大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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闘争編
周りの目が見えてない。


 夏休み、それは始まる前が一番、楽しい長期休暇だ。俺は甜花と大崎と何処かに遊びに行けるように、計画を立てる。

 夏休みが始まるのが7月後半。その為、8月に入るまでに短期バイトを探し、8月の頭の一週間でお金を稼ぐ。

 その後、8月の中旬で多分、4〜5日くらい家族で泊まりの旅行やら里帰りやらして、思いっくそ遊べるのは後半からだろう。

 ざっくりとはこんな感じ。いやー、充実した夏休みだよなぁ。これが理想だと思っている。これが実行されれば一生の思い出となるだろう。

 で、今は8月の頭。早速、短期のアルバイト。今日明日明後日の三日間、頑張ります。

 しかし、夏休みってホント恐ろしいよね。たかだか一週間ちょいで、早起きの習慣がもう乱れてるんだもん。もう既に早起きするのが少しだるい。初めてのアルバイト、というワクワク感がなければバックれてた可能性さえある。

 ま、なんであれこれからお金をもらう分、働くのだ。適当な真似は出来ない。間違っても、このプールにマイナスな影響を与えるようなことはしてはいけないのだ。俺にとってはバイトだが、ここの社員さんにとっては人生が掛かっているのだから。

 

「よし、やるか……!」

「うん。頑張ろうね、小宮くん!」

「おう! ……おう?」

 

 あれ、なんか聞き覚えがある声が……。恐る恐る横を見ると、大崎がこのプールのスタッフ用の水着の上にパーカーを羽織って立っていた。

 

「え……なんでいんの?」

「いや、普通にバイト。てかなんであんたこそいるの?」

「いや、普通にバイト」

 

 ……ちっ、同じ考えかよ。甜花に飯を奢るのは俺の役目だと思ってたのに……。ま、良いやな。金はあって困るモンじゃない。

 それよりも気になることがある。

 

「てか、なんでここ?」

「なんでって、短期で探してたまたま良い所がここだったの」

 

 や、そういうことじゃなくてさ。

 

「お前ならこんな炎天下に身を焼かなくても、モデルとか出来るだろ」

「え?」

「?」

 

 え、何この意外そうな顔。

 

「それ、どう言う意味?」

「どういうって?」

「……そ、それ、甘奈のこと……かわいいって、言ってる……?」

 

 こいつ、今更何言ってんだ? 

 

「甜花と似た見た目をしてる時点で、お前も自覚はあるだろ」

 

 直後、フッと大崎の瞳から光が抜けた。まるで上げて落とされた後の人のような表情に、俺は思わずギョッとしてしまう。

 

「え、なに」

「あんた……なんで素直に褒められないわけ? てか、甘奈そんなぶりっ子じゃないし」

「は? 双子の癖に何言ってんだ。そこは自信持てよ」

「違うから! 甘奈と甜花ちゃんじゃ、何もかも違うし!」

「双子で顔は似てるけど、自分は可愛くなくて甜花は可愛いと?」

「そう!」

「それは中身の話だろ。外見にまで優劣つけんなよ」

「ねぇ、あんた今、甘奈のこと性格悪いって言った自覚ある?」

「あるよ?」

「あんたの方が百倍性格悪いじゃん!」

「お前よりはマシだっつーの!」

「はぁ⁉︎」

「ああ⁉︎」

 

 徐々にメンチを切り始める。なんなのコイツまじで。お前、大体自分と甜花が全く別の生き物である事くらい把握してんだろ。それを口に出しただけで、なんでそんな文句言われなきゃいけないわけ? 

 ここは一発、マジでやったろうかホント。言っとくけど、口喧嘩は俺得意よ? 中学の時、オンゲでどれだけバトってきたと思……や、あれは黒歴史だ。思い出すな、俺。

 とにかく、このまま口喧嘩を続行してやろうかと思った時だった。臨時のバイトが集合している待合室に、オーナーが入って来た。

 それにより、俺も大崎も押し黙り、ミーティングの開始まで待機した。

 

 ×××

 

 昼になった。と言っても、昼は客がフードコートを使うため、スタッフは遅めのお昼になってしまう。

 現在、午後14時。この時間になってようやくお昼である。けど、昼食はプール側が持ってくれるようで、オーナーにお金をいただいてしまった。

 割と空いているフードコートで飯を食べていると、向かいの席に大崎が座った。

 

「休憩?」

「それ以外にここに来ないでしょ」

「わざわざ俺と飯食うの?」

「良いじゃん。一人よりマシだし」

 

 まぁそりゃそうだけど。てか、大崎のコミュ力なら友達くらい作ってんじゃねえのかな、と思ったが、よくよく考えたらこのバイトって基本、一人だから友達とか作れねえんだよな。

 一応、一緒についていてくれる先輩もいるが、客がお昼を食べている時に、先にお昼へ行ってしまう。や、そのタイミングで行かないとお昼が俺達より遅くなっちゃうし、客が昼食ってる間ということは、監視員も暇なのだ。だから、短期の俺たちに任せておいても安心して飯に行けるというわけだ。

 

「どう? そっち。ウォータースライダーだっけ?」

「もう大変だよー。浮き輪から手を離さないよう、毎回言わないといけないし、出発前は姿勢を崩さないでって言ってるのに、みんな写真を撮るのに夢中だし、そもそもウォータースライダーにスマホ持ってくるし……」

「うーわ……」

 

 こっちは流れるプールの一部を見張るだけだったから問題なかったけど、そっちは大変そうだ。

 

「ああいうの、注意されるよりする側の方が嫌な気分になるものなんだね……。これから、せめてラーメン屋とかでご飯食べるときくらいは写メ撮ってツイスタに上げるのやめようかな……」

「ああ、やっぱ大崎もそういうのやるんだ」

「まぁね。……あ、ほら見てよ。駅前のカフェで撮ったショートケーキ、めっちゃよく撮れてるでしょ?」

「あーうん。てか普通に美味そう。美味かった?」

「美味しかったよ? でも甜花ちゃんが食べてたチョコレートケーキの方が美味しかった」

 

 話しながら、スマホの写真を眺める。確かに、綺麗に撮れてる。まぁあんま写真について詳しく無いから分からんけど。

 スッスッと画面をスワイプさせながら写真を見ていると、甜花が映り込んできた。なんかやたらとオドオドしている様子だ。

 

「あ、それとこれ。お洒落なカフェに入ろうとしてヒヨる甜花ちゃん。可愛く無い?」

「可愛い!」

「でしょ⁉︎」

「ちょうだい!」

「だめ。だって、あんた甜花ちゃんに絵を描くの禁止されてたじゃん」

 

 うぐっ、そ、そうだった……。アレ以来、次に甜花の変な絵を描いたら、今度こそ絶交らしい。

 

「もう取引も何も無いし、可愛い甜花ちゃんを独占出来るもん」

 

 ちっ、やっぱこいつ変わってねえなぁ。気持ちが分かってしまうから、タチが悪い。俺でもそうするだろう。てか、そもそも写真を勝手に、俺に譲渡するのも禁止だったわ。

 

「はぁーあ……なんか、お絵かき禁止って思ったよりキツいなぁ……」

「ふふん、その点、甘奈は甜花ちゃんの写真だけで妄想補完は可能だからね。双子の姉妹は、この世で唯一無二の存在だもん」

「そうか、俺も甜花の唯一無二の存在になれば良いんだ! ちょっと愛の告白してくる!」

 

 ドガっ、バギッ、ゴスッ、ズゴッ! 

 

「二度と言いません! 二度と!」

「ならば良し」

 

 四回も殴られた、四回も! こいつほんとにJKか⁉︎

 

「でも、普通に羨ましいわ。甜花と……と言うか、誰かと写真撮れて」

「え、なんで?」

「や、ほら。俺はあんま友達いないし、甜花に『一緒に写真撮って』なんて言えないし、そもそもタイミングないし」

 

 あいつ引きこもりだから、外に出かける事はない。たまにゲーセンに行くくらいだが、ゲーセンのどんな設備を背景にして、二人で写真を撮ると言うのだろうか? ハイスコアを出しても、画面を写真に収めるだけだ。

 何より……その、なんだ。女の子に「写真撮らせて」って言うの、普通に恥ずかしいし……。

 

「なんで言えないの?」

 

 しかし、このデリカシーをへその緒と一緒に切り落として来た女には分からないらしい。

 

「そりゃそうだろ。中学の時までボッチだったんだぞ? そもそも、下の名前で呼ぶのにも割と勇気が必要だったのに……」

「ヘタレなだけでしょ」

「じゃあお前は男と写真撮れんのかよ⁉︎」

「撮れるよ普通に。……ほら、ちょっとこっちに顔寄せて」

「え?」

 

 机を挟んで、言われるがまま俺は身を乗り出した。大崎も同じように身を乗り出し、真横にスマホを構える。

 

「撮るよ?」

「え、ちょっ……えっ?」

 

 俺の反応などどこ吹く風、普通に指でシャッターを切った。カシャっというシャッター音がしたと思ったら、大崎は俺の頭をどんっと押し退ける。おかげで俺は椅子からひっくり返ってすっ転んだ。

 

「ぷっ……マヌケな顔してる……!」

「てめっ、何すんだクソ女ァッ!」

「ほら、撮れるでしょ? 写真」

「はっ? と、撮れるでしょうって……!」

 

 確かに撮られた。クソ、こいつやはり普通にリア充タイプか……! 考えりゃ、俺が嫌われてる理由は甜花と仲良くしているからだ。逆に言えば、甜花を知らない奴には対しては、男だろうと女だろうと仲良く出来るのだろう。

 

「プフッ……にしてもマヌケな顔してる。ま、そもそも甘奈と小宮くんじゃ、人とのコミュニケーション力に差がありすぎるもんねー。仕方ないよねー」

 

 クッ……そうだ。たかだか友達との写真も撮れないなんて情けない。俺だって、写真くらい……! 

 

「お、俺だって撮ってやるわ! 大崎、テメェこっち来い!」

「はいはい。やれるもんならやってみ?」

 

 言われるがまま、俺はスマホを構えて大崎と並んだ。スマホの画面を見ると、大崎は普通に横ピースをしてウインクを保っている。すげえなこいつ。

 ……それに引き換え、俺の顔は強張ってんな……。ほんと、なんかこう言うの慣れないから……。

 いや、しっかりしろ。このままじゃ結局、大崎の勝ちだ。ならせめて、引き分けくらいにはしておきたい。

 そんなわけで、俺は指を2本構えて、隣の大崎の鼻の穴に刺した。

 

「ぶごっ……!」

「ぷふっ……!」

 

 その隙に一枚撮った。くふっ、変なツラして横ピースしてやんの。

 

「っ、ち、ちょっと! 何すんの⁉︎」

「いや、なんか腹立ったから。……うわ、指に鼻毛ついた。返す」

「いらないから! そんな写真、何処かにアップしたりしないでしょうね⁉︎」

「しねえよ。俺はツイスタやってないし、友達もいな……あ、甜花に見せちゃおうかな」

「ブッ飛ばすよホント‼︎ そんな事したら、夜道に気を付けてもらうしかないから」

「やってみろよ。俺の我流北斗神拳が火を吹くぞコラ」

 

 そのまま口喧嘩が勃発し、次の日のバイトから大崎と口を聞くことは無かった。

 

 ×××

 

 その日の夜、俺は一人でベッドの上で寝転がっていた。スマホに映っているのは、大崎と俺との写真。

 

「……」

 

 ……よくよく考えたら、これ家族以外で……そして女の子との初めてのツーショットなんだよな……。

 

「……」

 

 ……やばい。少し嬉しい。例え相手が大崎でも、なんか、こう……写真が撮れたってのが、嬉しくて……。

 っ、落ち着け、俺……なんか、まるで俺が大崎との写真を喜んでるみたいだろうが……。

 

「っ……ふぅ、よし……落ち着いた」

 

 そう考えれば落ち着けるな。何せ、相手は大崎だし。俺との会話の時だけやたらと口調が荒くなる、あの見た目以外可愛く無い大崎だ。まだ友達ってわけでもねえし、むしろ敵同士。そんなのとの写真なんて、むしろ恥だろ。

 ……でもやっぱ嬉しい。

 

「だークソっ!」

 

 スマホを放り、そのまま寝転がった。ダメだダメだ。もうこの写真見ないようにしないと、なんかどうしたら良いのか分からなくなる。

 明日から、またバイトなんだ。とりあえず、今は忘れろ。……あ、でも大崎と顔を合わせるんだよな……そしたら、また……。

 ……だーもうっ! なんか俺が大崎を意識してるみたいじゃんかクソが! 

 

「よし、寝よう」

 

 ……なるべく、明日は大崎と顔を合わせないようにしておこう。念には念を入れてだよ、他意はない。

 

 

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