大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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早い者勝ち。

 あー……ムカつく。なんだあの野郎、そんなに俺のことが嫌いかコンチクショウ。

 もういいわ。そっちがその気なら、俺だって連絡先なんかいるかよバーカ。どうせお前なんか甜花のオマケだ。だから、お前なんかともう一生遊んでやるかっての。

 そう心に決める度に、胸の奥がズキっと痛むのを感じる。なんなのこれ。最近の俺はホントおかしいよ……。大崎関係の事になると、この胸の痛みは何度も再発している気がする。

 なんか、こう……間違いだと分かっている答えを正解だと相手に捲し立てているような、そんな感覚だ。

 

「……あ、こ、小宮くん……」

 

 そんな俺に、甜花から声がかけられる。

 

「何?」

「お昼……食べ、よ……?」

「あ、ああ……食うか。はい、甜花の分の弁当」

「ありがとう……にへへ、久しぶり」

 

 久しぶりって言っても文化祭以来だけどな、まぁ今日の弁当は甜花リクエストだし、そういう意味じゃ久しぶりか。

 

「はい、今日の弁当は秋刀魚、サーモン、マグロの秋の海鮮ちらしだ」

「わっ……お、美味しそう……! ……でも、本当に作れると思わなかった」

「や、悪いけど俺に不可能はないよ? 料理と絵なら」

 

 あ、母ちゃんに炊飯ジャーの中、酢飯だって言うの忘れた。今頃、親父と母ちゃんの昼飯は酸っぱくなっているに違いない。まぁ良いや。

 

「ちゃんと保冷剤もつけておいたし、保冷バッグに入れておいたからダメになってないと思うけど、早めに食べてくれ」

「う、うん……!」

「……」

 

 ……大崎は来ないのかな、今日は……って、何考えてんだ俺は。あいつとは決別したろ。

 なんか、最近はホント三人でいるのが当たり前になって来て困るわ。

 

「食べよっ、か……」

「だな」

 

 俺も秋の海鮮ちらしを用意する。最後に、鞄の中から醤油のボトルとワサビのチューブを取り出した。

 

「はい。欲しかったら使って」

「す、すごい……完璧……!」

「だから、俺に不可能は無いんだよ。甜花が望むのなら、なんだって作ってきてやる」

「じゃあ、明日は二八蕎麦が良い……!」

「任せろ! ……でもザルで良い?」

「勿論……!」

 

 流石に汁物は……いや、保温ボトルとお椀を用意すればいけるか保温用の……水筒? を用意して、弁当箱に茹でる前の蕎麦を入れて、あとは電気ポットを用意。

 その中に水と蕎麦を入れて教室のコンセントで沸かし、その間にお椀に汁を注ぎ、別の弁当箱に天ぷらと長ネギを入れておいて……うん。いける! 後は、本当に電気ポットで麺を茹でられるか、だな。

 そんな事を思っている時だ。

 

「ところで、さ……小宮くん」

「何?」

「なーちゃんも一緒に……食べない、の……?」

「え? あ、ああ……食べたいなら甜花誘って良いよ」

 

 まぁ来るかは分からないが……でも、甜花が呼べば来るか。そうなったら、俺は黙っていよう。喧嘩になるかもだし。

 

「え? あ、あー……甜花じゃなく、て……」

「小宮くんが誘って、あげた方が……」

「え、あ、あー……」

 

 心の臓を貫かれた。そうか、甜花は連絡先の交換に成功したと思ってるんだよね……。

 

「や、それが、その……」

「?」

「まだ、交換出来てない、みたいな……」

「……」

 

 え、ちょっ……何その顔。何その甜花らしからぬ冷たい目は……? 

 

「……チキったの?」

「いや違うって! ……まぁ、色々あって拗れたんだよ……」

「色々って?」

「えっ……あー」

 

 どこから話せば良いんだ? あの大崎狙いの男のこと? わざわざ連絡先聞くために屋上まで連れ出しました、って? なんか普通に恥ずかしいわ。

 

「まぁ、色々だよ」

「言って」

「え?」

「……」

 

 あれ……もしかして、甜花怒ってる? 弁当作ってもらっておいて? 

 

「て、甜花さん……?」

「なーちゃん……今朝、甜花に相談して来たんだよ……?」

「え?」

「小宮くんの、連絡先持ってないから……欲しい、って……」

「……マジ?」

「マジ」

 

 ……なんか、甜花の言動がやたらと不自然だったのはその所為か。

 

「だから、その……なーちゃんを、傷付けたなら……甜花、許さない……」

 

 ……なるほど、そういう感じね。それなら、素直に白状するしかない。そんなわけで、さっきあった出来事を話した。言い訳臭くなるかもしれないが、一応、サッカー部のゴリラどもに絡まれた話も含めて全部。

 すると、甜花の瞳は尚更、ジトっとしたものに変わる。口に海鮮チラシを運びながら、ダメな人を見る目で見られた。よりにもよって甜花に。

 

「え、何その顔」

「なーちゃん、可哀想……ご飯の前に、ちゃんと謝って来なさい」

「えっ」

「手作り弁当、没収します……!」

「だからそれ誰の手作り?」

 

 しかし、強化系バカには理屈が通じないように、甜花も大崎の事になると通用しない。俺の海鮮チラシを取り上げてしまった。

 

「え……それ俺が作ったヤツ……」

「じゃないと、甜花……なーちゃんとしか、もう喋らない……!」

「……」

 

 それは困るな……ここに来て、甜花を失うのは絶対にごめんだし。

 

「でも……何が悪かったん? あれ俺が嫌われてたってことじゃないの?」

「違うよ……。なーちゃんが小宮くんのこと嫌ってる、なんてこと絶対に無いよ……」

「え、で、でも……甜花が嫌いな奴から断る方法で連絡先の交換を切られたんだけど……」

「アレは……え、ええと……なーちゃんのこと、好きじゃないなんて言っちゃったから……」

「え、だって別に……」

「本当に、好きじゃない……の?」

「え?」

 

 ……好きじゃないか、か……。や、まぁ確かに嫌いじゃないよ? 多分、最近大崎について悪く考える度、胸の奥で痛みが走るのは、なんだかんだ本当は嫌いじゃないからだ。

 でも、好きかどうかと問われると……うーん、まぁ好きと言えば好き、なのか? なんだかんだ一緒にいて楽しいし、甜花と2人より、三人一緒に遊んだ方が楽しいと自覚するようになって来た。

 そういう意味じゃ、確かに好きなのかもしれない。

 

「うん、好きだわ」

「にへへ……じゃあ、頑張ってね……!」

「はいはい」

 

 仕方なく席を立った。まぁ、大崎を相手に緊張なんかしたって仕方ない。リラックスして、謝って、一緒に飯誘おう。

 ……あ、でもこのまま行くと、普通にまたサッカー部に会いそうだな……。あの大崎大好き人間と愉快な仲間達が、また変に茶化して来そうだ。

 

「……」

 

 やっぱ、連絡先持ってないのはキツイなぁ。甜花に呼び出してもらうか? いや、甜花の代わりに俺が姿を表したら、それこそブチギレそうだ。

 ……あれ? 割とどうしようもない? ペルソナ5なら川上先生の出番なのだが、残念ながらこの高校に川上先生はいない。

 大崎のことに関し、甜花以上に詳しい奴はいないから、謝れば許してくれるという事に疑いはないが、それ以前の問題だった。

 

「どうしようかな……」

「何が?」

「ひょおおおおおおッッ⁉︎」

「ぎゃああああああッッ⁉︎」

 

 ビックリした! なんか目の前いた! ビックリした! 

 

「な、何⁉︎ 急に脅かすのやめてくれない⁉︎」

「こっちのセリフだっつの、バーカバーカ!」

「子供か⁉︎」

 

 な、なんでいんだよ! 心臓バックンバックン言ってるわ! それはもう土管から出てくる人食いフラワー並みにバックンバックン言ってるわ! 

 

「な、なんでここに……?」

「甜花ちゃんから、大事な話があるからって」

「……」

 

 クッ……て、甜花の世話になるとか……! いや、良いんだけどさ……でも世話する側だった小さいプライドが、悔しいと轟き叫んでいやがる……! でも明日、クッキー焼いて来てあげるね。

 とにかく、せっかくのチャンスだ。活かさねば。

 

「あー……えっと、まぁ……なんだ。まずは、朝は悪かったなって……」

「……別に良い。甘奈も、勝手に舞い上がってたし……それに一番、悪いのは佐々木だし」

 

 すげぇ、大崎に呼び捨てされる奴初めて見た。相当嫌われてんぞ、あいつ。

 ……って、そんな場合じゃないだろ。まずは大崎との仲直りだ。

 

「でさ、今良いなら……甜花も一緒で、三人で飯食わん?」

「うん。もち☆」

 

 っ、な、なんだ? 俺以外の誰かにしかやらない、あのキャピキャピな笑みを、急に……。

 

「ね、小宮くん」

「っ、な、何……?」

「甘奈、もう少し素直になるからね……!」

「え?」

 

 ……素直って……どういう……? 

 

「ん、何でもない。でも……手始めに……そうだな」

 

 え、何する気? と、思ったのも束の間、大崎がポケットから取り出したのはスマホだった。

 

「な、何? スマホゲーのフレンド申請? 俺こう見えてグラブルとFGOとウマ娘とポケGOとパズドラとドラゴンボールレジェンズとドラクエタクトしかやってないよ」

「大分やってるじゃん……」

「どれ?」

「どれでもない。強いていうなら、チェインのフレンド」

 

 ……あっ、そうだ。連絡先の交換する予定だったんだっけ? 

 忘れてたので、俺も同じようにとりあえずスマホを取り出す。QRコードを読み取り、交換完了。……なんだこれ。こんな簡単なことに、俺は半日もかけてたのか……? 

 

「? どうしたの?」

「いや……なんか、悪かったな……」

「え?」

「こんな簡単な事で、喧嘩とかして……」

「良いの、それはもう。そんな事より、ほら。早く行こ?」

「え、行こって……あ、飯か」

「うん!」

「ーっ」

 

 ……この今までツンツンした態度を貫き続けて来たはずの大崎から放たれた、天真爛漫な笑みが、俺の胸を少しずつ的確にエグっていく。

 何というか……「あれ? この子こんなに可愛かったっけ?」って感じ。

 

「ほら、早く!」

「っ……!」

 

 俺の腕に腕を絡め、大崎は廊下を歩く。胸が当たっているのが気になって、なんかもう色々とダメだこれ……。なんで、俺は大崎に翻弄されてるんだ……? 

 悶々としたまま、教室に歩く。まるで恋人のように腕を組んだまま。なんか……リア充を求めて、実際にそれっぽい空気になると、なんか……ヤバい。なんか、こう……気色悪いって意味じゃなくて吐き気がする。心臓の高鳴りで口から食道、胃、腸がそのままリバースしそうだ。

 

「っ……」

「秀辛くん?」

「っ、え、今……名前で呼んだ?」

「……長いな。ヒデちゃん」

「ちゃんっ⁉︎」

 

 っ、こ、こいつ……な、なんだよ急に……? 

 

「今日はどんなお弁当作ったの?」

「えっ? あ、あー……海鮮チラシ……」

「へぇ、すごいね。具は?」

「サーモンとマグロとサンマ」

「おお、旬……楽しみ!」

 

 え、食べる気? なんてツッコミも起きない。とにかく緊張で鼓動が止まらない。

 ヤバい……大崎が、か、可愛く見える……! 俺ってどんだけ単純な男なんだ……! 

 大量に汗をかきながら教室に戻ると、口元にご飯粒をつけた甜花が振り向いた。……目の前に、空の弁当箱を二つ置いて。

 

「あっ、お、おかえり……!」

「……おい、甜花。俺の昼飯」

「にへへ、美味しかった……!」

「……」

 

 その日の午後は、空腹で授業に集中なんて出来なかった。

 

 

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