大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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思い掛けないダブルワーク。

 さて、そうこうしているうちにクリスマス当日となった。試験をなんとか終えた俺達は、そのままの足で大崎家に向かった……のだが、とりあえず昼飯は外で食うことになり、ファミレスに立ち寄ってからきた。食ったもの? もちろん安いパスタ。ドリンクバーも控えた。

 さて、ようやく家に到着した。

 

「えーっと、クリスマス会は大崎の部屋で良いんだよな?」

「うん!」

「悪い、その前に俺トイレ借りるわ」

「どうぞ」

 

 まぁ、尿意も便意も無いわけだが。お互いの役割を話し合う前に俺が消えないと、あの二人は各々の立ち位置に立たないだろう。だって、部屋の飾り付けをする大崎には、俺は料理すると言ってあるし、逆に料理をする甜花には、部屋の飾り付けをすると言ってある。

 お互い、サプライズのつもりなので、二人きりになれば離れたがるはずだ。案の定、トイレから出ると二人とも各々で暮らしている。

 とりあえず、持ってきた荷物はリビングに置いといて、まずは近い甜花から会いにいくか。

 

「おう、甜花。やってる?」

「う、うん……! やってる、よ……?」

 

 まだ仕込みの段階。チョコレートケーキにしてみたが、まぁ割とたくさん練習したし、ちょいちょい俺が見に行けばなんとかなる。

 

「困ったらスマホで呼べよ? 俺はいつでも手伝いに来るからな?」

「あ、う、うん……! なーちゃんは?」

「今、甜花の部屋を片付けてるよ」

 

 そういう事にしておかないと、家にいるけど自分の部屋にもリビングにもいないこの現状はどうしても不自然になってしまう。

 

「にへへ……や、やった……! 一石、二鳥……!」

「難しい言葉知ってるんだな。すごいな」

「こ、これは……一般常識……! 甜花のこと、バカにしすぎ……!」

 

 ムクれながら俺の肩をポコポコ叩く甜花。可愛い。

 

「冗談だから、集中しなさい。慣れてきた自称中級者ほど痛い目見るんだよ、何事も」

「むぅ……わ、分かった……!」

 

 それだけ言って、とりあえずキッチンを後にした。一応、甜花には部屋の飾り付けをすると伝えてあるから、キッチンにいつまでもいるわけにはいかない。

 ヒョコヒョコと歩きながら、大崎の部屋に向かった。扉を開けると、大崎は手早く飾り付けを進めていた。割と壮大な計画にしておいた為、時間掛かるはずだ。

 

「大崎、どうだ?」

「あ、うん。順調だよ。ケーキは?」

「始まる前に様子だけ見にきた」

 

 適当に返しながら、部屋の中を見回す。本当に手際良いなこいつ、もうツリーの飾り付けが終わってる。……その飾りが銃だったりゲームのキャラだったりしてるが。

 ……すげぇな、大崎。勉強も出来て家事も出来て面倒見も良くて、この手の飾り付けの仕事も早くて……ほとんど完璧超人じゃん。

 このままだと、大崎の方が準備早く終わり兼ねない。そうなると、甜花が料理しているところを見られるかもしれない。

 

「あ、そうだ。大崎」

「? 何?」

「この前言ってたR-301のストラップ作ったよ」

「え、見せて見せて⁉︎」

 

 本当は、プレゼントと一緒に渡す予定だったものだ。でも、まぁよくよく考えたら甜花の分のこれは用意出来てないし、少しでも作業を止められるなら今、渡した方が良い。

 すぐに俺の目の前に来た大崎に、ストラップを手渡す。

 

「おお〜……! す、すごい……綺麗……!」

「久々だし、あんま上手くないかもだけど……」

「いや、上手だよ! ……これ本当にプラ板で作ったの?」

「まぁ、一応」

 

 まるで少年のように目を輝かせてストラップを見回す大崎。こいつもホント、素直になったもんだよ。夏休みとかに俺がこれ渡したら、目の前でへし折られそう。

 ……あっ、へし折れると言えばそうだ。

 

「それ、鞄とかに飾らない方が良いよ。ストラップになってはいるけど、銃身クソ脆いから」

「えー、勿体無いなぁ……」

「ストラップは何もつけなきゃいけないわけじゃないよ。俺も前までは銀魂の根付ストラップとかカバンに付けてたけど、刀身折れたりするから家に飾るようにしてる」

「ふーん……」

 

 俺、割と趣味に関しては完璧主義なとこも少しだけあるから、折れたりしたらもうそれ要らなくなっちゃうんだよな。

 

「ちなみにこれスキンは?」

「デフォルトの。基本、黒だから作りやすかったんだ」

 

 レジェンダリースキンとかだと形さえ変わるからやりづらいのよ。

 

「じゃあ……どうしようかな。机の上に飾っちゃうね」

「お好きにしてくれ」

 

 なんて話しているときだ。スマホが震える。画面を見ると、甜花から呼び出しだ。

 

「っと、そろそろケーキ作りに戻るわ」

「あ、うん。おいしいのお願いね?」

「はいはい」

 

 適当な返事をしつつ、俺は一階に戻る。呼び出した、という事は何か問題でもあったか? 

 台所に顔を出すと、甜花が涙目でこっちを見ていた。その足元には、ココアパウダーがぶちまけられている。チョコレートクリームを使っている最中に肘でもぶつけたのだろう。

 

「任せろ。何とかしてやるから、甜花は料理を続けて」

「あ、ありがと……」

 

 まだ足を自由に動かせるわけではないので、掃除機で吸うしかな……いや、埃が舞うな。箒を借りてはじに寄せ、埃が舞わないかな? って距離で掃除機で吸い取った。

 

「……甜花、手伝おうか?」

「だ、だいじょうぶ……! 甜花、一人で頑張る……!」

「や、大崎の方が早く終わっちまったら、それこそ困るでしょ。下に来ちゃうよ?」

「あ、そ、そっか……」

「手伝うのは下処理だけだから。例えば、チョコレートクリームは俺が仕立てるから、生地とかやっちまえよ」

「わ、分かった……!」

 

 ……うん、これで時間短縮。一緒に練習したのが幸いしたな。レシピは頭に入ってる。

 そのままとりあえずクリームだけ完成させ終えると、またスマホが震える。大崎から呼び出しのチェインだった。

 

『ちょっと、上の方届かないから手伝って』

 

 何の話だかわからないが、とりあえず天井か壁の上の方につける飾りだという事は分かった。届かないってそういうことでしょ。

 

「甜花、これチョコクリーム。そろそろ上行くわ」

「あ、う、うん……!」

 

 それだけ話し、再び二階へ。扉を開けると、大崎がキャスター付きの椅子に乗って天井に紙の鎖を貼り付けていた。

 

「あれ、大崎?」

「あ、ごめん。椅子使えば何とかなっちゃった」

「あ、そう」

 

 ……まぁ良いか。でも、その上に乗るって、普通に危なくない? 

 と、思った時だ。案の定、キャスターがグラリと揺れた。あ、やばっ……。

 

「えっ……?」

「あぶねっ……!」

 

 反射的に、身体が動いた。が、忘れてた。俺、松葉杖だった。

 そして、杖の先端が落ちていた紙の上に乗り、ズルリと滑る。お陰で、ヘッドスライディングしてしまった。

 

「あへ?」

 

 そんな呟きと共に、大崎の真下に滑り込む。まぁ、真下に滑り込んだわけだから……当然、真上に大きなお尻が落ちてくるわけで。

 

「げへぇっ⁉︎」

「あいたぁっ……くはないけど、だ、大丈夫⁉︎」

 

 すぐに真下にいたのが俺だと気づいたようで、慌てて上から退いた。でも、大ダメージです……腰と、あと足首にダメージがいかないよう強引に曲げた股関節に……。

 

「い、いでで……お、重かった……あ、いや体重じゃなくて衝撃が」

「今はそんなフォローいらないよ! 立てる?」

「お、おう……」

 

 言われて、とりあえず手を借りて立ち上がり、ベッドの上に座らせてもらった。

 その俺の前で、足の心配をするようにしゃがむ大崎。

 

「だ、大丈夫……?」

「大丈夫だから。……てか、キャスター付きの椅子は危ねえだろ。そういうのは俺やるから」

「ご、ごめん……」

 

 ……いや、まぁそこまで凹まれると困るんだけど……。果穂が俺の作ったシャアザクのツノを折ってマジギレしそうになった時と同じ顔してやがる……。ツノがないシャアザクって、一般兵がシャアのコスプレしてるだけだからね。

 なんとなく、妹と姿を重ねてしまい、思わず手が動いた。

 

「はいはい、気にするな。それより、甜花が来る前に飾り付けしちゃわないと」

「ーっ……」

 

 やってから気づいた。つい、頭を撫でちまっていた。同級生の女の子の頭を。

 慌てて、手を引っ込める。ヤバい……最近は関係も良好になってきたと思ったが……流石に気を抜き過ぎたか……? と、思ってると、隣の大崎が俯いたままながらに、視線だけこちらに向けて呟くように言った。

 

「……も、もう少しだけ……続けて……?」

「え……あ、ざ、座布団役?」

「じゃなくて……その、ナデナデ……」

「……」

 

 ……え、ていうかナデナデって言い方可愛い……じゃねえよクタバレ俺! 

 

「……ほ、ほら……はやく……!」

 

 視線も感じなくなるほど、さらに俯く大崎。っ、な、なんだこの感じ……? まるで、甜花のよう……いや、甜花以上の妹属性を感じさせるこの大崎は一体……? いや、大崎は妹じゃん実際。つまり、このままでも全然、正しいわけで……いやしかし、そしたら甜花は姉という事になってしまう。え? いや甜花は姉じゃないよ。大崎と双子で少し早く生まれた妹だよ。つまり、大崎も甜花も妹なわけで……あれ? なんか何言ってるかわからなくなってきた。

 や、そんな場合じゃなくて、えーっと……あ、頭? 撫でれば良いんだっけ? と、とにかく大丈夫だ。撫でる、撫でる……もう甜花にも果穂にも何度もやって来たこと。今更緊張なんてする事ぁ、ない……はずなのに、手が……頭上に置かれたがらない……! 

 プルプルと震える手が、まるでハンドパワーでも行おうとしているように見えてきた時だ。いつの間にか、大崎が視線を上に向けていた。少し不満そうに。

 

「……いくじなし」

「えっ?」

「んっ……」

「っ……」

 

 ヒヨっていると、大崎から頭を上げて俺の手に触れてきた。思わず、それに乗じて頭を撫でてしまう。……うわ、てか髪サラサラ……それに、普通に頭近いというか……シャンプーの香りがふわっと鼻まで届いて……。

 どうしよう、女の子の髪を梳くの、少しハマってしまいそうな……。そういえば、女の子ってこういう綺麗な髪をさらに纏めたりして、オシャレもするんだよな……。

 

「大崎」

「何?」

「髪結んでも良い?」

「え……?」

 

 ……あ、やばっ。興味本位で言っちゃったけど、普通あり得ないよな。女の子の髪を結ぶ男なんて。

 

「あー、悪い。何でもない」

「良い、よ?」

「え?」

「……だから、髪……お願い……」

「……」

 

 ……良いんだ。じ、じゃあ……えっと、とりあえず……どうしよう。髪を結ぶ知識なんて、ゆるキャンくらいしかないし……。

 ……それで、やってみるか。うん。

 絵や工作、料理なんてやってると、少しずつ俺にも「ものづくり」の感覚が芽生えて来たみたいだ。

 サラサラの髪をグチャグチャにしないように……尚且つ、大崎が綺麗に見えるように……その上で、まんまゆるキャンではなく……たとえば、チャイナ服が似合いそうに二つ作って……よし、出来たっ。

 

「大崎、こっち見て」

「? っ、わっ」

 

 カシャっと音がした後、大崎は顔を背ける。……が、遅い。普通に撮れた。

 

「ち、ちょっと、いきなり撮らないでよ⁉︎ 今、すごいアホっぽい顔してなかった⁉︎」

「はい。これ」

 

 鏡がどこにあるか分からなかったんだよ。スマホを差し出すと、大崎は意外そうに目を丸くした。

 

「わっ……お、おだんご?」

「似合うかなーと思って」

「……」

 

 ……鏡を見せたんだけど、なんかリアクション薄い……? と、思ったのも束の間、鏡に写った大崎の顔は、ほんのりと赤い。

 

「……そ、そっか……似合いそうな髪型に、してくれたんだ……」

「……」

 

 ……そ、そんな喜ぶなよ……。こっちまで恥ずかしくなってくるだろ……。

 ようやく俺の前から退いた大崎は、ポーチから手鏡を取り出し、自身の顔を見る。すると、また再び嬉しそうにはにかんだ。

 

「てか、上手だねーヒデちゃん。経験あるの?」

「や、ないけど……」

「どれだけ手先器用なの……その器用さ、勉強に活かせないの?」

「どんなに強い柔道家がいても、時速140キロを超えるストレートは投げられないだろ。要はそういう事だ」

「いや、全然違うと思うけど……ま、いいや☆ ありがとね」

「ーっ」

 

 あ、ダメだ今の……。まるで目の前に瞬間移動されて、かめはめ波を撃たれたような、そんな感覚。消えちゃう。てか、消えよう。

 ちょうど良い事に、甜花からヘルプのチェインがくる。

 

「っ、そ、そろそろケーキの様子見てくるから!」

「あ、うん。よろしく」

 

 逃げるように部屋から出て行った。クソッ、なんなんだ一体。

 すぐに台所に到着した。そこには、両手を汚したままの甜花が涙目で立っていた。

 

「甜花、どうした?」

「あ、ごめん、ね……? 袖が、下がってきちゃって……」

「あ、ああ。今やるよ」

 

 慌てて甜花の袖を捲る。今、割と長いこと上にいたし、しばらくここで甜花の様子見ててやるか。というか、上にあまり行きたくない。

 

「ほい。他に何かあるか?」

「う、ううん……特にないよっ」

「え、いや何でもやるよ? 何なら俺が作るよ?」

「だ、だいじょうぶ……!」

「何でもいいから役割を振ってくれよ! 他に何かあるだろ?」

「ひぃん……し、しつこい……」

 

 うぐっ……ま、マジかよ……てか、周りに呼ばれない時、俺は逆にどうしたら良いんだ? 

 と、迷っている時だった。たんったんったんっ、と階段を降りる音が聞こえる。

 

「ヒデちゃーん、何度も悪いんだけど……」

 

 っ、やばっ。甜花が作ってるのバレる……⁉︎

 

「甜花、隠れろ」

「え、ど、何処に……⁉︎」

「とりあえずしゃがんでて!」

 

 甜花を座らせながら、腕捲りをして手を洗い、そのまま捏ねる生地に突っ込む。それと同時に、大崎がリビングのカウンター越しに台所を覗き込む。

 

「よ、呼んだか?」

「うん。そういえば、まだ飾り付けしてくれてなかったなって」

「あ、ああ……悪い」

 

 そういや忘れてた……と、思いながら、頬を掻く。こういう何かを誤魔化す場面ってどうにも慣れねえな……。

 

「今、行くから」

「あ、ちょっと待って」

「?」

 

 って、え、な、なんでこっちに来る……? 少し狼狽えつつ、甜花がいた場所を見下ろす。バレるぞこれ、と思ったら、棚の扉を開けて、その後ろに隠れていた。おお、甜花にしては機転がきいてる。

 

「? ど、どうした大崎?」

「ん、手にクリームつけたまま顔触るから」

「え?」

 

 言いながら、大崎は指で俺の頬を拭うと、少し辺りを見回してから、その指をぺろっと舐めた。

 

「「!」」

 

 っ、こ、こいつ……何してんだよ……ホントに。

 

「えへへ、甜花ちゃんには内緒ね?」

 

 ……ごめん、それ無理。

 

「……それクリームじゃなくて生地だから」

「あ……だ、大丈夫だったかな、食べちゃって」

「まぁ少しなら平気だろ、今行くから、先に上行ってて」

「あ、うん!」

 

 とりあえず、手を洗いながら頬を撫でる。何なのあいつ……ちょっ、マジでなんなの……? 

 一人、狼狽えている中、ガタッという音がする。その方向を見ると、少し頬を赤らめた甜花がこっちを見ていた。スマホを構えて。

 

「なーちゃん……だいたん……」

「おい、なんだそのスマホ」

「激写……」

 

 画面を見せてきた。大崎が俺の頬に手を添えている。後頭部しか映っていないのが災いした。キスしてるように見える。

 

「てめっ、ざっけんな消せ⁉︎」

「い、いやだー!」

「こんな時にだけしっかりした拒絶を見せるな!」

「そ、そんなことより……なーちゃん、呼んでたのに……上、良いの? ていうか、なーちゃんと上で何してるの?」

 

 っ、うわやっべ……! そうだった。甜花には隠さないとじゃん……! 

 

「飾り付け、とか言ってたよね……?」

「あー……な、そ、そう。今、上で甜花の部屋を片付けてんの」

「えっ、ほ、ホント⁉︎」

「じゃないと、大崎が時間を持て余しちまうだろ?」

「にへへ……や、やったぁ……! 甜花、年末もお母さんに文句、言われない……!」

 

 ……嘘、とは言いづらいな……。仕方ない。甜花と大崎から呼び出されなかった時は、甜花の部屋を片付けるとするか……。

 

 

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