせる気じゃ!」
「もちろんそのまさかです。大丈夫、ナスターシャ教授の許可は既に貰っています」
え? マジで? コッソリ抜け出さずに済んでよかった。姉さんに知られると絶対出してくれなさそうだし、マムがOK出してるなら何の問題もないな。
「そんなことを言っているのではない! そもそも、それなら何故二人を行かせたの!?」
「逆に聞きますが、貴女はお二人に潜入捜査なんて器用なことができるとお思いですか?」
「――ッ」
「十中八九、あちらの装者の目に留まるでしょう。ですから、いっそのこと彼女たちには囮になっていただき、その間にソフィアさんに調査していただきます。まあ囮とは言いましたが、
ドクターの言葉に思わず押し黙る姉さん。
まあ、そりゃそうだ。私でも、後からついていこうと考えてたぐらいだし。ドクターの想定している光景が在り在りと目に浮かぶようだ。
でも、姉さんの方は頭に血が上ってヒートアップしてらっしゃる。このままだと縛り付けてでも外に出さないとか言い出しそうだし、ここらで口を挟んでおくか。
「だからって、ソフィアに危険なことを――」
「大丈夫」
「……ソフィア?」
「私は平気。それに、人員を遊ばせておく余裕は、今の私たちには無い筈」
「流石はソフィアさん。よくわかっていらっしゃる」
私の説得を聞いて少し冷静になったのか、息を整える姉さん。
私に対してもそうだけど、切歌ちゃんや調ちゃんに対しても見せる優しさを見るに、この人ホントに悪役向いてないな。なんでテロ組織の広告塔(?)なんてやってんだろ。
「マリアさん。ソフィアさんの件とフロンティア計画に直接的な関係はありません。仮に計画が露見したとて、そこから彼女に繋がることは無い」
「良くも悪くも、ソフィアは日本政府にとって只の
「マム……」
二人の喧騒を聞きつけたのか、車いすに乗ったマムが格納庫へ降りてきた。
「マリア。ソフィアを大切に思う気持ちはわかりますが、彼女は貴女が思っているよりも強い。力ではなく、信念という意味で」
「ありがとう、姉さん。心配してくれて」
「ソフィア……いえ、私の方こそごめんなさい。そうだ、それなら帽子と伊達眼鏡を貸してあげる。それで変装すれば潜入もしやすいでしょう?」
え? いいの? 姉さんの小物、アイドル活動のために結構いいものを取り揃えているから少し興味があったんだよね。ラッキー!
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まあ、そんなこんなで姉さんに軽く着飾ってもらい、きりしらコンビには内緒で学園へ潜入したのだった。
白髪は束ねてそれを仕舞う様に帽子をかぶり、紅眼は眼鏡でカモフラージュ。何処からどう見ても一般人スタイルとなり学内を練り歩いてるけど、大丈夫だよね? 心なしか視線を集めているような気がしないでもないけど。
二人は何処かな? 一応内緒で来てるわけだし、見つからないようにしないと。あと特機部二の装者たちにも。
ドクター曰く『既存の装者に近づくとデータ収集の邪魔になりかねないので
さーて、次は何処の屋台を見て回ろうかな~。
「も~。響ってば、もうすぐ板場さん達のステージが始まるのに、何処行っちゃったの?」
入場時に貰った『うまいもんMAP』に視線を落としていた私は、その時すれ違った白いリボンの少女に気が付くことは無かった。
何か事件が起こると思った? 残念! 何もありませんでした。
もうほんと、びっくりするくらい何も起きなかったわ。最近激動のテロ生活を続けてた名残で常に気を張って真剣に、そう
夕暮れ時、少し遅れて集合場所に到着すると、目の前には態々ヘリでお迎えに来てくれたらしい待機組。そして――
「いい加減になさい! この戦いは遊びではないのですよ!」
マムからお説教を受けるきりしらコンビが居た。
え? 何々? どんな状況?
「まあまあ、それくらいにしましょう。待ち人がもう一人来たみたいですし」
「えっ?――ソフィア! どうして外にいるんデスか!?」
ちょっと気まずい雰囲気だったので離れた場所に居たのだが、ドクターに促されてみんなの傍へ向かう。
はい、ドクター。頼まれていた例のブツですよ。まあ、私はただ歩いてただけなんだけど。
「確かに受け取りました。ふむ、サンプル数は問題なさそうですね」
「どうして、ソフィも出かけていたの?」
「彼女には別件をお願いしていました。現状、私たちの中で自由に動けるのはソフィアだけですから」
どうやらマムは、切歌ちゃんと調ちゃんが囮役だったことは言わないようだ。流石に、お説教した上で実は潜入任務は嘘でした、なんてとてもじゃないけど言い出せないよね。
「必要最低限のものは揃いました。あともう一押し欲しいのですが……そうだ、お二人が交わしてきた決闘の約束、私も1枚噛んでよろしいですか?」
決闘? なんじゃらほい?
ドクター曰く、切歌ちゃんと調ちゃんは潜入中に特機部二の装者と案の定出くわし、なんやかんやあって戦う約束をしたとのことだ。事件が起きてたのはそっちだったかー。
一昔前の少年漫画ばりに胸熱っぽい展開だけど、そりゃあマムも怒るわな。マムはどちらかというと少女漫画派っぽいし。
「何をする気?」
「いえ、ただ蒔いた種の芽を出してあげるだけですよ」
顔を照らす夕日も相まって、ドクターの顔はニチアサに出てくる悪の科学者のような悪い顔に見えた。
いや、実際何か企んでるんだろうな、ドクターだし……。
祝!393、本編に本格参戦!
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