大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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遊んだ日

 その日の夕方、自宅についた大崎甘奈は、自室に戻って部屋着に着替えた。外出用の服装でゴロゴロするとシワになってしまうため、長めのTシャツを一枚、上に着込んだ服装でベッドの上で寝転がり、スマホを取り出す。

 秀辛と一緒にゲームをした後は、三人でマリカー、音ゲーをこなし、最後にプリクラを撮って帰宅した。流石にゲーセンで満喫した後、さらにFPSゲームをやるのはやめておこう、という事になり、今日はこのまま秀辛と会話することは無くなった。以前までなら。

 しかし、今は連絡先を交換してある。つまり秀辛へ、遊びに行った後の「今日は楽しかったね! また遊ぼう!」的な内容を送ることが出来るのだ。

 

「……っ」

 

 今日、色々と勇気を出して彼に「仲良くなりたい」とアプローチをかけてみたが、微妙に警戒していた。まぁ今まで敵同士だったのだし、仕方ないだろう。

 だからこそ、警戒心を解いてもらうためのチェインだ。さて、内容を考える。これが同性のクラスメートなら「今日は楽しかったねー」みたいな内容で良かったのだが、彼の場合はそうもいかない。

 何せ、反目し合っていた仲から、せめて甜花と同じように甘やかしてもらえるくらいの距離感になりたいと考えているのだ。もっと、こう……良い感じの内容を送りたい。

 でも、距離が近すぎてもいけない。余計に警戒させてしまうかもしれないからだ。

 

「どうしようかな……」

 

 まずは、やはり今日誘ったのは自分なのだから、お礼からだろうか? ぬいぐるみも取ってもらってしまったし、やはりお礼だろう。

 文面を頭に思い浮かべ、とりあえず文字を入力してみる。最初に今日のお礼を言ってから、後からぬいぐるみの写真を撮ろう。

 

『今日は付き合ってくれてありがとー☆ ヒデちゃんと一緒に遊べて、とっても楽しかったよ!』

 

 ……少し恥ずかしい。特に後半。や、本音ではあるのだが、やっぱりこう……「一緒に遊べて」って部分が恥ずかしい。

 

「……少し直球過ぎるかな……」

 

 口にできない事を文面で言うのは嫌だった。慌てて「×」を押して文章を消す。

 少し考えてから、別の文を入力する。

 

『今日は付き合ってくれてありがとね。甜花ちゃんも楽しかったって言ってたよ!』

 

 ……これもダメだ。なんでお礼を言うのに甜花の名前を出す必要があるのか。なんか、安易に逃げている気がした。

 もっとこう……自分の気持ちを伝えたい。

 

『今日はありがとう、とても楽しかったよ! ヒデちゃんと一緒にやったゲーム、最高でした☆ 何度も守ってくれてありが……』

 

 そこで入力を止め、消す。やはり恥ずかしい。守ってくれた、というお礼で言えば、文化祭の時に告白を止めてくれた時のお礼も言えていないのに。まぁ、あれは実際のところ偶然だったから、秀辛の事だから「気にすんな」の一言で終わるだろうけど。

 

「はぁ〜……あー、もうっ……」

 

 枕に顔を埋め、足でパタパタと布団を蹴る。なんでこんなに悩んでしまうのか……いや、理由は分かってる。だからこそ、自分らしさと彼への気遣いは捨てられない。

 そうだ。恥ずかしがってなんていられない。あの誠実に見えて偏屈で不器用な男と親密になるとはそういうことだ。

 そのため、まずは写真から送ることにした。

 取ってもらったクッションを抱き抱えると、頬と腕で挟んでもう片方の手にスマホを取り、斜め上に上げる。

 

「っ、よ、よし……!」

 

 JK力で鍛えた自撮りテクニックを活かし、完璧な一枚を撮った。

 それを終えると、ここでトークルームに入り、画像を選択。送信のアイコンをタップする直前、手が止まる。

 

「……」

 

 ……いや、やはり文面からだろう。いきなり写真を送るのはちょっとヤバイ気がする。

 

『今日はありがとう☆ 取ってくれたデビ太郎と超仲良しになったよ。またゲーセン行こうね』

 

 ……ちょっと比喩表現は恥ずかしい……などと、試行錯誤を繰り返し、寝転がって早一時間が経過。

 実は部屋の入り口で、甜花が「なーちゃん……青春してる……可愛い……」などと呟いていることにも気づかず悶える。

 そして、ついに文章が決まった。

 

『今日は、付き合ってくれてありがとう☆ とっても楽しかったです! 取ってくれたデビ太郎、大事にするね』

 

 あとは、これと写真を送信……送信、送し……送信……! 

 

「んにゃああああああっ!」

 

 扉の向こうにいる甜花が、唐突の奇声にビクッとしたのにも気付かず、ボタンを押した。その後で、勢いのまま写真を送信。

 ヒュポッと言う間抜けな音が響く。送ってしまった、と言う事実が脳内に反復し、真っ赤な羞恥心が満たしていく。

 

「うわああああ! 送っちゃった、送っちゃったよー!」

 

 送ってから嫌なことを思い出してしまうのは、男でも女でも一緒だった。そういえば、たまにクラスのサッカー部がツイスタとか見ながら「自撮り女子ってなんでぶりっ子が多いんだろうな」「そりゃ顔面に自信があるから自撮りなんてしてんだろ?」みたいなことを話しているのを聞いたことある。

 女子である甘奈からすれば、全然そんな事はない、人によりけり、という感じなのだが、それを秀辛がどう思うのか、といった所だ。

 そう思うと少し気恥ずかしくなり、足をパタパタさせながら枕に再び、顔を埋める。……一瞬、トーク画面を見る。……あ、既読ついた。

 

「〜〜〜っ⁉︎」

 

 たったそれだけで布団を被りたくなってしまう。今更になって、甜花と一緒に撮ったもの送れば良かったかな、なんて事まで思ってしまった時だ。

 向こうから第一声が届き、反射的に目を閉じた。や、文面なので声ではないが。なんと言われたのか? 写真はスルーして向こうも「楽しかった」とか? 

 それとも、普通に写真に触れて「可愛い!」とか? や、それはない。褒めるとしても良いとこ、デビ太郎について触れるくらいだろう。

 いや、可能なら明日の朝までチェインで夜更かしとかしてみたい。どんな内容でも繋いでやる、

 そう決めて、目を見開いた。

 

『太ももすごい』

 

 慌てて自分の服装を見直した。そういえば、ズボンを履いていない。いやしかし、自撮りで下半身まで映すのは至難の技……と思って写真を確認する。

 

「……〜〜〜っ!」

 

 写っていた。両膝を折りたたみ、足を左右に開いた女の子座りでしっかりと。長いTシャツが下着は隠してくれているが、それでも履いていないのは丸分かりだろう。

 思わず、真っ赤になった顔を隠すように、手に持っているデビ太郎に頭突きをかました。

 そのまま両手を頭の上に乗せ、髪を掻きむしる。普段ならボサボサになってしまうから絶対にやらない行動であったが、そんなこと気にしていられないくらいにやらかした。

 

「うがああああああ! し、死ぬう〜……これじゃただの痴女みたいな……」

「……いや、諦める前に訂正しなよ……」

 

 側から見ていた甜花が思わずツッコミを入れた時だ。ハッとして甘奈は天井を見上げる。

 

「ハッ……い、今の天の声……まさか、天花ちゃん⁉︎」

 

 どんな勘違いをしているのだろうか、この妹は。と、扉の向こうの甜花は思った。おそらく、追い詰められてポンコツ化しているのだろう。

 ここは、いつも助けてもらっている姉として、今度は自分が力になる番だ。

 

「にへへ、天花ちゃんです。アマツハナと読んでアストレイじゃないよ」

「ど、どうしよう、天花ちゃん! 甘奈、下着姿の写真を……!」

「今ならまだ、間に合う……! 訂正すれば、回避できる……!」

「! そ、そうだよね! よし、すぐに……!」

 

 と思って画面を見ると、引き続きメッセージが届いていた。

 

『Tシャツめくってくれても良いよ』

 

 さらにカアッと頬が熱くなる。この男、少しくらいそういうえっちな部分を隠そうとか思わないのか。

 

『めくらないよ!』

『えっち!』

『デビ太郎を見てよ!』

 

 思わず連続で送ってしまう。が、すぐに向こうも連続で返してきた。

 

『いやえっちなのはそっちだろ』

『そんなカッコの写真来たら、そりゃお前に目が行くって』

 

「……っ?」

 

 なんだろう、一瞬だけ嬉しかった。後半の言葉の響きが、ほんの少しだけ。まぁ比較対象はぬいぐるみなのだが。

 ちょっとだけ頬を赤らめていると、また向こうからメッセージが送られる。

 

『や、今のは別にお前に視線が釘付けだったとかそう言うんじゃなくて、いくら大崎でもそんな部屋着丸出しの太ももが見えてたらそこ見ちゃうから決してお前を目で追ってる癖があるとかそんなんじゃなくて、例えば隣に同じ格好してる甜花がいたら俺は迷わず甜花を見るから』

 

 ……どこまで言い訳しているのか。ここまで来ると一周回って微笑ましいものがあったが、複雑な面もあった。

 それは……やはり、最後の部分の事だ。なんだか普通に悔しい。甜花の可愛さは色んな人に知ってもらいたいが、彼にだけは自分も……せめて同じ目線で見て欲しいと思ってしまっているから。

 

「……」

 

 それをすぐにこなすには、方法は一つだ。ゴクリと唾を飲み込むと、Tシャツに手を掛け、スマホを手に握る。

 そして、デビ太郎を自分の後ろに置いて、ほぼ同じポーズでもう一度、写真を撮ろうと思った時だった。

 再びその画面にチェインが届いた。

 

『あの……もしかして怒った?』

『嘘嘘。全然、大崎はえっちじゃないから』

『さっきの写真はトーク画面から消しといたから』

『あと、だからデビ太郎の写真もっかい送って』

 

 しばらく返信しなかったのを、別の受け取り方をしたのだろう。なんにしても、助かった。二つ目の「大崎はえっちじゃないから」で、自分が今、何をしようとしていたのか気付く。それと同時に恥ずかしくなるを超えて真っ青になった。

 文でもある通り、トークルームから写真は消えている。

 

「……はぁ」

 

 そうだ、元々甜花とはスタートラインが違う。それに、一緒にいる時間も違うのだし、彼の中の好感度に差があるのは仕方ない。焦って暴走するのは後悔しか残らない。よく甜花もガチャで爆死してるだろ、と頭の中で言い聞かせる。

 落ち着かせると、甘奈はまず返信をする。とりあえず、横にどかしたデビ太郎を膝の上に乗せ、モチモチと触りながら、前後のやり取りに食い違いがないように文を考える。

 

『うむ。よろしい』

 

 少し上からなのが気が引けたが、まぁ今は写真優先だ。デビ太郎をベッドの上に置き、写真を撮る。せっかくなら、何処に飾るか教えておきたいものだから。

 早速、写真を送信。ベッドの枕元に飾ったものだ。

 

『抱き枕に使う予定だよ』

 

 枕にしようと思っていたが、少し分厚くて大き過ぎる。すると、向こうからまたメッセージが届く。

 

『大崎は映ってないの?』

 

「……え?」

 

『欲しいの?』

 

 反射的に聞いてしまった。そんなことを聞けば、彼が意地を張るのは目に見えていることなのに。

 

『別欲しくないし。ただまぁ人間が映ってない写真とか送られても困るし、かと言ってそれ大崎に取ってやったものだから甜花が映ってるのもなんか違うし、だからまぁ別にどうしても欲しいとかじゃなくて、誰もいないくらいならいてくれた方が良いなって思って』

『いや、気の迷いだわ何でもない』

 

「そこは頑張ってよ!」

 

 そこまで言ってよく撤退する気になったものだ。もう本当に、この人何なんだろう。

 こちらから折れてあげることにした……が、ただ折れるだけはゴメンだ。こちらにも、何か+αが欲しい。

 

「っ……よ、よしっ……」

 

 決心すると、意を決して文を入力した。

 

『じゃあ、ヒデちゃんの写真も欲しい』

 

 入力し終えた所で、指が止まる。……これは、どうする? やはり、やめた方が良いか? 焦ってこんなことを言えば、向こうは敬遠してしまうかもしれない。言い方は悪いが、好きでもない相手からの執拗なアプローチは「気持ちは嬉しいけど、普通に迷惑」というカテゴリーなのだ。ソースは佐々木。

 ……けど、あのバカタレに対しては、果たして通常通りの攻略で行けるのかは疑問だ。やはり、ここは突撃した方が良い。

 

「っ〜〜〜!」

 

 勇気を振り絞って、いざっ……と思った時だ。また追加でメールが来た。

 

『ホントにやっぱ良いや。甜花にもらったから』

 

「……は?」

 

 思わず声を漏らし、ふと部屋の扉の方を見る。隙間から、フード付きのブランケットを被った甜花がスマホを構えていた。

 

「っ、て、甜花ちゃん!」

「ひぃん……ば、バレた……!」

「確信犯か己はー!」

 

 慌てて追いかける甘奈と、逃げる甜花。しかし、何処へ逃げようと言うのか。ここは二人の家なのに。

 リビングに到着してすぐに追いつき、甜花の脇の下に指を差し込んだ。

 

「捕まえた!」

「ひゃわっ……く、くすぐったい……!」

「もー怒ったからね、甜花ちゃん! どんな写真送ったの⁉︎」

「み、見せるっ! 見せるからっ、ひっ……ひゃ、ひゃめてっ……なーちゃんっ……!」

「やだー!」

 

 しばらくくすぐっていると、甜花の手元からスマホが落ちたので、拾い上げる。画面はまだ落ちていなかったので、そのまま送信画面を見ると、そこに映っていた甘奈は、膝の上にデビ太郎のクッションを置き、スマホの画面を見ながら頬を赤らめている絵だった。背中を向けているが、しっかりと顔も映っている。パンツは映っていない。

 

「〜〜〜っ、て、甜花ちゃ〜ん……⁉︎」

「だ、だって……ヒデくんが、A○EXパック10回分、奢ってくれるって言うから……!」

「なんでそういうのに釣られるのッ⁉︎」

 

 信じられない、とばかりに言う甘奈は、自分のスマホを取り出し、すぐに文句を言う。

 

『ズルい!』

『しかも、結局まだズボン履いてない奴だよ!』

『消して!』

 

 すぐさま抗議するが、返事がない。というか、既読さえ付かない。

 

「こ、この男〜!」

 

 慌てて返信しようとした直後だった。甜花の方のスマホにメッセージが届いた。

 

『サンキュー。これでようやく甘奈の絵が描ける』

 

「……」

 

 ……自分の絵を描こうとしていたようだ。それなら、まぁ、許してあげないことも、ない……。

 そう思うことにすると、とりあえず甘奈のスマホからメッセージを送った。

 

『可愛く描いてね?』

 

 その後、彼からメッセージが来ることはなかったが、おそらくスマホの向こうで悶えていると思うと、甘奈は枕を高くして眠ることができた。

 

 




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