装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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混沌の覇者

――銃撃戦の火蓋が切られる少し前

 

 

 

 ソフィアさんがこの場を離れてから数十分が立ち、私は交渉が行われているであろう高層ビルを仰ぎ見る。

 交渉成立なり決裂なり、もうそろそろ動きがありそうなものだが……。

 そんなことを考えていると、サングラスにスーツ姿で日本人離れした体格の男たちが此方へ向かって歩いてきた。

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス博士だな」

「そういうあなた方は米国政府のエージェント、といったところでしょうか。いったい何の用――」

「大人しく我々に付いて来てもらう」

 

 有無を言わさぬ態度でこちらに詰め寄るエージェントたち。

 なるほど。やはり米国はナスターシャ教授らを切り捨てたか。こちらには虎の子であるソロモンの杖があるが……私としてもフロンティアの起動は必須。

 それならば――

 

「私を連れていきたいということは、身の安全は保障してくれるという認識でよろしいですか?」

「そうだ。今ならお前は"テロリストに誘拐された被害者"として扱われる」

 

 上から目線の物言い、なんとも大国らしい傲慢さだ。

 まあいい。お前たちが私の望むものを提供する限り、私はお前たちに益を分けるのも吝かではない。

 

「でしたら従いましょう。あぁ、そうだ。それはほんの手土産替わりです」

 

 そう言って、私は先程までソフィアさんが座っていた椅子に置かれている、縦長のケースに視線を向ける。その中に入っているのはソロモンの杖だ。連中にくれてやるのは惜しいが、これで奴らも私を無下に扱うことはできないだろう。

 エージェントの一人、上官らしき男がケースを手に取り中身を確認する。

 

「お前が確保していた聖遺物か。確かに受け取った」

「このまま、あなた方についていけばよろしいので?」

「その前に、かつてF.I.S.が保持しお前たちが強奪した3()()()()()()を回収する。場所を教えてもらおう」

 

 ほう、3つときましたか……。

 

「ネフィリムは現在別の場所へ隠してあります。それと、神獣鏡は――ここに」

 

 私は白衣のポケットからケースに入った神獣鏡のギアを取り出す。こうなることを見越して、既にヘリへ取り付けられている神獣鏡をダミーのものと交換していた。そしてネフィリムは、運搬する機材の中に紛れ込ませておいたため既にヘリの中には存在しない。

 まったく、こうも杜撰な管理でよくテロリストなどできたものだ。

 

「それと3つ目についてですが、彼女はナスターシャ教授の命令で別行動をとっていまして……通信端末も持たせていない(・・・・・・・・・・・・)手前、何処にいるのか私は把握していません。この街に居ることは確かなのですが」

「それならば、ちょうど御誂え向きの道具がある。これを使って炙り出せばいい」

 

 エージェントの上官は得意げな笑みを浮かべ、たった今受け取ったばかりのケースを持ち上げる。

 

「おや、いいのですか? 天下の米国がテロ紛いの行為など」

「問題ない。なぜなら"テロを起こしたのは武装組織フィーネ"ということになるのだからな」

 

 相も変わらず、他人を利用するのは慣れているということか。大方、マスメディアで世論操作する準備もできているのだろう。つくづく薄汚い連中だ。

 せいぜい今のうちに甘美な美酒に酔っているがいい。お前たちもまた、英雄再誕のための礎となるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デパートに大型書店に展望台。

 記憶喪失になってから初めて見るものばかりだが、不思議と目新しさはあまり感じない。やっぱり、昔はこういう場所によく来てたんだろうか?

 いまいち悲壮感がないから忘れがちだけど私、記憶喪失系ヒロインなんだよね。ついでに隻腕。昔はこの見てくれのせいで、見てるこっちが不安になるくらいマリア姉さんが構ってくれたっけ。

 でも、あの過保護っぷりは私の薄幸少女(見た目詐欺)だけが理由じゃない気がする。 よく姉力だ何だと言ってたけど、実は本当に妹が居るのかな? 同じ妹枠として話が合いそうだし、今度それとなく聞いてみよーっと。

 

 さて、どうして私がこんなに脳内で独り言を言っているのかというと――

 

「ノ、ノイズだ! 逃げろぉッ!」

「いやぁっ! 死にたくない!」

 

 目の前が絶賛大混乱中だからだ。

 え? なんでノイズ? しかも大量に。こんな段取り聞いてないだけど!? もしかしたら、ソロモンの杖を持っているドクターの身に何か起こったのか、あるいはドクターの気が変わったのか……とにかく戻って問いたださないと!

 私は踵を返し、さっきまで歩いてきた道へ折り返そうとした、その時――

 

 

 

   ――Balwisyall nescell gungnir tron――

 

 

 

 悲鳴と喧騒のなかに透き通るような声で紡がれた聖詠。

 それを聞いてしまった私は、理由もわからず、その(うた)が聴こえた方向へ走り出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁッ!」

 

 そこで見つけたのは、ガングニールの少女の姿だった。

 彼女が背後に立つ1人の民間人を守るため、多勢のノイズに対して拳を振るう。そんな彼女に私は、強い既視感を覚えた。

 

「――――ッ」

 

 刹那、頭蓋に亀裂が入るかと思うような激しい痛みに襲われる。

 未だかつて感じたことのない鈍痛に思考が剥がれ落ち、直立に立つことすらままならない。だけど視線だけは、彼女を(しか)と捉えていた。

 

「あ、ぐ――ッ!」

「ッ!? 響ぃっ!」

 

 直後、あの夜のように彼女は胸を押さえ動きが止まる。その時間はわずかだったが、その機を逃さなかったノイズによって彼女は弾き飛ばされた。

 その光景を見て、思考がはっきりとしないはずの私の脚は彼女の下へ駆け出す。ただ我武者羅に。無茶苦茶な行動だという自覚すらないまま、身体を突き動かす衝動のままに私は走っていた。

 そのまま、彼女へ駆け寄ろうとする民間人との間に割り込み、仰向けに倒れる彼女の近くで片膝をつく。そして、未だに熱を帯びている彼女の胸元に右手を触れた。

 

「あな、たは……?」

 

 右掌から焼けるような音がする。が、構うものか。

 私は右手に力を籠め、神へ祈るかのように目を閉じる。いや、祈るのは神などではなく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   Geirrinn nam aldri stathar e lagi gungnir tron(堕ちることのない魂の穢れ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その身に纏うは神槍。

 純白の鎧と、身の丈を優に上回る巨大な槍を携え、戦乙女が戦場に降り立った。

 

 私は未だに収まらない頭の痛みを無視し、横たわる元装者の少女を庇うようにノイズの方へ立ち向かう。

 何故だろう? この子を死なせてはいけない気がする。そう思った瞬間、私は無意識のうちに変身していた。

 一斉に襲いかかってくるノイズたちを、私は槍の一振りで容易く薙ぎ払う。

 

 (頭が酷く重い。なのに、身体は羽のように軽く自在に動く。なんだこれ? まるで、私が私じゃないみたいだ……)

 

 現実味のない、長い夢の中にでもいるような感覚に陥りながら、それでもノイズを殲滅していく。やがて襲いくるノイズたちを倒し終えると、そこには私以外に立っている者は誰もいなかった。

 いや、厳密には二人だけいた。それは倒れ伏すガングニールの装者、それと彼女が守っていた民間人だ。

 私はふらつく身体を必死に御しながら、気を失っているガングニール装者を横抱きで抱え、そのまま道の端に運び優しく寝かせた。

 

「響っ!」

「大丈夫。気を失っているだけだ」

 

 此方へ駆け寄ってきた民間人の少女に言葉を返す。大きな白いリボンを身に着けている彼女は、おそらくガングニール装者の関係者なのだろう。酷く心配している様子だが、私がこのままここに居てもできることは無い。

 未だに思考がはっきりとしないまま、私はこの場を後にしようと立ち上がる。すると、ふと、白いリボンの少女と目が合った。

 

「え……っ?」

 

 何か信じられないようなものを見る目をしていた。目の前にいる私を見て、その情報をうまく消化しきれずに自分の中で何度も何度も反芻しているような、そんな表情だ。

 数秒か、あるいは数瞬か。

 白いリボンの少女は重々しくその口を開いた。

 

「……あ、かね?」

 

 不意に、視界が歪む。その言葉を投げかけられた瞬間、同時に先程よりも酷い頭痛に襲われ、思わずその場に膝をついた。

 

「……あぁあ……ああぁ」

 

 頭の中から何かが這い出るかのような不快感に襲われる。脳味噌を鷲掴みにして揺さぶられているような、耐え難いほどの痛み。

 私は歯を食い縛り、なんとか堪えようとする。だけど痛みは一向に引く気配がない。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「……ああぁ、あぁ、あああぁ」

 

 脳の奥で映像が浮かび、即座に消えていく。それを繰り返す度に、頭痛はより一層激しさを増していった。

 

 

  ――安心しろ、響。必ず戻る――

 

          ――帰らない。少なくとも、お前が居る限りな――

 

    ――フィーネ。お前は、何のために力を欲する――

 

 ――今度また、未来と一緒に3人で来よう――

 

        ――泣くな、キャロ。また直ぐに逢える――

 

 

 

 断片的な、それでいて強烈なイメージが幾つも、幾つも重なり合う。血だらけの自分の姿。誰かの死体。燃え盛る建物。降り注ぐ火の手。

 私の中に、別の記憶が入り込んでくる。

 ……いや、違う。これは、私が経験した、本当のことの記憶。そうだ。私は一度……

 

「…………み、く?」

 

 そして、最後のひとつが消えると同時に私は意識を失った。

 

 

 

 

 


 

「し、しっかりして!」

 

 シンフォギアを纏うだけで命が危うい筈だった幼馴染。そんな彼女を、シンフォギアを奪うという形で救った白髪の少女。

 そんな彼女が、私の名前を呼んだのを最後にその場に倒れてしまった。

 

「茜……本当に茜なの……? でも、茜は2年前に……」

 

 正直、訳が分からなかった。

 以前の茜とは似ても似つかないはずの白髪紅眼。それなのに、私の口から彼女の名前が無意識に零れた。そのうえ、彼女も私の名前を答えてみせた。死んだと思っていた、もう二度と会えないと思っていた親友を目の前に動揺を隠せない。

 一体、彼女に何があったというのだろうか。

 混乱と疑問が頭の中を駆け巡る。

 

「ここに居たか」

 

 直後、不意打ちのように、どこからともなく黒スーツを着た男たちが現れた。

 

「管理番号CeSD-a00を発見。直ちに回収する」

「なっ、やめて! この娘に何をする気!?」

 

 どこかに連絡を入れたと思しき男たちは、そのまま彼女を連れ去ろうと手を伸ばしてきた。私はそれを、彼女の上に覆いかぶさるようにして阻む。

 

「……この民間人はどうする。始末するか?」

「いや、待て。確かこの女は……やっぱりだ。ウェルキンゲトリクス博士が手渡したリストに入っている」

「なら、ちょうどいい。一緒に回収するぞ」

 

 そう言うや否や、男たちは彼女から私を無理やり引きはがした。

 

「いやっ! 離して! 貴方達、いったい何をす――」

 

 私が言葉を紡ぎきる前に、私の首元へ稲妻のような衝撃が走り、そのまま意識が刈り取られた。

 

「ひび、き……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公が何かシリアスオーラを放っていますが気のせいです。


今回、トリシューラに続いて新たにグングニル、もといガングニールを手に入れた主人公。
分かる人は次に登場する聖遺物もわかっちゃうかもしれませんが、実際に出てくるのは暫く先になるかと思います。
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