うちの高校の文化祭は三日間行われる。しかも、土日をぶち抜いて。その分、代休がもらえるわけだが、それなら平日潰せよ、と思ってしまわないでもないが、まぁ平日の休みはありがたい。何故なら、カラオケやボウリングが安いから。
わざわざアドバルーンまで用意されているわけだが、その辺には「□○大学合格!」だの「剣道部○○君(2年生)インターハイ出場!」などと書かれている。まぁ文化祭って学校の宣伝をする良い機会でもあるからな。
おそらく、客の中には中学3年生がいる。だから、まぁ……なんだ。なるべく大崎との口喧嘩は控えよう。怖がらせてしまう。
「で、どうする?」
「メイド喫茶!」
「お前女の子だよね? 何その男子高校生みたいな提案」
「ていうか、甜花ちゃん喫茶?」
「うちのクラスでそれ言うなよ」
こいつホント怖いもの知らずな。他の女子に失礼だから頼むよホント。
「ちなみに、メイド喫茶ってどんなことするの?」
「さぁ?」
「え、知らないの?」
「知るわけないじゃん。ハブられてんだぞこちとら」
「えー、じゃあ甜花ちゃんが接客してる時間帯は?」
「10時〜11時、13時〜14時の2時間だけだ。明日は丸々、休み、最終日に11時〜12時まで入ってる」
「流石」
「YEA!」
コツン、と二人で拳を合わせる。さて、学祭は10時〜18時まで。つまり、今すぐに行くしかない。
二人ですぐにうちの教室に来た。中に入ると、まだ朝になってばかりだからか、客は少ない。別のクラスに友達がいる人ばかりだ。
だからこそ、少しはゆっくりできると言うものだ。出迎えて来たメイドのうちの一人は、天使かと思った。
「「おかえりなさいませ、ご主人様」」
「お、おかえりなさいましぇ、ごちゅじん様……!」
「「この子、指名で」」
「ひぃん……即決……というか、小宮くんになーちゃん……⁉︎」
さて、早速二人で甜花を連れて席に座った。その直後、大崎がスマホを取り出す。それを俺は止めた。
「待て、大崎!」
「何⁉︎ ここで止めるつもりなら、甘奈はあなたを倒してでも前に進むよ?」
「馬鹿野郎、学祭のメイド喫茶で写真なんて撮ったら、他の客まで真似し始めるだろうが! そしたら、全国に甜花のメイド服が拡散されるぞ!」
「ッ‼︎」
その言葉に、内容には引きつつも他の店員達も「確かに……」と言った表情を浮かべる。友達同士なら良いが、知らない奴にこの格好を見られるのは普通に死ねるのだろう。
「で、でも……そしたら甘奈の、この熱いパトスは……!」
「姉妹ですよね? それなら今のうちに写真撮って良いですよ。お客さんまだあんまいませんし」
「え? あ、そ、そう……」
「ねぇ、ちょっと教室のドア閉めて。なるべく外から見られないようにしとこう」
なんか思ったより柔軟な発想で、あっさりと許可を得てしまった。うちのクラスの女子、なんか普通に良い人なのでは? 俺をハブるとこ以外。
「じゃ、甜花ちゃん! ポーズとって」
「え、ぽ、ポーズって言われても……」
「まずはお盆を股関節の前で抱えてお辞儀! 次は転んで飲み物をこぼして女の子座りのポーズ! その次は、箒を持って転んでクイックルワイパーみたいになってる感じで……」
「ひぃん……注文が多いけど……なーちゃんを、取り戻すためなら……!」
「大崎、落ち着け! 最後の奴は衛生的に勘弁してやれ!」
興奮した大崎は、それはもう暴走していた。初代チャージライフルの如き暴走である。
クラスメートに使わせた気を最大限に活かして写真撮影会が始まった。30分ほど教室と甜花を占領してすみませんでした、皆さん。もちろん、心の中の謝罪は届かず、後日、うちのクラスのブラックリストに、俺と大崎の名前が載った。
×××
一時間まるまる使ってメイド喫茶で過ごしたあとは、俺と大崎は一度、うちの教室の前で待機する。
すると、甜花が出てきた。……メイド服の上に、ブレザーを羽織って。
「ぎゃあああああ! 可愛いいいいい!」
写真を撮ろうとした大崎のスマホを、甜花は横からスパァンとスマホを取り上げる。
「え……て、甜花ちゃん……?」
「……なーちゃん、甜花……恥ずかしかった……」
「あ、あれ……?」
あ、甜花おこだ。かわいい。
「ご、ごめんね……? つい、可愛くて調子に乗っちゃって……」
「やだ」
「ええっ……⁉︎」
あーあ……俺は割と途中で止めてたのにな……。まぁ、今回は大崎が悪い。
「よし、甜花。俺と二人で学祭回る?」
「ええっ⁉︎ そんな競馬場から馬を奪うようなこと……!」
「う、うん……!」
「そ、そんなああああああ!」
涙目になる大崎。勿論、俺はそんな鬼じゃない。この先の事は考えてある。
「大崎はサッカー部の奴と一緒に回ってくれば?」
「え?」
「は? あんたぶっ殺……あ」
あ、察した。
「う、うん……一人では回りたくないし、そうしようかな……」
「ま、待ってなーちゃん! 許してあげるから、ダメ……!」
よし、ちょろい。三人で改めて学園祭を回ることにした。とりあえず、昼飯が食べたい。俺や大崎はメイド喫茶で少し食べたが、甜花はまた一時間後に働いて来ないといけない。
「とりあえず、腹ごしらえだな。何食うか?」
「甜花……もうおなかぺこぺこ……」
「別に甘奈達が食べてた奴、摘んでも良かったのに……」
「いや……だって、あんまり料理上手な人、いないから……」
割と酷ぇこと、言うなこいつ……。一応、料理班の半分以上が女子だったろうに……。
それに対し、同意するように大崎も口を開いた。
「あー確かに。甘奈もあんま美味しいとは思わなかったなー。クッキーは美味しかったけど、オムライスとかは小宮くんが作った方が美味しかったかも?」
「え……そ、そう?」
俺は食べてないから知らんが……ていうか、大崎が褒めてくれた……?
「うん……小宮くんが作ってくれた、ふわとろオムライスの方が……おいしかったな……」
「甘奈の作った奴とは違う良さがあったよね」
「っ、ば、バカやろっ。煽てたって何も出ないぜ?」
「そう考えると……甜花のクラス、もっと売り上げ出そうなのに……勿体ない……」
「仕方ねえだろ? あいつらは鯛を釣るポテンシャルを持つ海老を簀巻きにして海にぶん投げたんだ」
「よっ、隠れた名作!」
「裏ボス!」
「川○李奈!」
「幻の撃墜王!」
「よし、お前ら! 料理同好会に行こうか。美味い飯作ってやる!」
確かパンフレットによれば、参加型の料理教室やっていたはずだ。そこで二人にとびきり美味い飯を食わせてやる。
「せっかくだし、甜花にも料理教えてやる」
「ええっ⁉︎ で、でも……甜花、料理用ダガー握ったことない……」
「いや包丁な? 大丈夫、俺と大崎がいれば同好会の人達がいなくても絶対に美味くなるから。な?」
「もちろん!」
「……じ、じゃあ、甜花……頑張る……!」
「よっしゃ!」
「甜花ちゃんのエプロン姿!」
そのまま三人で料理教室に向かった。
×××
あの後、全員で食事をして一時解散となった。労働後の料理で疲れ果てた甜花が、あの後、なかなか教室から動こうとしなかったので、ひとまず三人でのエンジョイはそこまでとなった。
甜花は仕事に戻り、大崎も演劇一時間前となったので、自身の教室で打ち合わせ。
一人になった俺は、しばらく学祭をぶらぶらした。
それからさらに一時間。今度はもうメイド服を着る必要がなくなり、完全に制服に着替えた甜花と合流した。
「大丈夫か? 甜花」
「う、うん……!」
急いで二人で体育館に向かう。もうそろそろ、大崎の演劇が始まる頃だからだ。
早足で到着したが、まだ始まっていなかった。どうやら入れ替わりの準備時間中のようだ。
「ふぅ、間に合った……」
「良かった。甜花、さっき買っといた飲み物。まだ口つけてないから」
「あ、ありがと……」
甜花のためだ。俺より余程、劇を見たがっているだろうしね。
「何の劇、だっけ?」
「だんでらいおん」
「にへへ、懐かしい……」
分かるんか。銀魂好きなのは少し意外。どちらかというと美少女アニメが好きそうなイメージがあったから。
「でもさ、大崎が班長はめっちゃ面白くね?」
「う、うん……なーちゃんには悪いけど……似合わなさそう……!」
「だって大崎は今時の茶髪ロングのJK、班長は黒髪ショートの着物……笑い堪えんの大変そう……!」
「……わ、笑っちゃダメだよ……? 他に、人もいるのに……」
そう言われてもな……屋上の練習見てる時も危なかったし……。
そうこうしているうちに、劇が始まった。耳に、一度だけ聞いたナレーションの声が届く。
「……昔、どっかの坊主が言った。『この世は苦界だ。極楽はあの世にある。仏に縋れ、念仏唱えろ。切符はこの手にあるぞ』。そいつを手にこっちへやってきた連中は俺に言った。『極楽浄土? そりゃあんた達が今までいた世界さ。苦しかった? そりゃあんたらが念仏ばかり唱えていたからさ』」
来るぞ、自転車に乗りながら。全然似合ってない大崎が……!
「コラー! 待てっつーのに……!」
直後、自転車に乗って現れたのは……普通に着物の大崎だった。あれ? というか普通に似合うっつーか……お祭りで見られなかった浴衣が今、見られてるっつーか……。
「……意外と綺麗……?」
「へ?」
「っ……」
思わず口走った時だ。聞こえていた甜花がこっちを見る。それにより、俺も思わず顔を背ける。おい、見るな、そんな目で。やめろ。何も言ってないよ。
「……小宮くん、もしかして……」
「や、違うよ」
「まだ、何も言ってないけど……」
「綺麗なのは、一緒に乗ってるイケメンの顔だよ」
「え……ほ、ホモなの……?」
……その勘違いのされ方は不愉快だな。
「ごめん嘘。普通に大崎が綺麗に見えた」
「にへへ……なーちゃんに、言っても良い……?」
「絶対にやめてくれ……」
そんな事されたら、大崎の奴、それはもう偉く調子に乗って俺を弄り始めるだろが……。
「……甜花、小宮くんなら……良い、よ?」
「え、な、何が?」
「小宮くん、なら……付き合っても、甜花に構ってくれそう、だし……」
「……バカ言ってないで劇を楽しもうや」
あり得ねえから、安心しとけ。大崎は甜花にしか興味ないし、俺も同じだ。
そんな事を思いながら、サッカー部の男子と大崎が主人公を張る演劇を眺める。たどたどしい広島弁に一切、ツッコミを入れずにこなすサッカー部。
普段の俺なら爆笑しかねないその絵面であったが、なんか……こう、少し複雑だ。
もし、あの劇……いや、あの劇じゃなくても、三人で何か真剣に文化祭でもなんでも、打ち込むことが出来たら……。
「……」
「……来年は、三人一緒のクラスが良い、ね……」
「……だな」
甜花のセリフに、俺は控えめに頷いた。