大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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バカと天才は紙一重っつーか表裏一体だよね。

「と、いうわけで、お願いします。雇って下さい」

「いや困るんだけど……」

 

 現在、283事務所。そこで、俺は前にあったプロデューサーさんに頭を下げに来ていた。

 あの後、なんとか果穂と両親に直談判したが、決心は堅いようだし、果穂はアイドルになる気満々だった。

 だが、やはり俺としてはどうしても心配だ。もし、SNSで「あのアイドル可愛くなくね?」とか言われ、それが果穂の目に届いた暁には、ハッキングの勉強をして特定して暗殺するまである。

 従って、せめて俺も加勢したいと思った次第だ。

 

「果穂をアイドルにする、という話をついこの前まで聞かされていなかったんです! 人が入院しているのを良い事に! ですが、もう引き止めません。あいつがやりたいというのなら、もう血涙を流して応援するだけです!」

「それ応援してるの?」

「でも! それならせめて俺が守ってやれる立ち位置に行くのは当然ではないでしょうか⁉︎」

「気持ちは分かるけど……」

 

 あいつを芸能界なんてブラックホールに飛び込んだのを、俺に黙って見ていろと⁉︎ そんな真似、兄として出来るかっ! 

 

「この際、給料もいらないので! たまに毎日、来て雑用して帰るハイスペック高校生くらいに思っていただければ!」

「待て待て待て! ツッコミが追い付かない! 無給は普通に無理だから! たまに毎日ってどっち⁉︎ あとそんな高校生に通われたらある意味怖いわ!」

「雇ってくれるまでここから帰らないぞ!」

「分かった! じゃあせめて履歴書見せてから決めるから! 持ってきてるんだよね、それくらい⁉︎」

「あります!」

 

 良かった、用意しておいて。少しでも採用率上がるよう、ちゃんと調べながら書いてきた。

 その履歴書を見ながら、プロデューサーさんは小さく呟く。

 

「……意外と、字綺麗だね」

「そうですか?」

 

 まぁ、人並みには綺麗だろうけど、そんな感動されるほどの物じゃないと思う。人に読ませるものだし。

 そんな所より、書き方とか見てよ。ちゃんと志望動機とか、果穂以外のことも書いたのに……。

 

「特技多いな……料理に絵に小物作りに編み物にって……ホントに?」

「ホントですよ。……今日って果穂来てるんですか?」

「うん。まだユニットとか何も決まっていないけど、色々なレッスンに参加してもらってる」

「マフラーしてませんでした? 赤とオレンジの」

「ああ、うん。してた。果穂によく似合うよね。シンプルだけど……え、まさか?」

「はい。自分が編みました」

「……」

「あ、あとこれ。一応、持って来ましたよ。自作ストラップ」

 

 鞄の中から、プラ板で使ったピースキーパーを見せる。

 

「……え、これも? もうまんまカチャコンショットガンじゃない」

「え、A○EXやってるんですか?」

「君も?」

「はい」

「……絵は?」

「絵はー……あ、スマホ使っても良いですか?」

「どうぞ?」

 

 電源を入れて、ついついっと指を動かし、検索する。去年の春頃のコンクールの情報がまだ残ってるか……あ、あった。

 

「これ、銅賞のです。今年の春のコンクールで」

「あ、美術部なんだ?」

「いえ? 授業中に描いた奴、勝手に応募されました」

「……じゃあ最後の料理は?」

「そればっかりは……台所お借りして良いのなら」

「ここまで来たら気になるな……良いよ?」

 

 そんなわけで、なんか面接中に台所を借りる事になった。

 

「せっかくなんで、なんかリクエストあります?」

「ふむ……そうだな」

 

 呟きながら、プロデューサーさんは手帳を見る。何かを数えるような仕草をした後、答えた。

 

「これから、三人ほどアイドルがレッスンから戻って来るんだけど……レッスン前に力が出るように、お腹いっぱいにならない程度で、摘める甘いものでも作ってあげられる?」

「合点。……それ果穂もですか?」

「ううん。果穂は今、ビジュアルレッスン。これから戻ってくるのはダンスレッスンの子達。あと20分ぐらいかな?」

 

 運動後の甘いもの、か……。うん、良いだろう。

 

「食材は何を使っても?」

「良いよ。あ、でもメモ用紙に名前書いてあるスイーツとかは使わないようにね?」

「はいはい」

 

 二年前くらいに、間違えて果穂のプリン食べちゃって1日、口聞いてもらえなかった。食べ物の恨みは恐ろしいね。

 そんなわけで、俺は早速、冷蔵庫を開ける。食材を取り出し、調理を始めた。

 高速で手を動かしながら、冷静にプロデューサーさんの狙いを見定める。ダンスレッスンの情報と、20分の情報……つまり、クッキーだのスイーツだのはアウトだ。

 作るべきメニューは、もう決まっている。

 しばらく動いた後、手を動かした後、ようやく完成した。あとは盛り付けだけ……というところで、扉が開く音がした。

 

「ふぅ〜……疲れたー。ただいまー」

「ほわ……冬なのに、汗だくになっちゃったね……」

「うん。お疲れ様、真乃。めぐる」

 

 ……可愛いな。俺と同年代のアイドルか? でも、大崎と甜花の方が可愛いや。

 

「お疲れ様、3人とも。疲れてる所、悪いんだけど……審査員してくれるか?」

「何のー?」

 

 金髪の女の子がおっぱいでかい声をかける。一瞬、煩悩が混じったが気にしない。

 

「ん、食事」

「ほわっ……ご飯、ですか……?」

「というより、おやつかな。もう出来ると思うから、座って待っててくれ」

 

 茶髪さん。ほわっ、て何だ。ホワッツか? 

 

「誰か作ってるんですか?」

「ん、んー……まぁね」

 

 黒い髪のあの人が唯一、胸も性格も落ち着いてそうだな……。多分、あの胸。果穂より小さいし。

 そんな事を思いながら、お皿に乗せ、包丁で五等分し、完成させた。お箸を四膳分用意し、持って行った。

 

「お待たせしました」

「? どちら様……ですか?」

「ん、3人とも彼の事はあんま気にしないで食べて」

 

 まぁまだ採用か決まっていないしな。とりあえず、席についた三人とプロデューサーさんに箸を手渡し、いざ実食。

 作ったメニューは、だし巻き玉子だ。

 

「……だし巻き玉子かい? 甘いものって言わなかった?」

「甘めに作りましたし、コストもあまり掛かりませんし、時間も15分ちょいで作れますし、タンパク質ですから運動後、筋肉がつきます」

「……なるほど?」

 

 完璧だろ。案の定、ほぼ同時に口に運んだ四人は、目を見開いた。

 

「っ、な、なんだこのだし巻き玉子……⁉︎」

「ほわぁ……し、舌の上でとろけますぅ〜……」

「ふわふわしてて、とろとろしてて……まるで、魔法みたいに口からとろける……」

「しかも甘さも絶妙だよこれ! ちょっと意味わからないくらい美味しい!」

 

 知らない人にも、俺の料理は通用することが分かった。やはり、嬉しいものだ。こういうのは。

 

「どうすか? これは、もう専属料理人として採用するしかないのでは?」

「いやうち芸能プロダクションなので……」

「え、なになに。プロデューサー、この人雇うの?」

「や、めぐる。そういうわけじゃ……」

「私はアリだと思います。このほわほわしただし巻き玉子、また食べたいです……!」

「いやそれ餌付けされてるだけ……」

「最後の一つ、もらって良いですか?」

「お前ら少し落ち着いて!」

 

 はっ、こういう時、女の子の援護射撃はでかいなぁ。これはもう雇うしかなくない? そう思わない? 

 

「とにかく、まぁ君のことは社長に話しておくから。どうするかはまた後で連絡します。良いね?」

「つまり、社長にもだし巻き玉子を作ってあげれば良いという事ですね?」

「どういう事だよ! とにかく、今日はもう帰りなさい! 俺達にも仕事あるんだから!」

「お疲れですね。美味しいケーキでも焼きましょうか?」

「露骨に媚びるんじゃない!」

 

 その日は追い出された。

 

 ×××

 

 冬休みは今日でラスト。まだプロデューサーさんから連絡は来ていないため、待つしかない。

 少しでも危険がないように、果穂の事は毎日、送り迎えしていた。

 今日も果穂を送る為、283事務所までやってきた。

 

「じゃあ果穂、頑張れよ」

「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 それだけ話して別れた。さて、俺は……どうしようかな。しばらくやることないし、大崎と甜花でも誘って遊びに……と、思っている時だ。

 

「あ、秀辛くーん!」

 

 ふと、背後から声をかけられた。聞き覚えがあるような無いような声だったわけだが……まぁ名前を呼ばれている時点で俺の事なのだろう。振り返ると、この前や金髪アイドルさんが立っていた。俺の名前を知っているのは、果穂かプロデューサーから聞いたのかな? 

 まぁ、何にしても俺の評判に関わるかもしれないし、邪険に扱うのは良くない……というか、なんか走ってくるのに全然、勢いが落ちない。君それ両手広げてどうしたの? 関取? 関取より大きい胸がバインバインに揺れて……。

 

「こんにちはー!」

「ぽえっ……(魂が抜ける声)」

「どうしたの⁉︎」

 

 とんでもないパイ圧が、俺のかけらの大胸筋もない薄い胸によっこらしょ……じゃなくて! 

 

「っ、い、いきなり何してんすか⁉︎」

「え? 挨拶のハグ」

「外国人か!」

「あ、バレた? 昔はアメリカにいたんだよねー」

「当たりかよ!」

 

 っ、こ、この人……パーソナルスペースぶち壊しエイリアンか……! 

 慌てて引き下がり、とりあえず紳士的に挨拶する。……おっぱい柔らかかった……。

 

「あ、どうも。えーっと……」

「めぐる、だよ。八宮めぐる」

「八宮さん。妹がいつもお世話になっています」

「わっ、意外と丁寧」

 

 そりゃそうだろ。面接受けた職場の真前だぞここ。……とりあえず、簡単に距離を縮めてはマズイ。またさっきみたいにハグされ、その現場をプロデューサーさんにでも見られたら、果穂の護衛どころではない……! 

 そんな俺の警戒心など何処吹く風、八宮さんは笑顔で聞いてきた。

 

「何してるの?」

「妹の送り迎えです」

「あ、さっきの子? 可愛いよね」

「だろ? めっちゃ可愛いんだよ、うちの妹」

「……う、うん……食いつき早いね?」

 

 しまった、大崎で慣れ過ぎてしまったか。ほぼ初対面で妹の溺愛っぷりを紹介するのはドン引きされるらしい。

 

「じゃあ、俺帰りますので。頑張って下さいね」

「あ、うん。もう?」

「もう。八宮さんだって仕事でしょ?」

「……そっかー。少しお話ししたかったなー。この前は、あまりプロデューサーが会話させてくれなかったし」

 

 ……そう言われると、少し申し訳なくなる。冷たくしちゃったかな。

 

「あーそういや、この前のだし巻き玉子の感想聞きたいんでした。こう見えて、料理勉強中だから……」

「あ、うん! じゃあ、話そう!」

「時間は平気ですか?」

「うん。……実は楽しみで少し早く来過ぎちゃってたんだ……」

 

 との事で、立ち話もアレだし、とりあえず近くのカフェに入る事になった。

 

 ×××

 

 その日の夕方。いつものように三人でFPS。敵を発見したので、早速ちょっかい出す事にした。

 

「甜花、大崎。さっさとあそこ片付けようや」

『了解……!』

『はいはーい』

「一発ぶちかますから、あとよろしくね」

 

 言いながら、俺は空を飛びながらミサイルを発射し、撃ち終えるとさらに空から爆弾を放り投げる。あっはっはっ、一発も当たらなかった。

 

「ごめーん、敵元気。でも小屋に全員こもってるの見えたよ」

『りょうかーい☆』

『な、なーちゃん……脱初心者になったばかりの方が、死にやすいから気をつけて……』

『分かってるよー』

 

 よし、俺も行こう。空から屋根の上に着地すると、扉にアークスターを突き刺してから、一度また飛んでショットガンを構える。爆発と直後に乗り込み、ショットガンを乱射した。壁越しに隠れて撃ってまた隠れて、を繰り返している間に、大崎と甜花が突入。銃を乱射した。

 その隙に俺はシールドを巻き、再び突入。

 

「あ、レイス抜けた。甜花、あと追って」

『りょうかい。……なーちゃん、行ける?』

『あたぼーよ!』

「よしよし、じゃあ大崎。まずジブがローだから、そいつから頼むわ」

『了解っ!』

 

 元気な返事だ。大崎がジブにトドメを刺している間に、俺はもう一人のホライゾンと殴り合う。上手いことアビリティ使えば逃げられるのに、このホライゾン初心者だな。

 ショットガン二発でアーマーを割り切ると、大崎の元気な声が響く。

 

『倒したよ!』

「はいはい。リロードするからホライゾンもよろしく」

『任せて!』

『レイス、片付けた……!』

「流石」

『ホライゾンも倒したよ!』

 

 うしっ、終わり。リロードと回復をいち早く終えた俺は、建物から出て空から索敵する。

 

「漁夫来てない、かな? 多分」

『甜花ちゃーん、甘奈2キルしたよ!』

『なーちゃん、すごい……!』

「あ、嘘。来てた。足止めるからすぐ来てね」

『『ラジャー!』』

 

 などと言いながら順調に進んでいった。

 なんやかんやあって殲滅し、チャンピオンを取った。すると、甜花が声を掛けた。

 

『次行く前に、おトイレ……行っても、良い……?』

「はいはい」

 

 それだけ話し、一時休憩する。

 

「いやー、取れたな。チャンピオン」

『うん。そうだね。ヒデちゃんのおかげで結構、キル取れたし。ありがとね?』

「? 何が?」

『ショットガン、二発しか撃ってないのに何でリロードしたの?』

「……」

 

 バレてんのかよ……。

 

「別に、お前のためじゃねーし」

『ふふ、そういうことにしとくね』

「てか、お前こそどうしたん? なんか、ゲームやる前、少し不機嫌じゃなかった?」

『え……そ、そう?』

「そうだろ。最初の2ゲームくらい、全然言うこと聞いてくれなかったし」

『……ごめんね。表に出さないようにしてたんだけど……』

 

 まぁ、ちょっと妹のことがあって最近、返信遅れたりもしたけど……。

 

『うん……単刀直入に聞くね?』

「え?」

 

 直後、大崎は。入学当初でも聞いたことがなかったほど、背中をぶち抜いて心臓を鷲掴みするかのような冷たい声で聞いてきた。

 

『公衆の面前で、堂々と久々に再会した幼なじみみたいにハグをしていたあの女は、誰なの?』

「ぽえっ……(口から心臓が飛び出す声)」

 

 出たー、本日二度目ー。

 

『友達? それとも彼女?』

「え? あ、あー……な、なんだろうな……」

『かなり仲良しなんだよね? だって、アレだけ密着してたんだし』

「……や、いや全然……」

 

 ……うん、下手に隠すより正直に話そう。なんか怒ってるし……自惚じゃなきゃ、理由はわかるし……。や、まぁ、自惚れかもしんないんだけど。

 仕方ないので、果穂の事から全部話した。まずは骨折の本当の原因から、兄のいぬ間にアイドルを決心され、反対も覆らずバイトとして潜入しようとして、最後にその面接を受けた事と、その時にいたアイドルと知り合い、その子のパーソナルスペースは無限に広がる大宇宙に相違ないこと。

 

『……なるほど?』

「改めて言うとわけわかんねえな……でも、バイトするって点はよく分かるだろ?」

『分かる』

 

 だろ? 妹とか姉のためなら、普通はバイトでも何でもするよな? 

 

『ちなみに……バイトは、するの?』

「するよ。……あ、でもそっか……バイトしちまったら、二人と遊ぶ時間減っちゃうのか……」

 

 それは少し嫌だけど……でも、果穂まだ小学生だしな……。放ってはおけない。

 

『……なんてプロダクション?』

「283、だったかな。なんかアイドル募集してたよ。所属してる子達も、可愛い子多かったし」

『……ふーん?』

「まぁ三人しか会ってないけど。てか、甜花の方が可愛いし」

 

 いや、まぁ好みだと思うけどね。俺は甜花の方が好き。

 ……と、思っていると、ヘッドホンからか細い声が届いた。

 

『……あ、甘奈とは……どっちが、可愛い……?』

「っ……」

 

 っ、こ、こいつは本当に……そんな、言うまでもねえことを……。

 

「……お前も、甜花と似た顔してんだし……察しろよ……」

『っ、そ、そっか……えへへ、ありがと……』

「……」

 

 顔を突き合わせているわけでもないのに、目を逸らしてしまった。ダメだ。やっぱり恥ずかしいわ! 

 

「ま、まぁ果穂が一番なんだけどな! 俺も、果穂の可愛さが全国に伝わるお手伝いが出来ると思えば、それはもうバリバリ働いちゃうから! うん!」

『……なるほど。全国に、可愛さを伝える……』

「?」

 

 あれ、なんか今……やっちゃいけないことをやってしまったような……そんな感覚が……。

 

『ふぅ……お、お待たせ……』

『あ、甜花ちゃん来た! さ、続き行こう!』

「お、おう……?」

 

 嫌な予感がして止まらねえんだけど……。

 

 

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