文化祭二日日を終えた。今日もほとんどずっと一緒にいた三人だが、途中で甘奈がクラスの女友達と一緒に回ったり、秀辛が文化祭に遊びにきていた果穂や千雪と一緒に回ったりもしたが、とにかく満喫した。
さて、そんな日の夜。遊び疲れとゲームは別腹のようで、三人はまた一緒にFPSをやっていた。
「なーちゃん……投げ物あったら、爆撃して……?」
「はいはーい。アークスターなら5個あるよ」
『お、たまには役に立つな、大崎』
「ショットガンとマークスマン持ってれば、弾少なくて済むからね」
持たせたのは甜花である。何発か当てないとカスダメにしかならない連射武器より、何発も外しても一発で40近いダメージになるものの方が良いと踏んだのだ。
その結果、バックパックに空きができて、当てなくても敵の行動を一時的に制限できる爆弾も積めさせた。
三人で暴れつつ、敵を蹴散らしたので一息つけるタイミングで、秀辛が二人に声をかける。
『そういえば明日は一日、三人で回るんで良いのか?』
「うん。甜花はそれで良い、よ……?」
「あ、ごめん。二人とも。明日、午前中は甘奈、別行動で」
「『え?』」
「ちょっとあんた、何甜花ちゃんとハモってんの?」
そんなこと言われても、意外なのだから仕方ない。
明日は、甜花が11時〜12時まで仕事で、甘奈の演劇は今日で終わり。つまり、甜花と一緒に回る時間がありながらも、甜花と秀辛を二人きりにすることを許すという事だ。文化祭開始時刻の10時〜11時までの間だけだが。
「クラスの子に、一緒に回ろうって頼まれちゃったんだー。ほら、サッカー部の佐々木くんに」
『え、あいつに?』
「そう。だから、本当に癪だけど小宮くんには一時間だけ、甜花ちゃんと一緒に回るのを許可したげる」
今日はお互いに甜花と二人で回れる時間を取れたから良い。だが、明日はそうもいかないだろう。何故なら、最終日は平日だから、果穂も千雪も現れない。ほとんど学内のみでのお祭りになるのだ。
だから、文化祭ニートの秀辛は甜花と離れる理由が無いのだ。
「せっかくだし、甜花ちゃんと思い出作ってきたら?」
『……だな』
「ていうか……午前中だけの話で、大袈裟じゃ……」
甜花から冷静なツッコミが来て、マイクの向こうで秀辛のハッとした声が甘奈の耳に届いた。
『お前、まさかあれか? 借りを作るつもりか?』
「は……?」
『ま、良いだろう。そうなれば、振休の一日はお前に甜花を譲ってやろう』
「……」
そんなつもりは無かった甘奈だが……まぁ、言い出したのは向こうだし、それでも良い。
「はいはい。それで良いよ」
「……ねぇ、なんか足音、聞こえない……?」
『あ?』
言われて秀辛がスキャンをすると、敵影をキャッチした。
『いる! 敵!』
「えっ、ちょっ……!」
「甜花、持ちこたえるから……なーちゃん、高所とって……!」
「りょうかーい!」
そのままゲームを続けた。
×××
文化祭もいよいよ最終日。スタート5分前となったものの、秀辛の内心は全く落ち着く様子を見せなかった。
「小宮、くん……?」
「っ、な、何?」
「どうしたの? なんか……挙動不審、だけど……」
「や、別に……」
別に、という割に、やはり落ち着きのない様子の秀辛を見て、甜花は小さく冷や汗をかく。何を不安に思っているのか? そんなの、考えるまでもないくらいに分かりやすい。昨日の戦闘中も、あの話が出て以来、ダメダメだった。
「……なーちゃんのデート……様子見に、行く……?」
「はぁ? いや、何もそこまでしなくても……」
「でも……気になるんでしょ……?」
「き、気にしてねえから! 別に、あいつが何処で誰の佐々木と何して文化祭を楽しんでようと知らねえし!」
「ひぃん……日本語、少しおかしい……」
やはり、気にしているのは間違いない。ここまで分かりやすい男も珍しいものだ。
「でも……もし、なーちゃんが告白でもされたら……?」
「……」
あのイケメン、それもサッカー部期待の超新星。一緒に文化祭で主人公まで張った……いわば相方に告白なんてされようものなら、如何に甘奈と言えども……。
「……し、知った事、かよ……!」
完全に知ったことではないようだ。目がフラダンスしている。最近、甘奈と秀辛の関係が変化しつつあることには、流石の甜花も気付いていた。
正直、最初は甘奈がとられると思うと、たとえ相手が秀辛でも容赦したく無かったが、今は割と考えが変わり「他の男に取られるくらいなら秀辛と付き合って欲しい」と考えていた。
そのためには、甜花的にも敵情視察をしておきたい所だった。
「じゃあ……小宮、くん……」
「何?」
「甜花が……気になるから、なーちゃんの尾行……する?」
「……」
流石にこんなに子供しか掛からない手は無理か? と思った直後だ。パァッと明るくなった秀辛は、甜花の手を握った。
「是非頼む」
「……」
甜花の脳裏に浮かんだのは、入学初日。泣きながら教室に来た自分を、優しく接してくれた一つ上のお兄さんのようなオーラを放った秀辛だ。
が、半年たった今、改めて彼を見ると、むしろ一つ下の後輩にさえ見えてきていた。
まぁ、どんな人間にも欠点はある、と思っていると、ピンポーンとスピーカーから声が聞こえた。
『文化祭最終日です。最後まで怪我や事故が起きないように楽しみましょう。では、みなさん。自由な行動を開始してください』
文化祭開始時刻となり、甜花と秀辛は甘奈のクラスに直行した。同じクラスメートであれば、そこからスタートするからだ。
スイスイと移動していると、教室から出てきた甘奈とイケメンが目に入った。
「いた……!」
「俺は足跡を追跡する。甜花はドローンを頼む」
「小宮くん、これリアル……」
なんて話して教室から出てパンフレットを見下ろす二人を見る。パラパラと表紙から捲り、右上の方を指差している。
「うう……ここからじゃ見えない……」
「あれは野球部だな。やってるのは、ストラックアウト」
「え、どうしてわかるの?」
「めくった枚数は二枚、その右上……いや、左上のコマは野球部だろ」
「……」
本気過ぎて視力が爆上がりしていた。正直、引く。
「先回り、する……?」
「甜花、俺達の学祭の廻り方を思い出してみろ」
「え?」
「目的の場所に行く途中も、寄り道とかしてただろ? 慎重に後をつけるぞ」
「……う、うん……」
洞察力までキレ始めた。この人、怖い……と、思った直後だ。男の方が、移動開始する際、甘奈の手を取った。
直後、隣の男が手に握っていたパンフレットを握り潰した。
「行くぞ、甜花」
「ひ、ひぃん……」
本当に殺さないよね……? と、少し不安に駆られた。
×××
野球部の出し物は表にある。校舎の最上階からそこに行くまでの間、割といろんな店の前を通るわけだが、同行しているのが甘奈なだけあって、色んな店に寄っていた。
その間、佐々木とやらが嫌がる素振りを見せたことは一度もない。何を話しているのかは聞こえないが、ずっと二人とも笑顔のままだ。
その度に殺気が膨れ上がるバカだったが、甜花は無視している。もうテンションの上がり下がりに慣れたようだ。
で、到着したのは野球部の出し物の場所。30分かかった。
「あれ、佐々木くんサッカー部だよね? 野球できるの?」
「大丈夫だっつーの。どんなスポーツでも、必要なのは基礎体力と運動神経。狙った場所にボール投げるくらい出来なきゃダメだ」
「へぇ〜、すごいね」
「俺は昔から運動神経だけは良かったからな。中学まで野球部の連中より速い球も投げれたし、バレー部の奴らよりジャンプ力あったりしたからな」
自慢かコラ、と、とても運動神経が良いとは言えない秀辛は眉間に皺を寄せる。
「えっと……小宮くん、甜花たちもやる……?」
「甜花がやりたいなら」
「え……て、甜花は、いい……」
「なら監視するぞ」
「ひぃん……すごい、迷惑……でもない、のかな……?」
よくよく見ると、周りには冷やかしのように見物人が割と多くいる。やるかやらないか迷っているのだろう。
そんな中、甘奈と佐々木の番になる。
1〜9番のパネルがあり、球は10球。残ったパネルの枚数が少ない程、景品が豪華になる一回200円の仕様だ。
「佐々木くん、頑張れー☆」
甘奈の応援が鼻につく。あの野郎、誰にでも愛想振りまきやがって、と言わんばかりだ。というか、何度も思うが何故、自分以外の男にはあそこまで人当たりが良いのか。普通に腹が立つ。
「よっ、こい……せっ、と!」
まず一球目。見事にど真ん中を打ち抜いた。
「うわ、すごい! いきなりど真ん中⁉︎」
「右下を狙ったんだけどな」
嘘つくんじゃねえよ、と、また秀辛は眉間に皺を寄せる。あの手のゲームは、真ん中を狙えば、狙いが逸れても何処かしらに当たるため、良いスタートを切るためにも中央をまず狙うのは定石だ。
そのまま投球は続き、見事にパカンパカンとパネルに穴を開けていった。
最終スコアは、3番を残して全開け。それを見て、甘奈は少年のようにキラキラと目を輝かせた。
「すっごーい! ほぼ全部じゃん!」
「いやー、ここまで来るとあの一個が悔しいんだよな……」
「あー分かるかもしんない。でも、甘奈だったら絶対、3個以上は当たらないもん」
「そんな事ないだろ。俺が教えれば、5個はいけるって」
……イラリ、と再び秀辛はトサカに来る。なんか癪に触る。自分でも何に怒っているのかわからなかったが、とにかく腹が立った。
いや、すぐに分かった。自分に持っていないものを持っているあの男が腹立って仕方ないのだ。綺麗に自分の武器で良い所を見せやがって……。
「でも、甘奈はいいや。今の見た後だとやりづらいし」
「そうか? 気にしなくて良いと思うけど……ま、良いや。景品取り行こうぜ」
そう言うと、二人で景品の元に歩いていく。
「8枚抜きの人はこの辺ね」
野球部の人が指す場所はぬいぐるみとか置いてある。その中から、黒いお餅みたいなクッションを手に取る。
「これ可愛いんじゃない?」
「それが良いのか? じゃ、それやるよ」
「良いの⁉︎」
デビ太郎のぬいぐるみだった。大崎姉妹が大好きな悪魔のモチモチクッションだ。
「ありがとー!」
そう言って次の出し物に向かう。その楽しそうな背中を、甜花と秀辛は遠い目をしながら追うしかなかった。
×××
「はぁ〜〜〜……なんかもう、ど──ーでも良いやっ……」
結局、二人きりのデートを満喫され、甜花に付き添って教室に引き返してきた秀辛は、メイド喫茶の裏方でダラけていた。
衛生面に気を配って片付けられた教室は、制服で寝転がっても埃一つ付くことはない。
その上、なんか不機嫌極まりない秀辛は、もはや他の誰かにどんな目で見られようが、気にならないメンタルを有していた。
そんな秀辛に、着替えを終えた甜花が顔を出す。
「小宮くん……にへへ、準備完了……」
「おう、甜花。相変わらず死ぬ程、可愛いぞ」
「あ、ありがと……」
「これから昼飯食いにくる奴も増えると思うから、頑張れよ」
「う、うん……!」
そんな話をしながらスマホゲーをしている中、甜花は表に出ようとした、そんな時だった。クラスの女子が、何かヒソヒソ話しているのが見えたのは。
自分の悪口か? と一瞬思ったが、どうにも違うようだ。割と困った顔をしている。
「どうする……?」
「え、無理だって……あたし、料理とか出来ないし……」
「そうだよ、さっちゃんいないと困る……」
「でも、風邪じゃ仕方ないし……」
大体わかった。どうやら、料理班の一人が風邪でいなくなってしまったようだ。
ま、なんであれ自分には関係ない。どうせ声を掛けても「や、大丈夫」「てか誰?」と言われるのがオチだ。
なので、ゴロンと身体を横に転がした直後だった。聞き馴染みのある声が、一番ありえないことを言った。
「ぁっ……あにょっ……!」
「「「ん?」」」
「そこに、料理できる人が……いましゅっ……!」
「……えっ?」
×××
「え、メイド喫茶?」
「うん!」
色んな出し物を見て回った甘奈は、最後にもう一度、メイド喫茶に行きたかった。甜花のメイド服を見られるのも、もう最後だからだ。
「良いけど……え、妹がいる所って、あんま飯うまくなくね?」
「良いの、ご飯食べに行くわけじゃないから!」
「あそう……」
ぶっちゃけ、コーヒー一杯で十分だ。
二人でメイド喫茶の教室に向かうと、一瞬、大量に列が出来ているように見えた。が、その中のほとんどがギャラリーのようだ。教室の扉から、中を覗き込もうとしている。
「なんだ?」
佐々木も気になったようで、声を漏らす。
「なんだろうね?」
「これ並んでるわけじゃないよな? 無理矢理通って平気かなこれ」
「良いんじゃない? というか、甜花ちゃんの就業時間終わっちゃうし、通ろうよ」
そんなわけで、強引に人の波を掻き分けて入ったその中央では……どこかで見た腹立たしい男がメイド喫茶なのに女の子より囲まれて料理を作っていた。
四つのカセットコンロの上でフライパンを振るい、超高速でオムライスを作っている。左二つで卵を焼き、右二つでチキンライスを作っているようだ。
めちゃくちゃ慣れた手つきでチキンライスをフライパンの上のみで整形し、そのまま平たくした卵の上に乗せ、振るいながら包んでいく。
それが終わると、今度はもう片方の卵の中にライスを入れ、包み始める。
「……え、職人?」
佐々木のリアクションは尤もだった。甘奈でさえ普通にビビってしまうレベルの手慣れさ。絵の件といい、この人の才能パラメータおかしい。
だが、何より気に入らないのは……。
「ねぇ……なんか、すごくない?」
「いつも大崎さんに付き纏ってるキ○ガイのイメージあったけど……少し良いかも……」
「ね、カッコ良いよね」
なんて噂をされている事だ。何が悪いって、学生服の上着を脱ぎ、ネクタイも外し、ワイシャツの第二ボタンを外し、腕捲りをしたままフライパンを振るっている姿がサマになっている事だ。
だから、女子達がキャーキャー騒ぐのもわかる。わかってしまう。そして何より、わかるからムカつく。
何より、秀辛が作った料理を、甜花が得意げに運んでいるのがまた腹立った。なんか名コンビっぽく見えてしまうからだ。
「……甘奈?」
「っ、な、何?」
「とりあえず、席座るか」
「うん」
案内してもらって席に座る。
なんか、面白くない。彼がクラスで甜花以外に友達ができるのは良いことのはずだ。単純に秀辛自身のためでもあるし、甜花にも友達が出来るかもしれないし、甘奈と甜花が二人になれる時間が増える。
なのに、なんか面白くない。
「……なぁ、甘奈。もし良かったら、午後も一緒に回らないか?」
「え……?」
「……」
その佐々木の表情は真剣だ。本当は二人と一緒に文化祭を楽しむ予定だったのだが……と、チラッと二人を見る。が、忙しいみたいでこちらに気付いてくれない。
「……うん。良いよ」
「! や、やった……!」
なんか、自分だけ腹立たしい思いをしているのはむかつく。なんとかして、あの男にも同じ思いをさせてやりたかった。
「じゃ、食べたら行こっか」
「おう!」
そう約束し、とりあえずオムライス以外のものを注文した。