高校一年の中間試験は、その後の高校生活に一番、大きく響くものである。何に影響を及ぼすか? 単純に、モチベーションだ。
高校一年ということは、他の生徒達とほぼ学力は一緒。勿論、滑り止めできた高校か、それともここに来たくて来たか、など細かいスタート地点は異なるが、ほぼ均一と言っても過言では無い。
その平均的なレベルの中でも「賢い方」なのか「バカな方」なのかで、大きくその後の勉強に対する意欲が変わって来る。
要するに「何事も最初が肝心」なわけだ。
さて、そんな中間試験に備え、甜花、秀辛の二人は、甘奈先生の指導の元、全力で勉強した。
『ねぇ、バカ。あんたなんで同じ間違いを繰り返すわけ? 学習する気あるの? それとも学習を知らないの?』
『す、すみません……』
『あ、甜花ちゃん。その問題解けないのは分かるよ。難しいもんね? 基礎だけど。大丈夫、甘奈がついてるから』
『にへへ……あ、ありがと……』
区別でも分別でもなく、明らかな差別がそこにはあったが、とにかく勉強をした。
それでようやく、中間試験を終えたのだった。そんな日だからこそ、甜花は何となく予想していた。甘奈でも秀辛でも、どちらかが「打ち上げやろう!」とか言い出すのを。
だが、試験が終わって放課後になるや否や、秀辛はすぐに教室から出て行ってしまった。いくら甜花でも、これに引っかからないということは無かった。
「……」
そんなわけで、尾行を開始した。秀辛の後ろをついて歩く甜花。何があるのか分からないが、とにかく気になった。どうせ、秀辛がコソコソ待ち合わせする相手なんて決まっている。
「……お待たせ」
「誰にもつけられて無いでしょうね?」
「無いよ。俺のステルス技能は芸術だ」
いやつけられてるから、なんてツッコミは入れず、黙ってその様子を眺める。
相手は、分かっていた事だが大崎甘奈、自身のよく出来た妹だ。いやほんとによく出来た妹。
しかし、これから何が始まるのだろうか? 決闘かと思ったが、どうもそんな感じでは無い。だとしたら……。
「はっ、ま、まさか……こくはく……?」
あり得る、と頭の中を切り替える。ちょいちょい密会しているらしいし、たまにすごく仲良しになったりするし、十分ある。
だとしたら、阻止しなければならない。何故なら、甘奈を取られるのは困るからだ。もし、彼氏彼女の関係にってしまったら、もうお世話したくれなくなってしまうかも……。
こうなったら、強引にでも……と、様子を見ている間に、二人は話し合いを始めた。
「なら、良いわ。……ずっと、この時を待ってたんだからね」
「俺もだよ」
そのセリフ、やはり間違いない……! と、甜花は胸の底を思わず高鳴らせる。どうしたら良いのか。
さっきは迷わず「邪魔してやる」と思ったが、もし愛する妹が本気で恋しているのならば、応援するべきだろうか? というか、告白のシーンなんて初めて見るから、純粋に見ていたい気持ちもある。
しかし、でもやっぱり普通に自分の面倒を一生見てほしいし、やっぱりこのまま告白はさせない。
あっさりと傾いていた天秤を逆回転させて捻じ切ると、一気に突撃しようとした時だ。
「はい、ご注文の甜花、ビキニアーマー絵」
「ありがとー! こっちも、ご注文の甜花ちゃんのブルマ姿」
「うおおおお! 可愛い! あんま似合ってない辺りが!」
「きゃー! とうとう、甜花ちゃんのビキニアーマー見ちゃったー☆ でも、甜花ちゃんもう少し胸あるよ」
「あー、じゃあ修正する? ビキニの甜花あればもっとうまく描けるよ」
「甜花ちゃんがそんなの着るわけないじゃん」
それを聞いて、ピシッと固まる。が、固まった位置が悪かった。もう引き返せない所まで走って来てしまっている。
そんなことを気にする余裕もなく、なんか知らない所で着せ替え人形にされているような気がした甜花は、顔を真っ赤にしたまま大声を出してしまった。
「え、えっち────!」
「「っ⁉︎」」
慌てて二人は振り返りながら、手に持っているものを背中に隠す。
「て、甜花⁉︎ 盗み聞きなんて趣味が悪いぞ!」
「そ、そうだよ甜花ちゃん!」
「あ、あうう……それ、二人には……言われたく無い……」
「「何の話?」」
「せ、背中に隠したもの、見せて……!」
「「背中?」」
「う、うう……いき、ぴったり……」
完全に惚ける気満々である。汗一滴流していないのが腹立たしい。どうにかして何をしていたのか吐かせたい所だったが、良い手が思い浮かばない。ここに来てコミュ障の弊害が出て来た。
そんな時だった。悪戯な風さんが、スカートではなく甘奈が隠した紙をさらい、甜花の顔にへばり付かせたのは。
「ひゃうっ……?」
「あっ!」
「ちょっ、バカ……!」
思いがけず、顔に欲しいものが飛んできてくれた。恐る恐るその紙を見ると、本当にビキニアーマーの格好をした自分が、フルカラーで描かれている紙があった。
「え……な、何これ……?」
ゆっくりと二人を見る。二人とも、全力で目を逸らしていた。
冷静に、足りない頭を全力で捻って、現状がどうなっているのかを考える。おそらく、この絵を描いたのは小宮秀辛だろう。彼の画力ならば可能だ。
が、彼が得意とするのはあくまでも模写。つまり、写真の提供者がいるはずだ。それが、甘奈だろう。今なんか小学生時代の恥ずかしい体操服姿の写真を渡していたのを覚えている。
そこから導き出される結論は一つ。こいつらが、今の今までの密会で行っていたのは、写真と模写の交換だ。それも、甜花のものを、だ。
「……」
徐々に怒りが込み上げる。流石に腹が立った。こいつら、ホントこいつら……!
「二人とも……どう言う事……⁉︎」
聞くと、二人は慌てて弁解をした。
「「こいつが取引を持ちかけて来た!」」
しかも、お互いにノータイムで責任を押し付けあう始末である。よくもまぁ怒っている人間の地雷をそこまで的確に踏み抜けるものだ。
「そういうの良いから。……で、どういうこと?」
もう察してはいるのに聞いておいた。嘘をつくようなら、それこそ断罪である。
「こいつが、写真を渡す代わりに絵を描いてくれって!」
「こいつが、絵を描いてやるから写真をよこせって!」
「「なんだと⁉︎」」
「だから、喧嘩しないで。質問に答えて」
まぁ、答えたも同然だ。今のが全てだろう。そのまま説教でもかましてやろうと思ったのだが、二人はそのまま喧嘩をおっ始めてしまう。
「うるせえ! そもそもお前が手から紙離すから!」
「あんたこそ甜花ちゃんに尾行されてた癖に!」
「お前が今日くらいは校舎裏で密会してもバレないとか抜かしたんだろ⁉︎」
「今まで試験期間中、どっかの誰かの勉強を見る事になったおかげで、毎日顔を合わせるハメになったから、今日くらいは解放されたかったんだよ!」
「お前が勉強見てやるとか抜かし始めたんだろうが!」
「あんたがバカだからでしょ⁉︎」
などなどとさらにヒートアップ。今にも殴り合いになりそうな空気になってしまったが、一番殴りたい衝動を抑えているのは甜花である。
ビリィっ……という、紙を引き裂く心地よい音と共に二人は黙り、横にいる自分を見る。
甜花としては、本当に怒っていた。絶対に許さない、と断言してしまいそうな程度には頭に来ていて、もう顔も見たく無いくらいだ。
が、仮に怒ったとして、それが怖いかどうかは別問題である。いや、怖く無いだけならまだ良い。要するに、怒っていると言うことが伝われば良いのだから。
しかし、甜花の場合は、そうもいかなかった。頬を子供みたいにぷくっと膨らませ、ふいっとそっぽを向いてしまったからだ。
「二人とも……きらいっ」
その結果、甜花が言った台詞など頭に入らず、二人をほっこりさせてしまった。
「「かわいい!」」
「ほんとに、きらいっ!」
二人が正気に戻ったのは、膨れっ面の甜花が校舎裏から立ち去った五分後のことだった。
×××
「そんなわけで『どうやって甜花ちゃんと仲直り出来るか』会議を始めます」
そう言ったのは、大崎甘奈。甜花マジギレから一日経過した土曜のカフェでの出来事である。
「うん、まぁ俺らが悪いわな」
「だよね……やっちゃったよね……」
しかも、秀辛を頼るくらいだから相当、甘奈は参っている。昨日の夜、何があったのだろうか?
「昨日、どうだったの?」
「本当に怒ってたよ……。全然、口聞いてくれないし、ご飯も部屋で食べちゃうし、ソファーにも隣に座ってくれないし……」
「あらら……」
「それに、歯磨きもさせてくれないし、着替えも手伝わせてくれないし……」
「あーあ……ん?」
「お風呂にも一緒に入ってくれないし……一緒に寝てもくれないし、夜中のトイレについて行かせてもくれなくて……」
「君達、付き合ってんの?」
「うん」
「ほざくなボケナス」
その内容に、普通に秀辛は引いた。異性とはいえ、自分と果穂でさえ、そこまで見境なくは無い。
とはいえ……まぁ、今の自分だって、果穂に口聞いてもらえなくなったら死にたくなる。気持ちが分からないことはないため、そのシスコンっぷりは気にしないことにした。
「で……どうするか、か……」
「うん! もうこんな生活耐えられない! 生き甲斐が奪われたみたいで、もう死にたいくらいなんだもん……」
「……素直に謝るしかないんじゃね?」
「……だって、話も聞いてくれないんだもん……」
「……」
つまり、まずは一緒に会話できる空間が欲しいのだろう。
「自殺のふりでもして見たら? 部屋の角でロープを首から下げて扉に背中向ける奴。本当は首じゃなくて、体を支えてるアレ」
「今度こそ口聞いてくれなくなるよ多分……」
「……確かに」
あんまりヘヴィーなのはダメだ。
「じゃあ、ゲーム付き合うとか? 甜花だってテレビゲームやるでしょ? ゲーム中に隣に座れば良いんじゃね?」
「甜花ちゃん、単純にゲームやってる最中に邪魔すると嫌がるもん。今、隣に座ったらそれこそ嫌われちゃうよ」
そう言うところは確かにありそうだ。甜花は割と子供が大きくなっただけである。
「じゃあ、俺が甜花と甘奈、二人が仲良くしてる絵でも描こうか?」
「それで許されるのはあんただけでしょ」
「……チッ」
「あんたブッ飛ばすよ?」
ダメか、と秀辛は内心で毒づく。しかし、本当に頭の良い妹である。自分が提示する案に対し、すぐに速烈で返事を返せるのは流石だ。この頭の回転の速さは、FPSをやる自分にとっても割と見習う所が……。
「……あっ」
「何?」
「ゲームやろうか」
「は? ゲーム? あんたまた自分だけ……」
「違う違う、俺の甜花じゃなくて、俺と大崎で」
「え……あ、甘奈と?」
「俺と大崎が楽しそうにしていれば、甜花もこっちに来るでしょ。この前、甜花の奴、俺と大崎が密会してるのを見て嫉妬してたじゃん。後は、上手いこと話せば良いんじゃね?」
「ああ……そんなこともあったね。嫉妬甜花ちゃん、可愛かったなぁ……」
「おい、よだれよだれ」
言われて、甘奈は慌てて口元を拭う。
「うん。じゃあ、それで行こう! ゲームなら、甜花ちゃんも簡単に釣れるしね」
「酷い言い方だな……。つーか、お前の家、プレ4二つあんの?」
「無いけど、Sw○tchでも出来るでしょ?」
「あー……Swi○ch版かぁ。まぁ良いや、良いよ」
その日の夜、結局、甜花も混ざって三人でチャンピオンを目指す三人の姿があった。