大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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「ここすき」の所を見たらとんでもない数になっていました。投票してくれた方々、ありがとうございます。


二股してるみたいだ。

 入院中というのは、あまりに退屈だ。身体も好きに動かせないし、飯もお腹空いた所で時間にならないと食えない。

 基本的にはベッドの上。スマホゲーをやっていても今はそこまでガチ勢では無いため、すぐに飽きてしまう。スマホゲーをやり込むコツは、まず「やろう」と思う気持ちだからね。

 そんな退屈な入院生活だけど、たった二つだけ暇じゃない時間がある。一つは、大崎姉妹がお見舞いに来てくれる時間。そしてもう一つ、それは……。

 

「小宮さーん、足の包帯取り替えますねー?」

「はーい」

 

 ナースさんに、お世話してもらう時間だ。いや、運が良かったよ。俺の面倒を見てくれるナースさんは超絶美人さん。胸は普通だけどお尻がエロい最高のお姉さんだ。

 

「新島さん、彼氏いますか⁉︎」

「ふふ、いません」

「マジすか! 俺も彼氏いないんですよ!」

「いたら驚きます」

「あ、そ、そっか。彼女か。いやあ、ついうっかり変な性癖開示するとこでしたよ。あっはっはっはっ」

「はいはい。良いから足動かさないで下さい」

 

 は、ははは……少しキレ気味のボイスだったわ……。相変わらず、女の人との仲良くなれない……。仲良くなる方法がわからない……。せめて病室に入ってくるなり泣いててくれれば……いや、それはそれで死にたくなるな……。

 

「というか、小宮さんにはここの所、毎日お見舞いに来てくださる双子の女の子が二人、いるでしょう?」

「あいつらが俺の彼女になる、なんてことありませんよ。片方はほとんどペットだし、もう片方は……まぁ、嫌われてはないんでしょうけど、好かれてもないですし」

「あら、そうなんですか? 遠目から見てるととても仲良さそうに見えますけど」

「や、まぁ仲は良いんですけどね。なんつーのかな……親友? マブダチ? みたいな立ち位置です」

「ふふ、私の経験で良ければ教えて差し上げましょうか?」

 

 ? 何をだ? 

 

「男女間の友情は、いつか成立しなくなるものですよ?」

「え?」

「どちらかに、彼氏か彼女が出来ない限りは」

「……」

 

 えっと……どういう事だ? それはつまり……。

 

「こんにちは……!」

「お姉さんは俺の彼女になりたいとっ⁉︎」

「え、なんでそうなるの」

「……は?」

 

 直後、ガララッと扉が開いたと思ったら、大崎の視線がキュッと鋭くなる。隣にいる甜花が「ひぃん……」と泣きそうな声を漏らすほどには鋭い。

 

「ふーん……ナルホド。そういう感じなんだ。ふーん、へー……」

「あ、あの……違いますよ? 私は別に……」

「あ、大崎。なんで怒ってんの?」

「甜花ちゃん、ナースセンター行こう。患者に色目使ってるナースがいるって」

「待って待って! それは私がヤバい! 使ってない、使ってないからやめてって!」

「馬鹿野郎、この方は色目なんて使わなくても十分、色っぽいんだぞ」

「……ふーん」

「馬鹿野郎はお前だこの野郎! 頼むから黙ってろ!」

 

 え、今なんかすごい口が曲がってたような……もしかして元ヤン? いや、元ヤンが嫌いとかじゃないんだけど……うん、なんかこれから変に口説こうとするのはやめよう。いつか殴られるかも。

 それより、大崎が来てくれたのなら、とりあえず話したい事はたくさんある。

 

「てか、大崎。来るの遅えよ。朝からずーっと待ってたんだぞ」

「朝から来れるわけないでしょ! ……でも、待っててくれたんだ」

「入院生活暇すぎて、お前と甜花が来ないとつまんねーのよ。あ、でもたまにチェインしてくれるからまるっきり暇なわけじゃないけど」

「ふ、ふーん……甘奈達がいないと暇なんだ。……そ、そっか……」

「あ、いつもお見舞いに何か買ってきてもらってるから、今日は俺が用意しといたよ。売店のシュークリーム。二人分あるから食べろよ」

「……し、仕方ないなぁ……」

 

 あ、嬉しそうな顔になった。そんなにシュークリーム嬉しかったのか? 

 そんな中、いつのまにか包帯を巻き終えたナースさんが耳元で囁いた。

 

「あなた、いつか刺されますよ?」

「え、な、なんで……?」

「……刺された時に考えなさい」

「何のための忠告⁉︎」

「では、お大事に」

 

 しかし、それ以上は何も言う事なく、ナースさんは立ち去ってしまった。もしかして……あの人、暗殺者か何かなのか? 俺は重要な機密でも知らぬ間に握ってしまったのか? うん、絶対違う。

 少し冷や汗をかいている間に、大崎姉妹がベッドの隣に椅子を置く。

 

「なんの話してたの?」

「俺、いつか刺されるらしい」

「ああ……かもね?」

「なんでだよだから!」

 

 俺のツッコミを無視して、大崎は鞄からノートを取り出した。

 

「はい。じゃあ今日の授業、始めるよ」

「なぁ……別に俺、そこまでしてくれなくても……」

「ダーメっ。ただでさえ勉強が苦手なのに、甜花ちゃんが取ってくれたノートを写しておしまいじゃ何もならないでしょ?」

「そーだそーだ……!」

 

 くっ、甜花のやろう、ここぞとばかりに煽ってきやがって……! 

 結局、中間でも大崎のお世話になってしまった俺達は、二人平等に地獄を見た。特に、授業中に「見ないで描けるかな」と思って描いた大崎と甜花が一緒のベッドで寝ている寝顔の似顔絵を見られ、顔を真っ赤にして怒られ、終いには没収されてしまったのは恥ずかしい経験だ。

 とにかく、その地獄を見ている者同士で、さらに俺と甜花は「どっちの方が大崎に怒られるか」で足の引っ張り合いをしているのだ。どうしようもないね、オタクという生き物は。

 

「まずは、ノート書き写して。で、甘奈が『ここはどういう意味か』を説明するから」

「ええ……てか、なんでお前が甜花のノート持ってるの?」

「ここに来るまでの間、どう教えたら良いか予習してたから」

「……」

 

 ……そこまでしてくれると、俺も嫌がってばかりいないでしっかりやらないといけない。てか、なんでそこまでしてくれるんだろうな……。もしかして、俺のこと好きなの? ……いや、その妄想はやめよう。普通に気持ち悪い。

 となると……あ、もしかして誕プレをお望みか? さりげなく甜花の誕生日を教えてきた、ってことは自分の誕生日も教えることになるわけだしな。なら、少し良い奴買っていってやるか。どんなのが良いかな……。

 なんて考えながらノートを写し終えると、大崎の授業が始まる。残念ながら、例の相談がある為、練習問題を解くような時間はない。

 けど、代わりに大崎のとてもわかりやすい教え方は、すぐに頭の中に吸収された。こりゃ、二人が帰った後も復習だな。

 しばらく経って、ふと甜花が立ち上がる。

 

「そろそろ、外でレイドあるから……甜花、取ってくる……!」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

 甜花は退屈しちまってただろうな。あの手の人種はスマホ一台あれば、暇つぶしは出来るとはいえ、もう少し勉強以外のこともできると良い気がする。

 甜花が部屋から出ていくと、大崎がコホンと咳払いする。

 

「……で、どうするの?」

「誕生日か?」

「うん。部屋の準備を甘奈がすれば良いんだよね?」

「ああ、料理は任せろ」

 

 適材適所、という言葉はあるが、まぁ実際の料理の腕は、俺と大崎の間に、大差はない。バリエーションは少し俺の方が多かってくらい。

 じゃあ何故、大崎が部屋、俺が料理にしたのか? 単純だ。甜花も逆サプライズを企んでいるからだ。お互いの意思を尊重する方向でいくことにしてしまった以上、まず大崎と甜花の仕事を同じにしてはいけない。サプライズじゃなくなる。

 その上で、昨日の夜、電話で甜花が「料理を作りたい……!」と可愛らしく宣言していたので、これまたそうする事にした。

 一見、逆の方に見えるかもしれないが、そんな事はない。むしろ、大崎に料理を任せるとサクッと終わらせてしまう。そうなると、部屋に来ちゃうでしょ? それに、甜花に飾り付け任せると尚更、散らかりそうだし、それなら料理で甜花に俺がついていた方が良い。勿論、甜花には「俺が部屋の飾り付けをやる」と言うから、ずっとではないが。

 

「ところでさ、ヒデちゃん」

「何?」

「ヒデちゃんの誕生日はいつなの?」

「5月」

「終わってるじゃん!」

「まぁな」

 

 あの時はお互いギスギスしてたからな。誕生日なんてクソほどの興味もなかった。

 

「別に気にしなくて良いよ。俺、誕生日は家族にしか祝ってもらったことないけど、気にしなくて良い。今年こそとか思ってたけど、全然皆目まんじりたりとも気にしなくて良い」

「気にさせる気、満々じゃん!」

 

 冗談だよ。今年は仕方ないしね。……あれ、いや待てよ? 

 

「……あ、家族だけじゃないや。今年一回だけ祝ってもらえたっけ……」

「え、そ、そうなの? 誰に?」

「誰でも良いでしょ」

「……秘密なの?」

「いや別にそういうんじゃないけど」

 

 ちょっと説明しづらい人だから。雑貨屋の女の人って自分とどういう立ち位置なのか分からないし。

 しかし、誤魔化したのが気に食わないのか、大崎はムスっと頬を膨らませる。

 

「っ、な、なんだよ?」

「どういう関係なのっ」

「え、べ、別に普通に近所のお姉さんみたいなもんだから……」

「年上の異性なんだ」

「や、ホント1つ2つとかじゃなくて、5〜6個上の人だから……」

「つまり、それくらいの女のお姉さんが恋愛対象なんだ、ヒデちゃんは」

「なんでだよ。大人の女の人は確かに好きだが、別に恋愛対象ってわけじゃ……」

「さっきナースさんにデレデレしてた癖に」

「で、デレデレなんてしてねーよ!」

 

 な、何なんだよ急に……? なんか急に怒りっぽくなりやがって……。

 なんて少し狼狽えている間に、大崎は布団の上に置いてある俺の手を握り、グイッと自分の方へ引き込む。少し体勢が崩れるが、そんな事よりも胸に腕が当たっていることの方が気になってしまう。

 

「っ、な、なんだよ……?」

「そんなに……年上が、好き?」

「え、いやだから好きとかそういうんじゃ……」

 

 やばいやばいやばいやばい、柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい、可愛い可愛い可愛可愛……じゃなくて! クソッ、文化祭終わった後あたりから、やたらとこういう揶揄い方して来やがって! 

 そっちがそのつもりなら……! 

 

「な、なんだ大崎。もしかして、嫉妬してんのか?」

「えっ……?」

「いやー、モテちゃうなー俺。はっはっはっ」

「……そ、そうだよ……って、言ったら……どう、するの……?」

「はっはっはっはっえっ?」

 

 ……え、今なんて……? と、聞こうとした直後だった。顔を真っ赤にした大崎がハッとした表情になり、俺から離れて肩をバシバシ叩いて来た。

 

「な、なーんちゃってね! なーんちゃってね⁉︎ そ、そそそそんなわけ無いじゃん!」

「っ、だ、だよな! びっくりしたわー! ナイス演技だったわー! 女優とか向いてんじゃね?」

「ホントー⁉︎ 芸能界とかー⁉︎ チャレンジしてみようかなーなんて……あはははっ、ははっ……」

「あははははっ」

「ははっ、はぁ……」

「……」

 

 ……何、この空気……。まるで告白予行演習した直後のようだ……。あの後、よくちょっとだけ寄り道して帰れたな……。

 そうこうしているうちに、甜花が戻ってきて、さらに俺と大崎は背筋を伸ばして誤魔化しの姿勢に入る。

 

「あ、甘奈トイレ……!」

「えっ、な、なーちゃんっ……?」

 

 逃げるように出て行った大崎。うん、まぁ少し助かる。このまま二人で冷静に授業なんて受けられそうになかったし。

 そして、それは甜花にとっても良いタイミングだった。

 

「そ、それで……ヒデくん……!」

「何?」

「お誕生日の日、作る料理なんだけど……」

「あ、ああ。何が良い?」

「北京ダック!」

「練習の時に使う食材がいくら掛かるかも考えような。大崎に買うプレゼントの金も無くなるぞ」

「ひぃん……そ、そうだった……」

「順当にケーキにしとけ。俺が教えるんだから、アレンジ加えなきゃどうとでもなるよ」

「よ、よろしくお願いしましゅ! ヒデくん先生!」

「任されよ」

 

 ……バイトしてえな。なんにしても、金が足りなさすぎる。俺からも二人に何か買ってやりたいし。

 

「……」

 

 無理だろ……。桑山さんのところでなるべく安い奴……や、でも値段を気にして買ったものを喜んでもらえるか分からんし……いや、少なくとも大崎にはかなり世話になってるから良いもんあげたいし……。

 

「……」

 

 退院するまでの間、ずっと悩みは尽きなかった。

 

 

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