最近、悩みがある。その悩みは、多くの男性陣に取っては「は? お前それ悩みとかふざけてんの? 死ぬの?」と言った内容だろう。
しかし、俺の立場になれば必ず気持ちが分かってくれるはずだ。全員では無いだろうけど、何人かの男子にも、苦手な女や仲が悪い女の一人くらいいるだろ?
その女が、急にこれだよ。
「甜花ちゃん、ヒデちゃん。帰り、ゲーセン寄らない?」
はい、ここであり得ないポイントを復習してみようと思う。まず、呼び方。俺の事をつい最近まで他人行儀なことに「小宮くん」と、名字+くん付で呼んでいたのだ。呼び捨てより嫌われてないかもしれないが、呼び捨てより距離感はある感じがする。
それが、下の名前である「秀辛くん」では飽き足らず、後半をカットし「ヒデちゃん」というあだ名。親しみがあるだけでなく、溺愛されている姉、甜花の「甜花ちゃん」という、ちゃん付け呼びが被っている。
その上で、俺と甜花を二人、誘っている点。甜花を誰よりも溺愛する大崎は、多少甜花と仲良くする程度なら許容するが、誰かが自分以上に甜花と仲良くすることを許さない。その事で俺とかなり揉めたはずなのに、それをあろうことか、俺も一緒でゲーセンに誘っている。
ゲーセンとは、俺と甜花が共通している趣味の一つだ。つまり、敵にアドバンテージを与えるようなもので、これまたあり得ないポイント一つ。
つまり、一見普通に同じ学校の友達を遊びに誘ったように見えるこれだが、あり得ないことがてんこ盛りなのだ。
そこから導き出される答えは一つ……これは、罠だ……!
「俺は良いよ。甜花は?」
「勿論、OK……!」
「やったー!」
考えられる手段はまだ分からない。が、備えておけばどんな罠であろうと看破できる。今まで一進一退の攻防を大崎を続けていた俺だから、そう確信できた。
なんだっけ、オケツに入らずんば、媚びを得ず? だっけ? それだ。自ら敵の罠の中に飛び込み、逆襲を狙う。
「でも、大崎はゲーセンで何すんだ?」
「何って……ゲームでしょ」
「足手まといはゴメンだぞ。ゲーセンのゲームは基本、二人用が多いんだから」
「大丈夫。甘奈、自分がやりたいんじゃなくて、甜花ちゃんとヒデちゃんのカッコ良い所が見たいだけだから☆」
「……」
……な、なんでそういうこと言うの……? 甜花だけでなく俺も……? これじゃ、俺がすごい嫌な奴見たいじゃん……。
「……ほら、行こう!」
大崎に背中を押されて、三人で校舎を後にした。
×××
ゲーセンに着くまでの間も、ちょいちょい三人で会話して来たのだが……あー疲れた。まぁー疲れた。なんか、皮肉ひとつ言わない大崎のセリフ全てに裏がある気がしていたのだが、それも無い。
甜花に対してはもちろん、俺にさえほぼ全肯定して来る。だから、なんか変に備え過ぎて気疲れしてしまった……。
だが……まだ奴の作戦の内かもしれないんだ……! 俺を疲れさせた所で叩く気か? なんにしても、気は抜けない。
「あ、そうだ。甘奈、ヒデちゃんにとって欲しい景品あるんだよね」
「え、俺に?」
「うん!」
……なるほど、そういう魂胆か。それくらいなら、別に駆け引きなんかなくても取ってやるのに。
「任せろ。どれ?」
「これ!」
大崎が指差したのは、デビ太郎のもっちりクッションだった。あれ、これどっかで見たことあるぞ。
えーっと……これ確か……。
「これ、この前、佐々木とのデートでもらってた奴じゃね」
「デートじゃないから、ただの付き合いだから。間違えないで」
「っ、お、おう……」
ちょっ、急に豹変すんなよ……そんなに嫌なこと言った? 思わずビビりながら甜花の背中に隠れてしまう。
「……俺そんなに悪いこと言った?」
「言った」
ま、マジか……気を付けよ。
「でもなんで?」
「あれ売っ払ったの。ヒデちゃんに負けてるからって子供みたいに仕返しする人からもらったものなんて、家に置いておきたくないし」
……なんかごめんな、佐々木。下の名前も知らんが、お前もう完全に大崎に嫌われてんぞ。
「それに……ヒデちゃんからもらった方が、嬉しいし……」
「……」
えっと……それどういう意味? なんか恥ずかしいんですけど……あ、ま、まぁ要するにあの男なんかにもらったものは要らないってことだな、うん。
「ま、まぁ……とりあえず、取ってやるよ」
「ありがと☆」
クッ……逐一、ウインク入れて来やがって……可愛いのが腹立つ! ……でもやっぱり可愛い……くそう。
半ば、大崎の笑顔から逃れるように、筐体に向かう。俺自身、下手ではないが、動画とか出してる人に比べれば上手い方ではない。
だから、まずアームのやる気次第で取れたり取れなかったりする。とりあえず、100円だけ入れて様子見するしかない。
しばらくトライし、700円で取った。出口の方に少しずつズラして、引っ掛けて、ケツ持ち上げるのが定石だよね。
「はい」
「おお〜……! すごい、こんなにあっさり……!」
「ふふんっ……甜花なら、500円で取れた……!」
「は? 言ったな?」
「言った……!」
「ま、まぁまぁ二人とも! 甜花ちゃん、この前A○EXで課金したのに、今お金使って大丈夫?」
「あうう……そ、そうだった……」
……やはりおかしい。大崎が甜花の味方をせず、仲介するなんて……。こんな事、あるはずがないのに……!
少しヒヨっている俺に、大崎は手を差し出して来た。何かと思って思わず手を出すと、そこに乗せられたのは700円だった。
「えっ?」
「はい。お金」
「や、別にいいよ」
「ダメ。タダってわけには……」
「甜花のいう通り500円で取れたのなら、200円は余分だから」
「ああ、そういう……てか、そういう問題じゃないよ。せっかく、頑張ってくれたんだから」
「じゃあもらうわ」
「……は、早いね……」
おい、甜花。何引いてんだよ。何事も男の奢りで済むのはバイトしてる奴か、アニメの世界だけなの。男子高校生は基本、金欠なんだから。
さて、そろそろ本来の目的に戻るか。
「じゃあ、甜花。あれやろうぜ。バイオ」
「にへへ、良いね……!」
「甜花と俺でやって良いよな? お前が俺達のプレイを見たいって言いだしたんだもんな?」
「うん。良いよ☆」
「……」
ああああ! 何これ、なんかすごく調子狂う! 俺の立ち位置がどんどん、悪くなってる気がする!
大崎、お前ホントどうしたんだ⁉︎ 何か悪いものでも食ったのかホントに⁉︎ はっ……まさか、あの佐々木のクソ野郎に……よし、今からでも殺……。
「ヒデちゃん、何してんの?」
「あん? ああ、今から殺し屋でも雇おうかと……えっ?」
むぎゅっ♡ と、腕に何か柔らかい感触が当たる。甜花と一緒に先を歩いていた大崎が、わざわざ戻って来て俺の腕にしがみつき、胸が当たったと理解したのは、それから5秒ほど経過した後の事だった。
「っ、お、大崎⁉︎」
「は、早く……行くよ?」
あ、少し大胆なことをしたからか、顔が赤い。かわいい。
……じゃねえだろおおおおおおッッ‼︎ 死ねえ俺えッッ‼︎ なんなんだ、なんなんだこの……なんか胸の奥がむず痒いこのッ……ああああッ!
「ひぃん……ヒデくん、キモい……」
いつの間にか甜花まで一緒に下の名前で呼ぶようになっていたが、正直そっちに気を回す余裕は無かった。それくらい、大崎の豹変っぷりがエゲツない。
なんやかんやで、バイオの筐体版の前に到着した。
甜花と筐体の前に立ち、二人で銃を持つ。お金を入れて、ゲームスタート。
コキコキと首を鳴らし、とりあえず頭の中を切り替える。ゲームのコツは呆れるほど簡単なことだ。自分がその場にいたら、と言う想像力が大事だ。そうなれば、没頭出来るだろ? 死にたくない、と言う気持ちを胸の奥底に潜ませ、その上で無双する。
そう、俺はケヴィン……いや、レオだっけ? 主人公の名前忘れたけど、とりあえず俺はそいつだ……。
「頑張ってね、甜花ちゃん。ヒデちゃん!」
「う、うん。頑張りましゅ……あうう、噛んじゃった……!」
「……」
……まぁ、少しは大崎に良いとこ見せようかな? うん。瞬殺で瞬殺を繰り返していこう。
「行くぞ……甜花」
「う、うん……!」
直後、一気にヘッドショットを二人でぶちかます。最初のステージは余裕よ。ドドドドっと銃声を鳴らし、敵を駆除していく。
今の所、撃ち漏らしはない。一番、楽するためには撃ち漏らしをしないことだから、一つずつ丁寧且つ迅速にこなしていけば、心に余裕が出来る。
「おお……二人ともすごい……! 頑張ってー!」
「……にへへ、う、うん……! 任せ、て……!」
「……」
……なんか、やっぱりやりづらいな……。なんで、こう……やりづらいんだろう。やりづらいというか……うん、やりづらい……。
ミスはしなかった。引くほど順調に敵を倒し、完璧なコンビネーションでステージクリアを果たした。100円でここまで遊べるの、ホントゲーセンのゲームは上手いと得しかしないよね。
……うん。せっかく、クリアしたのに……大崎にもおそらく、良い所を見せられたはずなのに……なんだろうな。この満たされない感じ……。
「二人とも、やっぱ上手だね! トリオにデュオで挑んで勝てるだけあるよ……!」
「いつもキル数多いのは、甜花……!」
「まぁアシスト多いのは俺なんだけどな」
「……む、むぅ……」
そんな話をしつつ、俺はなんか満たされない感じに冷や汗をかく。甜花と遊んで楽しかった。完璧な作戦と腕前を、息を合わせてこなしていくのはとても心地良い……それなのに、なんか大崎を見てると……こう、なんか違う感じがするんだよな……。
簡単にクリアし過ぎたからか?
「ヒデちゃん?」
一人、ボケッとしていたからか、大崎に心配そうに小首をかしげられてしまう。
「どうしたの?」
「……や、なんでもない……」
普段ならこんな風に気にかけて来ないのに……。あー、やっぱ調子狂うな、くそう。
頭の中でモヤモヤさせていると、甜花が少しモジモジしながら口を開いた。
「あうう……て、甜花……トイレ行きたい……」
「あ、じゃあ一緒に行こっか。ヒデちゃんは?」
「俺はいいよ。行ってこい、適当に見て回ってるから」
「うん!」
「ぬいぐるみ、持っててやる」
「ありがとう!」
それだけ話すと、二人はトイレを探しに行く。その背中を眺めながら、小さくため息をついた。
はぁ……なんか、調子狂うなぁホント……。大崎、何があったんだろうな……。喧嘩したい、ってわけじゃないんだけど……もしかしたら、喧嘩し過ぎて気を遣わせてんのかな……。
結構、暴言や罵倒とはいえ、遠慮なくぶちまけあえるのは、あれはあれで楽しかったんだけど……。
「ヒデちゃん?」
「あ? もうウンコ終わったのか大崎……あっ、く、桑山さん」
「久しぶり」
あぶね、ついうっかり口が滑った。別人だったか。相変わらず胸でかいなぁ……。
「何してるんですか? 平日の夕方からこんなところで」
「平日の夕方から見知った子がここにいるのを見かけたから、挨拶しておこうかなって」
あ、ああ……すみません。ありがとうございます、わざわざ。
「でも、何か悩んでるの?」
「え?」
「いつもあなたの愚痴をお店で聞いてたんだもの。すぐ分かるわよ」
すみませんね……俺なんかに詳しくさせてしまって。
「まぁ……少し。前に話した、愚痴の相手覚えてます?」
「ええ」
「そいつが……なんか企んでるみたいで……やたらと俺に、フレンドリーに接してくるんですよ。なんか……勘繰っちゃって」
「……ふぅん? どんな風に?」
どんな風にって……どうだろうな。とりあえず、あった事を言っておくか。
「なんか、こう……前まで皮肉を言い合う仲だったのに、こっちの皮肉は受け流して、俺の言う事は全肯定されて……なんか、前まで気遣いとかしない本音をぶちまけあえる仲だったのが、気を遣わせるようになっちまったのかなって……それで、なんか俺もすごくモヤモヤして……一緒にゲームやってて楽しいのに、なんか変な感じなんですよ」
「なるほどね……ふふ、青春してるのね」
「はい?」
青春? そりゃ甜花とはしてるけど……や、一緒にゲームしかしてないのって青春って言うのかな……。一応、文化祭を一緒に回ったり、してはいたわけだが……。
「道理で、最近はあんまりお店に来ないわけね」
「え?」
「何か物足りないのは、ヒデちゃんが自分にいつまでも嘘をついてるからだよ」
……え、嘘って……。いやいやいや、まっさかー。
「俺は基本的に正直な男ですよ。桑山さんと会ったら、まず視線は胸に行ってしまいますし……」
「も、もう……! そんな所で正直にならなくても良いの! ……って、そんな話じゃなくて」
コホン、と咳払いすると、改めて桑山さんは説明する。
「本当は、その妹さんの方とも仲良くしたいんでしょう?」
「そんな事ないですから!」
な、何を言い出すんだいきなり⁉︎ 俺は別にあいつと仲良くなりたいとかまぁ少しは思ってるけどでも基本的にやっぱり甜花のついでみたいな感覚が最近は薄れて来たとはいえ無いわけでもなくだから別にあいつとめちゃくちゃか仲良くなりたいとかせめて一緒に二人でも遊びに行けるような仲になりたいとかそんなんじゃなくて……!
「即答してる辺りが逆に拘ってる感じするのよね〜?」
「ーっ!」
「ふふ、ごめんね。少し言い過ぎちゃったかしら?」
「あ、頭を撫でないで下さい!」
子供じゃねえのよ俺は!
「とにかく、素直になる事。たったそれだけで、少なくとも今の悩みは解決されると思うよ?」
「っ、す、素直にって……」
「ふふ、じゃあまたね。たまには遊びに来てね」
たまにはって……あ、確かに最後に行ったのって、7月に果穂の誕プレ買った時だったっけ……。
……そうだな。いつのまにかあんま愚痴こぼさなくなってた。たまには遊びに行かないと……と、思っていると、後ろからクイックイッと袖を引かれる。見ると、少しムクれた表情の大崎が俺を睨んでいた。
「誰? 今の綺麗な人」
「え? あ、ああ……まぁ、行きつけのお店のお姉さん」
「キャバクラでも行ってるの?」
「いやそういう店じゃないから。果穂の誕プレ買う時とかに行ってんの。たまにお前の愚痴とかこぼしに行ってるわ」
「……そう」
「……」
……しゅんっとするなよ。
……。
…………。
…………素直になれ、か……。
「あー……大崎」
「……何?」
「あのさ、お前がもし良かったらなんだけど……お前もやらん? バイオじゃなくて良いから……」
「え?」
「あー……その、なんだ……」
……普通に気恥ずかしいな……。でも……なんだ、言わないと……大崎、しゅんっとしたままだし……その、何。もしかしたら、物足りなさが無くなるかもだし……。
「……大崎と、一緒にゲームしたい……」
「え……?」
「……って、思ってたり思ってなかったりしてまーす……」
……ダッセェな俺……なんで最後にヒヨって変なこと付け足したし……。
思わず直視出来ず、目を逸らす。これだから俺と言う人間はダメなんだよな、多分……。人とロクに目を合わせて会話できないなんて……。
思わず自己嫌悪しつつ……少し反応がないのが気になって大崎にチラッと視線を移すと、にっこりと微笑んでいた。それはもう、JKらしい天真爛漫な笑みで。
「うん! やりたい!」
「っ……」
……ま、眩しい……。もしかしたら、これが本来の大崎の姿なのか……?
そのまま、とりあえず甜花を待ってから、ウォーキン○デッドをやりに行った。