大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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抗争編
休み明けは思ったより怠くない。休み明け明けが怠い。


 夏休みが終わり、学校が始まった。

 登校中、学校が近くなってくるほど、同じ学校の生徒達が友達を発見し、声をかける。「久しぶりー」「夏休み何してたん?」「ずっとゲーム。お前は?」みたいなやり取りが聞こえるが、そんな連中を俺は薄く笑って通り過ぎていった。

 お前らなぁ、友達なの本当に? 友達なら休みの間、少しくらい連絡とって近況を報告しあうもんだろ? もしくは、ずっと一緒に遊んでいるか。

 その点、俺は珍しく充実した夏休みを過ごせたし、それ故に甜花や大崎と「ひさしぶり」「夏休み何してたん?」なんて話はしない。いつもと変わらないものなのだ。

 ……逆に言えば、その二人しか友達はいないんだけどね。へへっ(自虐的な小笑)。

 さて、そろそろ俺にも夏休み明けに友達と出会う、というイベントがあっても良い頃だろう。例えば、甜花か大崎辺りとすれ違って、背中をポンっと叩かれながら「おはよう」と挨拶を……。

 

「おっはよー!」

「お、おはよう……!」

「ぐぇぺっ……⁉︎」

 

 直後、背後から背中を四つの掌によって強く押された。余りの威力に、普通に前方に転倒した。

 その後ろから、元気よく挨拶してくる二人のバカがいた。

 

「何転がってんの? 前転の練習を路上でやるのやめた方が良いよ?」

「にへへ……甜花タックル……!」

 

 なんだろうな、同じことされて、二人とも何一つ謝ってないのに、この可愛げの違いは。片方は単純に腹立つし、片方は単純に可愛い。

 不思議だ……同じ顔なのに、ホント不思議。

 

「テメェら……何の真似だよ……?」

「「挨拶?」」

「疑問系で声を揃えるな!」

 

 クソ、なんか俺の思ってた交友関係と違う。……や、こういう遠慮がない関係も嫌ではないが。

 

「ほら、遅刻するよ? 早く学校行かないとっ」

「誰の所為だと思ってんだオイ」

「行かない、の……?」

「……行くよ!」

 

 とりあえず、登校した。

 

 ×××

 

 夏休みが終わってからの初日は、始業式のみ。昼飯さえ食う時間はなく解散になる。……が、まぁこれから部活がある奴は部室に集まるし、帰宅部は帰宅する。

 俺も中学までなら速攻帰ってゲームだったが、今はそうもいかない。早速、ホームルームが終わったら、甜花に声をかけてみることにした。

 

「じゃあ全員、最後に課題を提出しろー。忘れた奴は先に言えよー」

 

 先生の指示によって、俺と甜花も鞄の中から課題のノートを漁る。昨日、死ぬつもりで終わらせた課題だ。大崎には本当に感謝しねえと……あり? 

 

「……」

「……小宮、くん?」

「っ、な、何?」

「どうか、した……?」

「や、なんでもない。うん」

 

 ……やべぇ、一冊忘れてきた……。いや、まぁ大丈夫か、一冊くらい。とりあえず、これから飯なのに止められてたまるか。

 幸い、課題の提出は先頭に並んでいる机の上に置くことになっている。大丈夫、置くフリをすればバレない。

 二人で一緒に前に歩き、左から順番にノートを置いていった。それまで、人混みに紛れたのもあって、先生に止められることはなかった。

 

「ふぅ……よし」

「にへへ、昨日頑張ったから、だよね……!」

「だな」

 

 そんな話をしながら、とりあえずほっと胸を撫で下ろした。ノートの数を数えるのは、おそらく職員室に戻ってからだろうし、問題ない。

 そのままホームルームは続き、早くも帰りの挨拶になった。

 全員が鞄を持ち、部活やら帰宅やらの準備に入る中、俺も乗っかるため、甜花に声をかけながら立ち上がった時だ。

 

「甜花、この後さ……」

「甜花ちゃーん! 帰ろー!」

「ひでぶっ……!」

「あ、なーちゃん……! うん、帰ろう……!」

 

 甘奈に跳ね飛ばされた。こいつ何なの? 闘牛なの? 

 

「ご飯食べて帰っちゃう?」

「う、うん……」

「じゃねえよ! 何普通に会話始めてんだ愚妹の方!」

「何、あんたも一緒に来たいの?」

「ちげえ! お前、なんなんだいきなり⁉︎」

 

 こいつ……なんか昨日から当たり強くね? なんか勉強の面倒見てくれている間も口調強かったし、そんな悪いこと言ったかな……? 

 

「小宮くんも、一緒に……お昼ご飯……?」

「え?」

 

 声を漏らしたのは甘奈。あ、なるほどね。今の反応で分かったわー。

 要するに、スタートダッシュキャンペーンね。二学期が始まったから、出だしでライバルとの差をつけろ、と。

 だが、そっちがその気なら負けないよ? 

 

「良いのか? 甜花」

「もち、ろん……! 良いよね、なーちゃん……?」

 

 げっ、もう一度、甘奈に確認取るの? そうなると、断られるが可能性が……と、思ったが、甘奈は微妙に頬を赤らめたままそっぽを向く。

 

「……別に、良いけど……」

「え、良いの?」

 

 思わず意外そうな声で返してしまった。なんだよ、なんかやたらと当たりが強かったと思ったら許可出すとか……もしかして、必要以上に拒絶して、甜花に嫌われることを避けた? 甜花は俺と大崎が必要以上に仲良くなることを嫌うが、俺を嫌いなわけではないし、友達でいたいとも思ってくれている。

 ならここは、機会を活かすほかない……! 

 

「いやあ、悪いなぁ大崎! 俺、甜花と友達だからさぁ。甜花はやっぱ、どっかの誰かと違って一人だけハミろうとか思わない優しい子だからね、うん」

「う、うるさいから! やっぱ一緒に食べたくない!」

「え、なーちゃん……小宮くんが一緒は、ダメ……?」

「うぐっ……」

 

 よーし、良いぞ甜花! そのまま押し切ってしまえ! 

 

「ま、まぁ……勝手にすれば?」

「おおっす!」

 

 そんなわけで、とりあえず教室を出……ようとした所で、後ろから肩を掴まれた。振り返ると、先生が待っていた。

 

「?」

「小宮、お前数学のノートはどうした?」

「……」

「職員室来いや」

 

 肩を震わせて爆笑している大崎を背に、俺は職員室に連行された。

 

 〜30分後〜

 

 何とか許してもらった。や、本当にやったんです、と。持ってくるの忘れただけなんです、と、とにかく捲し立てたが信じてもらうのにかなり時間がかかった。次から真面目に授業を受けます。

 しかし、散々だよマジで……。結局、一緒に飯もいけず、家で一人飯を食うしかないのか……。

 ため息をつきながら職員室を出ると、大崎と甜花が待っていた。

 

「……え?」

「遅い! どんだけ怒られてんの?」

「仕方ないよ、なーちゃん……小宮くん、授業中は常に、寝てるし……」

「お前が言うな、甜花。てか、待って」

 

 ちょちょちょっと待て。なんで? ドユコト? 

 

「……待っててくれたの?」

「そうだけど?」

「な、なんで……?」

「別に、一緒にご飯食べるって話になったし……」

「なーちゃんが……ま、待ちたいって……」

「っ、て、甜花ちゃん!」

 

 え、大崎がそんな事を……? ……いつからそんな優しい子になっちゃったの……? いや、優しくなってくれる分には全然、良いんだけど……。

 何にしても、少し嬉しい。いや、少しっつーか普通に嬉しいんだが……まぁ、これまでのあいつの性質上、何か企んでいる可能性は十分にあるな。

 

「もしかして、奢り狙いか? セコい奴だなまったく」

「はぁ?」

「んな真似しなくても、宿題で世話になったし奢るくらい別に良いよ。さ、飯行こうぜ」

 

 提案してみたものの、大崎は少し微妙な表情。違うの? それとも前に許可もらった甜花の絵の件か? まぁどっちでも良いが。

 

「甜花も良い、の……?」

「もちろん」

「にへへ、やった……!」

「ま、奢ってもらえるならそれで良いや」

 

 大崎も同意してくれたみたいで、そのまま三人で飯を食いに行った。

 

 ×××

 

「ふぅ……お腹いっぱい……」

「ねー☆ デザートまでついてきたねー!」

 

 こいつら……遠慮がないにも程があるだろ……。ハンバーグステーキセットにサイドメニューのポテト、セットドリンクバーにデザートで一人二千円かよ……。もう夏のバイト代溶けちゃったよ完全に。

 やっぱりこういうつもりだったんだな、この野郎……。や、まぁ良いけどよ。

 

「てか、今更だけどさ、あんた宿題忘れたわけ?」

「ん、まぁ……」

「まったく、バカじゃないの? 何の為にしごいてあげたと思ってるわけ?」

「それに関しちゃ悪かったよ……」

 

 まぁ、大崎にとっては教え甲斐のない事にしちまったからな……。

 

「でも、本当お前には感謝してるよ」

「はいはい。気持ちはもう伝わりました」

「甜花には感謝してない、の……?」

「甜花には、生まれてきてくれたことに感謝してるから」

「ひぃん……き、キモい……」

 

 え、泣きそう。痛く傷ついた。

 

「いや今のはあんたが悪い」

「じゃあお前は甜花が生まれたことに感謝してないのかよ」

「何ふざけたことほざいてんの? 生まれてきたことを後悔させるよ?」

「そういう事だよ」

「なーちゃん……甜花も、なーちゃんと一緒に生まれて……感謝してる、よ……?」

「甜花ちゃん……!」

 

 何をファミレスでやってんだこいつらは……。家でやれそういうのは家で。

 まぁでも、今日ばっかりは二人の邪魔をするのはやめておこう。別に仲違いさせたいわけじゃないしね。

 それに……なんか、大崎の方も俺に負担はかけて来てもハミろうとはしていないし、なんだかんだ言って助けてくれる事もある。特に、前々から思ってたけど、勉強教えるのが上手だから助かったわ。スパルタ式ではあったけどね。

 

「二人とも、ドリンク空いてるけどなんか飲む?」

「ジンジャー!」

「コーラ」

「はいはい」

 

 二人とも炭酸ね、と思いつつ、俺もジンジャーを取りに行った。三つのグラスを持ち、セットしてズコーッと飲み物を注ぐ。

 シュワシュワと泡が上がってきたタイミングで次のグラスに飲み物を注ぎ、また次を注ぐ。

 三つ分用意して置きに戻ろうとしたところで、ふと足を止めた。

 

「……やべ、俺のどれだっけ……」

 

 コーラは甜花のものなので問題ない……が、俺と大崎の分がどうにも分からない。

 え、どうしよう……。俺、間接キスとかした事ないから、少し困るんだけど……。いや、果穂とはした事あるけど、あれは妹だし……。

 そうでなくても、大崎だって俺が口つけたコップなんて使いたくないだろうし……あ、ヤバい。なんか変な汗が……。

 一人でドリンクバーのとこでウロウロしていたからだろうか? いつのまにかこっちに来ていた大崎が声を掛けてくる。

 

「ちょっと、遅いよ」

「っ、お、大崎……?」

「早く帰ってこなきゃ、ドリンク頼んだ意味ないじゃん」

 

 そう言いながら、大崎は俺の手からコーラとジンジャーを一つずつ持ってしまった。手伝ってくれるその心意気はありがたいんだけど……その、それ本当にあなたのだよね? 

 しかし、それを聞くと気まずい事になるのは目に見えている。仕方なく俺も黙って後に続いた。

 

「ごめん甜花ちゃん、あの人グズグズしてたからさー」

「大丈、夫……!」

「わ、悪い……」

 

 誰に対して謝っているのか知らないが、とにかく小さな謝罪をしつつ、俺は自分の飲み物を見下ろす。

 ま、大丈夫大丈夫。確率は二分の一だ。もう大崎も飲んじゃってるし、これを飲むしかない。

 そう決めて、口をつけようとした時だった。ふと、コップの蓋にピンク色の薄い唇の跡が見えたのは。

 

「え……」

 

 く、口紅……いや、色付きのリップクリームか。こんなもん、俺は付けた覚えがない。つまりこれ……大崎の、なのか……? 

 

「っ……」

 

 やべっ……ちょっ、飲めない……てか、飲んじゃいけないような……ここ以外の場所から……や、でもなんか少し勿体無い気も……や、勿体なくねえよ。これ大崎のだぞ? ……いや、大崎のだからとかじゃなくて、女の子との間接キスになるから……。

 

「……」

「小宮くん? 顔、赤いよ?」

「っ……!」

 

 いつの間にか、大崎がこっちに身を乗り出してきていて、思わず狼狽えてしまった。気になるのは、大崎の唇。桜餅のような色をした形が良い唇に目がいってしまう。

 

「っ、だ、だいじょうぶだから……」

「や、まぁ正直そこまで心配なんかしてないけど」

「ーっ……」

 

 そ、そうだ。あの唇から放たれる言葉なんて? ほとんどが俺への憎まれ口だろ。一々、この程度のことで一喜一憂してどうする。意識するな。少し唾液が混ざるだけ。そもそもキスじゃない。

 うん、そう……だから、一思いに飲めよ。頑張れ、俺。手を動かせ、俺……! 

 

「……」

 

 胸をドギマギさせながらグラスを手に取り、持ち上げる。そして、ジンジャーエールを口に含もうとした直後だった。

 大崎と甜花が同時に立ち上がった。

 

「そろそろ行こっか」

「う、うん……帰ったら、みんなでゲーム……!」

「ぶぐっ……!」

 

 あまりのタイミングに、飲まずに机の上にコップを戻してしまった。

 明らかに挙動不審な行為に見えたのだろう。実際、俺でもそう思う。大崎は、俺を見下ろして聞いてきた。

 

「何してんの?」

「……うるせぇ」

 

 結局、飲み物を飲むことはできなかった。

 

 

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