装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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暁月に裂く(はな)

 日も沈み、あたりが静寂に包まれた深夜0時。場所は東京番外地特別指定封鎖区域『カ・ディンギル跡地』。

 そこには事の発起人である切歌さんに調さん、そしてウェル()の3人が立っている。ナスターシャ教授とソフィアさんはヘリの中で待機しており、マリアさんも適当な口述を並べて待機させている。今回、私の目的は勝利ではなく、戦闘を可能な限り長引かせることだ。数的互角を取って、万が一にでも早々に決着がついてしまっては元も子もない。

 まあ3人については、ヘリの中から此方の映像を見ているものの、音声は拾っていないから気にする必要もないだろう。

 

(そろそろ頃合いですかね)

 

 決闘の合図代わりに数体のノイズを召喚すると、間もなくして特機部二の装者3人がやってきた。

 

「またお会いしましたね、お三方」

「ウェル博士!」

「今日の私はただのお目付け役。決闘とやらの邪魔はしませんから、どうぞお好きになさってください」

 

 私は言うべきことを言い終えて後ろに下がる。そして逆に、切歌さんと調さんが前に出た。

 

「余計なオーディエンスは居ますが、今度こそ決着をつけてやるデス!」

「私達と貴女達。どちらが正しいのか、ここではっきりとさせる」

 

 

 

   Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)

   Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)

 

 

 

 聖詠を紡ぎ、二人がシンフォギアを纏う。それを見て、対峙する特機部二の装者達もギアを纏い、5人による乱戦が始まる。数体呼び出していたノイズは大した時間稼ぎにもならず、戦いの余波に巻き込まれて消滅する。

 やはり、あの程度では戦力にもならないか。

 

「くッ! ――どうしても戦わないといけないの!? 装者同士、人間同士で争う理由なんてない!」

「いい加減しつこいデス! ジャマしてるのはそっちだって何度も言ってるデスよ!」

「私たちは世界のために動いている。それを阻むと言うのなら、貴女達こそが悪」

「何を訳の分かんねーことを! お前らのやってることの、どこが正義だっていうんだよ!」

 

 正義か悪か。

 若い。若いですねぇ。正義とは勝利であり支配、敗者こそが悪であり隷属。そして、勝利をもたらす者こそが英雄と呼ばれるのだ。

 『英雄は人の手で作られる』かつて貴女はそうおっしゃいましたね、ソフィアさん。そして同時に、私の望む英雄など存在しないと。ならば、生み出してみせましょう! 私が望む英雄を、私自身の手で! この戦い(実験)は、そのための重要なサンプル!

 

「一体何を企てている、フィーネ! いや、F.I.S.!」

「企てるだなんてとんでもない。調さんが言ったでしょう? 世界のために動いていると」

 

 私はこちらを睨みつける風鳴翼を見下ろしながら、3ヶ月前に発生した『ルナアタック』事件によってその一部を砕かれた、天上に輝く欠けた月を指さす。

 

「月の落下による人類滅亡の被害を少しでも減らすこと、それが我々『フィーネ』の使命!」

「月の、落下!?」

「馬鹿な! 月の公転軌道は3ヶ月前から計測している! そんな結果が分かれば、各国機関が黙っているはずが!」

「公表するはずがないでしょう! 人は何処まで行っても醜い生き物なのだから!」

 

 いやはや、なんともおめでたい考えだ。この世の中、性善説で成り立つほど甘くはないというのに。

 だからこそ世界は必要としているのだ。人間を超越した"英雄"の存在を。

 

「まさか、一部の連中は既に自分らだけ助かる算段をしてるってのか!?」

「だとしたらどうしますか? いずれにせよ、月の落下など人の手に余る災厄。それを退けるのならばそれこそ、英雄でもなければ不可能でしょう。3ヶ月前、一部とはいえ月落下の脅威を防いで見せた彼女のようにね!」

「ッ――!」

 

 天月茜の話題を聞いて、立花響の動きが明らかに悪くなる。そうだ、その調子だ。装者同士の戦い、それによって各々ギアのフォニックゲインが高まるこの状況こそが望ましい。

 戦闘を開始してから約10分。そろそろか……

 

「うぐ――――がぁッ!」

 

 そしてタイミングを計ったかのように、立花響が苦しそうに胸を押さえてその場に蹲った。

 

「立花!? どうした! 何があった!?」

「ぐぅッ、ぅあぁぁッ、ぁぁぁァァァアアアアアア――――ッ」

「おい! 大丈夫かよ!」

 

 突然容体が急変した仲間を見て、残りの二人が立花響に駆け寄る。その姿を見て気圧されたのか、切歌さんに調さんも攻撃の手を止めてしまった。

 

「何、あれ……いったい何が……?」

「始まりましたか」

「……え?」

 

 疑問を投げかける調さんをよそに、私は必死に痛みに耐えている立花響を観察する。

 なるほど、やはり私の考えは間違っていなかった。あとは彼女次第ですが、やはりこの様子では……

 

「てめぇ! コイツにまたなんかしたのか!」

「私が貴女方の戦いに割り込めるわけないでしょう。ただ、以前打ち込んだ薬品の効果が現れただけです」

「以前打ち込んだ……まさか廃病院の!? だが、メディカルチェックでは何の異常も!」

「出ないでしょうねぇ! 何せ薬の主成分は、貴方達の纏うシンフォギアと親和性が非常に高い! いくら検査したところで、体内に宿している聖遺物の反応に邪魔されてとてもじゃないが見つからない!」

 

 こちらを睨みつける風鳴翼を無視し、私は意気揚々と話を続ける。

 

「響さんに打ち込んだのはLiNKERの1種。効果は従来のそれよりも高いですが、聖遺物との結びつきが非常に強い、それこそ響さんのように体内に聖遺物を宿す(・・・・・・・・・)でもない限り効果を発揮しない不良品でして」

 

 それも、ただ打ち込んだだけでは何も起こらず、戦闘などで体内のフォニックゲインを高めてやる必要がある。だからこそ、こうして装者同士の緊迫した戦いの場を設けたのだ。

 

「LiNKERだと!? それに、立花の適合率を上げて、いったい何を考えている!」

 

 -LiNKER-

 本来はシンフォギアへの適合係数が低い者に対し、係数不足分を補うために投与する薬品。

 すなわち、LiNKERの投与は立花響の適合率を上げることになり、聖遺物との繋がりが強くなることで装者の戦闘能力が大きく上昇しかねない行為。敵に対して行うことはあり得ないだろう。現に私は、廃病院で戦闘を有利に進めるために適合率を下げる薬品を散布している。

 まあ、それについては常人の考えの範疇なら、の話だが。

 

「私は偶然とある報告書を手に入れる機会がありまして、そこには薬品の配合表と投薬記録が記載されていました。融合症例第零号『天月茜』への、ね」

「天月、茜だと……ッ!?」

「まさかそれは、櫻井女史の!」

 

 文献によると、天月茜と融合しているシンフォギアは非常に安定しているため、更なるデータを取るために適合率を上げて均衡を崩そうとしていたらしい。その文献内で櫻井了子は薬品に対して『LiNKERと同様の効力を有しているはずだが、天月茜に対して何の効果も出ない失敗作』と結論付けている。

 しかし、私はその発想を逆転させた。

 この特殊LiNKERの影響がなかったということは、天月茜は特殊LiNKERを投与されても影響の出ないほどに適合率が高かったということだ。つまり、同じ融合症例である立花響にこの特殊LiNKERを投与すれば、そして高い適合率で安定すれば、あわよくば第二の天月茜になれるかもしれない! そうすれば、英雄のサンプルがまた一つ増える! 英雄への道がまた一つ舗装される!

 そう思っていたのだが――

 

「響さん。貴女では天月茜へと至ることはできないようですね」

「な、にを…………」

「その程度の症状でしたら、今すぐ戦闘を止めて然るべき機関に診せれば命に別状はないでしょう」

 

 聖遺物と文字通り一心同体となっている天月茜と、聖遺物に侵食されているだけの立花響。この両者は比べるべくもなかったということか。

 まあ、この結果も研究の役に立つので良しとしよう。

 

「貴女方は確かに邪魔者ですが、我々の倒すべき敵ではない。私個人の意見を言わせていただければ、敵対しない限りは無視しても問題ないと考えています」

「てめぇ! 響をこんなにして何をいけしゃあしゃあと!」

「だからこうして、私は撤退を促しているじゃないですか」

 

 両手を上げて戦闘の意思がないことをアピールする。

 最初から私にとって、彼女たちは障害だという認識はない。結局のところ、彼女たちもフロンティア計画も英雄を彩るための画材の一つに過ぎない。

 

「ちょ、博士! 何を勝手なことを言っているのデスか!」

「私はあくまで自分の意見を言ったまで。それに、この場において戦闘継続の決定権を持つのは私ではない。切歌さんと調さん、お二人の方ですよ」

「私たち……?」

「ええ。苦しむ仲間を抱える彼女たちへ追い打ちをかけるも、情けをかけて見逃すも、貴女達の裁量次第です。さあ、どうしますか?」

「わ、私は……」

 

 私としてはどちらでもいい。

 必要なデータは既に取得済みであり、仮に捕縛できたところで今の設備では碌に解析もできないため、私の中で立花響の重要度は最早そこまで高くない。しいて言えば、このまま逃がしてくれた方が色々と利用できそう、ぐらいのものだ。

 そんなことを考えていると、未だ痛みが治まらないはずの立花響が膝を震わせながらもその場に立ち上がった。

 

「お、おい、響! 無理すんな!」

「大丈、夫です。これくらい……」

「立花……」

「それに……これくらいで立ち止まっているようじゃ、茜が帰ってきたときに顔向けできない……!」

 

 胸元の内側からガングニールが皮膚を突き破り、額に脂汗を滴らせながらも、武術の構えを取る立花響。無様にも映るその姿は一瞬、ほんのわずかだが、私が切望してやまない英雄の姿に少し被って見えた。

 

「あいつ、あんなになってまで……切ちゃん?」

「――――あーもう! 今夜は仕切り直しデス! 次こそはコテンパンにやっつけてやるんデスから、首を洗って待ってるデスよ! ほら行きますよ、調!」

「あっ、切ちゃん待って!」

 

 案の定というべきか、二人は特機部二の装者たちに背を向けてその場を後にした。

 私もそのあとに続こうと歩みを進め、その傍らで彼女ら3人に視線を向ける。相変わらず射殺さんばかりの視線でこちらを見ているが、向かってくる様子はない。

 仮に片方が戦闘・もう片方が立花響を病院へ運ぼうとしたところで、2対1では足止めがせいぜいであり、下手をすれば立花響の移送を妨害されかねない。彼女の命を最優先にした判断、といったところか。

 

 今のところ最良(Best)ではないが、それでも比較的順調(Better)に進んでいる。あとは神獣鏡の装者をどうやって調達するかだが、これについてはナスターシャ教授の考えに乗ってみるのも一興かもしれない。

 

(いずれにせよ、舞台は整いつつある。あとはあなた次第ですよ、ソフィアさん)

 

 誰も見ていないであろう中で、私の口角は自身の感情に比例するように大きく釣り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

 向こう側の装者との戦いを中断し、ドクター含む3人がヘリへ帰ってきた。笑顔ニッコニコのドクターと対照的に、切歌ちゃんと調ちゃんの表情は随分と曇っている。

 随分と滅入ってるな。どれどれ、そんなときは……。

 

「……ソフィア? その、ワタシ――わふっ」

「ソ、ソフィ? 急にどうし――むぎゅっ」

 

 どうだ、これぞマリア姉さん直伝『親愛の(ラブリー)ハグ』! 口下手な私でも、優しく抱きしめてあげれば相手を慰めてあげられるのだ! ちなみに効果の程はF.I.S.に居た頃から何度もやっているので折り紙付きだ。

 今日の潜入捜査以外ずっとニートしてたし、こんな時ぐらいは役に立たないとね。

 

「落ち着いたか?」

「……はいデス」

「ありがとう、ソフィ」

 

 私のスキンシップによって表情が少し和らいだ二人。

 いえいえ、どういたしまして。この程度、圧倒的包容力を持つ姉さんに比べたら微々たるもんですよ。

 

「それでは改めて問いますが、何故戦闘を中断して帰還したのですか? それに、あちらのガングニールの装者に起こった症状は一体?」

 

 切歌ちゃんと調ちゃんが落ち着いたところでマムが3人に、正確にはドクターに視線を向けながら問いかける。戦闘シーンはモニターで確認してたけど、音声までは拾えてなかったから詳細はよくわかってないんだよね。

 でも、最初から疑うのは流石にかわいそうじゃないかな? 十中八九ドクターが裏で手を引いてるんだろうけど。

 

「懐疑の目で見られているようなので弁明しておきますが、私が立花響に施したのは特殊なLiNKERの投与のみ。あの症状は彼女自身の潜在的な原因によるものです」

「融合症例……」

「その通り。あれは人間と聖遺物の融合が進んだ結果です」

 

 ほえ~。なんだかよくわからないけど、結構な爆弾抱えながら戦ってたんだな、向こうのガングニール使い。

 それにしても、あっちの3人の装者、特にオレンジっぽいガングニール装者はどこかで見覚えがある気がするんだけど……どこでだったっけな?

 

「LiNKERの投与……そんなことをして、貴方はいったい何がしたかったの?」

「そうですね。神獣鏡の装者に投与するLiNKERのためのデータ取り、というのが半分。もう半分は、正直私の趣味ですね」

「趣味、ですか。生憎ですが我々にそのような余裕は――」

「それがソフィアさんに関わることだとしても?」

「――ッ!」

 

 え? 私? なんでそこで私が出てくるの?

 ……あっ、そういえば私、F.I.S.では研究対象になるぐらいの謎存在だったね。すっかり忘れてた。

 私の名前を出した途端、マムも姉さんも押し黙っちゃった。ドクターも分かってて私を出汁にしたな。流石はマッドサイエンティスト。あくどい、実にあくどい。

 

「まあ、この話はいつでもできますし、今はさっさとこの場を後にしましょう。それに、これからのことについてじっくりと話し合う必要もありますから」

「……そうですね。まずは一刻も早くこの場を離れましょう」

 

 これは、いつでもできると言いながら結局説明しない流れですね分かります。

 ドクターに促され、マムの操縦によって我らが軍用ヘリ(神獣鏡ステルスコーティング付き)は隠れていた瓦礫の中から飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 




この小説で誰よりも生き生きしているのはウェル博士な件。
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