ある日、いつものように俺と甜花と大崎はゲームに勤しむ。地味に大崎が加わっているのは、この前、甜花と仲直りするために、一緒にやって以来、たまに一緒にやるようになった。
まぁそんなガツガツはやらない。なんかみんなでわちゃわちゃ楽しみたい時だけ。あと、大崎が家にいる時。
「甜花、あれ狩るぞ。俺、突撃かますから、カバーよろしく」
『う、うん……!』
『甘奈はどうしたら良い?』
「そこで見てろ」
『あ、ひどい! 甘奈も突っ込む!』
まぁ、そうなるわな。それで結構です。生きたデコイになってくれるなら、それはそれでありがたいし。
そのまま三人でなんか良い感じに戦い、何とかその場の戦闘は勝利した。いや、大崎も意外と侮れないんだよ。甜花の援護が上手いからだけど、とりあえずショットガン持たせて適当に撃たせておけば、カスダメが入って地味に役立つの笑う。
まぁ、案の定、ダウンは真っ先にするんだけどね。俺のキャラは蘇生中に透明になれるため、俺が大崎のキャラを起こしてやる。
「あれ、甘奈ちゃん? どうしてそんなところで寝てるの? あ、もしかしてHP0になっちゃった感じ? おかしいな……そのキャラ、ピンチになったら虚空に入れるキャラクターのはずなんだが」
『う、うるさーい! 今日はちょっと調子悪いだけなんだから! 甜花ちゃんと二人の時はすごいんだよホント⁉︎』
「はいはい、それはもう良いからアイテム漁れよ」
『あ、信じてない! 甜花ちゃん、甘奈すごいよね⁉︎』
『え? う、うん……まぁ』
甜花に聞いても自分の測りしか持ってないから、ちょっと活躍した程度じゃ覚えられないぞ。
そうでなくても、今はアイテム漁りに夢中だし。
「分かった分かった。そう言うなら次頑張れ」
『そ、そもそもあんたが甘奈を邪魔扱いするから、力が入っていつもの実力が出ないんだからね⁉︎』
「や、だから分かったって。次、エンカウントした時も、なるべく引っ込んでてくれるか?」
『分かってなーい!』
『にへへ……やった。シャッター拾った……! これで、甜花無双……!』
「『それはすごいな! 甜花(ちゃん)のカッコ良い所が見てみたい!』」
『ま、任せて……!』
さっきまで口喧嘩していた二人とは思えないくらい、声が揃ってしまった。言うことまで被るとか、打ち合わせでもしたのかとか疑われるレベル。
アイテムを漁り終えたので、別の場所に向かいながら、カレンダーを見る。なんだかんだ、もう8月も最初の一週間が終わった。今の所、バイトとゲームしかしていない。や、一日だけ甜花のお世話をしに行ったが、それだけだ。
なーんか……夏休みってこれで良いのかなぁ。や、まぁこう言うのも楽しいんだけどね。あのプールのバイト以外にもイベントスタッフとかやって金は稼いだが、あんまり使う機会が無い。何せ、もう明日からは家族旅行だし。
「あ、そういや甜花。俺、明日からしばらくゲーム出来んわ」
『? どうして……?』
「婆ちゃん家に帰るから。あとついでになんか色々観光するし」
『やったね、やっと鬱陶しいのがいなくなる』
「うるせえバカ。そう言うなら、お前少しは戦力になれ雑魚」
『ざ、雑魚じゃないし! 本当ならもっと強いって言ってるじゃん!』
「だから強くなった証拠を見せてみろって言ってるでしょ」
言うと、ぐぬぬっ……と、悔しそうに黙り込む大崎。
そうそう、どんなに口で言っても実戦で発揮できなかったら何も変わってないのと同じなのよ。次こそ少しは頑張ってみろや。
すると、今度は甜花が聞いてきた。
『何処に、帰るの……?』
「京都」
『『京都⁉︎』』
うおっ、なんだよ。声を揃えて。
「そうだよ。だから中学の修学旅行とかマジでクソだったわ。そこそこ行ってたから、あんま旅行感なくて」
今にして思えば、修学旅行を楽しもうと思えなかったのは、それも一つの要因になっていたのかも。まぁ、8割はソシャゲのが楽しいとかクソみたいなこと思っていた事なのだが。
『でも……京都は、羨ましいな……』
「え、甜花が?」
『て、甜花だって……旅行くらい、しなくもないもん……。京都は、らき☆すたの聖地だし……』
「聖地巡礼だろそれ」
でもどんな理由であれ、外に出るってことは良い事だよね。……まぁ「しなくもない」と言う言い回しの時点で、何となくツチノコ並みにレアな事柄である事は察しているが。
『良いなぁ、京都かぁ……』
「楽しいよ。果穂……妹とか、もう毎年行ってるのに、毎年同じテンションではしゃぐし」
『可愛いじゃん、妹ちゃん。あんたと違って』
「お前とも違ってな」
『んがっ……!』
なんか断末魔が聞こえた気がしたが、その隣で甜花がやんわりと言った。
『そっか……じゃあ、ゲーム出来ない、んだ……』
「そう。だからしばらく、誰かとランク上げは諦めて、野良でやっててくれ」
『ちょっと! 甘奈がいるじゃん!』
『え、なーちゃんとランクはやりたくない……』
『甜花ちゃあん⁉︎』
もう俺も甜花もプラチナだしな。そもそもシルバーで頑張ってる大崎とはランクに挑めない。
『うう……最近、甜花ちゃんが冷たい……』
「いや、元から割とそんなもんだぞそいつ」
『違うよ! こうなったのも全部、あんたの所為なんだから!』
「なんで俺⁉︎ てか、人の所為にする暇があったら、テメェの腕を磨けや!」
『うぐっ……も、もうあんたとなんかゲームやらないからいいし!』
「はぁ⁉︎ おまっ……あっ」
パーティ部屋から蹴られた。や、まぁ良いし。どうせ明日から旅行だ。ゲームなんてやる暇ないし。精々、上手くなってから出直して来いや。
……それはそうと、甜花の奴……俺と大崎が喧嘩してる間、全く仲裁する様子を見せなかったな……。ホント、ゴーイングゴーイング・マイウェイな奴だ。
×××
京都に到着し、早一日が経過した。祖父母に顔を見せに来たわけだが、もう歳なだけあってあまり体調が優れないから、表を出歩くことはできない。
けど、せっかく京都に来た、と言う事もあって、両親が家に残り、俺と果穂は表を歩くことになった。
で、早速、有名な世界遺産に足を踏み入れる。
「お兄ちゃん、すごいよ! どう見ても15個には見えない!」
「そうだな! その感想、もう七回目だな!」
本当に素直で可愛い子だよ、うちの妹。甜花の妹にも見習って欲しいレベルで。
やっぱ可愛げというのは大事なものだよね。あと素直さ。人はそうでないと成長しない。……俺も素直に「ゲームばかりやるな」っていう親の忠告を聞いていれば、中学三年間を棒に振る事も……いや、やめておこう、考えるのは。
「でも、ジャスティスレッドなら、おそらく心眼を持ってして15個全部見破れるんだろうなぁ……」
「俺にも15個見えてるよ」
「えっ、本当⁉︎」
「本当」
「すごい! お兄ちゃんもジャスティスレッドだ!」
「バレたか」
「サイン下さい!」
……少し素直過ぎて心配になるな。全力のアホの子かしら? まぁそこも可愛いんだが。
とりあえず、俺もその庭に散っている14個しか見えない石をスマホに収める。よし、これ甜花に送ろう。なんか羨ましがってたし。
「お兄ちゃん! 私も撮って!」
「はいはい。メチャクチャ可愛く撮ってあげるから」
「カッコよく撮って!」
「はいはい。カッコ良くね」
まぁヒーローに憧れる気持ちは分かる。俺はどちらかと言うと、日本よりアメコミのが好きだけど。
果穂の写真を撮ると、ちょうど甜花から返信が来た。
てんか『それ何……?』
龍安寺知らんのか己は。世界遺産だぞオイ。とりあえず、甜花が一番、興味示しそうなことを教えてあげることにした。
小宮ピースキーパー『この写真の石、いくつに見えるよ?』
てんか『多分、14』
小宮ピースキーパー『それが15あるんだよ。この石と水平の位置に立って見れば、どこから見たって14個なのに、上から数えると15個あるっていう、有名な庭なんだよ』
てんか『なるほど。面白いね!』
文面だからか? 声を聞くより元気に見える。
小宮ピースキーパー『気になるならググってみ。色々面白いよ』
てんか『うん。見てみる』
あら素直。ま、あいつも色々と探ろうとしてるって所かな。せっかくだし、他にも色々と写真を送ってやるとするか。
……大崎も見たいかな。あいつも京都には興味あるだろうし……や、でも興味あんなら甜花に声かけたりとかすんだろ。
「お兄ちゃん! そろそろ次に行きたい!」
「おー」
もう何度も来ているからか、飽きるのも早かった。果穂と一緒に、次の地へ向かった。
×××
いやー、甜花ってほんと良い反応してくれるわ。やっぱあいつもゲーム以外に興味あるものも、たくさんあるんだよね。ていうか、みんなそうだよね。
金額の情報も、清水寺からの風景も、ググって画像を拾って来た東大寺でさえ、それは京都だと騙されたまま感激していた。
甜花はやっぱり可愛いわ。なんか、こう……彼女にしたい、とかじゃなくて、普通に可愛い。
……けど、なんだろ。何この感じ。なんか、足りない。なんか騒がしいのがもう一人足りない気がするんだよな……。
「……」
……でも、それを認めるのは癪なんだよな。だってなんか、そいつを望んでるような気がしてさ……。なんで鬱陶しいと心底、思ってんのに、それが無くなると物足りなく感じるんだろうな……。
昨日は丸一日、清々してたけど……なんか、今日になって少しアレな感じがする。
「お兄ちゃん、どうしたの? ぼんやりして」
お土産屋の前で、スマホを見ながらボケっとしていると、果穂から心配するような声が聞こえてくる。
「何でもないよ」
「もしかして、疲れて歩けなくなった? 大丈夫だよ、一昨年の夏休みみたいに、私がおんぶして運んであげるから!」
「それあんま大声で言わないで。黒歴史だから」
なんてこと言うんだこいつ……。てか、忘れてよ……。妹におんぶされて帰宅なんてなかなか無いよ。
「でも……なんか元気無さそうだし、気になるよ?」
「大丈夫だよ、果穂は気にしないで」
「……むー」
「むくれるな、可愛いだろうが」
ホント、たいしたことじゃないし。なんにしても、俺には大崎と連絡取る手段なんかない。どうすることもできないのだ。
……けど、まぁ……甜花にだけお土産買うのは感じ悪いし、大崎にも何か買って行くとするか。
となると、何を買って行くか、だが……。
「果穂」
「? 何?」
「なんでもない」
「え、な、何⁉︎」
果穂が欲しがるものなんて木刀くらいしか思い付かないし、聞いても仕方ないっつーの。
一先ず、自分で少し考えてみるか。女心を知る良い機会にもなりそうだしな。
「ねーえー! なーにー⁉︎」
「果穂にはまだ難しい話だよ」
「意地悪言わないでよー!」
「じゃあ女の子が欲しがる京都のお土産、五つ挙げてごらん?」
「え? えっと……木刀?」
「ほら、聞いても無意味じゃん」
「なんで⁉︎」
分かんねえのかよ。そんなバイオレンスな女に誰がお土産買っていくかよ。大崎の場合、俺に対して普通に使って来そうだから尚更、お土産にするわけにはいかない。
「ほ、他にもまだ案があるからー!」
「大丈夫だ、果穂。俺はそう言う果穂の少しアホっぽい所が大好きだから」
「え? えへへ……そっか……って、アホじゃないもん!」
「はいはい。分かったから、欲しいものあったら言えよ。少しなら出してやれるから」
「そうじゃなくて、欲しがるもの五つでしょー⁉︎」
「0個で良いよー」
「きーいーてーよー!」
うぐっ、これ以上、騒がれると他の人の視線がヤベェな……。こうなると果穂は強情だし……仕方ない、少しだけ耳を傾けるか。
「分かったよ。何?」
「着物が欲しいです!」
「やっぱりアホじゃん。無理に決まってんだろ」
「ええっ⁉︎ じ、じゃあ……えーっと、えーっと……」
焦ってるうちの妹ホント可愛いなぁ……。思わずほっこりしてしまう。
「……あ、あれです! よ○じやのあぶらとり紙!」
「万事屋の坂田銀時? フィギュアなら確かに欲しいけど、京都じゃなくて良くね?」
「言ってないよ! よ○じや!」
よ○じやってなんだっけ? ……ああ、去年あたりもそういやなんか買ってた気がする。
「それ何なの?」
「お肌の余計な脂を取るための紙だよ。京都に来てこれ買わない女の人いないよ?」
「……なるほど?」
そこまでいう一品ならば、大崎も喜ぶかもしんねえなぁ。や、あいつが喜ぼうと喜びまいとあんま関係ないんだけどね。
「よし、行ってみるか」
「うん!」
採用されたのが嬉しかったのか、果穂は元気に頷いた。
×××
楽しい旅行というのはあっという間。ほとんど果穂とのデートだったから本当に短く感じた。
さて、帰宅した翌日。早速、お土産を渡す事にした。二人とも運良く暇らしいので、すぐに遊びにいく。勿論、大崎家には初めていく、という提でだが。じゃないと、大崎に「甘奈のいない間に、いつうちに来たの?」と包丁を持って脅される。
で、甜花の案内の元、家の前には来たのだが……。
「……」
……ここに来て緊張して来たな……。考えてみたら、家族以外にお土産を買って来たことが初めてだ。甜花への八橋はまだしも……大崎へのあぶらとり紙は喜ばれるのか……? ただでさえ、姉に似て肌綺麗なのに……。
ていうか、よくよく考えたら、肌をケアするものを渡すと言うことは、裏を返せば「もう少し気を使えよ」と伝えていることになっちゃうのでは? 無論、そんな気は毛頭ないけど。
そもそも、なんで俺、大崎にまでお土産買った? や、そりゃ甜花にだけ買って来たら悪いからだけど……でも、仲良いわけでもない男に物を貰ったって気味悪がられるだけなんじゃ……。
「……」
……あ、やばい。なんか自信無くなって来たな……。やめておこうかな……でも、やめるなら甜花のお土産もやめた方が……いや、八橋だし、二人へのお土産ってことにしちまえば……。
「何してんの? 早くインターホン押したら?」
「ひょおおおおおおおおおッッ‼︎」
いつの間にか玄関から出て来ていた大崎が声をかけて来て、思わず背筋が伸びてしまう。その後ろには、甜花がにへらっとした笑みを浮かべて立っていた。
「お、おまっ……い、いつからそこに……?」
「今。てか、いつまで玄関の前でウジウジしてんの?」
「う、うううるせーわ!」
「まぁ分かるよ。甘奈達、JKが二人も住んでる家だもんね。緊張するのは良くわかる」
「お前は別。甜花の成分が10割」
「せめて1割くらい混ぜてよ!」
うがーっと食い掛かる大崎を無視して、俺は甜花に片手をあげる。
「よう、久しぶり」
「う、うん……でも、ずっとメッセージ送ってたから……久しぶりって感じは、しないね……」
「まぁな」
「何、あんた甜花ちゃんとずっとそんな事してたの?」
「グラブルやりながらな」
「ずるい! 甘奈も旅行行ってくる!」
「いやずっと一緒にいる方が良いだろ……」
こいつバカじゃね? 俺これに勉強教わってたの?
軽く引いている間に、大崎は俺のカバンに手を伸ばす。
「で? お土産どれ?」
「おい、勝手に漁んなよ!」
慌ててカバンを引っ込めた。あっぶねぇ、ついうっかり何もかも見せる所だったわ。
が、甘奈も目を丸くして俺を眺めていて、ふと正気に戻る。やべっ、今のはやりすぎだったか……?
「あ、わ、悪い……」
「や、別に良いし。どうせ、甜花ちゃんの分しか無いんでしょ?」
「え?」
「ごめんごめん。じゃ、お土産渡す時くらいは退散しといてあげる。……‥でもこの後、デートとか行ったら殺すから」
「あ……」
……家に戻っちまったな……。残ったのは、俺と甜花だけ。少し気まずいのが困る。
どうしようかな、あぶらとり紙……。甜花にあげてもメモ用紙にしちまいそうだし……果穂にでも渡すか?
「あ、あの……小宮、くん……」
「何?」
「なーちゃんに、お土産……ないの……?」
「え、なんで?」
「小宮くんと連絡取れない間、ちょっとだけ……いやほんとにちょっとだけど、たまに少し稀に、退屈そうな時があったから……」
「……」
甜花、やっぱ妹には優しい子だよな。そんなわけないのに、そんな嘘ついてまで大崎に気をかけてあげてるから。……まぁ、普通にお土産はあるわけだが。
でも、なんかこの流れで「お土産あるよ」は普通に恥ずかしい。いや、むしろ向こうの方が恥ずかしい思いをするかもしれない。
とりあえず、何も言わずに鞄から袋を取り出した。中には、元より渡す予定だった二つが入っている。
「ほれ。お土産。いらなかったら大崎に回せ」
「あ……う、うん……」
「じゃ、俺帰るから」
「え、も、もう?」
「この後、妹とデートだし」
嘘です。果穂は相変わらず学校の仲良しな友達と遊んでいます。ただ、まぁ何となく今日、この後顔を合わせるのは気まずかった。