FPSゲームは、友達と仲良くなるのにうってつけなゲームであると思う。何故なら、助け合いが重要となるからだ。玄人同士なら助け合い、素人と玄人なら玄人が助け、素人同士ならやはり助け合い、まぁとにかく助け合いだ。
ぶっちゃけ、甜花としかやった事ないから確証はないけど、少なくとも玄人同士が仲良くなる説は今の所、一人中一人……つまり100%だ。
今日も、夕方から二人でゲーム中である。
「甜花、あそこ敵いる」
『まか、せて……! ジャンパ、投げます……』
「ほいほい」
画面上で、甜花がいじるキャラが突撃し、その後に俺が続く。敵がいるのは、二階建ての小屋の中。その中に別々の入り口から突撃し、挟み撃ちだ。
連射速度の速いサブマシンガンを乱射し、敵のキャラのアーマーを破る。
「レイスアーマー割った。……あ、そういえばさ、甜花」
『了解。……何……? あ、一人ダウン……』
「好きな食べ物とかある?」
『好きな食べ物……うーん、なんだろ……特に、嫌いなものはないけど……あ、漁夫、来るかも……』
「ほいほい。……マジかー」
うーん……それだと困るんだよな……いや、まぁ困りはしないけど。
明日、俺も弁当を作っていこうと考えてるんだけど、流石に甜花の分、丸々は出会って数日で引かれると思うから、俺のおかずを少し分ける予定なのよ。何せ、甘奈には負けられないからな。あらゆる力を持ってして、甘奈よりたくさん昼休みに甜花とお話ししたい。
その為には、少しでも話題となるものをもっていくしかない。
「うーん……じゃあ食べたいものは? あ、一旦シールド巻く」
『了解。……え、どうして……?』
「いや、まぁなんとなく……あ、いや、ちょっと料理してみたいんだけど、味見してもらえると嬉しいなって」
『にへへ……食べさせてくれるの?』
「うん。おk、ワンダウン。あ、野良が一人やってくれた」
『じゃあ〜……あ、終わった』
「ナイスゥ」
『にへへっ……ぶいっ』
嬉しそうな甜花の声を聞きながら、漁夫も捌いてひとまず落ち着いた。ようやくアイテムを拾える。
『甜花、唐揚げが良い……!』
「唐揚げね。了解」
さっきはああ言ったけど、俺は料理は苦手ではない。高校デビューしようと考えた時から色々と努力してきたけど、その中に料理も含まれている。明日はせいぜい、美味いもの食わせてやろう……あ、ラッキー。こいつボルト持ってた。
武器を切り替えていると、マイクの奥から声が聞こえてくる。
『うう……ど、どうしよう……』
「どうした?」
『な、なんでもない、よ……? ……なーちゃん、おシッコ……ペットボトルとって……!』
「聞こえてるわ! いいからトイレくらい行ってこいよ!」
俺でもボトラーはした事ねえぞ! ていうかよくVCつけながらそれ言えるな⁉︎
『でも……今、マッチ中……しかも、ランク戦で……』
「野良も一人いるんだから平気だよ。てか、早くしないと尿結石になるよ」
『うっ……じ、じゃあ……行ってくりゅ……!』
そんな優しい言葉を噛むなよ……。
半ば呆れながら、しばらく甜花のキャラを守る事にした。
……にしても、だ。今までVCつけてやったことなかったから知らなかったけど、知り合いとやるとこんなに面白いんだな。それに、やりやすい。
このゲームは、野良同士でプレイすることも想定されているため「あそこに行こう」「あっちに敵がいる」「あの辺でアイテムを探す」などのサインを送れるが、それでも「あそこに敵がいるから、俺はここで狙撃して牽制する。だからお前はポータルを引いて奇襲できるようにしてくれ。それが終わったらEMPを飛ばす」といった細かい作戦は伝えられない。
だから、まぁとてもやりやすいという話だ。
「ふぅ……」
とはいえ、割と疲れもするが。結構、こう言っちゃなんだけど勝手な子で、自分の欲しい武器特有の銃声が聞こえてくると、こちらの準備が済んでいなくても突撃しに行ってしまう。
その際、VCをつけていると止めないといけない。無けりゃ「まぁ仕方ないか」と諦めることも出来るんだけどね。
待ってる間、何とか野良の人を落ち着けるため、二人で屈伸ごっこをしてみたり、棒立ちになってる甜花のキャラを殴ったりして待っていた。
すると、耳元に声が届く。
『にへへ……お待たせ……』
「ちゃんと手、洗った?」
『洗ったよ! ……あっ、じ、じゃなくて……あ、洗ったもん……!』
なんで言い直した?
「じゃ、行こうか。そろそろ高台取ろうや」
『うん……』
「って、そっちじゃねえよ! そっち思いっきり林の中じゃん!」
『あ……にへへ、そっか……。間違えちゃった……』
「や、まぁ甜花がそっち行きたいならそっちでも良いよ」
『だ、大丈夫……バカッタレ……小宮くんの、後に続くから……』
「え、今、バカッタレって言いかけた?」
『かけてない』
……そんなに手を洗ったのか洗ってないのかが頭に来たのかな。まぁ良いや。ひとまず、高台を取りに……ん?
「あ、あそこ敵いるわ」
『じ、じゃあ……あそこはやめて……』
「殺して奪い取ろう。多分、次の安地もあそこ含まれそうだし、取っといた方が良いよ」
『えっ……?』
「じゃ、先行くわ」
それだけ言うと、一気に突撃した。まだ銃声してるし、行けば混ざれそうだな。
そのまま三人で突撃し、まずは一人目を捉える。持ってるボルトで完全に隙を突いたので一人ダウンさせ、壁の裏を通って敵に接近すると……。
『きゃー! わー! た、助けてー!』
「えっ、ちょっ、甜花⁉︎」
『ギャーギャー!』
何その聞いたことない悲鳴⁉︎ こういう修羅場、大好きだったじゃん!
もう狙う事もせず、まるでシティーハンターの映画に出てきた「アイ・コンタクト」の如くマシンガンをやたらめったら撃ちまくる。
一発当たれば致命傷を負うリアルならともかく、アーマーがある上にHPが100あるゲームにおいて、その弾幕は何の意味もない。
「ちょっ、落ち着けええええ! てか、野良が死んでるから! 一旦、退こう!」
『秘孔ってどこ────⁉︎』
「北斗神拳じゃねえよ! って、待てええええ! そっちは退くどころか突撃コース!」
何してくれて……ああああ! 別パ、別パ来てる! 死ぬって、逃げないと……いや、甜花を置いて行けるか! このまま戦っ……あ、全滅した……。
「……おい」
『……にへへっ、ごめん……』
「じゃねえよ! お前、大崎だろ⁉︎」
『え? ……甜花も……大崎だよ……?』
「その答え方がもう妹だっていう証拠だわ!」
『ふんっ、当たり!』
お前……ランク戦でそれはダメだろ……いや、まぁ何キルか取ってるし、ポイントもトータルで見たらプラスだから良いんだけどさ。それでも野良の人に申し訳ないでしょ。
『にしても、アレだよね。最初の方、めっちゃ騙されてたよね』
「っ、う、うるせーな。てか、お前こそ最初の方、素が出てただろ」
『いや、普通、女の子にああいう事、聞かないからね。自分のデリカシーの無さを嘆いたら?』
……そういうもんかね。
『ていうか、もうこれでハッキリしたよね。甘奈と甜花ちゃんの声も聞き分けられない人に、甜花ちゃんの彼氏は無理だから!』
「かっ、かかっ……彼氏になりたいとか思ってないわ! 友達くらいのつもりだから!」
『じゃあ、学校でもう一度、甘奈が甜花ちゃんのモノマネしたとして……見破れる?』
「うぐっ……そ、それは……」
……学校で、ということは、髪型や表情も真似るつもりだろう。あの姉妹、目と髪の分け目以外は割とそっくりだし、まだ出会って一週間ほどの俺じゃあ厳しいかもしれない……。
『でしょ? 彼氏でも友達でも、双子の妹と間違えるような人じゃ、甜花ちゃんを任せられません!』
「クッ……こ、この野郎……!」
なんて女だ。何がすごいって、何一つ理屈にもなっていない。いや別にあなた方の女友達でも、モノマネすれば甜花と大崎を見分けるのは難しいと思うが、それが出来ないと友達にもさせられないってのは、全然リンクしない。
だからこそ、こっちは突破口がない。強化系バカには理屈が通じない、というのと同じだ。
どうしたものか、と悩んでると、別の声が聞こえてきた。
『なーちゃん……何、してるの……?』
『え? あ、甜花ちゃん。悪は甘奈が撃退しておいたよ! だから、ゲームなんてやめて、私と遊……』
『……部隊全滅してるけど……もしかして、勝手に……いじった……?』
『え……』
おや?
『なーちゃん……ひどい……ランクマッチだから、ポイントの移動があるのに……』
『え、て、甜花ちゃん……? 怒ってる……?』
『……なーちゃんの、バカ……!』
『‼︎』
……何を聞かされてるんだ俺は……。というかどうすりゃ良いのか。いや、まぁ大崎が悪いんだけどな。
なんなら、俺も聖人君子ではないので、正直な感想を漏らそうと思う。
「大崎、大崎……!」
『な、何……?』
「ザマァ〜〜〜ミロ〜〜〜」
『ッ、あ、あんた……覚えててね……!』
それだけ話すと、ヘッドホンの奥から「甜花ちゃん、ごめんなさい〜!」「……知らないっ」「こ、今度、一緒にゲーム付き合うから〜!」「……こ、今回だけだからね」という声が聞こえてくる。あいつら楽しそうだな毎日……。
×××
さて、翌日。俺は早速、唐揚げをサッと揚げて来た。ひとまず、我が家の中でもウケが良いわさび風味の唐揚げ。俺の中で唐揚げのバリエーションは4つあるが、妹が最も好きな味だ。ちなみに、他のは普通のと柚子とガーリック。
柚子とどっちが良いか悩んだんだけど、甜花も一応、高校生だし、大人向けな方が良いかなと思ってワサビにした。
時早くして、春休みとなった。
「甜花、飯食おうぜ」
「うん……! 唐揚げ、楽しみ……!」
「覚えてたか」
昨日、ゲームしながら話してた奴ね。
「てか、昨日大丈夫だった?」
「何が……?」
「大さ……甘奈との喧嘩。ゲームの後も仲良く出来た?」
「う、うん……! 小宮くんとのゲームの後……なーちゃんと、二人で……ア○ビ大全、やった……!」
「そっか」
あー、そういうのなら大崎も楽しめそうだもんな。やっぱりゲームは人の輪を繋ぐ。ソロ推奨の奴を除いて。
一応、甜花も大崎のことは好きみたいだし、俺もこの二人に仲違いして欲しいわけではない。ただ、まぁ……なんだ。でも絶対に負けないってだけ。
とりあえず、先手必勝と行こうか。早めに唐揚げを食べてもらい、空腹という名の最高のスパイスは俺の唐揚げにかけるとしよう。
「さ、食おう」
「う、うん……! いただきま……」
「甜花ちゃーん! お昼食べよー!」
! は、速い……⁉︎ 別棟にある教室からここまで、およそ30〜40メートルはある廊下を、弁当を持ったままほんの2分弱で移動して来たというのか……!
「さ、甜花ちゃん。食べて食べて!」
クッ、この圧力……この勢い……間違いない。こいつもHungry spiceを狙っているのか……!
マズイな、こうなっては……甜花は甘奈の方へ傾くか……?
チラッと甜花の方を見ると、甜花は意外にもやんわりとした笑みを浮かべている。
「う、うん……! でも……甜花、今日は小宮くんの唐揚げを……」
! よっしゃ、やっぱり約束ってのは強いな。先に頼み込んでおけば、向こうもそれに応じてくれる。昨日のうちに声をかけておいて良かったぜ。
さぁ、甘奈。どう出る?
「……そっか。じゃあ仕方ないね☆ 甘奈のは後で良いよ」
「う、うん……ごめんね……?」
……意外とあっさり引き下がった、だと……? こんなに慌ててここに来ておいて……?
いや、そもそも甘奈は俺が甜花に唐揚げを分けること自体、知らなかったはずだ。Hungry spice狙いだと思うことが既におかしかったか……。
しかし、それなら遠慮なく行かせてもらおうか!
「はい、唐揚げ」
弁当箱を開けて差し出した。今日の唐揚げはいつも以上に完璧だったぜ。ゲームが終わった後、うちの冷蔵庫を引っ剥がしたらワサビと生姜が無かったから、わざわざ買いに行ったくらいだからな。
それとついでに、妹に「ジャスティスマン・ウエハースチョコ」をついでにお土産で購入し、徳も上げておいた。完璧な出来だ……!
「おお……美味しそう……!」
「そりゃ美味いよ。何せ、妹に好評な奴だからな!」
「え……? 料理してみたいから、甜花が味見なんじゃ……」
「あ、いや、えっと……き、昨日の夜! 夜にも作ったんだよ!」
「あ、そ、そっか……」
ふぅ……危なかった……。ついうっかり何もかもバレる所だったぜ。もう少し発言を気を付けないと。
……そうだ。牽制しておくか。チラリと大崎の方を見ると、そっちにも声をかけた。
「お前も食べる?」
「……いただきます」
敵情視察のつもりだろう。食べるって言うの分かってた。そして絶望しろ。この味は、唐揚げの革命だ……!
姉妹揃って、ほぼ同時に唐揚げを食した直後、二人とも揃って目を見開く。
甜花は新鮮さを感じたように。
そして大崎は意外なものを感じたように。
「お、美味しい……! わさび……?」
「ホントだ……ちゃんとお弁当に合うように揚げてあるし、わさびも程よく練り込んである……」
「味もしょっぱ過ぎないし……なんだか、あっさりしてて……お肉の中にまで、味が染み込んでて……」
「本当に上手だったんだ……」
甜花だけでなく大崎まで饒舌になるほどの旨味とはなぁ……。こういう感想、素直に嬉しいの困るなぁ……。
こうしてると、高校デビューのために培った技術の一つが意味を見出したみたいで、正直少し嬉しい。
「甜花、もう一つ食べたい……!」
「どうぞ」
「本当に美味しいね、甜花ちゃん。少し見直したね」
「う、うん……! 小宮くん、良いお嫁さんになる……」
「嫁かよ」
……しかし、なんだ? 褒められているのに、この違和感……。甜花の方ではなく、大崎の方から感じる……。
まるで、俺の気分を高揚させ、油断を生み落とそうとしているような……。
「ね、小宮くん。甘奈も、もう一つ、もらって良い?」
「どうぞ?」
「ありがとう☆ ……んー、本当に美味しいなぁ。……うん、美味しい」
「……?」
「……美味しいからこそ、思うよ。本当に、惜しいなって……!」
それと同時に、甘奈は邪悪にほくそ笑む。まるで「計画通り……!」と言わんばかりの笑みだ。
直後、俺の脳天から首、背筋、そして踵までの間に、冷たい稲妻のようなものが流れた。嫌な予感、いや……死期さえも悟らせる程の悪寒と寒気。鳥肌が立つ程のそれだ。
「じゃ、甜花ちゃん。甘奈のお弁当も食べて?」
そう言った直後、大崎が開いたパンドラボックスから姿を表したのは、俺と同じように唐揚げだった。
「っ、こ、こいつ……!」
「わっ……なーちゃんも、唐揚げ……?」
「そうだよ?」
「すごい……唐揚げの、コラボ……!」
こ、こいつ……まさか、昨日の俺と甜花の会話、聞いていたと言うのか⁉︎
「はい。甘奈のは、甜花ちゃんが大好きな柚子風味だよ☆」
「や、やった……!」
しかも、汚ねえ! 自分だけ審査員の好みに合わせやがった! なんてエゲツない真似しやがんだこいつ⁉︎
「んー……やっぱり、なーちゃんの唐揚げが最高……!」
「ありがとー☆」
それわざわざ言わなくて良くない?
そのまま二人で仲良く弁当を食べる姿を眺めながら、ひとまず反省する。このままじゃ終われない。
一先ず、今回分かったのは、料理では大崎に敵わないということ。腕的な事ではなく、甜花の好み的な問題だ。
ならば、ここから先は、甜花の好みが必要なものは避けよう。その上で、大崎に情報が漏れるようなことも回避した方が良い。
面白い……ここから先は俺の発想力が試される。やってやんぞオラ。