装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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英雄問答

「……ソフィア」

 

 私に名前を呼ばれ、彼女はゆっくりと此方に振り向く。そこには、私が庇護すべきはずの妹が誰かを抱きかかえながら立っていた。

 だがそれも束の間。彼女は抱いていた少女を地面に下ろすと一瞬にしてその場から消え去り、ネフィリムの懐に入り込むとそのまま腹部を蹴り飛ばした。

 

「■■■■■!?」

 

 その一撃で吹き飛ばされたネフィリムは瓦礫の山の中に叩きつけられるとピクリとも動かなくなる。

 

「な……」

 

 あまりの出来事に唖然としてしまう私たちだったが、すぐに正気を取り戻し周囲を警戒する。だがいつまで経っても追撃が来ないので疑問に思った私達が視線を向けると……

 

「倒、したの?」

 

 ソフィアに抱えられていた少女がつぶやく。

 そこには力無く横たわるネフィリムの姿があり、よく見るとその胸元には大きな穴が開いていた。

 

「違う。今の一撃で気絶してるだけ。あと数分もすれば起き上がる」

 

 そういうとソフィアはこちらへ振り返り、私に手を差し伸べる。

 ソフィアの手に触れると、その温もりを感じて思わず安堵の溜め息をつく。だがそれがいけなかったのか、それと同時にガングニールの展開が解かれ、待機状態となってしまった。

 

「ガングニールが……!」

 

 だが、そんな私の動揺を他所に、ソフィアは何事もないかのように私を抱え上げる。

 

「大分疲労が蓄積しているみたいだな」

 

 私が何かリアクションするよりも早く、ソフィアは私達二人を担ぎ上げるとそのまま宙を舞い、近くの岩陰へと降り立った。

 

「ここなら多少は安全だ」

 

 そういって一息つく彼女を、私は改めて見る。装者への適性がないはずの彼女が纏う鎧は、どう見てもシンフォギアのそれだ。それも、私と同じガングニール。

 

「ソフィア、その姿は一体? それにこの娘は――」

 

 だが、そんな私の疑問を余所に、彼女は私の首に掛けられた待機状態のガングニールに手を触れ、そのまま私の首から外してしまった。

 

「それは……待って! それがないと私は!」

「姉さん」

 

 ガングニールをとられ、まるでわがままな子供のように慟哭する私の手を、ソフィアは落ち着かせるように両手で握る。その暖かさに思わず言葉を飲み込んでしまった。

 

「優しい姉さんに、撃槍は似合わない。それに――」

 

 そう言って彼女は私の胸元を、正確には服の中にお守り代わりに忍ばせていたそれ(・・)を服越しに触れた。

 

「姉さんはもう、力を持っている。優しい力を」

「優しい……力……」

 

 そういうと彼女はそのまま立ち上がり背を向けてしまう。その背中に追い縋ろうとするが、私の脚は思うように動かなかった。

 

「未来。これを渡しておいて」

「渡してって……誰に?」

「すぐに来る」

 

 未来と呼ばれた少女にずれた回答を返したソフィアは、そのままネフィリムの方へと歩み始める。

 

「姉さん、見ていてほしい。私は変わらない。あの過ごした日々と、何も」

 

 去り際に私達へ向かって振り向いた彼女は、無表情のはずなのにどこか笑って見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネフィリムへ接近すると同時、向こうもこちらの接近に気がついたのか顔を上げる。

 

「■■■■■!」

 

 ネフィリムは雄叫びを上げると地面を蹴りつけながら突進してきた。だが、その動きは緩慢で単調なものであり躱すことは容易かったが敢えて正面から受け止めた。

 そしてそのまま力任せに投げ飛ばす。

 

「■■■■■!?」

 

 地面を転がるネフィリムに対して追撃として槍を投げつける。高速で放たれたそれは吸い込まれるようにネフィリムへと向かって行き直撃と同時に地面が爆散し土煙を上げる。

 だがこれで終わりじゃない。私はすぐさま跳躍し空中に身を躍らせた。その瞬間を狙っていたと言わんばかりにネフィリムは口内にエネルギーを溜め始める。

 

「させない」

 

 即座にガングニールを手元に呼び戻し、ネフィリムの口へと向かって突きを繰り出す。音速を超え衝撃波を撒き散らしながら放たれた刺突は、寸分違わずネフィリムの喉元に突き刺さる。

 ネフィリムは苦悶の表情を浮かべながら後退するが追撃のため更に踏み込み距離を縮め、その勢いのまま胴体部分に連続蹴りを叩き込む。そしてそのまま回し蹴りを放ち、ネフィリムを大きく吹き飛ばした。

 

「■■■■■!」

 

 ネフィリムは地面を跳ねるように転がっていき巨大な岩盤に衝突しようやく停止する。

 

「ふぅ……」

 

 だが息をついたのもつかの間、地面に倒れ伏すネフィリムは、すでに肉体の再生を始めていた。

 むむむ、これじゃあどれだけ攻撃してもきりがないな。

 

「「ソフィア!」」

 

 すると、ノイズを掃討し終えた切歌ちゃんと調ちゃんが私のもとに駆け寄ってきた。

 

「怪我はないか?」

「平気へっちゃらデス! でも、その……」

「その姿はガングニールだよね? どうしてソフィが?」

 

 彼女たちの言葉に返答しようとしたところでネフィリムの身体が光に包まれ、周囲にノイズが再出現した。見た目からしてそうじゃないかと思ったけど、ソロモンの杖を取り込んでいたのか。しかも融合しているせいかノイズが現れるペースも早い。

 

「悪いが、話は後だ」

「あーもう! しつこいデスね!」

 

 そう文句を垂れつつも切歌ちゃんと調ちゃんはノイズの群れを迎え撃つべく構える。だが、こちらの刃がノイズを貫くよりも早く――

 

――MEGA DETH PARTY――

 

 ガトリングの嵐がノイズの集団を蹂躙し尽くした。

 そのあまりに突然の出来事に思わず固まってしまう。この武装を扱う装者は一人しかいない。

 

「ナイスタイミングだったみてーだな」

「クリス……!」

 

 小柄な体躯と白銀の髪を持ちながらも勇ましく頼もしい背中を見せた少女は、間違いなく我が心の癒しであるクリスちゃんだった。

 

「アンタは特機部二の……ふんっ! 別に、ありがとうなんて言わないんデスからね!」

「切ちゃん、それじゃただのツンデレだよ」

「はいはい。んなことより……」

 

 切歌ちゃんの捨て台詞を呆れながらあしらったクリスちゃんはこちらへ近づき、おもむろに私のほっぺを両手で引っ張った。

 

「……いひゃい」

「ちょっ! いきなり何やってるデスか!」

 

 私の抗議を意に介さずクリスちゃんは一通り頬をむにむにし、満足したのか手を離す。

 

「やっぱり……お前、茜だろ?」

 

 おぉ、結構見た目違うのに一瞬でバレた。

 

「よくわかったな」

「響からそうなんじゃないかって聞かされてて、実際に会って確信した。まったく、今まで心配させやがって」

 

 確かに。あの時はすぐ帰るって言っておきながら数か月音信不通だったしね。いやーメンゴメンゴ。

 

「ソフィ。特機部二の装者と知り合いだったの?」

 

 そんなこんなでクリスちゃんと戯れていると、当然のごとく調ちゃんから疑問が飛んできた。

 知り合いというか3年同棲していた仲なんだけど、そうだな……関係を端的に言うなら――

 

「クリスは私の、妹みたいなものだ」

「いや、なんでだよ」

「えぇーっ! つまりソフィアの妹分であるアタシの、さらに妹ってことデスか!?」

「おまえも何納得してんだよ! ってかお前の方が年下だろうが!」

「むー。妹分だったら私だって……」

 

 この間まで敵対していたとは思えないほど、三人が仲良くわちゃわちゃやってる。

 うんうん。仲良きことは美しきかな。

 

「戯れはそこまでだ、三人とも」

 

 すると突如私の後ろから凛とした女性の声が割り込んできた。

 

「翼……!」

 

 長髪のサイドポニーを風に靡かせた翼さんが剣を携え、いつの間にか私の隣に立っていた。

 クリスちゃんだけでなく翼さんも来てくれたのはありがたい。

 

「今はあれをどうにかするのが先決だろう。まずは共同戦線と行こう」

 

 それはごもっとも。まずはノイズ、延いてはネフィリムを無効化しないことには話にならないからね。だけど――

 

「そ、それは駄目デス!」

 

 そんな提案に切歌ちゃんが待ったをかけた。

 確かについ最近まで敵対していたとはいえここまで来たら一旦休戦すべきだと思うけど、それにしては何やら含みのある言い方に聞こえる。

 

「お前、こんなときにまだ意地張るつもりかよ」

「駄目ったら駄目デス! だって――」

 

 切歌ちゃんは意を決したかのように息を呑み、覚悟を瞳に宿しながら宣言する。

 

「だって……アタシたちはフロンティアを使って、世界を救うために少なくない犠牲を払って……そんなアタシたちが今更仲良しこよしなんてしていいはずないデス!」

「切ちゃん……」

 

 悲壮感すら漂わせるその言葉を聞き、調ちゃんは複雑な表情を浮かべる。おそらく切歌ちゃんと同じ想いを抱いていたんだろう。

 

『その通ぉりッ!!』

 

 だが、切歌ちゃんの悲痛な叫びを遮るかのように、甲高い男性の声がこだました。

 てか、うるさっ! 通信機持ってるの私なんだから、もうちょっと音量考えてもらえます?

 

「この癇に障る声は……ウェル博士(あのやろう)か!」

『お久しぶりです、特機部二の皆さん。貴女達に用はありません』

「このぉ……!」

「よせ、クリス」

 

 怒りのまま通信機越しに拳を固く握りしめるクリスちゃんを翼さんが制止する。

 

『今、人類は未曾有の危機に瀕しています。それに対し我らはフロンティアを使って可能な限りの、全人口から見ればごく少数の人間を救おうとしています』

 

 ドクターの演説紛いの話は続く。だが、そこに私たちは口を挟まず傾聴する。

 

『さて、ソフィアさん! 今打てる現実的(・・・)なプランで妥協するのか! あるいは、あの時のように己を犠牲としてすべてを救ってみせるのか! さあ、貴女ならどうしますか、ルナアタックの英雄!』

 

 大層な言い分だが、これは以前の英雄問答の焼き増しだ。あの時は記憶がなくてテキトーなことを言った気がするけど……。

 

「前にも言ったが、私は世界を救うために犠牲になる真似は御免被る」

『ほう、ならば何のために戦うのですか?』

 

 だったら、私の答えはひとつだ。

 

「姉さんの、響の……みんなの笑顔が見たいだけ」

『……それだけですか?』

「ああ。世界が救われるとすれば、ただのついでだ」

 

 言いたいことを言い終えると、通信機の向こうにいるドクターがくつくつと笑い出した。

 

『ついで。ついでですか、なるほど……クックククッ』

 

 おや? 私としては割と真面目な回答だったんだけど、なんか変なこと言ったかな? なんか怖くなってきた。

 そう思い始めたところで――

 

『実に度し難く! なんと傲慢な願いでしょうか! ですが、それでこそ英雄!』

 

 通信機越しにもわかるくらい興奮しながらドクターは捲し立てる。その言葉に反し、声音からは喜々とした感情が伝わってきた。

 あー……楽しそうなところ悪いんだけど、聞いておきたいことがあるんだよね。

 

「それでドクター。あるんだろう? 非現実的(・・・・)なプラン」

『アハハハハハ――……ふぅ、失礼。ええ、勿論ありますよ。理論上は全人類を救える、ウルトラCな方法が』

 

 するとドクターはにべもなくそう答えた。

 やはりそうだったか。引っかかりを感じる言い回しだったから何か考えがあるのかと思ってたけど、こんなあっさり吐いたのは意外だった。

 

「はぁ!? そんな方法があるならさっさと言えっての!」

「そうデス! 第一、それが本当なら今までアタシたちがしてきたことは!」

『仕方がないじゃあないですか。フロンティアの封印が解かれるまで詳細な仕様は不明でしたし、仮定に仮定を重ねるのは科学者のすることではありませんからね』

「だからって……!」

 

 クリスちゃんと切歌ちゃんは憤慨しているけど、ドクターの意見は至極真っ当なんだよね。もし万能の解決策があっても実証されてなければ机上の空論だし。

 ……言い回しが悪辣だけど。

 

『貴女方が米軍の注意を引いて下さっている間に艦内で資料や計測結果をあさっていたのですが……結論から言いますとフロンティアには月の軌道を制御する機能があります』

「は? 月の軌道? あんな土の塊、どうやって――」

『土の塊ぃ? 何をおっしゃる。あれは"バラルの呪詛発生装置"と、他ならぬフィーネが言っていたではありませんか』

 

 えっ、私聞いてない。もしかしてあの時、私が寝ている間に情報共有された感じ?

 

「まさかあの言葉の裏は、月そのものが人為的なものだと、つまりそう言いたいのか!?」

『その通りですよ、翼さん! であるならば、フロンティアによって月の軌道をズラしてしまえば事足ります!』

「そんなこと可能なんデスか!?」

『理論上は可能です。しかし、二つほど問題があります』

 

 それがドクターの言う"非現実的なプラン"たる要因ということか。一体どんな無理難題を押しつけてくるつもりやら。

 

『まずはエネルギー供給経路。何せフロンティアは古代の遺物ですからね。十全に機能を扱えるよう整備していたらとても時間が足りません……が、これはすでに解決手段があります』

「……ネフィリム」

『その通りです、調さん! 他のエネルギーを喰らい成長する特性を持つネフィリム。そのコアをフロンティアに接続しコア経由でエネルギーを流せば、この問題は解決します』

 

 そういえば、今回の計画実行前にドクターがそんなこと言ってた気がする。あれもこれの布石だったんだなぁ。

 

『次にエネルギー問題。あれだけの巨大な質量を動かすシステムですから、生半可な量では補えないでしょう』

「……具体的には?」

『そうですねぇ。フロンティアを動かすだけなら装者6人分くらいあれば問題ありませんが……』

 

 そこまで言ってドクターは言葉を濁らせる。なんか嫌な予感がするな。

 

『一般人換算でざっと70億人分あれば余裕かと』

「70億!? 世界人口じゃねぇか!」

『だから言ったでしょう、非現実的だと』

 

 70億人か……多少は予想してたけどこれはなかなかに途方もない数字だ。けれど――

 

「手はある」

 

 私は胸元に生成されているガングニールのコアへ掌を当てる。それを感じ取ったのかガングニールのコアは光り輝き始めた。

 

「換装」

 

 その言葉を合図に全身を包むガングニールの鎧が光となって消滅し、代わりに異なる雪白の鎧を身に纏う。先ほどまで撃槍が握られていた右手には、音叉のような穂先を持つ槍が出現した。

 

「ギアが変わった!?」

「それはトリシューラ……そうか! あの時みたいにあたし達のフォニックゲインを増幅させれば!」

「悪いが、このトリシューラでは精々エクスドライブ4人分が限界だ」

「そ、そんな……」

 

 あまりにも膨大なエネルギーを扱うと、制御しきれずに霧散してしまうからなぁ。

 それに、流石に無限増幅とかできたら『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』ってなっちゃうもんね。

 

「だから、助けを借りよう」

「……助け?」

 

 そう言って私は虚空へ視線を向ける。すると――

 

 

 

Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)

 

 

 

 聖詠が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ウェル博士が作中の誰よりも生き生きしてる
それがこの作品
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