大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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激戦編
やり過ぎだから。


 2月に入った。学校再開より、約一ヶ月が経過するこの季節。真冬特有の薄暗い空の下、東京では二度目の雪が降りそうな空模様の中、うちの高校の男子達が浮き足立ちつつある季節でもあった。

 去年の俺にとっては、ソシャゲの推しキャラ達から、そして今年の俺にとってはリアルな女の子たちから愛の象徴(それは親愛であれ友愛であれ)である特別な物をもらうイベント……そう、バレンタインデーの季節だからだ。

 

「よう、佐々木! お前はチョコたくさんもらえるんじゃねーの?」

「どうだろうなー。まぁまず甘奈からは確実にもらえるだろうし、俺はそれだけで十分だわ、お前らは?」

「どうだろうなー。ソフト部のあいつからならもしかしたら……」

 

 などと、朝連中のサッカー部がランニングしながらそんな話をするのを聞きつつ、俺はのんびりと外を歩く。

 ……いや、のんびりではない。何となく、ソワソワしてしまっている。正直、この高校の女子生徒は本命ではない。いやそれなりに話すようにはなっているんだけど、それでも「義理チョコがもらえれば良いなー」程度である。

 あくまでやましい気持ちはない。けど、俺の場合は……アイドルからもらえるかもしれないのだ。それも、たくさんのアイドルから。

 特に俺と仲良くしてくれる恋鐘さん、めぐるさん、桑山さん、あと妹関係で少し仲良くなった放クラメンバーからは貰えるかもしれない。

 めっちゃ楽しみだぜベイベ。だが、それを表に出すのなんかカッコ悪いし、とりあえず今は平常心……そう心に言い聞かせながら登校していると、後ろから勢いよく腕にしがみつかれた。

 

「おっはよー☆」

「っ、うおっ……び、びっくりした……」

 

 俺に一番、チョコをくれそうな可能性がある人ランキング堂々の一位の子だった。

 

「おはよう、大崎」

「むっ……」

 

 挨拶するも、その可愛い派手すぎないギャルのような少女は、むすっと頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。

 

「甜花ちゃーん、呼んでるよー?」

「ひぃん……な、なーちゃん……走るの、早い……」

 

 お前、双子の姉を置いて来たのか……。

 少し呆れつつ、後ろを見ると朝からバテバテの甜花が目に入った。

 

「おはよう、甜花。大丈夫か?」

「う、うん……平気……」

「……む〜」

 

 唸る大崎は、俺の耳たぶを引っ張る。

 

「いたっ、な、なんだよ⁉︎」

「先に挨拶したのは甘奈なんですけどー」

「っ……あー」

 

 や、やっぱそのことか……。今だにこれ呼ぶの慣れないんだけどな……。

 

「な、なー……おはよう……?」

「うん。おはよう、ヒデちゃん☆」

 

 ……あ、朝から元気な奴め……。思わずため息を漏らし、黙って後を続く。

 

「ね、もっかい呼んで?」

「え、お、大崎?」

「怒るよ!」

「っ……な、なー……」

「えへっ、えへへっ……なーにっ?」

 

 ……なーにっ? じゃねーよ。お前から呼ばせておいて……。大崎……じゃない、なーと仲良くなって初めて、別のクラスで良かったと思ってしまったほどだ。同じクラスでこのテンションだと、俺は多分、保たなかった。

 

「甜花……」

「ご、ごめんね……ヒデくん……。こうなっちゃったら、甜花でもなーちゃん……止められない……」

「だよね……」

 

 まぁ、止めたら姉妹間の仲が悪くなりそうだし、しゃあないわな。

 

「ほら、早く行こ? 二人とも。お昼、一緒に食べよーねっ☆」

「お、おう……」

「う、うん……」

 

 すごい元気に振り回されながら、昇降口まで歩かされた。

 

 ×××

 

 ソワソワソワソワ、と体が微妙に揺れてしまう。これ、なーの所為な? なーが来ると、あのテンションに振り回され、別れると「なんであんなテンション高いの?」となり「もしかして俺のこと好きだから?」と思うと「バレンタインもらえるかも」などと思ってしまい、バレンタインを思い出すとソワソワしてしまう。

 で、今日はバイト。仕事に励んでいると、嫌でもこんな話が耳に入って来る。

 

「そういえば、夏葉ちゃん。もうすぐバレンタインだね?」

「そうね。智代子は誰かにあげるの?」

「うん! 放クラのみんなに。あたしチョコ好きだから、つまみ食いできるからね」

「つまみ食いのために作るのね……。じゃあ、私も最高級のチョコを用意しないとね?」

「やった! 楽しみ」

 

 などという会話が耳に届き、やはり少しソワソワしてしまう。でもチョコあげるリストに俺の名前はなかったな……。まぁ、そんなに関わってないしね。すれ違ったら挨拶すると同時に、果穂の様子を聞くくらいだし。

 

「他には誰かにあげないの? 男の人とか」

 

 お……良いぞ、有栖川さん。

 

「そうだなぁ……プロデューサーさんにはお世話になってるからあげるけど……他には」

 

 むっ、ま、マジ? 俺の分なし? あ、もしかしたらあれか。俺の存在さえ忘れてるパターンかもしれない奴か。

 ここは一つ、さりげなく二人の近くを通ってトイレに行ってみよう。

 

「はぁ〜……べ、便所便所〜……」

「……」

「……」

 

 そのまま廊下に出て扉を閉め、慌てて扉の奥で壁に耳をくっつけて二人の会話を聞く。

 

「……すごいアピールして行ったね」

「そうね……まぁ、気持ちは分かるけど……ハッキリ欲しいって言えば良いのに。男らしくない」

「ね。樹里ちゃんの方がよっぽどイケメンだよね」

「あれくらいしないと、チョコもらえないんでしょ。きっと」

 

 ……なんかボロクソに叩かれていた。そこまで言わなくても良いんじゃないですかね……。

 

「でもまぁ、果穂のお兄さんだし、用意してあげましょうか」

「うん。なんだかんだお世話にはなってるし」

 

 義理チョコというより、慈悲チョコという感じだった。まぁ、貰えるから良いとして……それでも少しはアプローチの方法を考えないといけないな。幸い、何がダメでどうすれば良いのかは理解した。

 さりげなく存在をアピールすると、男らしくない。なら、男らしく行けば良いのだ。

 すると、ちょうど良いタイミングでまた新たな子達が事務所に現れた。

 

「ふぃ〜、来るのに時間かかっちゃったねー。……おっ、ひーたん! おはよーう!」

「あ……小宮さん、おはよう……」

 

 むっ、三峰さんと幽谷さんか。ここは男らしく……といっても、まず挨拶だよね。

 

「おはようございます」

「うんうん。礼儀正しい良い子だねー、相変わらず。……そういえば、もうすぐバレンタインだけど、誰かに貰えそうなの?」

「っ」

 

 そっちから振ってくるか! お、男らしく、男らしく……男らしいってなんだ? とりあえず……バレンタインを気にしない男のことか? 

 

「えっ、ば、バレンタイン? 何それ、聞いた事ないなぁ! そうか、世の中にはバレンタインという催しがあるんだなぁ!」

「えっ」

「……小宮さん、バレンタイン知らないの……?」

「いや、久々に聞いた言葉の響きだなぁ、うん。まぁ俺くらいの実力者になると、あんまりバレンタインとか気にした事ないからなぁ。毎年、自分のサーヴァントと騎空団の仲間にもらえるもんだからなぁ、うん。だから全然、全く皆目、今話になるまで忘れてたけど、そう言えばバレンタインか、うん。全然気にして無かった!」

「……」

「ふふ、そうなんだ……。男の子って、みんな気にしてるんだと思ってたな……」

 

 お、この作戦来てね? 来てるなこれ。行ける気がする! 

 

「小宮さんは、チョコレートさんをもらった事がないんだね……」

「ふひっ?」

「ぷふっ……!」

 

 あれ? 今、ゲイボルグ投げられた? あと、三峰てめぇ笑ったか? 

 あれ、なんか動けない……。というか、呼吸も出来ない……。空笑いのまま表情筋がフリーズしちゃった……? 

 

「……? 小宮、さん……?」

「っ……ふふっ……! き、きりたん……そろそろ、行こっか……ふふっ!」

「あ、うん。じゃあ、またね……。小宮さん……」

 

 ……あれ、なんか涙が流れて来たよ……? ……あれれれれ? 

 

 ×××

 

 ……この作戦もダメだ。思わぬカウンターパンチをもらう……。ていうか、チョコを貰うの難易度高すぎない? なんでこんな人間って難しいの? 

 せっかく、今年はチャンスだと思ってたのに……普通に泣きそうなんですけど。

 いや、でもまだ諦めるのは早い。俺には、イルミネのみんながいる! この事務所に来て最初に知り合ったアイドル達。特に、めぐるさんからは貰えるだろう。

 ……けど、男としてここは一つでも多くのチョコをもらいたい所だ。つまり、他の二人にもアプローチをかける。これしかない……! 

 

「めぐるとか、チョコあげるの?」

「うん! クラスの男子全員に配るよ?」

「ほわっ……す、すごいねっ。大変じゃない?」

「かもだけど……でも、みんな友達だからさー。あと、今年で中学も最後だし」

「あ、あまり勘違いさせないようにね……?」

 

 バレンタインの話題で盛り上がっている3人が目に入る。めぐるさんの所業は悪魔そのものだが、まぁ帰国子女なら仕方ないのだろう。知らんけど。

 他二人は、逆にチョコを渡すタイプには思えない。櫻木さんとか、鳩にチョコ撒きそうなまであるし。

 つまり……ここでアプローチをかけるかかけないかに、夢のチョコ二桁が懸かっている……! 

 男らしく、と言うのなら、ここはオープンに豪快に行くべきだろう。たまには、自分から声をかけろ! 

 唾を飲み込んで気合を入れると、勇気を振り絞って三人の前に歩いて行った。

 

「やぁ、我が三人の愛しきプリンセス達?」

「えっ」

「あ、ユキくーん!」

「ほわっ……おはようございます」

「おはよう。……何の話をしているのかな?」

「あの……何か悪いものでも食べました?」

「灯織⁉︎ 急に何言ってんの⁉︎」

「し、失礼だよっ。灯織ちゃん……!」

「だ、だって……」

 

 刺さる事を言う風野さんを置いといて、めぐるさんが笑顔で答えてくれた。

 

「バレンタインの話だよ、ユキくん」

「は、はいっ。みんな、誰にチョコ渡すのかなって」

「そうかそうか、バレンタインか。もうそんな季節だったね」

「アッ……(察し)」

「なら、みんなにはこれをあげよう」

 

 言いながら、俺は財布から五千円札を抜き、三人の前に差し出した。

 

「ええっ⁉︎ な、何これ!」

「ほわっ⁉︎ な、なんですかこれ⁉︎」

「えっ……(ドン引き)」

「たくさんの人にチョコを配るのなら、それだけ資金が必要だろうからね……三人で、こいつを分け合って少しでも足しにして欲しい」

「いや、受け取れませ」

「わーい、ありがとう!」

「大事に使わないとね、めぐるちゃん。灯織ちゃんっ」

「二人とも!」

「じゃあ、俺はこれで」

 

 それだけ話して、俺はその場から立ち去った。うん、みんな喜んでくれたし、これが正しいバレンタインチョコのもらい方、か……。

 ……金かかるな。なんか、もう他の人にはいいや……。あ、でも果穂にはちゃんとあげないとだけど。

 

 

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