大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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危なかった日

 大崎甘奈は、少し元気が無かった。お土産が無かったからではない。いや、究極的に言ってしまえばソレなのだが、それ以上にやはり、甜花にはお土産を買っていて、自分には何も無い、と言うのが気になってしまった。

 なんだかんだ言って、甘奈にとって不満やらストレスやらを遠慮なくぶちまけられる相手が秀辛のみだと気づいたのは、ここ2日間のことだった。いや、まぁそのストレスと不満を生み出しているのもその少年なので、カケラも感謝などはしていないが。

 しかし、それらの本音は決してマイナス的なことだけでは無い。多分、そいつに自分がどう思われても良い、と思える相手だからだろう。双子の姉と、実はいまだに入浴や睡眠を共にしてる、と言う普通ならドン引きされる話も言える。

 実際、引かれているのだろうが、そいつに引かれたって何とも思わない。何なら、彼も自分と同類な匂いさえするし、それ故になんでも言えると言うポジションが嬉しかった。

 つまり、良くも悪くもお互いに遠慮がない関係だからこそ、他の友達とは違う……ある意味特別な関係だと思っていたが……多分、彼は自分にお土産を買う、と言う発想すら無かったのだろう。家の前で固まっていたのはその所為だと考えられる。

 

「……はぁ」

 

 つまり、自分は彼にとってその程度の存在なのだ。特別視しているのは自分だけ、彼にとってはただのウザい女、のような。

 別にどのように思われても良い、と思っていたはずなのに、それがなんか納得行かなくて、ムカムカして。自分で自分の気持ちに芽生えている矛盾にも何処か腹が立って、頭の中が上手く回らない。

 だからとにかく今は一人になりたかったのだが、そんな甘奈の元に控えめなノックが響き渡った。

 

「? はーい?」

「な、なーちゃん……入るよ?」

「そんな確認しなくても、甜花ちゃんならいつでもウェルカムだよ」

 

 元々、同性同士、それも羊水に浸かってた時から一緒にいる仲に、いまさら礼儀など不要である。着替え中だろうと構わないとさえ考えている。

 入って来た甜花の手元には、この辺じゃ見かけないビニール袋が握られていた。

 

「それお土産?」

「う、うん……なーちゃんと、一緒に食べたくて……」

「……」

 

 本当に、こう言う時は優しい姉である。あの男のことだ。おそらく「これ、二人にお土産」とでも土壇場で抜かしたのだろう。まぁ食べ物ならそれで通るし、全く気を使わずに「お前には無いけどな」と言うよりマシである。まぁバレバレではあるのだが。

 

「ありがと、甜花ちゃん。今日、一緒にゲームやろうね?」

「う、うん……!」

「で、お土産って?」

「甜花、まだ見てない……。なーちゃんと……一緒に、見ようと思って……」

 

 オタクはこの手の開封の儀を誰かと一緒にやりたがるものなのだ。ガチャも同様である。当たらなかったら「代わりに引いて」とさえ言ってくる。それで甜花のマーリン、ヴァジラ、ライスシャワーは甘奈が引いた。

 でも、多分今回はお土産をもらえなかった甘奈でも楽しめるように、と気を遣ってくれたのだろう。

 

「ありがと」

 

 お礼を言いながら、甜花と一緒にベッドの上に座った。早速、甜花は袋の中身をひっくり返す。

 出て来たのは、八橋とあぶらとり紙であった。

 

「……わっ、美味しそう……!」

「えっ?」

「……え、なーちゃん……八橋嫌い?」

「あ、いやそっちじゃなくてね……」

 

 あぶらとり紙を見て、甘奈は顎に手を当てる。これを、甜花に渡すつもりだったのだろうか? いや、それは無いだろう。甜花にこれをあげて喜ぶとは思えない。

 

「何これ……ティッシュ……?」

 

 ほら、そもそも知らない。その女の子らしからぬ無知さがまた可愛いのだが、これを渡して甜花が喜ぶのかどうかは微妙な所である。

 何故なら、甜花はその辺、ズボラだから。美容に使う気をゲームのスキル振りに使うので、甜花へのお土産として適しているかは微妙な所だ。八つ橋だけで事足りるのだから。

 じゃあ、これは誰の分か? 思い当たる節は一つしかない。

 

「……ちゃんと、甘奈の分もあるんじゃん……」

 

 それを、自分は……無いと決めつけ、少し拗ねたように退散してしまった。せっかく買って来てくれたのに、向こうにも不快な思いをさせてしまった事だろう。

 少し、後悔が残る。正直に言って嫌いな相手だが、嫌いだからって嫌な思いをさせて良いわけではない。

 

「なーちゃん?」

「っ、な、何?」

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ!」

 

 思わず誤魔化してしまうが、甘奈は甜花が放っておけない唯一の人物でもある。しつこく聞いて来た。

 

「な、なーちゃん……甜花、気になる……。もしかして、なーちゃんの分のお土産が無かったから、ショック受けて、る……?」

「いや、そんな事ないよ?」

「でも……いつもより、元気ない……。甜花、何も出来ないけど……これでも、なーちゃんのお姉ちゃん、だから……えっと……」

「……」

 

 こんな風に気にかけてくれるのなら、話さない方が悪いと言う気がして来た。本当に大したことではないし、なんなら気遣われるようなことでも無い。

 

「いや……ホントはあいつ、甘奈にお土産用意してくれていたのに、悪いこと言っちゃったなって……」

「え……? どれが、なーちゃんのお土産……?」

「このあぶらとり紙。甜花ちゃんは喜ばないでしょ? 多分、甘奈の分。あいつは何も言わなかっただろうけど」

「あっ……」

 

 なるほど、と言った表情を浮かべる甜花。確かに何も言っていなかったが、その通りなのかもしれない。

 

「よく、分かったね……?」

「分かるよ。もう一つのお土産も八橋とかだったら、そうもいかなかったと思うけど」

「でも……そっか。それで、小宮くん少し残念そうだったんだ……」

「あーあ……近いうちに謝らないとなぁ……」

 

 少し気が重いが、言ってしまったことには責任を取らねばなるまい。小さなため息を漏らしていると、甜花が声を掛けた。

 

「あ……じ、じゃあ、さ……なーちゃん」

「何?」

「またみんなで、ゲームをすれば……」

「や、そうかもしんないけどさー……」

 

 ……なんか、自分のためにお金を使ってお土産を買ってくれた相手に、ゲームしながら謝る、と言うのは少し違う気がする。気にしすぎかもしれないが、相手がライバルと言っても良い関係だからこそ、もう少しちゃんと謝罪したい。

 そんな風に思っていると、ヴーッヴーッとバイブ音がする。震えていたのは、甜花のスマホだった。

 

「わっ……小宮くんからだ」

 

 あまりに良いタイミングでかかって来たものだ。とりあえず応答する。

 

「もしもし……?」

『甜花か? なんか今、近くの公園で祭りやってんだけど、夕方行かん?』

「え……お、お祭り……?」

『そう』

 

 すっごく嫌そうな顔をする甜花。引きこもりらしい反応である……が、これはまた願っても無い機会だ。何せ、ちょうど甘奈が謝りたいと言っていたのだから。

 ここは、姉として少し頑張ろうと思える。

 

「わ、分かった……! なーちゃんと一緒に……行く、ね……?」

『え、大崎も?』

「? どうして……?」

『あ、あー……いや……少し、気まずいなって……』

「???」

 

 何せ、秀辛は「甘奈の分のお土産を買っていなくて、甜花が自分のお土産を甘奈に分けた」と言う風に思っている。つまり、甘奈に買ってきたわけではない、と思われていると思っているため、少し気まずいのだ。

 しかし、そこまで考えていない甜花には理解出来ない。

 

「甜花ちゃん?」

「あ、なーちゃん……今日、夕方お祭り行こうって、小宮くんが……」

『ちょっ、甜花おまっ……』

「うん。行く☆」

 

 甘奈としては願っても無い機会である。これで貸し借りなしに出来る。

 

「じゃあ……夕方の17時に、駅前で待ち合わせね……?」

『お、おう……』

 

 待ち合わせしてしまった。

 

 ×××

 

 さて、夕方。残念ながら浴衣を借りる時間はなかった為、私服での参戦。人に謝る、と言う名目で来ているため、あまり明るかったり露出がある服装は控えた甘奈だった。

 待たせると悪いと思い、待ち合わせ時間より少し早めに来て待っていると、二人の前に二人の男が立ち塞がる。

 

「あれ、お姉さんたち二人?」

 

 その男達は、同じ顔をしていた。髪の毛の色までお揃いの金に染めていて、如何にも仲良しという印象を受ける。

 

「てか、双子? 俺たちも双子なんだよねー」

「良かったら、一緒に祭り回らん?」

「ひっ……」

 

 見りゃわかるわ、と思いつつ、甘奈は隣を見る。甜花は完全に怯えきっていた。それでも甘奈の背中に隠れようとしないのは、少しでも「妹を守らないと」という意識が働いてのことだろう。

 けど、まぁ向き不向きがあると思い、甘奈が応対した。

 

「あー、ごめんなさい。今、ツレを待ってるんです」

「ツレ? 女の子?」

「な、なーちゃん……」

 

 怯えている甜花は、控えめに甘奈の服の裾をつまむ。かわいい。

 

「いえ、男です」

「ちぇー、男かよ。おい、行こうぜ……」

「良いじゃん、そんなのより俺らと遊んだほうが楽しいだろ」

 

 片方は引こうとしたが、もう片方は引く気がないようだ。その時点で片方はモテるけど、もう片方はモテないんだろうな、と何となく思ってしまったり。

 

「ほら、行こうぜ」

「いや、ですから……」

 

 断りを入れようとした時だ。ふとその二人の後方で、見覚えのある少年が右往左往しているのが見えた。多分、助けに行くか行かないか迷っているのだろう。

 

「……はぁ」

 

 まぁ、ヘタレそうだし彼には無理かもしれない。もし来たとしても、弟のフリとか彼氏のフリとか、絶対できない演技をして来そうなものだ。

 謝る立場で彼に負担をかけたく無いし、ここは自分がビシッと……と、思っている間に、秀辛はアキレス腱を伸ばしながら、なんかこほんと咳払いしている。

 え、なにする気? と思ったのも束の間、背筋が伸びるほどゾッとする作り満面の笑顔を浮かべて、大声を上げて走ってきた。

 

「お……おかあさーん、お待たせー!」

「それは無理があるよ!」

 

 思わず持っていた鞄をぶん投げ、双子のナンパ男の間を通して顔面にヒットさせてしまった。

 そのまま甜花の手を引いて、走ってバカの元に向かう。

 

「て、テメェ何すんだコラァッ⁉︎」

「こっちのセリフだよ! あんま気色悪い真似しないでくれる⁉︎ 何お母さんって、同い年でしょうが!」

「うるせえな! 良い設定が他に思いつかなかったんだよ!」

「だからって親子は無理しかないよ! せめて姉弟とか思い付かなかったわけ⁉︎」

「本当にウルトラ可愛い妹がいんのに、誰がお前なんか妹にしたがるかよ!」

「なんで甘奈が妹設定なの⁉︎ そこはあんたが弟になりなさい!」

「お前の下になるのだけはごめん被るわ!」

「そりゃこっちのセリフだし!」

 

 んぎぎっ……と、口喧嘩していると、その二人の袖を甜花がくいっくいっと引っ張る。

 

「「何?」」

 

 それにより同時に顔を向けると、甜花はいまだに少しビクビクしながらも、周りを見た。

 

「あ、あの……二人とも……周りの人が、見てる……」

「「……」」

 

 二人揃ってあたりを見回すと、確かに他の人が自分達を見ていた。ナンパ男達でさえ、他人のフリをして他の女の子に声を掛けている。

 

「……お前の所為だぞ」

「あんたが原因でしょ……」

「い……行こう、か……?」

 

 険悪になりながら、お祭り会場に向かった。

 

 ×××

 

「……」

「……」

「……ひぃん……」

 

 もう謝るどころではなかった。甜花が泣きそうな声を漏らすほどに空気が悪い。

 が、内心はそうでもない。甘奈としてはなるべく早く謝りたいところであった。というか、ついお母さんなんて呼ばれて腹が立ってしまったが、あれでも自分達を助けてくれようとしていたのだ。そんな人に対し、またいらない事を言ってしまった。

 

「……あ、あの、小宮く……」

「甜花、見ろあれ! くじの景品にプレ4のコントローラある!」

「わっ……ほ、ほんとだ……!」

「……」

 

 わざとではなく、タイミングが悪かったと信じたい所だ。が、まぁ本当の所は分からない。結構、意地悪なところもあるし。

 

「よし、引くか」

「う、うん……! なーちゃんも、行こう?」

「あ、うん」

 

 そのまま三人でくじの列に並んだ。順番が来て、甜花と秀辛がはしゃいでいるのを、甘奈は黙って後ろから眺める。

 なんだか、少しアウェイ感というものを味わってしまった。謝ろうと思ってきたのに、喧嘩してそのまま口も聞けなくなっている……そんな自分が、なんだか、こう……格好悪くて。

 

「……ちゃん、なーちゃん……!」

「っ、な、何……?」

「引かないの? くじ」

「あ、う、うん……!」

 

 言われて、甘奈も財布を取り出そうとする。正直、欲しいものがあるわけでは無いが、こういうのはノリが大事なのだ。

 

「ちなみに、二人は何か当たったの?」

「ビニールの炎剣リオレウス!」

「ビニールの火竜刀・椿!」

「要するに、当たらなかったんだね……」

 

 呆れ気味に言いながら甘奈もカバンの中を弄る……が、おかしい。何度探しても見当たらない。

 

「なーちゃん?」

「……やばい、甜花ちゃん……」

「どうしたの?」

「……財布、落としちゃったかも……」

「……ええっ⁉︎」

 

 ついてないことが続き過ぎて、甘奈の目尻に涙が浮かぶ。それを見て、甜花は慌てた様子で声をかけた。

 

「え、だ、大丈夫?」

「はぁ……ヤバいよ、学生証とか入ってるのに〜……」

「ええっ⁉︎ さ、探さないと……!」

 

 個人情報も顔も学校も、何もかもが晒されてしまう。大崎姉妹が揃って慌てる中、一人冷静な秀辛は、小さくため息をついた。

 

「……はぁ、俺知らね。探すなら二人で探せよ」

「えっ……ちょっ、小宮くん……!」

 

 冷たく、秀辛はそのまま祭りの列の奥に歩いて行ってしまった。甜花は追おうとしたが、それを甘奈は止める。

 

「っ、な、なーちゃん……?」

「……大丈夫、甜花ちゃん。落とした甘奈が悪いし……」

「え、で、でも……」

「……」

 

 やはり、来るべきじゃなかったのかも……と、甘奈は肩をすくめた。そんな妹の姿を見て、甜花は胸前で小さく握り拳を作る。

 

「だ、大丈夫! 安心して、なーちゃん……! 甜花が、絶対に見つけてあげる、から……!」

「う、うん……」

 

 そのまま二人で元来た道を辿った。

 

 ×××

 

 あれから30分。元の道を辿り、もしかしたら鞄を投げつけた時に落としたのかも、とも思ったが、影も形も見当たらなかった。

 

「はぁ……」

 

 現在、捜索中にトイレに行きたくなってしまった甜花のために、一度、お祭り用の仮設トイレに立ち寄った。

 お祭りの運営委員がいる落とし物のところにも行ったが届いていない、との事で、もう諦めるしか無いか、と肩をすくめてしまう。

 考えてみれば、旅行に行く前にも秀辛とは喧嘩してしまっていた。あれは本当の自分の実力を信じてくれない秀辛に頭に来たとはいえ、一方的にパーティー部屋から追い出してしまった。

 その上、お土産を買ってきてくれたのに、無いと勝手に決めつけ、謝ろうと思った当日にさえ、まず最初にカバンを投げつける始末……全て、因果応報と言わざるを得ない。

 自己嫌悪に暮れて、今日はもう帰ろうかな……なんてふと頭をよぎった時だ。自分の額に、ペシっと何かが当てられる。頭を上げると、そこにはボロボロの秀辛が立っていた。

 

「あ……」

「おら」

「え……?」

 

 そして手渡されたのは、甘奈の財布だった。

 

「あ……ありがとう……」

「気にすんなっつの。祭り回ってたら落ちてんの見えただけだから」

「ど、何処にあったの⁉︎」

「え? えーっと……金魚掬い屋の前」

「……」

 

 嘘だ。金魚掬い屋なんて行っていないし、彼の両手に祭りを回った後のような荷物はない。……というか、よくよく見ると頬や腕に青タンが出来ている。

 

「ね、ねぇ……どうしたの? その怪我……」

「転んだ」

「真面目に」

「すっ転んだ。そりゃもう派手にスパーンっと」

「……」

「……最初にナンパしてきた連中が、射的屋で女モノの財布使ってるの見えたから、取り返しました」

「えっ……」

 

 多分、鞄を投げつけた際、中から吹っ飛び、落ちたのをすぐに察した二人が拾い、足早に別の女をナンパしに行った、とかそんな所だろう。奴らは、他人のフリをした、というより他人のフリをせざるを得なかったのだろう。

 

「けど、中身は使われてた。とりあえず学生証とかどっかのポイントカードとかは無事だったから、それだけで勘弁して」

「……な、なんで?」

「あ?」

「なんで……そこまで、してくれたの……?」

「……」

 

 とても、ナンパを助ける時にこちらを「お母さん」とか呼んできた人と同じとは思えなかった。多分、暴力だって振るわれたろうに。

 聞くと、秀辛は頬をぽりぽりかきながら目を晒す。

 

「……別に、なんか悪いと思っただけだよ」

「え?」

「お前にお土産あったけど……なんか、渡すの照れ臭くて……それで、嫌な思いさせたから。……あと、その射的屋に知り合いの綺麗なお姉さんが豪遊していたから、少し良いとこ見せようと思って。結局、むしろ助けられちまったけど」

「……」

 

 どちらが本音なのだろうか、と一瞬思ったが、どっちでも良かった、結局は、助けられているのだから。

 

「……甘奈こそ、ごめん……」

「あ? 何が?」

「この前、パーティからキックしたし……お土産も、せっかく買ってきてくれたのに……勝手に勘違いしたし……さっきだって、助けてくれようとしたのに、カバン投げつけちゃって……」

 

 ポツリポツリ……と、呟くように言うが、秀辛は真顔のまま答えた。

 

「何言ってんの。そんなの、いつもの喧嘩の延長だろ。お前がしおらしくなんな、気持ち悪い」

「痛っ……」

 

 言いながら、額にデコピンされる。少し、ほんの少しだけ、胸の奥が小さく高鳴った気がした。あれ、この人、こんな人だったっけ? と、頬が熱くなる。今までに甜花にしか味合わされたことのない、この胸の高鳴り、これはまるで……。

 

「てかごめん、それより俺、トイレ行きたいわ」

「あ、う、うん」

「よっ、と……って、え?」

「ほえ……?」

 

 扉を開けると、甜花が前屈みになってズボンをあげている途中だった。それにより、一気に頬を赤く染め上げると共に、甘奈も別の意味で頬が赤くなる。

 

「え……おまっ、鍵……え?」

「ひぃん……小宮くんの、え、えっち……」

「や、ちが……むしろ、お前の方が鍵かけてなくてえっ」

「いいからまず視線を逸らしなさい!」

 

 結局、横からタックルをかますハメになり、喧嘩が勃発した。ちなみに、前屈みになっていたのが幸いし、秘部は見えなかったらしい。

 

 

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