大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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合戦編
全力でお兄ちゃんを遂行する。


 ポンッ、と、シンプルな音がスマホから響く。チェインの着信音である。去年なら、例え大晦日であってもソシャゲに夢中だったが、今年はそんな事はない。例えスマホ越しでも、イベントの一つ一つを楽しむと心に決めたのだ。

 

『もうすぐ今年も終わりだね』

 

 大崎からだ。グループである以上、おそらく甜花からも来るだろう。

 

『皆さん、戦闘準備はよろしいですか?』

 

 ほら来た。何の準備だよ。

 

『おk』

 

 本当なら初詣の約束もしたかったが、二人とも帰省するらしい。富山だっけ? 良いなぁ。富山に何があるのか知らんけど、なんか羨ましい。

 とりあえず、二人に聞いた。

 

『二人とも初詣行くん?』

『行くよー☆ ヒデちゃんとも一緒にきたかったなー』

『ヒデくんは、行くの?』

『俺は行かない。お前らいないとあんま意味無いし、足もまだ完治してないし』

 

 もうすぐギプス外せるんだけど、早く治すには安静にするしかない。

 怪我の具合を診てもらったついでに、この前のクリスマスの思い出を久々に会った看護婦さんに話したら「あんた安静って言葉の意味知ってる? 死にたいの? あと、それだけの相手がいてよく私に声かけてきたね。ちゃんとどっちでも良いけど大事にしてあげなさいよ」と、とても怒られた。

 すると、向こうから返事がくる。

 

『ひぃん……この男、あざとい……』

『えへへ、ありがとね。ヒデちゃん』

 

 あれ? なんか二つとも返事噛み合ってなくない? てか、あざとくねーよ。

 

『二人は今、何してんの?』

『紅白終わって、今はジ○ニーズのカウントダウン見てるよ』

『甜花は、ゲームしてる』

 

 なるほど。まさに各々の過ごし方って感じか。でもお婆ちゃん家でまったりしてるなら、ゲームはやめような。

 

『紅白ってどんな歌手出んの?』

『R○Dとか、欅○46とか……その年話題だった人達とか、五○ひろしとか福○雅治みたいにずっと出てる人とか色々だよ』

『(誰一人分からなかった事は黙っておこう)』

『言ってるじゃん笑』

 

 ……甜花から返事がないな。多分、ゲームに夢中だ。まぁ別に良いけど。

 すると、大崎から連続してメッセージが飛んでくる。

 

『ヒデちゃんは今、何してるの?』

 

 俺? 俺は見ての通りだ。

 

『見りゃ分かるだろ』

『いや分からないし』

『編み物だよ』

『おかんか! 笑』

『妹がこれから初詣行きたいって言うから、少しでも風邪ひかないようにマフラー編んでるの』

『間に合うわけないでしょ笑』

『合わぬなら、合わせてみせよう、ホトトギス』

『何故秀吉』

 

 なんて話しながら、とりあえず編み物を終えた。マフラーを完成させ、とりあえずそれを机の上に置く。

 

『出来た』

『早くない⁉︎』

『編み始めたのが二時間前だからね』

『あ、なるほど。写真送ってー』

『恥ずかしいから嫌だ』

『いやそんな所で素直になられても……』

 

 だって恥ずかしいもの。ストラップや料理とかならセーフでマフラーはアウト、というのは我ながらよく分からないが、とにかく恥ずかしいんだよ。

 今回のは、赤とオレンジの二本ライン。シンプルだが、太めのマフラーにしたので、最近流行りのタテに折ってから巻くスタイルを想定してみた。

 

「果穂ー」

「何? お兄ちゃん」

「マフラー出来たよ。ちょっと巻いてみて」

「はーい!」

 

 俺の前にちょこんと座る果穂の首周りに、俺はマフラーを通して巻いてみる。まずは縦に折って、その後は横半分の所で折り畳んで、首の後ろに通して……。

 

「ごめん、襟足上げてくれる?」

「あ、うん」

 

 髪を上げた果穂の首の後ろを改めて通し、折り畳んだ隙間に先端を通して……よし、完成っ。

 うん、赤とオレンジの面が見え隠れして、割と思った通りに出来た。

 

「どう⁉︎」

「ん、まぁ……二時間しか無かったから、こんなもんか。次はもう少しカッコ良い奴作ってやるよ」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん! これで十分だよ?」

 

 うぐっ……な、何で素直で良い子なんだ……! 思わず、涙が……! 

 

「お兄ちゃん?」

「何でもないよ。お母さん達に見せておいで」

「うん!」

 

 それだけ言うと、とりあえず俺は両手を軽く振る。ふとスマホを見ると、大崎からまたチェインが来ていた。

 

『今暇?』

 

 ? なんだ? 

 

『どうした?』

『電話しても良い?』

『良いけど何で?』

『声、聞きたいから』

 

 ……なんだよ。いきなり……や、良いけど。一昨日まで毎日ゲームやってて、声なんて何度も聞いてるのに。

 すると、すぐに電話がかかって来た。ちょっ、待って。まだ心の準備が……。

 

「もしもし?」

『あ……ヒデちゃん? 甘奈』

「分かってるよ。……どうした?」

『だから、声聞きたくて。甜花ちゃん、ゲームに夢中で相手してくれないし、お婆ちゃん達はもう寝ちゃってるし』

 

 ああ、まぁお年寄りだもんな。わざわざ遅くまで起きていられないのだろう。例え年末でも。

 ……でも、声が聞きたくて、とか言われちゃうと、やっぱ普通に気恥ずかしいんだけどね……。お前は俺の恋人かって思っちゃう。

 

『……』

「……」

 

 ヤベェ、改めて電話したけど……何話して良いのか分からん……。文面ではあんなに饒舌だったってのに……。

 

「あ、あー……大崎? そういえば、そろそろ今年も終わるけど……来年は同じクラスになれるかな?」

『え? あ、あー……どうだろ?』

「来年は修学旅行だし、同じクラスになれると良いな?」

『う、うん。そうだね』

「……」

『……』

 

 もっと広げろよ、この野郎。

 

『あっ、し、修学旅行と言えば……来年どこに行くか知ってる?』

「エジプト?」

『や、どんなチョイス? 知らないの?』

「知ってる。ハワイだろ?」

『そうそう! 気をつけようね、ハワイって意外と雨が多いから』

「英会話はお前に任せるからな」

『いやそこは一緒に頑張ろうよ……。甜花ちゃんにカッコつける良い機会だよ?』

「や、もうゲーム以外でカッコつけるのは諦めた。そもそも特技が料理、絵、何かの創作の時点でカッコ良くねえ」

『そんな事ないと思うよ?』

 

 え? い、今なんて……? と、いう俺の心の中の疑問に応えるように、大崎は続けて言った。

 

『文化祭最終日、四つのコンロを独占してる時のヒデちゃん、カッコ良かったよ?』

「……」

 

 ……っ、こ、こいつ……クソ、乱されるな。もうこいつがこういう歯が浮くようなセリフをほざくようになって、2〜3ヶ月くらい経ってんだぞ。俺は純情少年かよ。

 

「……お前さ、誰にでもそういう事、言ってんの? もしくは言ってたの?」

『え?』

「や、仲良い奴になら誰にでもそう言うこと言ってたら、いつか刺されるぞ」

『……いや、ヒデちゃんに言われたくないんだけど……』

 

 俺はもうやめたよ。この前も怒られたし。それに、大崎と甜花と果穂と桑山さん以外に、そういうの言う相手いないし。

 

『…………いよ』

「え?」

『……ヒデちゃんにしか、言わないよ……』

「……」

 

 ……え、それどういう意味……。

 

「お兄ちゃあああああああん!」

『な、なーちゃん……? 何してるの?』

「『ぴゃあああああああああ⁉︎』」

 

 思わず俺と大崎の声がハモった。二人して肩をビクビクっと振るわせ、背筋が伸びる。

 振り返ると、果穂がキラキラした目で俺を見ていた。

 

「お兄ちゃん、初詣そろそろ行こう?」

『なーちゃん……お母さん達が、そろそろ初詣行くって……』

「あ、ああ。え、俺も行くの?」

『あ、うん。甜花ちゃん。少し待ってて』

「当たり前だよ! お母さん達も、ヒデが行かないなら行っちゃダメだって言うし」

『所で……ヒデくんと電話?』

「あそう。……しゃあない、少し待ってて」

『っ、う、うん……どうしても、声が聞きたくて……』

 

 それだけ話すと、果穂はひょこひょこと部屋から出ていく。ふぅ、ビックリした……。ただでさえ、果穂の声は耳に響きやすいからな……。まぁ別に良いけど。

 

『あー、ごめん。ヒデちゃん、少し出て来る』

「俺もだわ」

『……じゃあ、良いお年を、だね』

「んっ」

 

 それだけ話して電話を切った。……もう少し、話したかったな……いや、まぁ仕方ないか。

 そのまま、果穂と家を出た。

 

 ×××

 

 もう何度も言った初詣に使う小さな神社。昔から、自宅付近で年越しする際はここにきてる。まぁ俺も中一〜中二の間は来てなかったが。

 隣にいる果穂は、元気に俺が自作したマフラーを巻いて、隣を歩く。

 

「アンドロ軍団、倒すため! 燃える怒りを、うち放て!」

 

 ……キャシャーンはマニアック過ぎるだろ。果穂のヒーロー好きは本当に筋金入りだ。

 

「所でお兄ちゃん、さっきは誰と話してたの?」

「え?」

「なんか、すごく楽しそうだったから」

「あー……」

 

 なんだ。あいつとはなんていう関係? 友達ではあるけど……でも、あいつ他の男には言わないって言ってたことを俺には言うし……それに、その……‥なんだ。あいつとは、友達という言葉で終わらせたくない。

 

「……なんだろうな……。友達以上……」

「恋人未満なの⁉︎」

「じゃなくて」

 

 っ、なんでそこで興味津々になるの。びっくりした……。

 

「恋人では絶対にない関係だけど、友達よりは親しげな関係ってとこじゃね?」

「……つまり?」

「や、だから……まぁ、何だ。つまり仲良い奴だよ」

「良いなぁ、私も会いたいなぁ……!」

「マメ丸なら会ってるぞ」

「そうなの⁉︎ ……うう、マメ丸ぅ……ず、ズルい……!」

 

 ……果穂とあの二人を会わせるのは良くない気がすんな……。何せ、果穂は昔の俺を知っている。仲が良い奴の過去を知りたがるのは、おそらく大崎も同じだろう。

 さて、そうこうしている間に、神社に到着した。思ったより賑わっている。

 

「……なんか、久しぶりだな」

「そうだねー。お兄ちゃん、3年くらい前から一緒に来てくれなくなっちゃったから」

「悪かったよ」

「……だから、今年は嬉しいな。お兄ちゃんと一緒で」

「俺も超嬉しい! その言葉が!」

 

 あー、やっぱ俺の妹かわいいわー。身長、俺と5センチしか変わらないけど、やっぱ好きだわもう。

 内心でホクホクしながら、列に並んだ。すると、大崎から写真が送られてくる。甜花と大崎が、俺が作ったマフラーと手袋をしている自撮りだった。

 

「……似合ってやがるな」

 

 さすが俺。完璧なデザインだ。もうホントそっちの道目指しちゃおうかな。

 

「? お兄ちゃん?」

「果穂、写真撮るか」

「うん!」

 

 そんなわけで、二人で写真を撮った。こっちも同じように写真を送る。

 

『その子が妹ちゃん? 可愛いね』

『だろ? 超愛してる』

『分かる! 姉妹って超愛しちゃうよね』

 

 大崎とならいくらでも語れる気がする。甜花に言ったら「ひぃん……普通にキモい……」って言われるの必須だし。

 お参りの列に並びながら文面で会話していると、ふと時計の時刻が全て0になった。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

「あけおめ」

「早い⁉︎ あけましておめでとう!」

 

 そう言いつつ、俺は指も動かす。言わないといけない奴が、もう一人いるからだ。

 ヒュポッという卒業証書を入れるケースのような音ともに送信するのと、向こうから受信するのがほぼ同時だった。

 

『あけましておめでとう。今年もよろしく』

『あけましておめでとう。今年もよろしく』

『あけましておめでとう。今年もよろしく』

 

 ホント、今年もよろしくな。

 

 ×××

 

 お参りを終えた。

 果穂がお願いしたいことがあると言うので、絵馬を描くことになった。

 

『カッコいいヒーローアイドルになれますように!』

 

 と、描いてあった。

 一ヶ月ほど前の、記憶が蘇った。

 

 

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