秋と言えば、スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋など、様々な秋が存在する。夏のように暑過ぎず、冬のように寒過ぎず、そして春のように新たな環境に置かれる、と言ったことも少ない季節で、何をするにも適した季節だから言われることだろう。
さて、まず最初に迫ってきたのは文化の秋イベント……つまり、文化祭である。
そのために各クラスでは出し物を開催する。その為の準備期間に入った。
さて、俺はその期間どうするか? せっかくの機会だ。甜花以外にも友達を作るチャンスである。頑張るしかねえ!
「あ、あの……なんか手伝うことない?」
「え? あー……山田が知ってる」
「山田くん、何か手伝うことはない?」
「あ? あー……田中がなんか人手がいるとか」
「田中さん、何か手伝うことはない?」
「は? あー……良いよ好きなことしてて。あ、中島くん。ごめん、少し手伝ってくれない?」
気が付けば、俺は屋上で体育座りしていた。……ふふ、友達作りって難しいな……。考えてみれば、俺にとっては友達を作る良い機会なわけだが、他の奴にとっては親しい奴、或いは恋人を作る機会なのだ。ボッチなんて、相手にされるわけがない。
「……はぁ」
現実は甘くないなぁ……。一応、振り分けられたはずの料理係の中でも役立たずの烙印を押され、たらい回し。残念ながら、俺の居場所はあの教室にはなかった。甜花は別の係になっちまっていたしなぁ。
さて、そんな仄かに苦い青春を味わったわけだが……どうしよう、この後。
帰りたいんだけど……なんか帰ったら人として終わってしまう気がする。でも、何も仕事がない(というより振ってもらえない)のに教室にいるのは普通に気まずい。
その変なジレンマの結果、ここに逃げ込んだわけだが……ここにも長くいられない。多分、ここにいても「あいつ何サボってんの?」みたいに思われると思うから。
「どうしようかなぁ……」
格好悪い……と、自虐的に思っていると、ふと耳に届いたのは足音。階段を上がってくるものだ。
やべっ、ここ立ち入り禁止だ。まず間違いなく、こっちにきているのはサボり組なのだろうが、何にしても俺がここにいるのは知られたくない。
どこに隠れるか? 決まっている。というより、屋上では一箇所しかない。
「よっ、と……!」
出口の上に乗っかって隠れた。ここなら入ってきた奴の動向も窺えるし、登ってくるようなら、逆にこっちが降りて帰れる。
しばらくそのまま待機していると、いよいよその来訪者が屋上に出て来た。
「あ、空いてるよ、屋上!」
「ホントだ。てっきり何処かのクラスが使ってると思ったけど……」
「まぁ、普通は立ち入り禁止だからね」
「バレなきゃ平気だって」
おいおい……大崎のとこか……。女子二人と男子二人でこんなとこ来やがって。校則違反だぞ。
てか、サボりか? 友達がいて混ざれる立ち位置にいるくせにサボりとかふざけんなよ。
と、思ったら、四人の手元には何か握られている。あれは……本か何かか?
「じゃ、軽い読み合わせから始めるからね」
「うん。文化祭あと二週間だし、しっかりやらないとね」
「うしっ、やりますか!」
そう気合を入れると、一人の女子がコホン、と咳払いをして本を開いた。なんか……台本っぽいなあれ。
何をするつもりなのか……と、思っていた時には、台本は読み進められた。
「昔、どっかの坊主が言った。『この世は苦界だ。極楽はあの世にある。仏に縋れ、念仏唱えろ。切符はこの手にあるぞ』」
……? あれ、なんだっけこれ……? なんか聞いたことあんな、この導入……。
「そいつを手にこっちへやってきた連中は俺に言った。『極楽浄土? そりゃあんた達が今までいた世界さ』」
そのセリフの後、大崎と男子二人がモゴモゴと動き出す。
「あ、自転車ないけど……どうしようか?」
「甘奈が腰に手を当てるから、とりあえず電車ごっこみたいな感じで追えば良いんじゃない?」
「あ、なるほど」
腰に手を……? 何するつもり……てか、なんかあの導入聞き覚えがある。聞き覚えっつーか……文字で見たっつーか……。
あー……クソ、ていうか大崎。テメェ甜花が居ながら、なに男子の腰に手を当ててんだよ! あ、こら男子! イケメンは死ねコラ。
「『苦しかった? そりゃあんたらが念仏ばかり唱えていたからさ』」
「はい、行くよー」
「はいはい!」
すると、男子の一人がダッシュしながら屋上を横切るようにダッシュする。その後を、電車ごっこした二人が走りながら追い掛けていた。ぷふっ……ちょっと面白……! あの絵面ダサすぎる……!
「コラあああ! 待てっつーのに!」
「『坊主の妄想に振り回されるくらいなら、自分の夢に……』ぷふっ、はっはっはっ! ち、ちょっと待って! そのまま走んのやめて笑っちゃう!」
「「え?」」
「あ、ホントだっはははは!」
ナレーションの一人と先に走っていた方が振り返り、笑い始める。いや、正直、高校生にもなっている二人があれやってんのは面白かった。当の二人が分かっていないのもまたね。
……って、ああ! 思い出した。これ「だんでらいおん」か!
銀魂の作者の人のデビュー作で読み切り漫画。にも関わらずやたらと人気があって、未だに劇の題材にされてるって奴……本当にされてるとは……。
確か、死んで地縛霊となった魂達を、全く天使に見えない天使達があの世に成仏させるっていう奴だよな……。序盤のシーンは、天使の主人公とその班長が地縛霊の爺さんをチャリで追いかけ回すシーンから。
ナレーションがあの女の子で……プッ、最初に走ってた奴、お前その若さで爺さんの役かよ……! で、あのイケメンが主人公……チッ、ムカつく。あれ? てことは、大崎があの博多か広島あたりの方言を使う班長……。
「ーっ、ーっ……!」
ちょまっ……だから笑わせんなっちゅーに……! 絶対、あり得ねえだろその配役は! 全く似合ってねえよ!
一人、バレないように笑いを噛み殺している間に、大崎が全員に言った。
「もー、笑わないでよー!」
「そうだっつの。てか、とりあえず流れだけでも掴んどかねえと、二週間で全部覚えんだから」
「ああ、悪い悪い。じゃあ、続きやるか」
「えーっと、何処からだっけ?」
「まだ何処までも進んでねえよ」
「最初からやる?」
「「それはやめて。笑ってまう」」
……楽しそうにしてんなぁ、あいつら……。
そのまま続く演劇の練習を、徐々に俺は見ていられなくなり、目を背ける。大崎の奴も楽しそうにしてるし、他の男子二人と女子一人も「誰もいない所で秘密の特訓」が楽しいのか、みんな笑顔のまま劇を続けた。
……羨ましい。……すごい羨ましい、すごく羨ましい……!
「……」
もっかい、俺も教室に戻ってみようかなぁ……や、でもあいつらにバレないためにはしばらく動けないのか。
とりあえず、なんか楽しそうに聞こえてくる声もなんかムカつく。シャットアウトするため、イヤホンでもつけようかと思った時だ。
「こらテツ」
「あん⁉︎」
「もっと気張って漕がんかー。こげんスピードじゃ振り切られてしまうぞ」
「「「ブハッ!」」」
「ちょっ、な、何⁉︎」
い、や……! それは……笑う……!
「大崎、お前広島弁、似合わなさすぎるわ!」
「それなっひっひっひっ!」
「ごめっ、甘奈……! 面白過ぎる……!」
「も、もー! だから笑わないでってばー!」
プンスカ怒る大崎だが、俺も笑いを堪えるのに必死だ。……つーか、お前いい加減にしろよ。人がさっきから笑い堪えてんのに畳み掛けてきやがってよ……! ここにいるのが別の意味で苦しくなってきたわ……!
やべぇ、もっかい聞きたい。いや、聞いたらまた笑い堪えなきゃいけないし……や、でも聞きたくないけど聞きたい。
「……」
スマホに録音しよう。そして、後で甜花にも聞かせてやろう。そう決めて、とりあえずしばらくそこでスマホをいじった。
×××
文化祭の準備時間は、最終下校時刻まで続く……が、部活に行く奴は途中で抜けるし、用事がある人も帰れる。要するに、最初の一時間以降は自由参加である。
それでも遅くまで参加する人がいる辺りは、やはり「怠い」「面倒い」などと言っていても、みんな楽しんでいるのだろう。
一応、現在は部活の開始時刻となり、残らずに帰ることもできる時間。
俺は何もしていないのに帰るのも申し訳なく、かと言って教室でウロウロしていても目障りに思われ、声をかけても仕事をもらえないのでいづらい。
「……それに引き換え……」
甜花はしっかりと仕事をしていた。他のクラスメートに声を掛けられて少し狼狽えていたものの、普通に受け答えしていた。いつのまにか、甜花もコミュニケーション能力というものが身についていたようだ。
……むしろ、身に付いていなかったのは俺の方か……。甜花の世話をして来たつもりだった。初日から涙を流し、給食がないことに途中で気づき、出会って数週間ほどの俺に弁当をねだるような甜花のために色々やって来たが、今では俺の方がダメなヤツ。
なんか自己嫌悪にふけって教室の前で唸っていると、そんな俺に声がかけられた。
「何、サボり?」
声をかけられて振り返ると、大崎が立っている。まぁ、サボりにしか見えんわな。
「そんなとこだよ」
「うーわ、いけないんだー。それとも仕事とか振られてない感じ?」
「……うるせーよ」
「え、ごめん……」
言葉に気をつけような。本当の事をそうズケズケと言っちゃダメだからな。
「甜花ちゃんは?」
「仕事中」
「え……だ、大丈夫なの? ていうか何やるの?」
「メイド喫茶」
直後、大崎は俺の肩に思いっきり手を置く。スパァンッとビンタされたような音が響き渡り、普通に痛い。その上、メキメキと肩の骨を軋ませる音さえ聞こえて来た。
「っ……な、何……?」
「期待してるからねッ⁉︎」
言いながら、スマホをポケットから取り出し、カメラのレンズを指さした。うん、分かった。分かったから肩から手を離せ。痛い。
「てか、お前こそサボりかよ?」
「甘奈達のとこは演劇やるの。同じ主人公の人がサッカー部だから、甘奈も自動的に解散」
あ、なるほどね。あの作品、主人公と班長は常に一緒にいるから、一緒じゃないと練習できないのか。
しかし、あのイケメンはサッカー部だったんだな。サッカー部で? イケメンで? 演劇では大崎と一緒に主役はって? 文化祭でも普通に友達と仲良くやれて? ……何それ、一人で何でも持ち過ぎでしょ……。
「大崎も……イケメンは好きか?」
「え、い、いきなり何?」
「……や、悪い。何でもない」
「まぁ、それは勿論、どちらかと言われればイケメンは好きだけど……でも、甘奈は中身の方が大事だと思うよ?」
「……」
……気を使われてんのか? そういや、大崎とあんま異性の話とかしたことねえな。まぁそもそも俺と大崎が異性だから仕方ないけど。
「ていうか、どうしてサッカー部の人がイケメンって知ってるの?」
「え……」
あ、やっべ。覗き見してたのがバレる。
「あーいや、サッカー部なんてどうせイケメンかなって。てか、演劇の主人公に選ばれる時点でイケメン確定だと思ってるから」
「そういうコト。……ねぇ、暇なら食堂で甜花ちゃんのこと待たない?」
「帰んなくて良いのか?」
「や、甜花ちゃん置いて帰るわけにいかないでしょ」
「じゃなくて、甜花を連れて帰んなくて」
「ダメだよ。せっかくクラスメートと仲良くできる機会なんだし、こういうのは邪魔しない方が良いの」
いやー……まぁそうかもしんないけど。でも、そろそろ甜花も帰りたがってると思うぞ。ゲームの時間減らされるし、そもそもメイド喫茶って言ったって、そんな本格的な奴じゃない。つまり、衣装合わせさえ終われば、いてもあんま意味ないはずなのだ。
それでも姿が見えないのは、甜花のかわいさに惹かれた女子達に着せ替え人形にされているのだろう。
甜花からしたら溜まったものではないはずなのだが……ま、良いか。
とりあえず、甘奈と一緒に食堂に向かった。飲み物だけ自販機で購入して、二人で席につく。
「でも、メイド喫茶かぁ……確かに男子はやる事ないのかもね?」
「いやあるよ。会計とか客引きとか、小道具の準備とか諸々。俺も一応、飯係だし」
「あ、そうなんだ。てか、持ってこいじゃん。なんで仕事ないの?」
「手伝うこと聞いても好きなことしてて良いよって言われたから」
「……」
多分、嫌われてるんだと思うよ。食事係に放り込まれたのは余ったからだと思うし。逆に、うちのクラスは料理できる奴が少ないという裏返しだ。ふっ、情けない……。
「あんたはそれで良いわけ?」
「まぁ、誰かと文化祭準備を楽しむってのは来年頑張るよ。今年は当日を楽しめれば良いかな」
「……」
高校生活は三年間あるしね。まだ慌てるような時間じゃないさ。
そんなことを思っている時だった。大崎から、とんでもないような提案が飛んで来た。
「じゃあさ、甜花ちゃんと二人で学園祭でも回ってきたら?」
「……保健室行くぞ」
「いや違くて!」
「何馬鹿言ってんだ⁉︎ 取り返しのつかない病気だったらどうすんだ!」
「違うから話聞いてよ!」
「じゃあ……お前まさか偽物か? 俺の友達に化けるとは良い度胸だ。もう生きて息できると思うなよ」
「いや死んでたら息できないし! 甘奈本人だから落ち着いてってば!」
うるせぇ! 大崎がそんな事言うわけないだろ⁉︎ じゃなきゃ……はっ、まさか……。
「クローンか……?」
「ビンタと落ち着くのどっちが良い?」
「落ち着きます」
あ、なんか今のは大崎っぽかったわ。
「で、何を思ってそんな寝言を?」
「いや、普通に少し気の毒だっただけだよ。高校生活を楽しみたいって気持ちは分かるけど、それなのに学祭の準備期間っていう……ある意味、当日より楽しいイベントを楽しめないなんて」
「……ああ」
そういうことか……。そんな事のために、わざわざ自分の命より大事な甜花と二人きりにさせてくれるなんて……なんだろ、少し女神に見えてきた。
ありがたく頂戴しよう……と、思ったところで、俺の口は止まった。何故なら、甜花の自由時間は割と限られているから。
メイドをやる以上、役割がない俺や演劇で一日に一度しかないステージに立つ大崎とは違い、甜花は比較的、長く仕事をする。
そんな限られた時間、本当は大崎だって甜花と一緒にいたいんじゃないのか?
……あ、ダメだ。なんか一度、そう思うとお言葉に甘える気にならなくなる。どうせなら、三人で楽しめた方が良い。
「俺は、回るなら三人で回りたいかな」
「……え?」
「お前も一緒に行こうよ」
「……」
おい、そんな顔を赤くするほど意外かコラ。
「保健室行く?」
「行かない」
「取り返しのつかない病だったらどうするの?」
「あいにくピンピンしてるわ」
「偽物かクローン?」
「人の心配を丸々、返してきてんじゃねえよ!」
ブッ殺すぞこの野郎! と、続けて言おうとしたのだが、ふと大崎の笑顔が目に入る。その顔は、本当に嬉しそうでありながら、心の底から笑っているような、そんな笑みが浮かんでいた。
「冗談だよ☆」
そのまま、ふふっ、くすくす……と楽しそうに笑う大崎。
え……ちょっ、なにその顔……今まで、俺にそんな笑顔を浮かべたことあった……? やばっ、なんか胸の奥で、鼓動が……いや、でも、しかし……相手は大崎……違う違う違う。これは甜花と同じ顔であんな笑みが見られたから! それ以外に無いだろコラ!
「じゃあ、三人で回ろっか?」
「……っ、お、おう……」
なんか変な返事をしてしまったが、腹の底ではワクワクしていた。出鼻がトチった文化祭だが、少しは楽しみになってきたわ。