大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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分からないこと考えたって仕方ない。

「田dieマ」

「おかえり……お兄ちゃん⁉︎」

 

 なんか変なイントネーションで帰ってくると、果穂が元気よく出迎えてくれたのだが……なんか心配された。

 

「……何が?」

「なんか、見たことない顔してたよ。ジャスティスピンクに抱きつかれた後のジャスティスレッドみたいな……」

「いや、心配いらないよ。少し疲れただけ」

「ほんとに?」

「ほんと」

 

 適当に返しながら靴を脱いで、ローファーに消臭スプレーをかける。

 

「話してくれたら、私も全力で応援するよ! 誰かに、話せば楽になると思うし!」

「そう? それじゃ……え、何今の果穂らしからぬ発言……」

「ん?」

「や、な、なんでもない……とにかく平気だから」

「えー……」

 

 無理無理無理。果穂に心配されるレベルで放心していたのかもしれないが、大したことじゃないって。ちょっと大崎にドキッとしただけだから。

 そもそも、妹にそんなこと相談出来るかよ。なんか恥ずかしいし。

 

「果穂はどこか行くのか?」

 

 わざわざ玄関にまで出迎えてきた辺り、多分出かける予定なのだろう。もう夕方なのにけしからん。

 

「うん! マメ丸のお散歩!」

「へぇ。で、その肝心のマメ丸は?」

「あれ? おいでって言ったのに……」

 

 ……あのワン公め……。俺が帰ってくるから、途中で足を止めやがったな……。どんだけ俺のこと嫌いなんだよ……。

 

「お兄ちゃんも一緒に行く?」

「行く」

「わんっ⁉︎」

 

 はっ、ザマーミロ犬っコロ。お前も、果穂の言う事には逆らえないしな。

 

「着替えて来るから。ちょっと待ってて」

「あ、うん!」

 

 そんなわけで、着替えに戻った。

 

 ×××

 

 散歩は決まったルートを流すわけだが、その途中でマメ丸が行きたい場所があればついて行くのが、果穂の流儀である。飼い主の鑑だよね。嫌がる俺とは真逆だ。

 さて、そんな散歩中、マメ丸は花や草に興味があるのか、クンクンと鼻を鳴らす。そして……やがて食べ始めた。

 

「わっ……ま、マメ丸ダメ! お腹壊すよ?」

「や、別に平気だと思うぞ。野良猫は雑草とか普通に食うし」

「え、そ、そうなの?」

「うん」

 

 まぁ犬はどうだか知らんが。しかし、果穂はマメ丸を止めることをやめた。素直で可愛い子だよ、ホント。

 マメ丸の気がすむまで待っていると、果穂がリードを握ったまま声を掛けてきた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

「どうした? トイレか?」

「違うよ! ……えっと、ちょっと聞きたいことがあって……」

「なんだ、相談があったのはそっちだったのか」

「……う、うん……」

 

 ホント、なんで俺の妹ってこんなに可愛いんだ? 俺が同い年でこいつの友達なら、速攻で告白してたわ。

 

「何でも言えよ。例え世界中の人間が果穂の敵になっても、俺は味方でいるよ」

「ありがとう!」

 

 ふっ、眩しすぎるくらい素敵な笑みだ。その笑みが、少し頬を赤く染め上げて、恥ずかしそうな笑みに切り替わる。果穂が恥ずかしそうにする、というのは珍しい。基本的に明るくて純粋無垢で天真爛漫な完璧小学生なのだ。笑顔以外が、むしろ珍しいレベルなまである。

 その恥ずかしそうなままの果穂は、控えめに口を開いた。

 

「実は……クラスの男の子が、私のことを……す、好きとか言ってる……内緒話を、聞いちゃって……」

「消して欲しいのか?」

「ち、違うよ! ていうか、友達なんだからやめてよ?」

「俺は友達じゃないのか⁉︎」

「お兄ちゃんでしょ」

 

 クッ……! そ、それはそうだが……! しかし、小5で好きな人? 何こいつら、マセ過ぎじゃねえの? 俺なんて初恋もまだだぞ。

 

「今まで、一番仲良くて、ヒーローごっこにも付き合ってくれてた子なんだけど……本当は、私と手を繋いだりだとか、プリクラ撮ったりだとか、したいって……言ってて……」

 

 如何にも小学生のデートって感じの内容だな。マセてんのかマセてねえのか分からんわ。

 

「嫌なのか? 嫌なら殺して良いと思うぞ。嫌じゃないなら、半殺しにしちまえ」

「お兄ちゃん、真面目に聞いてよ」

 

 真面目なんだけど……。

 とりあえず、黙って耳を傾ける。

 

「私はね、まだ恋人とかよく分からないし……というか、その話を聞くまで考えたことも無かったから……その、どうしたら良いのか、分からなくて……」

「……」

「そもそも、そんな風に思われてた、って事も気付いてなくて……ずっと、みんなで仲良く出来れば良いと思ってたから……」

 

 その話を聞いて、俺も少しハッとしてしまった。

 果穂が悩んでいるのは、おそらくその後。今の果穂は、恋愛なんてよく分かっていないから友達のままでいたいのだろう。

 しかし、そんな果穂でも唯一、分かるのは、告白されて断ってしまえば、その後は友達の関係に戻れなくなるのではないか、という事だ。

 そして、その問題は全く他人事ではないのだろう、

 何せ、小学生でもそれなのだ。恋愛にもっと興味津々な高校生同士、俺が甜花や大崎にそういった感情を芽生えさせないとは限らない。頭の中でいくら理屈をこねようが、どう感情が動くかわかったもんじゃない。

 特に、大崎姉妹は二人とも美人、二人が俺に惚れる要素はなくとも、俺があの二人に惚れる要素は十分、ある。

 そうなった際、俺達の関係はどうなるのだろうか? 

 

「……ちゃん、お兄ちゃん?」

「っ、な、何?」

「マメ丸、満足したって。行こ?」

「ああ……」

 

 そうだ、とりあえず今は妹の相談と犬の散歩。自分のことは後回しにしよう。

 

「果穂、さっきの話だけど、お前はそいつの事嫌いなんだよな?」

「や、嫌いじゃないよ……。ただ、恋人とかじゃなくて、こう……友達のままでいたいなって」

「なら、良い手がある。お前も噂を使え」

「どういうこと?」

「恋バナ好きな女子の恋バナに付き合ってやりゃ良いんだよ。そういう奴って人一倍色恋に興味がある癖に人一倍、色恋に縁が無いから、必ずお前にも好きな人がいるか聞いてくる。そしたら、割と周りにも聞こえる声の大きさで『今はまだそう言うのよく分からない』みたいな事、言ってやりゃそれで良い」

 

 大体、男なんてチキンだからな。好かれたい、よりも、嫌われたくない、が勝つ。

 その上、噂話は信憑性は無いのに信頼性は何故か抜群だ。余程のバカか怖いもの知らずじゃない限り、信じてしまうだろう。

 それを言うと、少し感動したように果穂は目を輝かせた。あ、尊敬の眼差しだ。あとは結論を放ってやるか。はっはー、また果穂からの親愛度があがっちゃうよー。

 

「それでも向こうが告白してきたら仕方ない。殺してやれば良い」

「殺しちゃうの⁉︎」

「人の話も理解できない、空気も読まない、好きな人の気持ちも考えられない、そんな奴は死んじまえば良いんだ」

「うう……だ、台無しだよ……」

 

 まぁ、そもそも果穂に告白なんて真似した時点で万死に値するが。

 

「……でも、分かった。ありがとう」

「大したこと言ってないから」

「ううん。……ち、ちなみに……お兄ちゃんは、恋人とかいないの?」

「死ねば許してくれる?」

「話がさっきから飛躍し過ぎだよ!」

 

 まぁ……さっきは少し自己投影したけど、俺も甜花も大崎も三人揃って初恋もまだだし、大丈夫だろ。

 そう楽観的に思いながら、そのまま散歩を続けた。

 

 ×××

 

 翌日、俺はいつものように登校していた。まだ二週間前なだけあって、学校もお祭りムードに包まれてはいない。

 とはいえ、それも時間の問題だろう。実行委員は少しずつ門の前に飾るアーチや、校内の飾り付け、実行委員用のテントなどを配置していくだろうから、まだまだこれから。

 それらが完成して行くに連れて、生徒達のテンションも少しずつ上がっていくものなのだろう。

 さて、そんな登校中、ふと前を歩くほぼ同じ背中が二つ見えた。ちょうど良い、この前の仕返しに、今度はこちらからタックルを仕掛けてやるか……と、思い、身構えた時だ。

 

「大崎、おはよっ」

「あ、佐々木くん。おはよー☆」

 

 俺の後ろから、学校指定の体育着ではない運動着に着替えた男が通り過ぎ、大崎の肩を軽く叩く。ていうか、演劇の主人公のサッカー部のクソイケメンじゃん。死ね。

 唐突に現れたリア充により、甜花は小さく萎縮してしまうが、佐々木とか言う奴は軽く声をかける。

 

「あれ、そっちの子が噂のお姉さん?」

「そー。可愛いでしょ?」

「え? お、おう……?」

 

 どっちも同じじゃん、と言いたげだなコラ。殺すぞベイビーフェイス。

 

「てか、そっちはその格好で登校?」

「いや? 朝練の走り込み」

「え、じゃあこんな所でサボってる場合じゃないんじゃ……」

「その通り」

「じゃないよ! 怒られるよ?」

「だな。また後で!」

「うん。じゃあねー☆」

 

 それだけ話すと、佐々木とやらは走り去っていった。ほんの一瞬、朝の挨拶程度の会話。それなのに、やたらと親しげに見えたのは、俺の目がイカれてるからか? 

 

「……」

 

 いや違うな……確信は持てないが、おそらく甜花に目をつけたように見えたのだろう。甜花を気にかけるとは、良い度胸してやがるな。その顔覚えたぞ。

 ていうか、大崎さん? あなた俺にはそんな笑顔見せたことなくない? なあにさっきの素敵な笑顔? 

 ……やっぱりあり得ないわ、俺と大崎姉妹で男女間の関係になることなんざ。俺も改めて思った。甜花と言う小動物でも、大崎という喋るアイワナみたいな女でも、それらが俺の初恋になることはない。

 そんなわけで、とりあえず後ろから二人を驚かせるように両手を肩に当てた。

 

「わっ!」

「ひぃんっ⁉︎」

「きゃっ……こ、小宮くん⁉︎」

「も、もう……驚かさないで……!」

 

 二人とも頬を膨らませて文句を言うが、俺は聞き流して大崎に聞いた。

 

「何、大崎さっきのヤツ。彼氏か?」

「は? 全然、違うし」

「じゃあボーイフレンド?」

「だから違うって」

「あ、分かった」

「違う」

「友達って言おうとしたのに……てことは恋人か⁉︎」

「んがっ、ぜ、絶対嘘!」

 

 まぁ嘘だが。でもこう言えば食いつく奴がいる。

 狙い通り、甜花が不安そうな表情で大崎を見上げていた。

 

「え……な、なーちゃん……彼氏、いるの……?」

「ち、違うってば、甜花ちゃん!」

「だ、だって……さっきの人、あんなに親しげに……」

「や、あれはクラスメートで……もう、あんたが余計なこと言うから……!」

「せっかくだし、彼氏にタオルでも持ってってやれよ」

「だから彼氏じゃないってば!」

「甜花は俺が送って行くから」

「アホかあんたー! 一番、美味しいとこ持って行こうとしないでよ!」

「なーちゃん……彼氏……」

「いない!」

 

 なんてワーキャーはしゃぎながら、三人で登校した。

 

 

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