晴曇空です。お初にお目にかかる方は初めまして。
ラスバレ総合鯖で、しりとりとかラムネを増産しているおじさんです。
そんな人がこんな話書くとは、思いも寄らなかったでしょうが、元々そう言う人です。
※ちょっと舞台版寄りです。
校閲協力:竜牙氏(https://www.pixiv.net/users/15350029)
※Pixivにも投稿しております。
気がつけば、何もない世界にいた。どうしてこんな所にいるのか、見当もつかない。その前の記憶は鮮明に残っている。珍しく梨璃と遠出をして、そのまま時間もすっかり遅くなってしまったのもあって、鎌倉近くのホテルに泊まったはず。
状況を整理して、そして隣にいるはずの姿がないことに気づく。
「ッ、梨璃?!」
見回してみるも、あの姿はどこにもない。あの子に限ってどこにも行かないはず……と思ったけれど、あの子は後先考えないで飛び出す癖があるから、その可能性も捨てきれない。
もしどこかに飛び出したのだとするなら、尚のこと急いで彼女を探さなければならない。昔以上にリリィとして強くなったとはいえ、特型や、ラージ級のヒュージと会敵したとなれば、ひとたまりもない。
「……っ」
少し離れたところにブリューナクが転がっている。駆け寄って手に取って、使えるかどうかを確認する。色々と疑問な部分はあるけれど、そこを気にするよりもまずは梨璃と合流して、現状を確かめなければならない。
とはいえ、音も何もない世界で、一体どうやって彼女を探せば良いのだろう。もし彼女がここを発ってから時間が経過しているのなら、もう探すのだって難しいのではないか――そんな気さえしてくる。だけど、諦めるわけにはいかない。それはもちろん、シュッツエンゲルとしての義務でもあるけれど、でも一番は、「何があっても傍にいる」と言ってくれた、あの子だから、尚更。
もしかしたら入れ違いになる可能性もなくはないから、目覚めた場所に、着ていた上着を進行方向を簡単な矢印で分かるように置いて、出発する。とりあえず真っ直ぐ歩き続ける。けれど、歩いていくにつれて、段々と心細くなってくる。あれだけ『独りで闘ってきたから』と豪語していた人間が、今やそんなものか、と心の奥の自分が嗤っている。それだけ、一柳隊、そして何より梨璃に依存していたんだと、あらためて認識する。……まあ、改めるかどうかは別問題として。
そんな自分との葛藤をしながら、かなりの距離を歩いた。それなのに、景色は一変もせず、なんならヒュージの姿や梨璃の姿だって見えやしない。普段は気にならないブリューナクの重さが、なんだかずっしり重く感じる。
そろそろ引き返そうか、そう思った時、彼方に百合ヶ丘の制服が見えた。髪色は明るい桃色ではないけれど、もしかしたら一柳隊の仲間たちか、それとも、別のレギオンからの増援かもしれない。ともあれ、味方はいないよりいるほうが良い。見た感じ、同級生か、上級生だろう。ひとまず、その姿に向かって駆け出す。その姿が徐々に大きくなってくる。
「あの、すいません、少しよろしいですか――」
近くなったところで、そう声をかけた。その次の瞬間、振り向いた相手の顔を見て、思わず固まってしまう。
「み、美鈴お姉様……?!」
「█████」
確かに、私に向かって何かを返してくれたはず。けれど、それが頭に残らず、どんどん彼方へ消えていく。言うならば、言葉のはずなのに、言葉として認識されない、そんな感覚。
「美鈴お姉様! ずっと、ずっと探していました! やっぱり、生きてたんですね……!」
「███、██。████、███████」
やはり駄目だ。言葉が次々と零れ落ちていく。口元から判別しようにも、なんだか像が揺らいでいるみたいで、うまく集中出来ない。
「██? ███████?」
「美鈴、お姉様、もう少し……」
そのうち段々と思考が出来なくなっていく。せっかく美鈴お姉様を見つけたというのに、十分に話だって出来やしない。それに、そうだ、美鈴お姉様に、言わなきゃいけない事があるんだった。いや、それよりも、今、しなきゃ、いけないことが――。
「あ、あっ、あぁァ……」
しこうが、まわらなくなる。いま、わたしは、なにをするべきなのか。いったん、れいせいになって、せいりすべきなのはわかるけれど、さまざまなことが、あたまをよぎって、なかなかとめられない。それどころか。
「あ、あああっ、がァッ」
とてつもなく、あたまがいたい。そんなわたしをみかねてか、みすずおねえさまが、わたしにちかづいて、みみもとで、ささやく。
「もう楽になっても良いんだよ?」
「ッ――」
その言葉だけが、はっきりと聞き取れた。そして、色々と渦巻いてきたものが、洪水のように、一気に襲い掛かってきた。
「――――――ッ!!」
激しい頭痛に吐き気。いや、それだけに収まらない、様々な嫌悪感が私を苛む。このままではいけないと、分かっていながらも、どうしようにもない。細目を開けると、そこにはもう美鈴お姉様の姿はなかった。分かっていた。知っていた。だから余計に遣る瀬無い気持ちになる。底なし穴に落ちていく。
「り、り……」
そこでようやく、あの子のことを思い出した。あんなに必死に探していたというのに、すっかり忘れてしまっていた自分に腹が立って、そして、あの子に対しての申し訳なさで押しつぶされそうになった。シュッツエンゲルとして、最低だ、ともう何度も思ったことが、重くのしかかる。もうダメかもしれない。そう思った。そんな時。
『お姉様ッ!!』
「――ッ?!」
そこで目が開いた。目の前に、梨璃の心配そうな顔が、月光に照らされている。
「り、り……? あなた、無事――」
「本当に心配しましたよ! 少し喉が渇いたから起きたんですけど、そしたらすごくうなされていたので……。呼びかけても、全然起きなかったですし」
「そう……。――ッ!」
一瞬美鈴お姉様のことを思い出して、梨璃を跳ね除けて周りを見回す。泊っている客室の、変わらない風景。そして目の前には、今の私の行動に驚いている、梨璃だけ。
そしてようやく、あれが夢だったのだと、脳が認識する。本当に嫌な夢だ。ようやく最近は、梨璃や一柳隊のお陰で解放されたと思っていたのに。
「お姉様……?」
心配そうに梨璃がのぞいてくる。
「……ごめんなさい、また迷惑をかけてしまったわね」
「いえっ、それは良いんですけど……」
あわあわと次の言葉を探す梨璃の頭に、そっと手を置く。
「お姉、様……?」
「ねえ梨璃、あなたは、ずっとそばにいてくれるのよね?」
「は、はいっ! もちろんです!!」
「もし、私がさっきみたいに、あなたを突き飛ばすことがあっても?」
その問いにはすぐに反応を示さなかった。だけど、じきに笑って、「はい! 何度だってお姉様のことを追いかけ続けます!」と言ってくれた。それに、と彼女は続ける。
「私だって、まだまだリリィとしては未熟ですけど、でも、お姉様の色々な姿を見てきて、それでもお姉様への憧れは消えていません! 寧ろ強くなりました! だから、大丈夫です!!」
「……、あなたって子は」
優しく梨璃の頭を撫でると、えへへ、と彼女は笑った。別に、彼女のことを信じていないわけじゃない。きっと、その言葉通り、何があっても彼女はずっとついてくる。それは、この子の今までの行動が示している。
だけど、今でもああいう風なことをしてしまうと、途端に不安になる。いつか、梨璃すら離れていってしまったら――そう思うと、途端に怖くなってしまうのだ。だから、何度だって聞いてしまう。
それを彼女は、いつでも嫌な顔一つしないで、いつでも同じ答えを言ってくれる。だからこそ、強く思うのだ。今よりもっと強くならなければ、と。
いつだか、梨璃に言った、『私のようなリリィになんて、ならない方が良い』『傍にいても、後悔するだけだ』、という言葉。今だってそう思う。きっと私に言わないだけで、色んな苦労や悩みを抱えさせてしまっているに違いない。
だけど、それでもついてきてくれる、と言うのだから、それなら、今の私がこの子のシュッツエンゲルとして出来ることは、私が犯した過ちや後悔をさせないために、彼女を護り続け、育てる事だ。そして、いつかは今度はあの子が、誰かを護れる存在になって欲しい。そう思うから――。
「えっ、お、お姉様っ?!」
梨璃を抱きしめる。相変わらず華奢な身体をしている。もう少し、肉体面を、強化するべきか――なんて、いつもは思うのだろうけれど。
「ありがとう、梨璃」
唐突だったからか、わたわたとしていた彼女だったけれど、直に、「はいっ、お姉様!」と明るい声が聞こえて、彼女もまた、抱き返してきた。
「……ふふ、シュッツエンゲルとシルト、交換するべきかもしれないわね」
「えぇっ?! そんな、私なんか――」
「冗談よ。まったく、そんな訳がないでしょう」
笑いながら、彼女から離れる。相変わらず忙しなさそうに、動く梨璃が、いきなり「あっ!!」と声を上げた。
「どうしたの、いきなり」
「今お姉様笑いましたよね?! ということは私の勝ちですね!!」
「え、……あぁ」
そういえば、いつだか百由に連れられて東京に行った時のやりとりに、そう言う話をした気がする。もうあれからそれなりに経つけれど、まだ続いていたらしい。……でも、あれはあの日だけの話だったはず……。
「私が勝ったので! 何かご褒美くださいっ!」
「ご褒美下さいって……普通は、勝った方が用意してるのではなくて?」
「あっ、それもそうですね……じゃあ、えっと……」
しばらく間が空いて、梨璃がベッドに上ってきた。
「……じゃあ、今夜は一緒に寝ても良いですか? お姉様」
上目遣いにそう言われて、断れるはずがない。それに――。
「……まあ、今夜は許してあげるわよ」
「本当ですかっ?! わーい!」
――少し怖かったからとは、彼女には言えないし。
翌朝、百合ヶ丘に帰ると、二川さんがリリィ新聞をいつものように配って歩いていた。何の気なしに梨璃と歩いていると、楓さんがリリィ新聞を持って駆け寄ってきた。……楓さんの文句言いたげな表情から、嫌な気配がする。
「ちょ、ちょちょちょっと夢結様ッ?!」
「……何かしら」
「これっ! 本当なんですのっ?!」
楓さんが見せつけてきた、リリィ新聞の一面には、でかでかと『梨璃さんと夢結様、熱い夜を過ごす!!』と書かれている。
「二川さんッ?!」
勢いでそう叫んで二川さんを見ると、彼女は悪びれた様子もなく、ぐっとピースサインを送ってきた。
「へぇぇ……流石二水さんですね……」
「はっ?! その梨璃様の反応!! 本当なんですのね?!」
(梨璃逃げるわよ……!!)
そう小声で言うと、梨璃の手首を引っ掴んで、全力でその場を離れる。……柄ではないのだけど。
「ちょ、ちょっと、お姉様ぁ?!」
「あっ! 夢結様!! しっかり説明を――!!」
……今日は長い一日になりそうだと、走りながら内心ため息をついた。