大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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色んな人にお世話になる日

 レッスンを終えた甘奈は、身体を動かして少しストレスが晴れた……が、それでもモヤモヤは心の奥底では晴れていなかった。

 まさか、兄妹なんてそんな変な言い訳をされると思わなかった。つまり、それだけあの果穂とか言う子とはやましい関係なのだろう。思い出すと腹が立つ、本当に腹が立つ。

 シャワーを浴び終え、身体を拭き、ドライヤーで乾かし、服を着て更衣室で少しのんびりする。

 

「甘奈ちゃん」

 

 そんな中、その次に腹立つ女性が声をかけてきた。なんの冗談かと思ったが、なんとこの人が自分と甜花とユニットを組むらしい。

 

「……どうも」

「ふふ、何となく分かったわ。あなたが、ヒデちゃんがよく話してる子なのね」

「え?」

「改めて、桑山千雪です。よろしくお願いします」

「あ……ええ、大崎甘奈です」

「え、えっと……甜花は、大崎甜花でしゅっ……あうう、噛んじゃった……」

 

 甘奈の素っ気ない挨拶にも、甜花のダメダメな挨拶にも、余裕の笑みを浮かべたまま頷いて返す千雪。正直「大人の女性になるならこんな人になりたいなぁ」と思う理想像だった。何より、胸が大きいし。

 しかし、それと同時に秀辛がこの人と仲良くする理由もわかってしまう。だから、どうしても嫌悪感を隠し切れなかった。多分、この人だって良い人なのだろうに。

 そんな自分に尚更、嫌気が差していると、千雪は笑顔を浮かべたまま二人に言った。

 

「ヒデちゃんが言ってた通り、可愛い子達ね」

「にへへ……あ、ありがとうございます……」

 

 甜花は秒で懐いていた。頭を撫で撫でされて嬉しそうな顔をする。本当にチョロい姉で困ったものだ。

 ……いや、まぁ実際はあれくらいの愛想が正しいのだろう。お互い初対面で、向こうは年上なのだから。

 

「安心して、甘奈ちゃん」

「え?」

「私とヒデちゃんは特別な関係じゃないから。お店っていうのも、雑貨屋さんの事だよ」

「……ふえ?」

 

 ホッとするより先に羞恥が襲ってきた。それはつまり、自分が秀辛を好んでいることが、ほぼ初対面でバレているわけであって……一気に顔が赤く染まった。

 

「な、何をっ……!」

「好きなんでしょ? ヒデちゃんの事」

「ーっ!」

 

 他人からハッキリ言われ、顔から火が出るかと思う程に頬が熱くなった。

 

「んなっ……なんで……?」

「そんなのさっきの見れば分かるよ。だから……ごめんね。まずは」

「あ、いえ、そんな……私も、すみません。印象悪かったですよね……」

「ふふ、気持ちは分かるから、気にしないで」

「ううっ……」

 

 気にしないで、と言われるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。顔を赤くしたまま俯いている自分の頭に、千雪は片手を乗せてくれる。

 

「12月……クリスマスの日だったかな? ヒデちゃん、その日までにマフラーと手袋を仕上げるんだって、私に編み物をわざわざ習いに来たんだよ」

「え……そ、そうなんですか……?」

「うん。……まぁ、あまりにも吸収が早すぎて、教え甲斐はなかったんだけどね……」

 

 もう少し苦戦するのを想定していたらしい。実際、甘奈もプロ並みだと思ってしまったほどだ。

 

「とにかく、あの子は甘奈ちゃんと甜花ちゃんの為……というより」

 

 そこで言葉を切って、甘奈の耳元で囁くように言った。

 

「多分、甘奈ちゃんのための割合が大きいかな」

「え、いやそれはないと思いますけど……」

 

 何せ、あのバカは自分と同じくらい甜花を溺愛している。甜花のため、それについでで甘奈、はあり得ても、自分のため、ついでで甜花はあり得ない。てか、それはそれで許せない。

 しかし、付き合いの長さは甘奈より長い千雪には、何かしら確信があるように笑顔で続けた。

 

「ヒデちゃんが入院してるとき、甘奈ちゃんがたくさんお世話してくれたから、そのお礼がしたいから頑張ってたんだよ?」

「っ、え……」

 

 それを聞いて、甘奈は頬を赤く染める。嬉しさで爆発しそうな程だ。

 

「……そ、そうなんだ……」

「そうよ」

 

 でも、その嬉しさの反面で、すこしだけ彼の話に耳を傾ければ良かった、と後悔してしまう。妹、なんて話を信じるつもりはないけれど、まぁ本当である可能性はゼロでは無いのだし。

 

「妹さんの件は、調べてみれば分かるんじゃない?」

「え?」

「ヒデちゃんは元々、妹のためにここ来たんでしょ? なら、小宮って苗字の子を探してみれば良いんじゃない?」

「……」

 

 確かに、と思ってしまった。というか、何故そんな事に頭が回らなかったのか。

 

「桑山さん」

「千雪、で良いわよ?」

「あ、じゃあ……千雪さん。ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 それだけ話すと、早速探すことにした。探す、といっても簡単だ。プロデューサーに声を掛ければおしまい。履歴書見せて、とは言わないけど、そこで嘘をつく理由はないだろう。

 早速、プロデューサーを探しに行った。ラウンジ代わりのリビングのような部屋に入って、早速はづきに聞いてみる。

 

「プロデューサーさんいますか?」

「いませんよ? 先程、恋鐘ちゃんと出掛けてしまいました」

「えっ……そ、そうですか……」

 

 いきなり出鼻を挫かれてしまった。よりにもよって、いなかったら次に聞こうと思っていた恋鐘と一緒である。

 普通なら明日にしよう、とか思う所だが、大崎甘奈はそうもいかない。早急に真実を確かめたかった。

 

「……なーちゃん、帰ろ?」

 

 そんな甘奈に、甜花は小首を傾げて言う。確かに甜花を夜遅くまで連れ回すわけにもいかない。

 故に、甘奈は笑顔で言った。

 

「ごめんね、甜花ちゃん。甘奈、用事あるから先に帰ってて?」

「え、でも……甜花、一人で帰れる自信ない……」

「うん。ちょっと待っててね」

 

 平然と「一人じゃ何も出来ない」宣言を当然のように受け止めると、甘奈は鞄から紙とペンを取り出す。

 カリカリと高速でペンを動かすと、甜花に手渡した。

 

「ここから駅まで、それと駅からうちまでの道のりと、降りる駅のメモだよ。それ見ながら帰れば大丈夫。もし、それでも帰れなかったら、甘奈に電話してね」

「あ、ありがと……」

「あとここ。ちゃんと読んでね。『知らない人にはついて行かない』『美味しい匂いが漂ってきても誘われない』『欲しいプライズがあっても寄り道しない』。……良い?」

「う、うん……! 甜花、がんばりましゅ!」

「ごめんね。甘奈の勝手で……」

「ううん……なーちゃん、ヒデくんが気になる、んでしょ?」

「っ、う、うん……」

 

 この自分のこと以外に鈍い姉にさえ勘づかれてしまうほど、分かりやすいらしい。少し恥ずかしいが、でもここはお言葉に甘えるべきだろう。

 

「甜花ちゃんも、気を付けてね! 何かあったら、本当に言うんだよ? 甘奈に遠慮なんてしちゃダメだからね」

「う、うん……! じゃあ、またね。なーちゃん」

「甜花ちゃんも……元気でね!」

 

 海外への挑戦を控えるスポーツ選手のような別れを終えて、甜花を見送った後、甘奈は事務所内に戻る。

 さて、どうやって二人が兄妹であることを突き止めるか? 簡単な話だ。ストーキングである。同じ家に入れば、もうそれは確定だろう。

 

「……さて、ヒデちゃんは……」

 

 ……そういえば、秀辛の事を千雪もヒデちゃんと呼んでいた。被るのは嫌だし、別の呼び方を考える事に……って、それよりも、今は彼の居場所である。

 再びはづきの元に戻り、声を掛けた。

 

「はづきさん、ヒデちゃ……小宮さんは?」

「ふふ、ヒデちゃんですか?」

「ーっ!」

 

 一発で顔を真っ赤にした甘奈を見て、はづきは実に微笑ましそうな表情を浮かべ、満足そうに頷いた後、改めて教えてあげた。

 

「小宮くんならさっき、慌てて事務所を出ましたよ?」

「え?」

「果穂ちゃんが『もうすぐ金ロー始まっちゃう!』って言って、帰っちゃいました」

「お先に失礼します!」

 

 高速で荷物を持って消え去った。以前、本人から聞いた話だが、秀辛の家の最寄り駅とこの事務所の最寄りは一緒だ。

 走って外に出て辺りを見回すと、見覚えある影が二つ、歩いているのが見えた。

 

「……っ」

 

 慌てて、その後をつける。かなりヤバい人に感じないでも無いが、とにかく慎重に気付かれないよう、二人の背中を目で追う。手を繋いでいるわけでもないし、腕を組んでもいないのに、とっても楽しそうにしていた。

 

「お兄ちゃん、今日のレッスンね、お化粧をたくさん教えてもらったんだ!」

「マジか。この可愛い子がさらに綺麗になっちゃうの? 見てみたいなぁ」

「あー……落としちゃったんだ、メイク。一緒にメイクしたチョコ先輩って人が、まだ小学生で肌綺麗なんだから、あまり長時間つけると将来、後悔するって」

「そうなのか……その子の名前、本名分かる?」

「園田智代子先輩だよ?」

「今度、菓子折り持って行くか……」

 

 なんて話が聞こえてくる。腹が立つ。ホント、なんであの子にはあんなベタ褒めなのか。……羨ましい。

 

「……そういえば、果穂が参加するユニットはどんな人がいるの?」

「えーっと……チョコ先輩と樹里ちゃんと……凛世さんと夏葉さん! みんな年上の人なんだ!」

「だろうな。いじめられそうになったら言えよ? そいつにあらゆる痛みというものを思い知らせてやらないといけないから」

「……放クラのメンバーの人をいじめたら、嫌いになるから」

「果穂⁉︎」

 

 まぁ、今のは秀辛が悪い、と甘奈は頷く。あの果穂という子は、どうにも人に懐きやすい性分のようだ。

 そのまましばらく移動していると、ふと視界にほこりのようなものが上から落ちてくるのが目に入る。上を見上げると、白い雪がチラホラと降って来ていた。

 

「っ、う、嘘……!」

 

 ヤバっ、と思い、甘奈は鞄の中を見る……が、傘は入っていない。今日に限って折り畳みを忘れてしまったようだ。

 ていうか、このままだと同じ場所に雨宿りする事になるんじゃ……と、恐る恐る前を見ると、秀辛が鞄から折り畳みを取り出していた。

 

「ほら、果穂。もっとこっち寄って」

「大丈夫だよ! それより、雪だよ⁉︎ 遊ぼう!」

「積もったら、明日の朝一でな? ……つっても、この勢いだと30分もすれば積もりだけど」

「やったー! 明日、楽しみにしてるね?」

「はいはい」

 

 ……相合い傘まで始めやがった。羨ましい……。仲良く腕まで組んじゃって、どう見てもカップルにしか見えない。

 ……それに引き換え、自分は……好きな男の子が、他の女とイチャイチャしてるのをストーキングしながら、傘を忘れて頭に白い雪を積もらせる……惨めだ。

 

「…………はーあ」

 

 もう帰ろうかな……なんて思っていると、ふと前の二人が足を止め、甘奈も反射的に近くの電柱に隠れた。

 

「あー……悪い、果穂。忘れ物したっぽい」

「え、本当に?」

「うん。先帰ってて……って言っても、家もうそこか。走って行けるか?」

「うん!」

 

 それだけ言って、果穂は家に走って行った。足を止めたままの秀辛は、小さく「さて……」と呟くと、傘を持ったまま回れ右をする。

 こっちに歩いてくるので、少しずつ角度を調節して、電柱の周りをぐるりと回りながら隠れる。

 が、まるでその甘奈の動きを読んでいたかのように、秀辛は先回りさせた傘を頭上に置いた。

 

「っ!」

「何してんだオメーは」

「っ、ひ、ヒデちゃ……!」

 

 バレていた事にびくついてる、と言うより、普通に怒られる気がしてしまった。

 自分より少し高い同級生の顔色を覗き込むように尋ねる。

 

「……ば、バレてたの……?」

「気付いたのはついさっきだけどな」

「…………ごめん」

「……」

 

 なんか、謝ってしまった。元々、疑っていた立場の癖に。

 そんな自分を前に、秀辛は真顔のまましばらく見下ろした後、自分の手を掴んで引き寄せた。

 

「っ、な、何……?」

「うち、上がって行けよ」

「え……?」

「なんか話あるんでしょ? 外じゃ風邪引くし」

「……あ、ありがと……」

 

 お言葉に甘える事にして、秀辛の傘の下に入って「小宮」の表札が付いている一軒家に入った。

 

 

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