ゲームセンターに来た大崎甜花、大崎甘奈、そして小宮秀辛は、早速目当てのデビ太郎のぬいぐるみを見かけた。
「あ、あった……!」
「あったね」
目の前にあるUFOキャッチャーの筐体を前に、甜花は身構える。早速、財布から金を入れた。
その様子を眺めながら、思わず秀辛は甜花に声をかけた。
「え、グラフェスに注ぎ込んで金ないとか言ってなかった?」
「……」
無視ですか、そうですか……。いや、集中してると考えよう。大崎でさえ、待っている間、甜花に声をかけようとしていない。
しかし「一緒に行こう」と言った割に黙ってゲームに集中するあたりは、流石甜花と言うべきだが、まぁ待つのが好きな秀辛は特に気にしていない。
が、その結果「暇だし大崎に声でも掛けてみよう」と思った事は悪手だった。
「なぁ、大崎。そういや、甜花とお前って中学はどこ出身?」
「何処だって良いでしょ」
「……」
すぐに黙った。ホント、良い性格をしている奴である。仕方ないので、秀辛ものんびりと待機した。
が、すぐにネイチャーコール。そういえば、昼休み以来、トイレには行っていない。
「ごめん、トイレ行ってくるわ」
一応、言うだけ言って秀辛はトイレに向かった。
……その背中を、甘奈はチラッと眺めた。正直、変な男である。あれだけ冷たく接しられて、それでも自分達姉妹に絡んで来るなんて、普通の神経ではない。そんなに彼女が欲しいのだろうか?
しかし、自分に変な目を向けて来るならまだ我慢できるが、甜花をそんな目で見る男は許すわけにはいかない。
「にへへ……取れた」
いつのまにか、甜花はミッションを終えていた。嬉しそうにはにかみながら、もちもちしたクッションを抱えている。
「わっ……す、すごい。甜花ちゃん! もう取れたの?」
「うん……! ここの、取りやすかった……!」
あまりお金はかかっていないようだ。それなら、それに越したことはない。
しばらく、その柔らかい触感を楽しんだ後、ふと甜花は一人足りないことを思い出す。
「あれ……小宮くん、は……?」
「ん?」
一応、さっきのは聞いていた。トイレに行ったらしい。しかし、ここは甜花と二人でゲーセンデートをするチャンスでもある。
故に、こうするしかない。
「さぁ? 帰っちゃったのかな?」
「え……ど、どうして……?」
「もしかしたら、用事があったのかもねー」
「そ、そっか……残念……」
しょぼんと肩を落としてしまう甜花に、甘奈は続けていった。
「ま、それなら仕方ないし、せっかくだから二人で楽しも?」
「……あ、L○NEだ……!」
「え?」
甘奈のセリフをまさかのスルーした甜花は、自身のスマホの震えを感知して開く。秀辛からだった。
妹に身長が抜かされそうな兄『トイレ行ってたんだけど、今どこにいる?』
チッ、と甘奈は心の中で舌打ちをする。ちゃんと予防線を張っていた、この野郎は。
「え、えっと……『デビ太郎のとこから動いてないよ』……とっ」
それに引き換え、目の前の姉は高校生にもなって、口に出しながら文字を入力してしまっている。可愛いにも程があるというものだ。
こんな娘を、あの男とくっつけるなんて……うん。絶対に無理だし許さない。
「あ、甜花ちゃん! あれ、甘奈やりたい!」
「え? ……あ、太鼓?」
「うん。たまには、甜花ちゃんと一緒にゲームやりたいなあって」
「う、うん……良い、よ? あ、じゃあ……小宮くんにも連絡を……」
「ほら、早く早く!」
「あっ……なーちゃん……!」
スマホに文字を打とうとしたが、甜花は甘奈に引き摺られていってしまった。
×××
ようやく、デビ太郎のぬいぐるみが取れるクレーンゲームの筐体に到着した秀辛。
「おーい、お待た……あれ?」
しかし、その場には誰の姿もなかった。
×××
そのまま、ゲーセン内でしばらく鬼ごっこが続いた。甘奈が巧みに甜花を誘導しながら様々なゲームをしつつ、たまにL○NEさせる事によって、偶然、遭遇することを回避しながら、二人でデートを堪能した。
太鼓○達人の後は、マリカー、もう一度UFOキャッチャー、エアホッケー、戦場の絆と、とにかくゲーセンを遊び尽くした。
「ね、甜花ちゃん! プリクラ撮ろ?」
「う、うん……でも、小宮くん、平気かな……」
「大丈夫だって。場所は逐一、報告してるんだし、むしろそれなのに会えない向こうが悪いから☆」
「そ、そう……なのかな?」
微妙に甜花は悩むが、まぁ悩むほど頭が無いのがすぐに切り替えた。
「なんなら、今日はずっと甘奈と甜花ちゃんだけでゲーセンに来た!」
「え? そ、そうだっけ……?」
「そうだよ! 他に誰かいたっけ?」
「え、えっと、えっと……」
「さ、とにかく撮ろうよ! 二人で、初高校プリクラ!」
「そ、そうだね……!」
「じゃねえだろおおおおおおッッ‼︎」
直後、ぬいぐるみの亀の甲羅が、甘奈の顔面にスマッシュヒットした。柔らかいが、あまりの威力に後ろにひっくり返る甘奈。
「何、人のこと避け続けておきながらプチ洗脳してんの‼︎ お前はほんとに悪魔か⁉︎ なんだ『今日はずっと甘奈と甜花ちゃんだけでゲーセンに来た!』って⁉︎ 絶対無理だよねその押し込みは!」
「あ……小宮くん……久しぶり……!」
「つい一時間ぶりだよ甜花! 久しぶりじゃないよ!」
そうだっけ? と言わんばかりに小首を傾げる甜花。直後、ひっくり返った甘奈から、秀辛に甲羅が投げ返される。それはキャッチされた。
「な、何すんのいきなり⁉︎」
「こっちのセリフだバーカ!」
「女の子にいきなりぬいぐるみ投げる普通⁉︎」
「鬼がいない間に洗濯して干して埃叩きまでしてた奴に言われたくねえよ!」
「そんなにしてないもん! まだ洗剤入れた所だから!」
「どんだけ欲まみれなんだよお前は!」
ていうか、と秀辛は続ける。
「テメーのおかげで一人ゲーセンの中、彷徨ってた奴によく逆ギレ出来んなお前は⁉︎」
「はぁ? 偶々の偶然、入れ違いが起きちゃっただけでーす」
「なわけあるかよ! お陰でこの亀の甲羅に1000円も注ぎ込んじゃっただろうが⁉︎」
「キッチリエンジョイしてるじゃん! 遊んでた人に文句言われる筋合いはありません!」
「心臓に育毛剤でも突き刺してんのかテメェは‼︎」
などと口論が徐々にヒートアップしていく中、その二人の間に甜花がやんわりと口を挟む。
「ふ、二人とも……? 仲良しなんじゃ……」
「「仲良しだよ!」」
「ひぃん……こ、怖い……」
む、それはマズい、と二人は顔を見合わせる。甜花を怖がらせてはいけない、と言葉も交わさずに頷き合うと、すぐに行動を開始した。
「仲良しだよー、甜花ちゃん。甘奈、小宮くんのことが好きで、ついちょっかい出しちゃうんだー!」
「そうなんだー! 気持ち悪いからやめてね! 鳥肌たった!」
「え……?」
「ふんっ!」
「あふんっ⁉︎ ……じ、じゃなくて……お、俺も甘奈のこと大好きだから、ついうっかり憎まれ口叩いちゃった! いっけなーい☆」
「き、気持ち悪い……」
「気持ち悪いって! 死ねば?」
「え……な、なーちゃん……?」
「ふんっ!」
「ぶふぉっ……!」
脇腹を突かれたので、仕返しに甲羅クラッシュをお見舞いしつつ、二人は引き立った笑みを作る。
しかし、これには流石の甜花も違和感を抱く。というか、抱かない人間はいない。
「……二人とも、本当に仲良いの……?」
「「良いよ!」」
「じゃあ……二人で、プリクラ撮れる……?」
「「え……?」」
「……ほら、やっぱり……」
「「撮れる!」」
ほんの少し戸惑った隙に言われたが、ノータイムで2人は肯定する。そうなると、もはや撮るしかないわけで。
二人とも、顔を見合わせると、再度、頷き合ってプリクラ機の中に入った。外はゲーセン内なだけあって騒がしいので、中の声は聞こえない。
従って、ようやく二人とも一息つくことが出来た。
「「はぁ……なんでこんな事に……」」
当然、目の前でそんなことを言えば、お互いの反感を買うわけで。
「は? 何、あんた他人の事に文句言える立場?」
「こっちのセリフだボケカス。そもそもの原因はお前だろうが」
「それを言ったらあんたが甜花ちゃんに色目使ってたからじゃん!」
「使ってねえって言ってんだろ! 俺は、単純に友達が欲しかっただけだ!」
「はぁ⁉︎ ……あっ」
すると、何かを察したように、甘奈は黙り込む。要するに、友達が出来たことが無い悲しい人なのだろう。
「……ごめん」
「おい、そこで謝んな。悪かったな、今年の3月まで話し相手が犬と妹しかいなくて」
「…………ごめん」
「謝んなっつーの!」
そんな話をしつつ、秀辛はお金をプリクラの機械に入れる。
「……とにかく、お前はもう一々、俺の邪魔をするなよ。本当に彼女にしたいとか思ってねえから」
「嫌だね。もし、今はそうでも、後々絶対に好きになるもん。甜花ちゃん、可愛いし」
「……」
このシスコン、とっても面倒臭い。色々と面倒になった秀辛は、ため息をつきながら思いついた案を提示した。
「……分かった、じゃあこうしよう」
「何?」
「取引だ、取引。こっちから要求することは、甜花と友達になる事を許可する事。これだけだ」
「だから……それはダメだって……」
「取引だっつってんだろ。そっちからもこっちに要求すりゃ良い」
「……」
言われて、甘奈は顎に手を当てる。そういうことか、と甘奈は理解しながら、とりあえずプリクラのフレームをいじった。なるべく地味な奴を。
つまり、この男の狙いは、甜花と友達になる事ではなく、取引をすることで平穏を手にすること。でないと、今回のように二人でプリクラを撮るハメになる。
それに関しては甘奈も同意見だ。確かに、表面上だけでもそういう事にしておかないと、今後もさらにこういう事が何度も起こるかもしれない。
「じゃあ、甘奈の要求は、甜花ちゃんと未来永劫永遠に会話しないこと」
「八つ裂きにすんぞ」
「冗談。甘奈は……そうだな。学校では、可能な限り甜花ちゃんを助けてあげて」
「……」
それを聞いた直後、秀辛はなんとなく察してしまった。この女は、本当に甜花が心配なだけだ。だから、自分がいない間に仲良くしようとした自分に対して威嚇するし、クラスが別れたことにより、尚更、不安も増えている。
まぁ、それでも過保護過ぎる気がするが、何となくその気持ちは分かってしまうのが困る。何せ、あと二年経てば自分の妹も中学に上がるし、それはもう中学生男子が蔓延るモンスタースクールに送り出すのは不安だ。
なら、この辺で了解しておくのも……と、思ったら、さらに甘奈は自分の腕にしがみつき、プリクラのカメラにピースした。
「お、おい?」
「撮らないとっ。仲良く」
あ、そっか、と切り替えつつ、秀辛は困惑したようにピースをする。プリクラの経験なんてなかったから、どんな顔をすれば良いのかわからない。
にも関わらず、さらに甘奈は次のポーズを決めながら内容を追加した。
「あと、甜花ちゃんと二人きりになるのはダメ。昼休みと放課後は必ず甘奈に声をかけて、特に放課後は、甘奈が他の友達と遊ぶ時に甜花ちゃんと遊ぶのダメ」
「え、他に友達いたの?」
「ふんっ!」
「ゴフッ……!」
見事にボディブローが鳩尾に決まった直後、カシャっとマズルフラッシュが発生する。
「て、テメェ……!」
「それから、甜花ちゃんと家でゲームするのは、一日一時間まで!」
「お、おい! いくつ条件を出すつもりだよ⁉︎」
流石に割りに合わない、と思って口を挟むが、甘奈はどこ吹く風。無視してさらに要求を増やす。
「それから……」
「あ、じゃあこっちだって要求するから! 俺と甜花がゲームしてる時の会話を盗み聞きすんのはやめろ!」
「はぁー⁉︎ そう言ってこっそり告白する気でしょ! じゃあこっちだって増やすもん!」
「いや俺はお前が増やしたから増やしてんだよ!」
「甘奈はそっちが増やしたら増やすからね!」
「ふざけんなお前⁉︎ 全力の阿呆かお前は!」
「あんたに言われたくない、から!」
「ぶごっ……⁉︎」
手元に抱えていた赤甲羅のぬいぐるみを奪われ、顔面に叩き付けられる。直後、再びカシャっと横から音がした。
「て、テメッ……ざけんな! 返せコラ……ブモッ⁉︎」
「ふざけてんのは、そっちだし!」
「あ、あの二人とも……? 騒がしいけど何か……」
「「何でもない!」」
中に甜花が入ってきたことにより、慌てて二人揃って肩を組んで振り返った。この不自然さを流せる甜花も、やはり只者ではなく、すぐに要件に入った。
「あ、あの……寂しいから……やっぱり甜花も、一緒に撮りたい……」
「「もちろん良いよ!」」
との事で、取引の話は一時的に中断となった。
後になってから、結局、取引の内容は「甜花と友達になる事を許可する事」と「放課後に甜花と遊ぶ時は甘奈も同行できる日のみ」のみとなった。
あと、プリクラはとりあえず二人とも財布に入れておくことにした。