大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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コミュ障はパーソナルスペースの測り方を知らない。

 短期のバイトを終えて小金持ちになった俺は、少し気晴らしに来た。いや、家にいても俺しかいないから、クーラーつけられないんだよ。親にせめて二人以上いないとつけるなって言われてて。

 なので、仕方なく表に出た。ちょうど暇だったし、久々に近くのショッピングモールに来ていた。金を使うわけにもいかないし、冷やかし目的なんだけどね。なんか良さそうなものないかなーみたいな。

 特に、服装については今、勉強中で、どんなのがオシャレなのか色々と探っているところだ。男子高校生はその辺にも気を使うらしいからな。

 そう、あくまで表をブラブラ歩いて、腹減ったら飯食って、飽きたら帰る、そのつもりだったのだ。

 そんな俺の耳元に、一本の電話が届いた。大崎甜花からである。

 

『小宮くん、たすけて……なーちゃん、遊びに行っちゃって……お昼ご飯、ない……』

 

 現在、午後15時。お昼ご飯は大体、12〜13時の間。それくらいが丁度、お腹が空いてくる時間だからだ。

 つまり、それからもう2時間、甜花は飢えている。そう思うと、俺の脳内は自然と「何とかしてやらないと」と考えていた。

 

「外で飯食うか?」

『お金、無い……。そもそも甜花、まだ家の周り、ゲーセン以外、把握してない……』

「普段どうやって生きてんの?」

『いつもは、なーちゃんが……お昼の、作り置きしてくれてるけど、今日は無い……』

 

 なるほど。ま、それなら俺が奢ってやれば良いか。こういうのもたまになら別に良いでしょ。

 そう決めて、とりあえずゲーセンで待ち合わせをしよう、と口にする前に、甜花が先手を打つように声をかけて来た。

 

『だから……小宮、くん……。お昼、うちに作りに……来て?』

「え?」

 

 え、うちって……大崎家? 本気で言ってんの? 

 

「ほ、本気?」

『? う、うん? ……なんで?』

「なんでって……や、ほら俺、甜花の家知らんし……」

『ゲーセンからの道のりなら甜花、近道を教えられる……!』

 

 なんで近道はわかるのにファミレスの場所ひとつ分からないんだよ。興味あることに記憶力のパラメータ振りすぎでしょ。

 でも、とにかく断らないと。いや、嫌なわけじゃなくて……こう、男と女が一つ屋根の下とか、倫理的に、ね? 

 何より、大崎にバレたら俺の命が危ない。

 

「あ、あー……甜花。でもさ……」

『そ、それに、ね……?』

 

 女の子は本当に男の話とか聞かないなぁ……。頼むから少しはこっちの話に耳を傾けてくれると嬉……。

 

『たまに、は……甜花、作りたての小宮くんのご飯も、食べたい……!』

「……」

 

 ……いや、その一言の方が嬉しいわ……。そんなん言われたら、もう俺作りに行くしか無いじゃんよ……。

 

「……わかった。今行く。飯作るだけだからな?」

『え……それだけで、帰っちゃう……の?』

「え」

 

 な、何その反応……何か期待してるの……? いや、学習しろよ俺。前に甜花に対してドギマギして痛い目を見たろうが。

 

『一緒にゲーム、したい……!』

 

 だよね、知ってた。俺の学習能力は異常だな。

 

「じゃ、今から行くね」

『う、うん……急いでね……。……お腹が空き過ぎて……そろそろ』

「すぐ行く」

 

 変なことはしない、と心に固く誓った。いや誓うまでもない事なんだけどね。

 

 ×××

 

 インターホンを押すと、ギッ……とホラー演出でもしてるの? と言わんばかりに、控えめに玄関が開いた。

 少しギョッとしながら顔を向けると、頬こけたパジャマの甜花が今にも死にそうな顔でこっちを見ている。

 

「怖っ⁉︎」

「い、いらっ……しゃい……小宮、くん……」

 

 直後、グギュルルルルっという甜花らしからな音が聞こえたが、それに恥ずかしがる余裕もなく、甜花は玄関を半開きにさせて支えていた。

 

「は、早く……小宮、くん……」

「しっかりしろ甜花! 今、作るから少し待ってて!」

「う、うん……!」

 

 大崎、こうなるならもう作るの忘れていっちゃダメだ! 後で言っておかないと……! 

 なんかもう女の子の家だとか他人の家だとか気にする余裕もなく、とりあえず冷蔵庫を開けて、適当に食材を出し、全力で焼いた。

 軽く生姜焼きを作りながらサラダを刻んで小皿によそいながら、おそらく朝の残りである味噌汁に火を通し、注ぐ。料理が出来るようになっておいて、心底良かったと思う。

 

「TENGO!」

「テンゴってなんだよテンゴってー!」

 

 よし、まだ元気だ! 

 

「できた! 食え!」

「あ、ありがと……!」

 

 食卓でグッタリしている甜花の前に料理と箸を置くと、ようやく食べ始めた。モッモッ……と、口を控えめに動かす甜花。徐々に空腹が満たされていくのを感じたのか、その食べる手の勢いが増していく。

 その食事の様子を、俺はニコニコしながら正面で見ていた。ふふ、本当に小動物みたいな奴だな。

 

「うう……生き返る……生きとし生ける者、全てに感謝……」

「難しい言葉知ってるんだな」

「うん……甜花、物知り……」

 

 やっぱ少し意識朦朧としてるな。まぁ、食べればすぐにそれも戻るさ。それより、借りた食器を洗っておかないとな。

 そんなわけで、まな板と包丁とフライパンを洗い、ようやく一息つく。甜花は食事を終えて、お腹をさすっていた。

 

「ふぅ……おなか、いっぱい……」

 

 ……女の子がお腹をさすってると、なんか少し変な気分になるな……。でもここで「何ヶ月?」とか聞くとマズイのは俺でも分かる。

 

「美味かったか?」

「う、うん……! ありがとう……」

「いや、全然、気にしなくて良いから」

 

 それよりも、気にして欲しい所はたくさんある。冷静になった今だからこそ気になる点が、ちょっと多くてね……。

 例えば、その……ほら。パジャマ姿とか? 夏休みなだけあって、薄着で寝ていたのだろう。その……胸元がはだけてるし……てか、それか前に女の子が寝癖だらけの頭で大丈夫? とかさ……。

 

「ね、ねぇ……小宮、くん……! ゲーム、ゲームしよう……!」

「う、うん。それは良いけど、まず口元。タレついてる」

「え?」

「それから……その、何……せめて着替えてくれると、俺としては……ていうか、もう一回、洗面所行っておいで」

「ひ、ひぃん……は、恥ずかしい……」

 

 ……今更かよ。

 甜花は一度、リビングから出て行った。その間、俺は部屋の中を見回す。流石、JK双子が暮らしている家なだけあって、家の中はどちらかと言うと女の子っぽく明るいものが多い。けど、ちょいちょい……例えばテレビの前にある小物や、ソファーの上のぬいぐるみには、アニメやゲームのキャラが多い。

 本当なら、甜花や大崎の部屋とかも見てみたいものだが、その辺は同性の友達というわけでもないので我慢。デリカシーという奴だ。

 

「お、お待たせ……」

 

 そうこうしているうちに、甜花が戻って来た。寝癖は相変わらずだけど、服装はしっかりと私服になっている……んだけど、なんでこの真夏にトレーナー? 

 

「その格好、暑くねえの?」

「だ、大丈夫……! クーラー、つけるから……!」

「まぁ、甜花がそう言うなら良いけど……」

「そ、それより、ゲームしよう……!」

 

 なんか焦ってんな。別に良いが。

 せっかく家でのゲームなんだし、FPSとか家でも出来る奴じゃなくて……こう、別のゲームが良いだろう。

 

「アレある? 例えばほら、マリカとか……」

「甜花、これやりたい……!」

「え、どれ?」

 

 言いながら甜花が棚から出したのは、人生ゲームだった。普通にボードゲームの懐かしい奴。

 

「この前……なーちゃんが掃除してたとき、見つけて……久々に、やりたくて……!」

「良いよ。やろうか」

 

 まさに、顔を合わせないと出来ないゲームだもんな。もう一人くらい人数がいればもっと楽しいんだろうけど、まぁそれは仕方ないって事で。

 早速、甜花と一緒に、ソファーの前に置いてある低めの机に、ボードを広げた。

 続いて、専用の紙で作るスタンドに、それぞれの金、株券、各種保険、約束手形を置き、最後にコマを用意。

 

「よし、やるか」

「最初はグー」

「「じゃんっ、けんっ、ほい」」

 

 甜花が先行。前屈みになってルーレット回す。その時、ふと俺の視界に何かが見えた気がした。気の所為だろうか? いや、まさかそんなはずはないと思いたいけど……うん、気の所為だな。

 ルーレットの出目は7。中々の高数字……と言いたいところだけど、残念ながらこのゲームの序盤は、高ければ高い方が良いと言うものではない。良い職に就くことが重要だ。

 

「え、ええと……1、2、3……」

 

 言いながら、甜花は再度、前屈みになってコマを動かす。あれ? やはり、何かチラリと見えた気が……と、思って、つい反射的にそっちを目で追ってしまった。追わなけりゃ良かったのに。

 良くも悪くも、トップは見えなかった。ただし、妹が最近、ブラをつけ始めたからこそ分かる「いや、そこには布がないとおかしいだろ」という位置まで見えた。

 つまり、早い話がこいつ、ノーブラなのだ。トレーナーの下にシャツ一枚さて、着ていない。

 

「ブハッ!」

「っ、こ、小宮くん……⁉︎」

 

 思わず吹き出しちゃったよ! なんで⁉︎ なんでそんな半端な格好……いや、分かりきったことか! おそらく、着替えさえまともに出来ない子なんだ。そんな子がおそらく中学から、早い子でも小学生高学年から着けるようになるものを、甜花が出来るはずがない! 

 

「っ、わ、悪い……でも、大丈夫だ。ちょっとなんか詰まっただけ」

「そ、そう……?」

 

 クッ……見るな、見ないようにしろ。多分、この季節のトレーナーも、ゆったりした服を着てノーブラであることを隠しているのだろう。

 

「にへへ、見て。甜花……タレントになった……!」

「ん、お、おお」

 

 一方の甜花は、俺の視線になど全く気付くこともなく、タレントになってご満悦だ。こんな子を、穢れた目で見ることなんてできない。

 とりあえず、話を逸らす。タレントってだけで喜んじゃう素直に可愛い子なのは助かる。そこに乗れば簡単に話は反らせるのだから。

 

「まぁ、甜花ならタレントくらいなれそうなモンだよな、うん」

「え……ど、どうして……?」

「え? 可愛いから?」

「……えっ、な、何を……いきなり……」

「……あっ」

 

 ……やべっ、なんか口説くようなことを言っちまったか……? そんなつもりはなかったんだけど……。

 今はただでさえ、男女が一つの部屋にいるのだから、あんまりそう言うことは言うべきではない。

 

「悪い、忘れて」

「あ、う、うん……」

「それより、先進もう。確か、専門職コースは終わったらすぐ給料日までワープでしょ」

 

 褒め言葉にあまり慣れていない相手に意識をさせないためには、さらっと流す事である。基本的に人の顔色を窺うのがコミュ障であるため、空気を変えればそっちに流されるものなのだ。

 タレントの給料はルーレットを回し、出た目の五千倍ドル札。再び甜花は7を出した。

 

「おいおい、デビューしたてで7千ドルと35000ドルってエグいな。超売れっ子じゃん」

「にへへ、甜花……華々しい新人歌手……!」

「いや、甜花はどちらかというとアイドルじゃね。何も出来なくてもなんか売れそう」

「て、甜花、ゲームはできるもん……!」

 

 そう言う面でもオタクに好かれそう。

 

「生命保険は?」

「入る……!」

「はいはい」

 

 続いて俺の番。ルーレットを回した。

 

「お、5か」

「5? 何かな……」

「あ、先生だってよ」

「え……小宮くんが、先生?」

 

 ちょっ、何その言い方。や、気持ちは分かるけど口に出さなくて良くない? 

 

「何を教わるの……?」

「道徳?」

「そこは家庭科だと思うけど……」

「あ、そっか」

 

 確かにそうかも。そうじゃん、俺家庭科ならなんでも教えられるわ。

 俺の駒も給料日まで進め、12000ドルと生命保険を得た。甜花より遅れたスタートだが、安定しているのはこっちだ。……いや、甜花より多く給料を得るには、甜花が2以下を出すのを期待するしかない。

 そんなわけで、何も出来ないゲーマーアイドル大崎甜花と、男の癖に家庭科教師小宮秀辛の人生がスタートした。

 

「ところで、小宮くん……」

「何?」

「負けた方は……罰ゲームで、何でも言うこと聞く……!」

 

 そういうのは給料日になる前に言えや。

 

 ×××

 

 ゲーム脳というのは「負けず嫌い」とも言い換えることが出来る。や、ごめん。だいぶ、飛躍させたわ。

 言いたかったのは、どんな事にでもゲーム性を見出し、どうすれば勝てるのか、どうすれば効率良く勝利条件を満たせるのか、を考えるから。それも、プレイしながら。

 所詮はルーレット、所詮は運次第。それでも、俺と甜花のバトルは熾烈さを極めた。

 

「にへへ、やった……! パリ・ダカールラリーで大怪我! 生命保険に入ってれば、5万ドルもらえる……!」

「怪我して喜ぶなよ。……お、チョロQレース大会で優勝した。15000ドルもらう!」

「チョロQでどうやってレースするの……? わっ、給料日……! 株券買える!」

「あ、俺もだ。買おう」

「げっ……婚約指輪、24000ドル払う……直前で止まらないでよ……」

「太っ腹だな甜花。じゃ、お先に結婚するわ」

「指輪、買わないでも結婚できるの、納得いかない……」

 

 序盤ではほぼ互角。若干、俺が優勢かと思ったが、甜花はタレント。俺とは収入が違う。

 続いて中盤戦のハイライト。

 

「甜花、家は……マンションで良い……!」

「ふっ、こう言うのは高いの買っときゃ安パイなんだよ。俺、40,000ドルの家で」

「え……甜花、小宮くんとは結婚したく無い……」

「なんでだよ!」

「あ、テーマパーク……ひぃん、入場料が意外と……で、でも……お金もらえるマスが多い……!」

「テーマパークでどうやって金稼ぐんだ……? うわ、こっちはキャンプかよ。こっちは割と支払いイベントが多い……」

「にへへ、落とし物を届けて、8000ドル……! 良いことはするものだね……!」

「それは実際にやってから言えよ」

「え……甜花、まず実際にテーマパーク行かない……」

 

 引きこもり宣言かよ……。や、気持ちは分かるが。まぁこれからは、俺はそういう楽しめる場所にも興味を持とうと思っているが。

 さて、後半戦だ。

 

「転職……!」

「甜花はアイドルのままで良いんじゃね。なんか意外としっくり来るし」

「そ、そう……かな?」

「うん。だから俺は教師ランクアップするわ」

「あ、ず、ずるい……!」

「運良く止まったんだから仕方ないでしょ」

「……あ、て、甜花もランクアップ……!」

「チッ、やるな……は? 職を捨ててフリーターになる? ランクアップしたのに? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「プフッ……わ、やった……! 近所のよしみで、家を交換……!」

「全然、近所じゃねえだろふざけんな⁉︎」

 

 完全に甜花が押し始めてきた所で、いよいよクライマックスだ。

 

「ひぃん、ゴッホの絵なんていらない……!」

「ふっ、アイドルだからってコくからだ。たけき者も遂にはほろびぬ、と言う言葉を知らんのかね? ……おっしゃ、先に橋渡った上に給料日と仕返し! おまけに景気アップで株券の枚数だけ1万ドル!」

「や、やめてぇ〜……! あ、甜花も溺れてる人を助けて2万ドルもらえる……!」

「むしろ一緒に溺れそう」

「ひぃん……いじわる……」

 

 そして、いよいよゴール! 

 総額は……甜花、87万9千ドル。俺、85万5千ドル。

 

「か、勝った……にへへ……!」

「うーわ……やっぱタレントずるいわ」

 

 でも割と食らいついた方だよね。ラストスパートが特に。や、やめておこう。負けは負けだし。

 ……考えてみれば、俺基本的に甜花にはゲームで負けてるんだよな……。中学の時に会ってれば、良いライバルに慣れていたかもしんないのに。

 ま、とりあえず罰ゲームだ。

 

「で、何? 罰ゲーム」

「あ、う、うん……!」

 

 ま、甜花は良い子だし、そんな無茶苦茶な罰ゲームは来ないだろう。大崎なら「切腹」とか「自害」とか言って来そうなものだが。

 

「にへへ……じゃあ、甜花の部屋に……来て、くれる……?」

「……え?」

 

 不意にそんなことを言われ、俺は滝のように汗をかいてしまった。そういえば、白熱してて忘れてたが、今、男女で一つ屋根の下だった。

 そんな中、部屋に来いって……え、なんで? いや、ていうか外もう日が沈んできてるじゃん。もし大崎が帰って来たら……。

 

「ほら、命令……!」

「っ……」

 

 ……ダメだ。甜花に袖をこんな風に引かれたら……断れるもんも断れない。こいつ自分がノーブラのことも忘れてんだろ……。

 仕方なく、俺は甜花と一緒に部屋に向かった。この後、部屋の掃除を手伝わされた。全然、残念じゃなかったからな。

 

 

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