装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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久々なうえに展開が遅くてスマヌ
ここからはマリアのターン


悲しみの瑠璃色

 苦しい。上手く息ができない。心臓が締め付けられる。

 必死に藻掻いても、いくら力を込めて足掻いても、手足の自由がきかない。まるで、自分の身体が自分のものでなくなってしまったような感覚。

 どうして? どうしてなの? 私はただ、響や茜にこれ以上傷ついてほしくなかっただけなのに。何を間違えてしまったの……?

 

「うぐ……ぁ……」

 

 喉の奥から絞り出した声は、自分で聞いていて驚くほど弱々しいものだった。

 そして、全身を包んでいた冷たい感触が消えると同時に全身の力が抜け、膝から崩れ落ちる。

 

「大丈夫か、未来?」

 

 地面に倒れる既の所で茜に抱き留められた。彼女は優しく微笑みかけると、私の頭をそっと撫でてくれる。だけど、その表情はどこか辛そうだった。

 

「ごめんなさい、茜……私……私は……」

「謝るのはこっちの方だ。未来は悪くない。だから気にするな」

 

 私を抱き寄せたまま、茜は優しい声で囁きかけてきた。

 どうして? なんで、私を気にかけられるの? 私はただ、自分の我が儘を貴女に押し付けて酷いことをしたのに。

 

「そうだ。まだ未来には言っていなかった」

 

 突然、何かを思い出したかのように呟いた茜は私を抱え直し、再び立ち上がらせる。

 そして、私と視線を合わせるようにして顔を近づけると、真っ直ぐな瞳で見つめてきた。

 

「ただいま、未来」

「あ……っ」

 

 瞬間、私の視界が歪んでいく。涙が溢れ出し、頬を伝って流れ落ちていく。

 ずっと聞きたかった言葉。もう叶わないと思っていた願い。それを今、目の前にいる彼女が口にしてくれた。

 嬉しかった。とても幸せで温かい気持ちになった。

 

「……おかえり、茜。もう、待たせ過ぎだよ?」

「すまなかった」

 

 私が涙を流しながらも笑顔を浮かべると、彼女は少し困ったように頬を掻いた。

 だけど、次の瞬間。

 

「■■■■■■■■■■ッッッ!!」

 

 耳を劈く雄叫びが響き渡る。それと同時に、遠くで巨大な土煙が舞うのが見えた。茜はすぐに状況を把握するために周囲を見渡す。

 私も釣られるように視線を動かすと、そこには見たこともない巨大な化け物の姿があった。全身が岩のような皮膚で覆われていて、顔は縦に細長く目や鼻などの器官が見当たらない。代わりに大きな口が一つだけ存在していた。

 

「あれは、いったい……?」

「ネフィリムか。未来を安全な場所へ送り届けようにも、アイツは邪魔だな」

 

 困惑している私とは対象的に、茜は冷静に答える。そしてそのまま、茜は私を左腕で抱きかかえた。

 

「あ、茜?」

「一気に駆け抜ける。しっかり掴まっていろ」

「――うんっ!」

 

 私は返事をすると共に、彼女の首元に両腕を巻き付ける。それを確認した茜は地面を強く蹴った。すると、まるでジェットコースターに乗っているかのような浮遊感に襲われる。

 だけど、恐怖はない。寧ろ心地良さすら感じていた。風を切る音が耳に届くよりも先に景色が流れていき、瞬く間にあの化物へと接近していく。

 

「……あれは」

 

 茜の視線の先。そこには響たちのようにシンフォギアを纏って戦う女の子が2人と、力なくその場にへたり込んでいる1人の女性が居た。

 様子がおかしい。それに、彼女たちの周囲にはノイズの大群が取り囲んでおり、完全に逃げ場を失っていた。

 

「まずいな……少し寄り道するぞ、未来」

 

 そう言うや否や、茜は再び進行方向を変え、右手に持つ槍を力強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見えてきました。フロンティアです』

「あれが……?」

「すっごい大きいデス……」

 

 海上に浮かぶ巨大な遺跡。あれが、私達が復活させようとしていたフロンティア。その光景を目の当たりにして、私達は思わず息を呑む。だがそれも当然だ。何故なら目の前に広がるのは想像を絶するほどの大きさを誇る建造物だったのだから。

 だが、今は余計なことを考える暇など無い。あの子を早く助けなくては。

 

『米軍は既に上陸しているようです。各々、やるべきことは分かっていますね?』

「うん。フロンティア起動の中核になるネフィリムの無力化。そして」

「ソフィアの奪還デス!」

『よろしい。私はヘリで待機します。では、作戦を開始しなさい』

 

 マムの合図と共に私達はヘリから降下、そのまま空中へと舞い上がる。ここから先は戦場。何が起こるか分からない以上、油断は禁物だ。

 そして着地すると同時に走り出し、そのまま一直線に遺跡へと向かっていく。既に米国軍は突入を開始しているようだが、どうやら向こうはこちらの予想以上に焦っているようだ。

 

「マリア! あれを!」

 

 調が指差した方向を見ると、そこにはネフィリムと戦う兵士の姿があった。私たちが最後に見た時よりもさらに大きくなり、大の大人を優に上回るサイズへと成長していたネフィリムは、その体格からくる巨腕を振り回しながら暴れていた。

 

「クソッ! さっきまで大人しかったってのに! 鎮静剤持ってこい!」

「それより、脱走した"CeSD-a00"はどうなった!?」

「神獣鏡の装者と交戦したらしいが……」

「放っておけ! 今はネフィリムだ!」

 

 米兵の怒号を聞きながら私たちは駆け抜けていく。どうやら、ソフィアは上手く逃げ出せたらしい。彼女の安否も気になるが、今はネフィリムを食い止めるのが先決!

 

「そこまでよ! 大人しくネフィリムを渡しなさい!」

「なッ! お前ら、いつの間に!?」

 

 私の言葉に反応し、兵士たちは一斉に銃を構える。だが、彼らが引き金を引くより早く、米兵相手に暴れまわっていたネフィリムがこちらへ矛先を向けた。

 その動きはまるで獲物を見つけた肉食動物のように素早く、一瞬にして私との距離を詰めると、巨大な拳を叩きつけてきた。

 

「ぐぅッ!」

 

 咄嵯に展開したマントで防御するが、あまりの衝撃に足下が大きく陥没する。

 

「マリア!」

「は、ははは……。いいぞ、矛先が向こうへ向いた! そのままネフィリムの餌にしてくれる!」

 

 地面を揺らす轟音と振動に思わず体勢が崩れそうになるがなんとか堪える。だが、そんな隙を見逃してくれるほど相手は甘くはなかった。

 すかさず追撃を仕掛けてくるネフィリムに対し、私はアームドギアで受け止めるが、やはりパワー負けしてしまい、徐々に押し込まれてしまう。

 このままでは不味い……ッ!

 

 だが、そんな状況を見ていた指揮官らしき男は、持っていたアタッシュケースからソロモンの杖を取り出し、それを天高く掲げる。

 瞬間、男の持つソロモンの杖が強い光を放ち始め、同時にノイズたちが次々に出現し始めた。

 

「ノイズ……!」

「ちょうどいい。お前達はこの場で始末し、すべての汚名を被ってもらう!」

「なっ、ふっざけんなデス!」

 

 調と切歌は次々と召喚されていくノイズを切り伏せていくが、さすがに多勢に無勢だ。私も助けに入りたいが、ネフィリムの相手で精一杯だ。

 ネフィリムの力が一瞬緩んだ隙にバックステップで距離を取り、そのまま勢いよく懐に飛び込みながら蹴りを放つ。

 しかし、それを予測していたのか、ネフィリムはその攻撃を避けるどころか逆に自ら前に出て私の足を掴んできた。まさかの行動に驚く間もなく、ネフィリムはその大きな手で私を思い切り振り回し、そのまま地面に叩きつけるた。

 

「がはぁッ!」

 

 全身に走る鈍痛と激しい吐き気に視界が激しく明滅し、意識が遠のいていく。それでもなんとか意識を繋ぎとめるが、脚に上手く力が入らない。

 するとネフィリムは、私に興味を無くしたのか、ソロモンの杖を持つ指揮官の男へ向き返った。

 

「あはははは! ネフィリム! さっさとその女を――ネフィリム? 何故、此方を向いているんだ……?」

「■■■……」

「よ、よせ! こっちへ来るな! う、うわあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 男が怯えた表情を浮かべると同時、ネフィリムが男の身体を掴み上げ、そのまま丸呑みにしてしまった。

 あまりの出来事に呆然とする私たちだったが、此方が我に返るよりも早くネフィリムの身体に変化が起こり始めた。

 全身に赤い模様のようなものが広がり、それが脈打つように輝き始める。そして次の瞬間にはその肉体を変質させていき、やがてそれは先程までの巨体ではなく、更なる異形の存在へと変貌した。身体は肥大化して筋肉質になり、頭部からは角のような突起物が生えて牙のように鋭く尖っている。牙や爪なども鋭く伸びたそれは、まるで神話に登場する怪物のような姿だった。

 

「一体、何が……?」

 

 私の言葉を余所に、ネフィリムの胸元に存在する"ソロモンの杖"を想起させるような鎧に光が灯る。すると、そこから無数の光弾が発射され、辺り一面に降り注いだ。

 それらは私たちに降りかかることは無かったが、その光が着弾した地点から無数のノイズが出現した。

 

「アイツ! まさかソロモンの杖を取り込んだのデスか!?」

 

 切歌の言葉に私は思わず息を飲む。ただでさえ厄介な相手だというのに、さらにパワーアップされたとなればもはや手に負えない。

 しかし、そんなものはお構いなしにネフィリムは私たちに向かって突撃してきた。

 私は咄嵯に槍を構えようとするが、未だに私は足に力が入らず、立ち上がることすらままならない状態だった。このままでは避けきれずに押し潰されてしまう。

 

(動け……動いて、私の脚! ここで倒れたら、また私は――)

 

――絶望しかない暗闇へ逆戻り――

 

 脳裏に過った最悪のシナリオを振り払いながら必死に力を込めようとするが、私の意志とは裏腹に身体は思うように動かない。

まるで鉛のように重くなった四肢はまるで役に立たず、その間にもネフィリムは猛スピードで迫ってくる。

 

「調! マリアを!」

 

 切歌の言葉に調は無言で頷き返すと、ノイズ達を凪ぎ払いながら、こちらへ急いで駆けつけてくれる。

 だが、それも間に合いそうにない。もう目の前にまで迫ってきており、もはや回避不可能な距離まで来てしまっていた。私は覚悟を決め歯を食いしばる。

 

「このぉッ!」

 

 調は円形鋸のアームドギアをブーメランのように投擲する。が、ネフィリムはそれを何事もないかのように素手で叩き落とした。

 

「嘘……!?」

 

 その光景を見て愕然とする調。今の私たちではネフィリムにダメージを与える事すら難しいと理解し、その表情は絶望に染まっていた。

 そんな私たちを嘲笑うかのようにネフィリムは大きく吼える。その声量だけで周囲の空気を震わせ、耳を塞いでいないと鼓膜を突き破ってしまいそうな程だ。無情にも眼前に迫る化け物を前に成す術もない。

 

(私は……また何もできないまま……)

 

 そして奴はそのまま大きく腕を振り上げ…………

 

 

 

「■■■!?」

 

 

 

 化け物の咆哮と共に凄まじい衝撃音が鳴り響く。だが、磨り潰さんと振り払われたそれは私に到達することなく、何者かによって途中で遮られた。

 

「――え?」

 

 恐る恐る瞼を開けると、そこにはネフィリムの攻撃を遮るように槍を地面に突き立てている少女の後ろ姿があった。

 

「大丈夫、姉さん?」

 

 凛とした声色で語りかける彼女。その姿は圧倒的な強者の風格があり、思わず見惚れてしまう程だった。その姿を見た途端、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまい、涙腺が一気に緩む。

 そして私は無意識のうちに口を開いていた。

 

「……ソフィア」

 

 私に名前を呼ばれ、彼女はゆっくりと此方に振り向く。

 私が庇護すべきはずの、私よりも頼もしさを感じさせる面持ちで立つ、大切な妹の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




G編エピローグまで定期更新予定
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