装者がひたすら曇る御話(当社比)   作:作者B

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書いても書いても終わる気配がない……
最終回は、もう1話だけ続きます。


凍てつく調律

「嘘……リディアンが……」

 

 月を雲が覆い、あたり一帯を暗闇が支配する。

 指令からの通信が途絶え、私たちは急いで二課の本部がある私立リディアン音楽院へ向かった。

 その先にあったのは、大部分が倒壊した校舎、至るところがひび割れたコンクリートの道路。その端々からは、戦闘の痕跡が確認できた。

 

「予想よりも早かったわね」

 

 すると、崩れかけている校舎の前に了子さんが、人ひとり入りそうなほど大きな機械を携えて立っていた。

 

「了子、さん?」

「フィーネ! この惨状はお前の仕業か!」

 

 クリスちゃんの言葉を聞いて、私の思考が一瞬停止する。

 フィーネ? 了子さんが? 一体、どういうこと……?

 

「フィーネ、だと!? どういうことですか、櫻井女史!」

「そうね、この姿なら信じられるかしら?」

 

 だけど、了子さんはそんな私に現実を突きつけるように姿を変え、嘗てクリスちゃんが纏っていた黄金のネフシュタンを纏った姿へと変身してみせた。

 

「そんな……嘘ですよね? だって、了子さんは私を守ってくれて――」

「貴女は貴重な融合症例のサンプル。手厚く扱うのは当然だろう」

 

 私の疑問を、了子さんはつまらなそうに一蹴した。

 

「サバイバーズギルトを持つ人間は実に扱いやすかった。協力者という立場をちらつかせば、自ら進んで私の近くに来てくれる。そういう意味でも、私は彼女に感謝しなければな」

 

 彼女……? それっていったい――

 私の疑問に答えるように、月を覆い隠していた雲が晴れ、了子さんの隣に鎮座している機械に月明かりが灯った。

 

「なあ、天月茜」

「――ッ!?」

 

 その機械の中に居たのは、一人の人間だった。

 

「あ……あか……」

「立花? おい、しっかりしろ! 立花!」

 

 私は視線を機械に奪われながら、その場に崩れ落ちる。

 忘れるはずもない。だって彼女は、茜は、私の目の前で、岩につぶ、潰され――

 

「茜……! おい、フィーネ! 茜は無事なんだろうな!?」

「当たり前だろう。ギアは生者にしか起動できない。その役目を終えるまでは、生かしておくのが道理というもの」

「てめぇッ!」

 

 生きてる……? どうして、だって、茜はあの時……

 

「櫻井女史、彼女はまさか!」

「そのまさかだ、風鳴翼。お前の絶唱によるバックファイアを軽減してみせた第4の装者にして、融合症例の第零号。ああ、そういえば、そこの立花響の目の前で死んだ旧友だったな。

 2年前、ネフシュタンの紛失を偽装するために起こした事故だったが、こうも私に都合のいい手駒が揃うとは」

「貴様……ッ! その身勝手で、奏は命を落としたというのか!」

「すべてはカ・ディンギル、延いてはバラルの呪詛を打ち砕くため!」

 

 了子さんの言葉に呼応するように、地響きが辺り一帯に鳴り響く。

 そして、天を突くように大地を割りながら、巨大な塔が現れた。

 

「なんだ、こいつは……?」

「この荷電粒子砲『カ・ディンギル』で月を穿つ! それによって、人類は相互理解を阻むバラルの呪詛から解放され、統一言語により世界は一つに束ねられる」

「……そしてその暁には、一つになった世界を貴様が支配する、といったところか。櫻井女史!」

「もはや余人に、私を止めることなど叶わぬ。そこで大人しく見ていることだな」

 

 了子さんの言葉を皮切りに、カ・ディンギルと呼ばれた塔が眩い光を放ち始める。

 塔から伸びた巨大なコードが茜の入っている機械に接続され、塔の光に連動して耳を劈くような音を上げて稼働し始めた。

 私はそれを、ただ見ていることしかできなかった。

 

「くそ……ッ! おい、何をボケーっとしてんだ、立花響!」

 

 その様子を見たクリスちゃんは、怒声と共に私の胸倉を掴んだ。

 

「茜は……お前の友達はまだ生きてんだぞ! 手を伸ばせばまだ届くんだ! それなのに、そんなところでへたり込んでていいのかよ!」

 

     まだ、手が届く。

 

 その言葉を聞いて、私の心に火が灯った。

 

「そう、だよね。こんなところで、座ってなんかいられない!」

 

 私はいまだ震える手を力強く握りしめ、立ち上がった。

 

 

 

 

 

   Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

   Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

   Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

 

 

 

 

 豪雨のように轟く機械音の中、まるで雲の切れ目から差し込む光芒のように、私たちの三重奏が響き渡る。

 そして、私たちは守るための力(シンフォギア)を身に纏い、装者として了子さんに相対した。

 

「ほう、そのシンフォギア(おもちゃ)で歯向かうか。いいだろう、光の矢が放たれるしばしの間、戯れてやるとしよう」

「ほざけぇッ!」

 

 クリスちゃんの怒号を合図に、私と翼さんは左右に跳び、クリスちゃんが無数の小型ミサイルを放つ。

 了子さんはそれをにべもなく、ネフシュタンから伸びる鎖を左手に持ち、横に薙ぎ払うことで着弾する前にミサイルをすべて撃ち落とした。

 

「はぁッ!」

 

 そして、ミサイル爆炎で視界がふさがれている隙に、翼さんが了子さんの右舷から、私は左舷から攻撃する。

 しかし、了子さんは右手で操る鎖によって翼さんの刃を絡め取り、私の拳は左手に掴まれ、攻撃が防がれてしまった。

 

「へっ! 隙だらけなんだよ!」

 

 だけど、ここまではブラフ。

 本当の狙いは、クリスちゃんの大型ミサイルでカ・ディンギルを破壊すること!

 クリスちゃんが出現させた2台の大型ミサイルのうち、1つがカ・ディンギルへと標準を合わせ、引き金を引――

 

「そういえば……クリス、大量のエネルギーを充填している今のカ・ディンギルを破壊すれば、蓄積されたエネルギーは何処へ向かうと思う?」

「――ッ!?」

 

 その言葉を聞いてクリスちゃんの、私たちの動きが一瞬止まった。

 まさか……このままだと茜が!?

 

「戦場で呆けたな!」

「な――ぐぅッ!」

 

 そのわずかな隙を突かれ、私と翼さんは左右に投げ飛ばされる。さらに、了子さんの持つ鎖が、標準を定めていた大型ミサイルへと放たれ、発射される前に破壊された。

 ミサイルの破壊により、クリスちゃんを爆炎が包み込む。

 でも、その煙から大型ミサイルに掴まったクリスちゃんが、カ・ディンギルの遥か上空へ向かって飛び出した。

 

「空へ昇り、天を仰ぎ見るか。愚かな!」

 

 しかし、それも想定済みと言わんばかりに、了子さんはその場で跳躍し、まだ飛翔高度の出ていない大型ミサイルを鎖で一薙ぎし、破壊した。

 

「がぁッ!」

「クリスちゃん!」

 

 ミサイルの爆風を至近距離で受けたクリスちゃんは、なすすべもなく落下し、そのまま地面に叩きつけられる。

 

「ふん、所詮はその程度。よく見るがいい、立花響。貴様の友人の命を糧に放つ、呪詛を払う一撃を!」

 

 了子さんが月を仰ぎ見ると、カ・ディンギルの放つ光が最高潮を迎える。

 そんな……私たちじゃ、了子さんを止められないの……?

 

 そして、月へと照準が定められたカ・ディンギルから、亜光速まで加速された荷電粒子が放たれた。

 極大の光束が夜空を切り裂き、夜空に瞬く満月を砕――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――くことなく、その射線は正鵠からずれ、月の一部を砕くに(とど)まった。

 

「馬鹿な!? 照準がずれた……いや、ずらされた(・・・・・)というのか!?」

 

 了子さんの想定外のことが起こったのか、粉々に砕くはずだった月は、その大部分がいまだに健在だった。

 そして追い打ちをかけるように、あれだけ輝きを放っていたカ・ディンギルの砲身が、突然氷に覆われ始めた。

 

「何だ……? 何が起こっているというのだ!」

 

 了子さんの口から零れた疑問。

 それに応えるように、カ・ディンギルへ接続されていた機械の正面が、音を立てて開かれた。

 

「有り得ない! こんなことが……!」

 

 その中から現れたのは、2年前、どんなに手を伸ばしても届かなかった人。

 この2年間、ただの一度も忘れたことなんてなかった、私の大切な友達。

 

「……あ、かね?」

「響、久しぶりだな」

 

 まるで、夏休み明けの登校日に挨拶するような気軽さで話しかける、天月茜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぅ~ん…………寝苦しい……。

 いつもの検査ではこんなことなかったんだけど、どうにも寝心地が悪い。あと、ついでに金縛りにあって動けない。

 例えるなら、真夏の夜にエアコンが切れて蒸し暑くなった部屋で寝てるような感じ?

 

 金縛りってオカルトじゃなくて、確か科学的に説明できる現象だって聞いたことあるし、そのうち動けるようになるかと思って暑いの我慢してたけど、一向に身体が動く気配がない。

 ていうか、どんどん熱くなってない? 空調管理どうなってんの、これ?

 

 なんか寝汗かいてきた。流石にこれ以上は限界だ。頑張って身体に力を入れれば、金縛り解けないかな。

 ふんっ! とりゃぁっ! ていやっ! ぬぬぬぬぬぅ…………そぉいッ!!

 

 ん? どこか曲がっちゃったかな? まあ、後で謝ればいいや。

 おっ、なんだか段々涼しくなってきた気がする。それに、もう少し力を入れれば身体が動きそう!

 

 せーの……おんどりゃあぁぁぁッ!

 

 

 

 

 

 そうして長い死闘の末、目を開けるとそこは瓦礫の山でした。

 

「有り得ない! こんなことが……!」

 

 目の前に居るのは、黄金の鎧を纏ったフィーネさん。その向こうには、ギアを纏ったビッキー・クリスちゃん・蒼い侍ガールの3人が倒れていた。

 えっと、これどういう状況? パッと見、フィーネさんが3人をいじめている様に見えるけど。

 

「……あ、かね?」

 

 すると、ビッキーが放心した様子で私の名前を呼んでいた。

 そういえば、こうして顔を合わせるのは2年ぶりだっけ? ビッキー、おひさー。元気してた?

 

「響、久しぶりだな」

 

 でも、相変わらず私の口から出るのは簡素な言葉だけ。

 もうちょっとこう、気の利いた言葉が出ないもんかね、私の口は。

 

「まだだ! カ・ディンギルは、増幅器(アンプリファイア)を失った程度で動けなくなるような欠陥兵器ではない! 貴様らを下し、氷を砕けば再び!」

 

 まだ状況が呑み込めていないが、どうやらフィーネさんがよくないハッスルをしている、というのは確実のようだ。

 まったく、いつまでたっても告白できないからって他人に当たり散らすとは……いい大人が、恥を知りなさい!

 

 とはいえ、あんなのでも一応、私の保護者だ。宥めて一緒に頭下げるくらいのことはしてあげよう。

 そのためにも、まずはフィーネさんを落ち着かせないと。古来より、正気を失った人間は斜め45度でチョップすると直るって、相場が決まってるもんね。

 

Iccha jnana kriya Trishula tron(清水に堕ちる一滴の泥)

 

 ひとまず、シンフォギアを纏う。戦闘能力のないトリシューラの場合、あってもなくても大差ないけど、一応防御力も上がるしね。

 おや? 以前つけてたバイザーが消えてる。まっ、いいか。別に正体を隠す必要もないし。

 

「少し、お悪戯(いた)が過ぎたな、フィーネ」

「私に講釈を垂れるつもりか、天月茜!」

 

 音叉付き棒(やり)を構えた私と、二つの鎖を手に持つフィーネさんが相対する。

 なんか、穂のない槍 VS 分銅のない鎖分銅みたいな構図でシュールだな。

 

「茜ぇ! フィーネはネフシュタンと融合してる! 生半可な攻撃は、すぐに再生されるぞ!」

 

 おっ、情報提供サンキュー、クリスちゃん。

 

 とりあえず、軽く流しますか。

 縮地でフィーネさんの懐まで接近し、突・薙・打を組み合わせながら攻撃する。穂先に刃がないから、戦い方がどうしても棒術の攻撃になっちゃうんだよね。

 それに対し、フィーネさんは2つの鎖でこちらの攻撃をいなしながら薙ぎ払ったり、時には鎖を剣のような形に固定してこちらに切りかかる。

 

「どうした! 戦闘能力の無いトリシューラで何ができる!」

 

 攻撃がせめぎ合っている中、フィーネさんが私の槍を鎖で絡めとり、彼方へと弾き飛ばした。

 あー、駄目だよフィーネさん。私、棒術の練度はそこまで高くないから、わざと手放した(・・・・・・・)のに。

 

「知らなかったのか、フィーネ」

 

 私の槍を投げ飛ばしたことで隙ができたフィーネの下顎底(かがくてい)に、左手で横薙ぎの手刀を入れ、脳を揺らす。

 

「私は素手の方が強い」

 

 そして、フィーネさんの動きが止まった瞬間に、無防備な腹部に右手を当て、人体の内部を破壊する浸透勁の掌打を放った。

 

「がはぁッ!」

 

 私の掌底を食らったフィーネさんは、そのまま後方へ吹き飛ばされ、地面を転がる。

 あれ? 勁が浸透しきらずに、外部に運動エネルギーが漏れちゃった。洋館暮らしが長かったせいで少し鈍ったかな?

 とりあえず、これでしばらくは動けなくなるはずなんだけど。

 

「くっ……貴様といい、あの男といい、どこまでもふざけた存在だ」

 

 だけど、案の定というべきか、フィーネさんは足元が覚束ないながらも、その場に立ち上がった。

 やっぱり、内部へのダメージも回復されるみたいだ。でも、フラフラしてるってことは、脳の揺れは完全に治っていないのか? どうやら回復できるのはダメージだけで、脳の揺れによる眩暈(肉体の正常な反応)は対象外になるっぽいな。

 

 しかし困った。こうなると、フィーネさんを無力化するにはアレしかないか……

 私は再び縮地で間合いを詰め、フィーネさんの左手首を掴んだ。

 

「な……ッ!?」

 

 異変を瞬時に察知したのか、フィーネさんは私の手を払って後方に跳んだ。

 

「貴様……これは何だ? 一体、私に何をした!」

 

 フィーネさんが左手を見ながら絶叫する。

 無理もない。私がつかんだその左腕は、手首を中心に拳と前腕の半分ほどを氷が覆っていたからだ。

 

「何を言っている、フィーネ。トリシューラの能力は『フォニックゲインへの干渉』。だが、フォニックゲインも所詮、エネルギーの一種でしかない」

「エネルギー……? まさか、分子運動にまで干渉したというのか!? 馬鹿な! トリシューラにそこまでのポテンシャルなど!」

 

 そんなこと言われても、できちゃったんだからしょうがないじゃん。

 私がしたことを簡単に言うと、

 

 ①私が触れた箇所のエネルギーを減少させる=分子の動きを遅くする。

 ②分子の動きが遅くなって、触れた部分の温度が下がる。

 ③体内と大気中の水分が冷えて氷になる。

 

 みたいな原理だ、多分。昔知り合いに聞いたから間違いない。

 

 名付けて『倒せないなら固めちゃおうゼ』作戦だ。古来より、不死者は封印して退治するのがセオリーだしね。

 瞬間冷凍すればダメージは無い筈だし、ネフシュタンの回復能力があれば生命維持も大丈夫だろう。

 というわけで、まだ十全に動けないフィーネさんに再び接近し、今度は接触面積を増やすためにベアハッグを仕掛けた。

 

「がぁ――ッ! くッ、離せ!」

「暫く頭を冷やすことだ」

「やめろぉぉぉぉぉッ!」

 

 フィーネさんの抵抗も虚しく、全身が氷に覆われ、動かなくなった。

 

 

 

 

 




【悲報】フィーネさん。オリ主を作戦に組み込んだばかりに、オリ主に作戦を阻まれる。


主人公のスペックは紹介できたので、次回でささっと事件を解決させます。

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