装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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無印
後悔と贖罪


『なんで貴女だけ生きてるの?』

『大した怪我じゃなかったんでしょ? つまり、そういうことじゃない』

『よく友達を見捨てられるよねー』

『天月さん、カワイソー』

 

 

 

 

 

「――――びき、響!」

「ッ!」

 

 未来に声を掛けられ、ベッドから飛び起きる。

 呼吸が苦しい。汗もひどい。焦点も定まらない。

 

「……大丈夫? 魘されていたみたいだけど」

 

 隣に寝ていた未来に『平気』と答えると、胸に手を当てて息を整え、再びベッドに横になる。

 平気だ。だって、こんな夢を見るのはいつものことだから(・・・・・・・・・)

 ライブの惨劇から2年。ただの一度たりとも、あの日のことを忘れたことはない。

 

 人助けが趣味? そんなわけない。

 ただ、誰かのために何かをしていないと、平静を保てなくなってしまうだけだ。

 

 今は幸い(不幸)にも、私の周囲には私を責める(罰してくれる)ような人はいない。

 

 私は怖い。この幸せに浸かり、あのときの後悔がただの思い出になってしまうことが、何よりも恐ろしい。

 だから、そんな私を戒めるように、幾度も同じ夢を見る。

 

 怒号の飛び交う我が家。

 名前も知らない誰かの悪意ある言葉。

 一人、病院で目を覚ます私。

 私を助けてくれた茜。

 手を差し伸べてくれた茜。

 目の前で潰れる茜。

 真っ赤な血を流す茜。

 

(助けなきゃ。助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃたすけなきゃ――)

 

 だからこそ、シンフォギアなんて力を手にいれて、特異災害対策機動部二課の手伝いをすることになった時、恐怖なんて微塵もなかった。

 これで、今まで以上にたくさんの人を助けられる。

 

 私は後、何人助けたら許されるのだろう。

 世界の一つでも救うことができたら、茜は許してくれるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は進みまして、あのライブから2年後。

 私は今、山奥の立派な洋館で、パツキンのねーちゃんことフィーネさんのお世話になっている。

 

 え? なんで私が生きてるのかって?

 それはあの時、偶然にも落ちてきた瓦礫に左腕以外潰されなかったからだ。

 いや~、さすがは夢! Viva(ビバ)、ご都合主義!

 ただ、どうせご都合主義なら、左腕も無事であってほしかったが……まあ、命が助かっただけ良しとしよう。

 

 そんなこんなで、瓦礫に埋もれて気絶していた私をフィーネさんが回収した、というのが事の顛末だ。

 

 まあ、助けたのも決してまっとうな理由からではなく、フィーネさんの計画のために私が使えるかもと思ったかららしい。

 なんであのだだっ広い会場の中で自分だけ?と思い聞いてみたら、どうやら私の身体から少量のフォニックゲインなるものが検出されて興味を持ったからだそうだ。

 

 

 

 そんなこんなでこの2年は、聖遺物から作った『シンフォギア』と適合させるために調整されたり、フィーネさんの実験に付き合わされたり、クリスちゃんを弄って遊びながら過ごしていた。

 

 え? なんで逃げ出さないのかって? いやいや、こんな森の中であてもなく歩いたら遭難するでしょ。反逆しようにも、私のBU☆JU☆TSUレベルではフィーネさんのマジカル☆謎パワーに勝てそうにないし。それに、私一人が逃げたらクリスちゃんがどうなるか分かったもんじゃないしね。

 まあ、作戦の動機が愛の告白だって言うんだから、ちょっとくらいは協力するのも吝かではないかな、なんて思ってたり思ってなかったりする。具体的に何やるか聞いてないけど。

 

「はぁッ! てりゃあッ!」

 

 そうそう。クリスちゃんっていうのは、私と同時期に拉致られてきた女の子で、シンフォギアとの適合率が高いらしい。最初のうちは野良猫の様に警戒していたけど、時間をかけて餌付けしながら距離を縮めていった結果、今ではある程度心を許してくれていると思う。

 

「おらぁッ!」

 

 そして今は何をやっているかというと、件のクリスちゃんとスパーリングをしている。

 ぶっちゃけ、フィーネさんは洋館に居ないことが多く、暇を持て余した私が日課の鍛錬していたところをクリスちゃんに目撃されたのが始まりだ。

 まあ、こんな閉鎖的環境にずっといるとストレス溜まるし、身体を動かせば気分も晴れるから、クリスちゃんのためにもなるしね。

 

「考え事なんて随分余裕だ、なッ!」

 

 おっと、いかんいかん。つい気が散ってしまった。

 私はクリスちゃんの蹴りを左手(・・)でいなし、それと同時に相手の腹部へ右拳を放ち、当たる直前で寸止めした。

 

「……ここまでだ」

「かぁ~ッ! また勝てなかった!」

 

 自分の敗北を理解したクリスちゃんはその場で大の字に寝転がる。

 

「クリスは、感情が高ぶると視野が狭くなる。目に頼るな、五感で観ろ」

「わかってるけどさ、それができれば苦労しねーんだって」

 

 私の『何か凄いことのように聞こえて実は全く身のないアドバイス』を真面目に受け止めてくれるクリスちゃん。

 やっぱりいい子だわ、この子。それっぽいこと言っただけなのに。

 

 私? 私はもちろんできるよ、心眼。目隠しして一人スイカ割りできる程度には。

 ……今の私って、完全に武術チートだよね。ギアいらないんじゃないの? これ。

 

「また、こんなところで遊んでいたのね」

 

 すると、まるで私たちのスパーリングが終わるタイミングを計ってたかのように、屋敷からフィーネが現れる。

 その登場の仕方と台詞運び、厨二ポイント高いっすね、フィーネさん。

 

「任務よ、クリス」

「……わーったよ」

 

 あっ、クリスちゃんが露骨に不機嫌そうな顔になった。

 クリスちゃんは時々、フィーネさんから指示を受けてはどこかへ行くことがある。フィーネさんに聞いても『私の目的は知っているだろう? つまり、そういうことだ』みたいなことを言われた。

 

 いや、知らんがな。確かに目的は知ってるけどさ。

 あんたはアレか? 自分が知ってることは相手も知ってる、とか言っちゃうタイプの人間か? よくないな、そういうの。思わせぶりな発言されると、やきもきするでしょうが!

 

「何やら不満そうな表情だな」

 

 私があれこれ考えていると、フィーネさんがひょんなことを言い出した。

 そりゃそうですよ。現状、私だけ除け者状態だし。

 

「心配しなくても、貴女にも任務がある。クリス(あの娘)には内緒で、ね」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、やってきました深夜の公園。

 フィーネさんから言い渡されたのは、何とも意外。クリスちゃんの援護でした。

 

 そもそもクリスちゃんへの任務は、とあるシンフォギア装者のデータ収集及び誘拐だったのだが、私のギアの試運転がてらクリスちゃんをフォロー、最悪の場合はクリスちゃんの回収をして帰ってこい、とのことだ。

 キャリアウーマンな母と一人ぼっちの娘ぐらい距離のある二人だと思ってたけど、なんだかんだ心配してるのね。愛することに不器用な母親かな?

 

 ていうか、話を聞いたときはスルーしてたけど、またシンフォギア装者攫ってくるつもりなのか。

 もう! そう何人も何人も拾ってきて! 碌に世話もできないのに拾ってきちゃダメって言ってるでしょ! クリスちゃんのときだって、結局お世話してるのは私じゃない!

 

 そんなテキトーなことを考えながら茂みに隠れていると、見覚えのない少女二人に相対するように、白い鎧に身を包んだクリスちゃんが現れた。

 

 さて、ここからどうするか。

 ここでクリスちゃんに加勢することは簡単だ。しかし、フィーネさんからは『内緒にフォロー』と言われてるし、何よりクリスちゃんは背伸びしたい年頃の女の子ムーブをするから、下手に手伝うと却って不機嫌になりそうなんだよなー。

 

 ……よし! 相手も二人だし、2対1で戦うことになったら出ていこう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、シンフォギアを手に入れて。でも、これでノイズから皆を守れる。

 まだ、先輩装者の翼さんとは打ち解けられていないけれど、特異災害対策機動部二課の手伝いをしながらノイズと戦ってきた。

 あの日、守れなかった後悔を埋めるように、少しでも罪を償えるように……

 

 でも、そんな私の前に現れたのは、ノイズではなく1人の人間だった。

 

 少し前までただの一般人だった私は、人間相手に戦う覚悟のできていなかった私は、彼女の呼び出したノイズによってあっさりと拘束されてしまった。

 そして、残った翼さんは一人彼女と戦うけれど、翼さんの攻撃は相手に届かず、戦況は一方的だった。

 

「はんっ! 遅せぇ遅せぇ! あいつの拳に比べたら、動いてないも同然なんだよ!」

「がぁ――ッ!」

 

 彼女の脚が翼さんの腹部に食い込み、何メートルも後方に蹴り飛ばされた。

 

「くッ!」

「ちょっせぇ!」

 

 翼さんが突き飛ばされながらも投げた3本の短剣は彼女にあっさりと弾かれる。

 そして、追い打ちをかけるように、彼女の放った白いエネルギー球が翼さんへ直撃した。

 

「翼さん!」

 

 土煙が晴れたそこには、俯せになって倒れる翼さんの姿があった。

 

特機部二(とっきぶつ)の装者も大したことねーな。そんな甘ちゃんをのさばらせてるのがいい証拠だ」

 

 彼女に指をさされ、私はノイズに拘束されている握り拳を震わせる。

 悔しい。私が不甲斐ないせいで、翼さんや二課の皆を悪く言われることに。そして、私にはまだ、戦場に立てるほどの覚悟を持っていないのにも拘らず、皆を守れるだなんて楽観的だったことに。

 

「まあいい。さっさとそこのガングニール装者を回収して――ん?」

 

 すると、翼さんが刀を杖代わりにして立ち上がった。

 

「友を失い、鎧を奪われた汚名……お前から鎧を取り戻すことで、雪がせてもらう……!」

「おもしれー。やれるもんならやってみ――」

 

 彼女が動こうとしたその瞬間、身体の動きが不自然に止まる。

 よく見ると、月明かりが照らす彼女の影に、1本の短剣が突き刺さっていた。

 

「なッ、てめぇ、一体何を――!」

 

 後に知った『影縫い』という技によって動きを封じられた彼女に、翼さんは無防備にも歩みだした。

 

「翼さん!」

 

 何をするつもりなのかわからない。でも、全身を走る悪寒が、翼さんを制止する声となって私の口から零れた。

 

「立花。防人の覚悟、貴女の胸にしかと焼き付けなさい」

 

 だけど、私の言葉に耳を傾けることもなく、翼さんは(うた)を紡ぎ始めた。その詩は、地上に存在するどの言語にも該当しない、私たち装者が歌う聖詠によく似た詩だった。

 

「お前、絶唱を――クソッ! こんな拘束!」

 

 彼女がその場から脱しようと暴れるも、翼さんは意に介さず、彼女の目の前に立つ。

 

 

 

 そして、詩を紡ぎ終えたその瞬間、翼さんを中心に光の濁流が辺り一帯へ奔出した。

 

「があああぁぁぁッッッ!!」

 

 鎧を身にまとっている彼女が光に飲み込まれる。

 彼女だけじゃない。私でもわかる。あのままじゃ翼さんだって、ただではすまない。

 

 でも、私は動けなかった。

 ノイズが私を捕まえているから? あの光が恐ろしいから?

 違う。なぜなら――

 

 

 

 

 

Iccha jnana kriya Trishula tron(清水に堕ちる一滴の泥)

 

 

 

 

 

 聖詠(うた)が聞こえたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作よりもトラウマ度は上がっている響。

ただし、本質的には変わっていないので、人間と戦うことには抵抗感がある模様。


本作品は基本的に主人公視点で話が進むので、主人公が関わらない部分は描写が省かれることがあります。
御了承下さい。

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