さて、その日の夜。一先ず甜花とゲームをする。今日は呑気にカジュアルのデュオである。いつもランクなんてやってると殺伐とするからね。何より、大崎に邪魔をされると困る。
そんなわけで、のんびりと遊べるカジュアルマッチである。
「そういや、甜花。明日は何が食いたい?」
『明日も……作ってきて、くれるの……?』
「もちろん。料理の練習だし、今日は甘奈に勝てなかったけど、負けたくないし」
『……す、すごいね……』
おっと、少し引いてる? ていうか、あまり「君のために作ってるんだ!」感は出さないようにしないと。
「か、勘違いしないでよねっ! 甜花のために作ってるんじゃないんだからねっ! 自分のためなんだからねっ!」
『あ……ツンデレ……? ……気持ち悪い』
「え、き、気持ち悪いって言った?」
傷つくよこれでも?
俺の問いを無視して、甜花は本来、聞いていた方の質問に答えた。
『甜花……じゃあ、生姜焼きとか……!』
「了解。じゃあ、材料あったら作っていくね」
『うん……! あ、敵きた。撃って良い? クレーバー、使いたい……!』
「どうぞ」
よし、おk。そのまま、二人で今日の所はそのまま呑気に戦った。
×××
翌日、また昼休み。大崎が早くも現れ、食事の時間となった。やはりというかなんというか、大崎は秒でこちらに到着した。
「甜花ちゃーん! お昼にしよー!」
「う、うん……! なーちゃん……!」
「毎回毎回それ言わないと気が済まないの? 声デカいわ」
「は? うるさいんですけど。元気よく挨拶するくらい良いじゃん」
挨拶を交わしながら、大崎は近くの席に座る。ホント、その席の子が部活仲間と食いに行ってなかったらどうするつもりなのあなた?
そのまま大崎はお弁当箱を用意したので、俺も弁当箱を取り出した。
昨日と同じように来るか? と思ったが、今度は大崎が先手を打つ。どうやら、叩き潰すつもりのようだ。
「はい、甜花ちゃん。生姜焼きだよ? 大葉と大根おろしをトッピングした、甜花ちゃんの好きな奴」
「にへへ……あ、ありがとう……」
「甜花ちゃん、前に言ってたもんね。この二つがないと生姜焼きじゃないって」
「あれ……そ、そうだっけ……?」
嘘エピをぶち込んでまで潰しに来たか……。こいつホント性格悪いのな。
「さ、食べて?」
「う、うん……小宮くん、ごめんね……。今日は、先になーちゃんの、もらうね……?」
「どうぞ」
はっ、仕方ないさ。Hungry spiceはくれてやる。
そのまま甜花は大崎の作った生姜焼きを食べる。
「にへへ……おいひい……」
「ホント? ほら、キャベツもちゃんと入ってるから、味を変えたかったら豚肉で巻いて食べてみて?」
「うん……!」
フォークを使い、上手いこと器用にキャベツを肉で巻いた甘奈が、甜花の口元に運ぶ。学校の教室で、何食わぬ顔で「あーん」をやってのける勇気を讃えたいまである。
「どう?」
「おいしい……! なーちゃん、料理上手……!」
「えへへ、甜花ちゃんのために頑張ったからね……!」
言いながら、大崎は俺を見てほくそ笑んだ。その後出しジャンケンで勝利した戦にドヤ顔で返す神経は中々のものだ。
だが、まぁ想定内だ。ガッツリと甜花と俺の会話を聞いてるだろうって踏んでた。
だからこそ思う。後出しジャンケンに勝つには、さらにその後出しジャンケンをすれば良いと!
「すまん、甜花」
「? 何が……?」
「むっ……?」
「実は、うちの豚肉が切らしてて、生姜焼きは作れなかったんだ」
「そ、そうなんだ……残念……」
しょぼんと肩を落とす甜花。その横で、大崎は警戒して俺の弁当箱を見ている。そうだ、それで良い。警戒しろ。人は正体不明なものこそ恐ろしく感じる生き物だ。
「だから代わりに、生姜焼きの付け合わせとして好まれる、レンコンの柚子胡椒炒めを持って来た。甘奈の生姜焼きと一緒に食べてくれ」
「ーっ……⁉︎」
「わっ……い、良い香り……美味しそう……!」
「甜花が好きっぽい柚子風味だからね」
大崎はガビーン、と言わんばかりに顎をあんぐりと開けた。はっ、バカめ。貴様の行動など筒抜けだ。肉を切らせて骨を断つ! 要は甜花を喜ばせる、という点に重きをおけば、同じ品で競うことに意味など無いのだよ!
「すごい……レンコンのサクサク感と、柚子胡椒の風味がバッチリ……! これと……生姜焼きを交互に食べれば、いくらでも入っちゃいそう……!」
「だろ? いやー良かったわ」
「ぐ、ぐぬぬっ……!」
悔しそうに俺の作った炒め物を睨む大崎。フッ、その顔が見たかった。そのためにここまで頑張ったまである。
思わずニヤニヤしながら睨み返していると、そんな俺と大崎を見て、甜花はにこりと微笑んだ。
甜花の笑みに気付かないはずがない俺と大崎は、敏感に察知して尋ねる。
「どうした?」
「……なんで笑ってるの?」
「ふふ……いや、なーちゃんと小宮くん……その、仲良しだなって……」
「「……は?」」
いやいや、言って良いことと悪いことがあるからな? こいつと仲良くするくらいなら、俺はバナーの回収時間が切れる前に即抜けする奴と仲良くするわ。
「甜花? いつからそんな下品な言葉を覚えたの?」
「そ、そうだよ甜花ちゃん! どの辺にそう思う要素があったの?」
「だって……二人とも、甜花のために……美味しく生姜焼きを、食べさせてくれたから……」
「「……」」
……確かに。結果的に……いや、元は俺も大崎も甜花のために頑張ってたっけ……。
「だから……その、甜花……嬉しい……!」
言われて、俺と大崎は目を合わせる。そのままお互いに真逆の方を向いた。
確かに……そう言われると、まぁその通りだ。俺も大崎も甜花のために頑張ってたし、美味いものを食わせたい、ていう気持ちは同じだ。
……それに、俺も大崎も、甜花を困らせたり、気まずい思いをさせたいとも思わない。
そう考えると……俺と大崎は争う理由がないのか……?
「……」
「……」
「「……ふんっ」」
「あ、あれれ……?」
やっぱダメだ。こいつと俺の出会いはあまりにも最悪過ぎた。争う理由? あるに決まってる。俺と甜花が友達になることも許さない奴とは一生、相容れないね。
ここは、甜花が察する前に話を逸らすのがベストだろう。
「それより、甜花。さっさと飯食ってゲームしようぜ。今日はSwi○ch持ってきたから」
「それより、甜花ちゃん。ご飯食べたら、二人で反対ごっこしよー?」
見事にハモリ、俺と大崎はお互いに睨み合う。
「は? 反対ごっこってなんだよ。てか、お前は家でも甜花と遊べるだろ。早く教室に戻れよ」
「は? あんたの方こそ家で私の甜花ちゃん独占してるじゃん。学校でくらい甘奈に譲ってくれない?」
「ふざけんな。面と向かってやるゲームとマイク越しのゲームじゃやっぱ違うから。そんなことも分からんがか」
「それどこ弁? 地方の方言を急に使う人って面白くない人の象徴だよね」
「今のがどこ弁なのかも分からないあたり、学力の低さが窺えるな」
「ふ、二人とも……お、落ち着いて……」
あ、ヤバい。なんか泣きそう……。甜花を泣かせるのだけは絶対にダメだ!
「「大丈夫、甜花(ちゃん)! 喧嘩なんてしてないから!」」
チッ……甜花をビビらせないようにする、というのも同じ意見か。恐ろしいほどの速さで俺と大崎が肩を組むと、甜花はホッと胸を撫で下ろした。
「そ、そっか……良かった……にへへっ」
あ、今ので誤魔化せたんだ。この子も大概、ヌケてんな。
肩を組んだまま、大崎が小声で俺に囁いた。
「……とにかく、甜花ちゃんを泣かせるのだけはやめよう? 表面上は、甘奈もあなたも仲良しで。良い?」
「……同意しておこう。甜花だけは絶対に泣かせないってことで。決定」
そんな密約が、二人の間で交わされた。そう言うと、一度、俺と大崎は離れる。あんまりくっ付いてると、その……なに? 例え相手が大崎でも女の子だし、俺としては、うん。困る。
すると、何も知らない甜花が、ふと思い出したように言った。
「そ、そうだ……小宮くん……!」
「何?」
「今日の放課後、暇……?」
直後、俺はニヤリとほくそ笑み、大崎は手に持っている割り箸をへし折ったが、甜花はそのまま続けた。
「あの……入学式の日に、くれたデビ太郎なんだけど……」
「ああ、あれ? ゲーセン産だし、別に返さなくて良いよ」
「あ、ううん……。甜花……それは、返す気ない……」
いやそれはそれでどうなんですかね。
「甜花ちゃん、そんなもの返しちゃった方が良いよ! ばっちいよ?」
「テメェどういう意味だコラ」
なんなのこの姉妹。失礼さを売りにしてんの?
「それで……また新しいぬいぐるみが出たから、取りに行きたくて……」
「ああ。それで? ……あ、も、もしかして……一緒に?」
「う、うん……」
「甜花ちゃん⁉︎」
「も、もちろん、なーちゃんも……」
……なんだろう、少し嬉しい。前は気持ちが良いほど清々しく振られたからかな。
「俺は暇だし、全然行きたい!」
「や、やった……じゃあ、約束……」
うお、その小指は指からですか? 隣の席なんだから、そんな儀式するまでもない、なんて無粋なことは言わない。元々、うちにいるJSの妹よりも幼いJKみたいなものだし、なんの問題もない。
俺も小指を差し出し、結ぼうとした時だ。
「あ、ま、待ったー! 指切りなら甘奈がする、甘奈がするから!」
当然のように妹が割り込んで来た。当然「仲良くなった」と思い込んでいる甜花は不思議そうに小首を傾げる。
「……どうしたの?」
「甘奈と甜花ちゃんでしようよ! ほら、同じクラスなら指切りなんてするまでもないでしょ? 学校にいる間はずっと一緒なんだし!」
「あ……た、たしかに……!」
チッ、余計な事を。予測していたとは言え、やっぱ邪魔されると腹立つな……。
そんな中、甜花はやはり不思議そうな顔で返した。
「でも……甜花となーちゃんの間でも、必要ないような……」
「あ、そ、そうだね……」
それもその通りだ。いつも一緒にいるんだし、なんなら指切りくらいいつだって出来ることだ。正直、俺も女の子と指切りとか、正直かなり緊張するし、少しホッとしてる。
とにかく、大崎の目論見通り指切りはこのままお開きかな……? って、大崎少し寂しそうだな……。お前、妹と指切りする機会を逃しただけでどんだけしょぼくれてんのさ……。
それを察したのか、甜花は何かを思いついたのか、すぐに声を上げた。
「あ……じ、じゃあ……なーちゃんと、小宮くんが指切りするのは……?」
「「えっ……」」
な、何故そうなる……?
大崎も同じように、困ったような表情で冷や汗を流す。
「いや、それは別に……ねぇ?」
「うん。そんなのする必要は……」
「え……ふ、二人とも……やっぱり、仲悪いの……?」
「「そんな事ない。超仲良し」」
急に涙目になられ、俺と大崎は仕方なく顔を見合わせ、頷き合った。ことこうなった以上、やるしかない。
心の中でため息をつきながら、二人で小指を差し出し、巻きつけた。……直後、やたらとギリッと指から軋む音がする。大崎が、小指の爪を強引に皮膚に突き立ててきた。
「っ……!」
……ヤロウ、ただでは仲良しを演じないってことか? 上等だよクソボケ。
今度は、俺が強引に小指で小指の関節を逆折りする向きに力を入れる。
「ーっ……!」
「……二人とも?」
「「さ、さぁ、指切りしよっか!」」
痛い、泣くほど痛いが、やるしかない。そのまま二人で苦笑いを浮かべて言った。
「「ゆっびきっりゲンマン、嘘ついたら針千本飲ーます! ゆっび切った!」」
ほんとに切ったわ! 少し血が出てる!
手が離れた直後、俺も大崎もすぐに背側に手を回してプラプラと軽く振る。これで、ひとまず甜花の機嫌は保たれた……と思ってチラ見したが、甜花は微妙にむくれている。
「て、甜花ちゃん……やったよ?」
「どうかしたか?」
まさか、不仲がバレた……? と思った直後、甜花は両手の小指を大崎と俺に向けてきた。
「……甜花だけ、仲間外れ……やっぱり、したい……!」
「あ、ああ。そういうこと……」
「勿論、良いよ」
言いながら、今度は三人で指切りをした。高校生三人が、円になって、教室の端っこで。
フッ……なんつーか、友達付き合いってのも、割と疲れるもんだな……。