文化祭が終わり、いつもの日常が戻った。振替休日があったわけだが、大崎は甜花に謝って謝って謝り倒し、その日は二日間とも召使いと化していたらしい。途中で一緒にゲームやってた時に聞いた。
で、今日からまた学校。大崎を探して全力疾走していた疲れもようやく取れて、呑気に登校する。
のんびり歩いていると、後ろからポンっと背中を叩かれた。
「小宮く……」
「おはよ、小宮くん」
「おはよー!」
聞き覚えのある声が届いた気がしたが、それを塗りつぶすように別の声が飛び込んできた。顔を向けると、そこにいたのはクラスメートの女子二人だ。文化祭の日、俺に謝ってきた奴ら。
「? もう一人いなかった?」
「え、うちら二人だよ?」
「1人で登校?」
「いつも一人だよ」
「じゃ、一緒に行こうよ」
「良いけど」
なんでわざわざ? と、思ったが、学祭を機に俺に興味でも抱いたのか? 料理得意になっておいて、ホント良かったわ……。
そのまま三人で一緒に登校する。どうでも良いけど、名前を教えて欲しいな。聞いて平気なのか?
片方が、俺に聞いてくる。
「ね、ぶっちゃけさ……大崎さんとどういう関係なの?」
「? なんだ急に?」
「だって、気になるじゃん」
「男の子と女の子があれだけ親密にしてるんだもん」
親密って……何を見て言ってんだこいつら。
「別に、あいつとは敵同士だよ。どっちがより多く甜花を餌付けできるかの勝負してるだけ」
「え?」
「なんだよ? てか、俺は大崎と仲良くなんかしてないけど。……や、そりゃ最近は一緒にいて楽しい奴ではあるけど、基本的には甜花をエアリスとしたら、俺がアバランチで大崎が神羅の関係だし、そもそもあいつの連絡先さえ知ら……」
「いや、そうじゃなくて。うち、大崎さんって甜花ちゃんの方を言ってたんだけど……」
「……え?」
「てか、なんで妹さんの方だと思ったん?」
……言われてみれば。こいつらうちのクラスじゃん。
「……え、むしろその子とどういう関係?」
「え……や、だからあいつとは敵同士だから」
「そういえば、この前の文化祭も妹さんの事を探してたよね。わざわざ甜花さんとのデートを蹴ってまで」
「……や、あれは別に……ほら、あいつが迷子になってると思ったし甜花だって大崎を心配してると思ったし三人で一緒に回るって約束してたしもしかしたらサッカー部の変なやつに何かされてるのかもとか思ったし別にあいつが気になったわけじゃないからマジで!」
「どんだけ早口?」
「何言い訳してんの?」
べ、別に言い訳とかじゃないから! ただ単純にほんと、あいつのことなんて何とも思ってないってだけでな……!
「おっはよー☆」
「おぶっ⁉︎」
いっでえええ! 背中蹴られたあ⁉︎
転びながら慌てて振り返ると、立っていたのは大崎だった。
「テメッ……な、何しやがんだコラ⁉︎」
「ごめん、サンドバッグと間違えちゃった」
「どんな間違え方したんだよ! 通学路をなんでサンドバッグが歩いてると思ったんだよ⁉︎」
「え、前に言ってたじゃん。『俺の中学時代のあだ名は歩くサンドバッグだった』って」
「言ってねえよ! それ完全にいじめられてんだろうが!」
な、なんだこいついきなり……あ、後ろから甜花も来た。
「な、なーちゃん……待って……!」
「あ、甜花ちゃんきた。じゃ、またね。サンちゃん」
「サンちゃんって誰だ! サンドバッグのサンじゃないだろうなそれ⁉︎」
「ほら、行こ。甜花ちゃん」
「どうしたの? なーちゃん……」
「別になんでもない。……それより、後で甜花ちゃんにお願いがあるんだけど……」
そのまま、甘奈は甜花とお喋りしながら、手を引いて先を進んで行ってしまう。
ったく……あの野郎、なんだってんだ一体……。服についた砂埃を払いながら立ち上がると、女子二人が微妙な顔をして俺を見ている。
「……なるほど、そっちが相手か」
「今のは小宮くんが悪いよね」
ええ……なんか急に女子二人が冷たくなったな……。
×××
朝のホームルームが終わり、俺と甜花は軽く伸びをする。本当に疲れたわ、なんか朝から……。
「だいじょうぶ……?」
「ああ。平気。……てかさ、大崎はなんであんな怒ってたわけ?」
「さ、さぁ……」
なんか、ゲームやってる時は俺にやたらと優しかったのに。欲しいアイテムくれるし、回復も分けてくれるし、初動で武器ない時は自分のをわざわざくれたりした。
「そ、それより、小宮くん……」
「何?」
「なーちゃんと……その、連絡先は交換しない、の……?」
「え? ……ああ」
連絡先なぁ……今まで、無くても困らなかったけど、文化祭の日は少し困ったからな。……や、大崎の奴が電源切ってたし、あれは連絡先の有無は関係なかったか。まぁでも、二人で出かける機会があったとして、逸れたら必要にはなるかな。
「そうだな。交換しとくか。教えてくんない?」
「え?」
「え?」
え、自分から言ったのに何その反応?
「……あ、そ、そっか。……甜花でも連絡先渡せちゃうんだ……」
「え?」
「あ、え、な、なんでもないよっ。……それで、えっと……」
何言ってんのか聞こえなかったけど、何か悪いことあるのか?
「あ、そ、そうだ……! な、なーちゃんに許可もらえないと……ダメだと思う、から……」
「え、なんで?」
「なんで? ……え、えっと……あっ、こ、交換してないのに、連絡来たら……普通は、嫌かなって……」
「むっ……確かに」
そうかもしんない。俺のスマホには甜花と家族のしか入ってないから分からなかったけど、スマホのアドレスとか番号って簡単に交換しちゃいけないのか。
「ふーん……じゃあ、本人に直接、聞いた方が良いのか」
「う、うん……! それが良いよ……!」
なんか……甜花の言い分はどうにも言い訳臭く感じたが、多分言ってることに間違いはないのだろう。
なら……次の休み時間に聞きに行ってみよう。これで、大崎ともいつでも話せるようになるわけだ、うん。
……あれ、何今の。なんか、俺が大崎といつでも話したいみたいじゃん……。ていうか、そう思うとなんか恥ずかしくなってくるんだけど。
「……」
あれ、俺甜花とどうやって連絡先交換したっけ……? あ、ゲーム一緒にやるためか。大崎ともその手でいけるか? ……いや、俺と大崎が二人でゲームやることなんてないし、誘うなら甜花に連絡すりゃ良いべ? ってなる。
……や、大丈夫だろ。だってほら、さっき自分で考えてたじゃん。もし二人で出かける事があったとして、逸れた時のために……。
『……え、甘奈、あんたと二人で出かけることなんかないけど』
あ、頭の中の大崎にめっちゃ言われそうなセリフを返された。ただでさえ、朝もなんか不機嫌だったし……この言い訳は無理だ。
「な、なぁ、甜花。……仮に、仮に自分がめちゃくちゃ嫌ってる相手から連絡先交換しようとか言われたら、どう思う?」
「え……て、甜花なら、絶対渡さない……スマホ、忘れたとか言っちゃうかも……」
……マジか。どうしよう。どうやって言えば良いかな……。みんな、どうやって連絡先の交換とかしてるんだろ……。
少し、調べてみようかしら。
「はーい全員、席につけー。数学始めんぞー」
ちょうど、自由時間みたいな授業だし、調べてみるか。
×××
すげぇな、調べてみたんだけど、何一つ役に立ちそうな情報が無かった。なんか「受け身ではいつまでも進展しない」だの「自分からアクションを起こせ」だのと心意気ばかりは立派だ。無責任な煽りしてんじゃねーよ。
そもそもタイトルが「気になる相手との交換の仕方!」なのが腹立つ。大崎の事なんか全然気になってねーよ。
50分間、調べりゃ何かしら出るかと思ったんだが、もう休み時間になってしまった。
「……小宮、くん……? 交換しに行かない、の……?」
「えっ?」
しかも、なんか甜花に急かされるし……。なんで今日に限って、甜花はそう言ってくるんだ?
「や、いくけど……も、もう少し後で良いかなって……」
「ええっ、こ、困るよ……⁉︎」
「え、なんで?」
「え? い、いや……えっと……」
なんで甜花が困るんだよ。どういう因果関係? いや、そんな事よりも、今は大崎の連絡先だ。どうやって聞くか、だ。
「と、とにかく行かないと! い、今ならなーちゃん……多分、暇だし……!」
「え? や、そうなの……?」
「10分しかない、んだから……!」
す、すごい急かしてくるな……わ、分かったよもう、行けば良いんだろ。
「わーったって、行くから急かさないで」
「う、うん! 急いで!」
いつになく押しが強い甜花に押され、渋々、教室を出た。
しかし……どうしよう。どうやって連絡先を聞けば……いや、変に意識し過ぎなのか? でも調べてみてどんなサイトでも「異性に連絡先を聞く=恋愛的に意識している」みたいな考えみたいだし……。
え、待って。てことは、俺が大崎に連絡先を聞いたら「え、この人、甘奈のこと好きなの?」みたいに思われるってわけ? 何それキレそう。絶対嫌だ。そんなんじゃねえし。
「ううーん……」
なんとか「別に君のこと意識してるわけじゃないけど連絡先くれ」と言わなければいけないのか……。
考えながらも結局、ロクな案も浮かばずに教室の前に着いてしまった。どうしようかな……なんて言えば、連絡先……。
「あれ、お前……」
「?」
「甘奈と一緒にいた奴じゃん」
声を掛けられ、振り返ると佐々木とかいう奴が立っていた。確か、大崎に告白しようとしてた奴だよな?
その後ろには、サッカー部なのか、何人か友達を連れている。連れションか?
「なんか用?」
「いや教室に戻るとこ。むしろこっちのセリフだから」
「え? あー……」
え、こいつには知られたくねえなあ。こいつほど女の連絡先知るのに慣れてる男もいないだろうが、俺にだってプライドはある。
「え、もしかして甘奈に会いに来たのか? この少ない休み時間で? どんだけ好きなんだよお前」
「は? 別に好きじゃ……」
「いや、否定すんの早過ぎかよ。分かりやすっ!」
あっはっはっはっ、と後ろの取り巻きと一緒に爆笑し始める佐々木。え、何こいつ。何なの? 喧嘩売ってんの? 負けちゃうから買わないけど。
「いや、早く教室戻れよ。段差一つで山まで回り道しなきゃいけないフエンタウンか?」
「何、意味わかんねえこと言ってんの? 俺が甘奈呼んできてやろうか?」
「いや、いい」
「遠慮すんなよ。おら、行こうぜ」
強引に腕を掴まれる。面倒臭えのに捕まったな……。うざっ。
あんまりウザかったので、腕を横に引いて払った。
「触んなよ。お前の指紋が移るだろ」
「は? 俺だって触りたくて触ってねえし。親切でやってやってんだろ」
「いらねえ世話だっつんだよ。親切な言葉の意味を辞書で調べてこいバカ」
「てか、さっきからその言い回しなんだよ。カッコ良いと思ってんの?」
直後、またあっはっはっと身内で笑いが起きる。お前らこそ、その笑いはなんなの? 打ち合わせしてあんの?
割とイライラしてきた時だった。またタイミング悪く、バカが教室から出て来た。
「……ちょっと、小宮くん」
「? あ、大崎……」
「何してんの? うるさいんですけど」
「あー、悪……」
「よう、甘奈。悪いな、こいつがお前のこと好きでどう話しかけて良いか分からなかったんだって」
「……えっ?」
「は?」
ヤバい、いい加減ムカついてきた。ここまで言われても人のこと殴っちゃいけないの? 日本の法律ってほんと卑怯者が有利になるように出来てるよね。
もう喧嘩負けても良いから殴ろうかな、と思って指をゴキゴキと鳴らした時だ。ふと、大崎の顔が目に入った。
その大崎は、顔を真っ赤にして唖然としている。
「…………ほ、ほんとに……?」
「えっ……?」
間抜けな声を漏らしたのは、俺ではなく佐々木。唖然として甘奈を見ている。
……なんかよく分かんないけど……ようやくバカが黙った。この隙に甘奈だけ借りるか。
「とにかく、話があるから来いよ」
「えっ、ちょっ……!」
呆然としてる双子の妹の手を握り、愕然としてるバカの横を通って移動する。
とりあえず、落ち着いた場所……屋上で良いか。階段を上がり、屋上の扉を開けた。
「ふぅ……ったく、あのバカ本当ウゼェな……」
「……」
「何が楽しくてああいう事言って来んのかな。てか、俺とほとんど接点ないくせによくああいう事言えるよね。もしかして友達になりたいのか?」
「……」
「最後はなんかボケっとしてたけど。なんかあったのか? お化けでも見えてたのか?」
「……」
「……おい、なんか言えよ。独り言話してるみたいじゃねえか」
さっきから静かだな、大崎……と、思って後ろを見るが、顔を真っ赤にして俯くばかりだ。
「おい、どうしたの?」
「……ほんと?」
「え、何が?」
絞り出すような声に対し、反射的に聞き返してしまった。
顔を赤くしたままの大崎は、恐る恐る俺に質問してくる。
「や、だから……甘奈の事、好きなの……?」
「は? そんなわけないじゃん」
「えっ」
「連絡先を聞きに来たんだよ。……あっ、いや恋愛的に気になってるから、聞きに来たとかじゃなくて、なんか単純に欲しくて聞きに来たというか……」
しれっと目的を言ってから、慌てて弁解する。危ね危ね……ついうっかり告白まがいの事を言う所だった。違うって言った後にそんな事言ったら、説得力もクソもあったもんじゃないからな。
スマホをポケットから取り出して言ったが、大崎はスマホを出そうとしない。ていうか、なんか怒ってない?
「? 大崎?」
「……バカ」
「え? や、バカでも良いから連絡先を……」
「スマホ家に忘れたから無理。じゃあね」
「えっ、ちょっ……」
今の、甜花が「嫌いな相手に連絡先の交換を強請られた時の返答」と被ってるんだけど……。……あれ、もしかして、俺って大崎に嫌われて……や、そんなの元からじゃね? え、でもなんか……思ったよりショックなんだけど……。
俺もまた愕然として膝をつく中、大崎は屋上から出て行ってしまった。