今回は短めです。
「司令、頼まれていた報告書が完成しました」
「御苦労。助かった」
二課のオペレーター『藤尭朔也』から資料を手渡された司令『風鳴弦十郎』は、その場でパラパラと資料をめくって内容を確認する。
「天月茜さんについて、ですか?」
「そうだ。彼女の行方を捜すためにも、まずは彼女自身の情報が必要だからな」
エージェントである『緒川慎次』の問いへ応えるように、弦十郎は資料をテーブルの上に広げた。
天月茜。年齢15歳。
ノイズ被害者のために設立された孤児院の出身で、親族は無し。
2年前のノイズ発生事件に巻き込まれ行方不明。
公的には死亡扱いとなった。
「なるほど。ですが、その実は――」
「了子君に拾われ、装者になっていたわけだ」
そう言って、弦十郎はもう一つの資料を取り出す。
「これは、融合症例に関する調査資料……」
「こいつによれば、茜君は少々特殊な融合症例だったらしい。あの了子君ですら、完全に解明できなかったようだ」
その資料には、融合症例としての天月茜の特異性についてまとめられていた。
曰く、ギアを起動していない状態で、アームドギア相当の義手を展開している。
曰く、常人よりも傷の回復速度が優れている。
曰く、体内を調べても、腕の接合部以外に聖遺物から侵食されている兆候は一切ない。
これは、立花響という例と比較しても、その異常性は明らかだった。
「確かに、これは妙ですね。前例が少ないので確実なことは言えませんが、茜さんの状態は響さんよりもむしろ、翼さんのような通常の装者に近いように感じます。ですが……」
「アームドギアの常時発動に、異常な回復速度。融合症例という言い訳でも無ければ、説明できないことばかりだ。だからこそ、こうして生存の可能性を模索できるわけだが」
茜はフィーネとの戦いで絶唱の使用、および限定解除を行ったにも拘らず、そのバックファイアをほとんど受けていなかった。
そんな彼女であれば、月の欠片を破壊する際に絶唱を使用したとしても、ダメージを抑えられる。
さらに、彼女自身の回復力とギアの防御性能があれば、欠片破壊後に地上へ落下しても生存している可能性が十分に考えられる。
都合のいい仮定だが、詳細不明の融合症例という事実が、その仮定に現実味を帯びさせていた。
「了子君の置き土産。そういう触れ込みであれば、日本政府から協力を得られるだろう。複雑な心境だがな」
「仕方ありませんよ。今は、茜さんの安否の方が重要です」
「ああ。いくらか落ち着きを取り戻してきちゃいるが、響君とクリス君はまだ完全に立ち直れていない。早いところ、手がかりだけでも見つけて、安心させたいもんだ」
弦十郎は広げた資料をまとめながら、行動制限中の装者を思い浮かべる。
彼女たちがルナ・アタックの英雄と再び相見えることになるのは、そう遠くはない――――
■
フィーネの米国通謀をきっかけとして設立された、米国政府直下の研究機関。
歌ではなく、機械による聖遺物の安定的な起動・制御を研究してきたが、米国政府がフィーネを切り捨てたことに際し、組織解体の危機に瀕していた。
「私たちが、今までしてきたことは……一体、何のために……」
組織に所属する
このまま組織が解体されれば、自分たちの命でさえ、どうなるかわからない。
「おや、そんな暗い顔をしてどうしたのかね?」
「ッ!?」
すると、後ろから突然声を掛けられ、マリアはびっくりして声を上げそうになるも、何とか堪えてそのまま振り向いた。
「か、会長!? それに、マムも……」
そこに居たのは、会長と呼ばれたアジア系の40代男性と、車椅子に乗るF.I.S.所属の技術者『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』だった。
「ちょうどよかった。来たまえ! 君にも話しておきたいのでね」
そう言うや否や、会長はスタスタと通路を歩いていく。
相変わらずテンションの高い人だ、という気持ちを抑えつつ、自走していた車椅子の取っ手を握り、ナスターシャと共に会長の後を追った。
「マム、会長はどうしてここへ?」
「私も詳しくは聞いていません。組織解体についてでは無い、ということは確かだと思います」
目の前にいる会長は、F.I.S.を含め様々な組織を統括する人間だ。そんな偉い立場の人間が研究所へ訪れるのは、大抵厄介事と相場が決まっている。
やがて、3人は現在は空き部屋となっているはずの研究区画の一室へ到着した。
「見たまえ、二人とも」
会長の手の先には、いつの間に運び込まれたのか、煤汚れた人間大の石塊が鎮座していた。
「会長、これは一体?」
「イヴ君、これに触れてみたまえ。なに、危険がないことはすでに確認済みだ」
会長に促されるまま、マリアは石塊に近づき、恐る恐る手を触れる。
すると次の瞬間、石塊が急に発光を始めた。
「な、何なの!?」
「マリア!」
突然のことに、マリアは両腕で目を覆う。
しかし、輝きは長く続かず徐々に弱まっていき、10秒もしないうちに光が止んだ。
「一体何が――ッ!?」
マリアが腕をどけ、石塊のあった場所に視線を送ると、そこには一人の少女が横たわっていた。
「素晴らしいッ! やはり、シンフォギア適合者と共鳴したか! 人型存在が出てくるとは予想外だったが」
「会長、あれは一体!」
「ヨーロッパ旅行のプレゼントだ、プロフェッサー・トルスタヤ。あの研究材料があれば、
石塊の代わりに現れた少女は、透き通るような白い長髪に色素の抜けた肌。所謂、アルビノと呼ばれる外見だ。
一つ、不自然なところを挙げるとすれば、彼女に
マリアが唖然としながら立ち尽くしていると、少女の身体がピクリと動いた。
「ぅ……ぁ……」
「ッ! だ、大丈夫!?」
少女の喉から漏れる息苦しそうな声に、マリアは慌てて駆け寄る。
マリアによって上半身を抱きかかえられた少女は、閉じていた薄目を開け、そこから覗く真紅の瞳で私と視線を交わした。
「……ねぇ、さん」
それだけ言うと、少女は再び目を閉じ、そのまま眠りについてしまった。
「今のは……」
マリアにとって、姉と呼ばれるのは複雑な思いだった。そう呼んでくれた人は、もう彼女の傍に居ないのだから。
だが、そんなマリアも、目の前の少女にそう呼ばれるのは、不思議と抵抗がなかった。
「ふむ。イヴ君、彼女の面倒は君が見るんだ」
「えッ!? わ、私がですか!?」
「君がシンフォギアの第二種適合者として今一つ吹っ切れない原因はその責任感だ。欲望を責任感で抑え込んでいる。非常につまらない」
確かに、マリアはシンフォギアとの適合率が低い値で頭打ちとなっており、装者として伸び悩んでいる。しかし、それとこれにいったい何の関係があるのか。
そんなマリアの問いに答えることもなく、会長は言葉を続ける。
「だが、人と人との出会いは何かが誕生する前触れでもある。その少女との出会いが、新しいイヴ君の誕生となるのか、そしてそのために私が作るケーキは一体どれほどか。期待で胸が膨らまないかい?」
言いたいことは言った。そう謂わんばかりに、会長は笑みを浮かべながらその場を後にする。
突然やってきて、唐突に帰る。そんな会長を前に、マリアとナスターシャは、その背中を目で追うことしかできなかった。
「人と人との出会い……」
マリアは再び、腕の中で眠る少女に目をやる。
(もしも、許されるのなら――)
少女を抱きしめるマリアは、まるで迷子になった子供のような瞳で、少女を見つめていた。
左腕のない謎の少女、一体誰ナンダロ-ナ-
F.I.S.にやってきた会長はオリキャラです。
今後の登場予定は多分ありません。